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アイドルは異世界の女悪魔の話③

 大勢の人混みの流れに乗じて、レフィリア一行は若旦那の案内で、町外れにある今は使われていない倉庫跡までやって来た。


 ここならばしばらくは誰にも見つからずに身を休めることが出来るであろう。


「お水、ゆっくり飲んでくださいね」


「ありがとうございます、レフィリアさん。……ぬくっ……ぬくっ……ぷはぁ」


 レフィリアから水筒の水を差し出された賢者妹は、喉を鳴らしてそれを飲み干し一息つく。


見張りとして周囲を警戒しながらルヴィスは倉庫の扉から、遠くに聳え立つサンブルクの王城がある方角へ視線を向けた。


「――それで、これからどうする。今からエリジェーヌがいるであろう、王城にでも乗り込むかい?」


「それなんですけど、一つ確認したいことがあるのですが」


 レフィリアから声をかけられた若旦那は、ポリポリと髭を掻く。


「ん? どうかしましたかい?」


「先ほどのライブには、如何にも兵士といった装いで武装したドワーフや人間もまた、観客として大勢参加しているように見えました。あれはもともと、この国や城に兵士として仕えていた方たちですか?」


「あー……確かにその通りだ。街や城を警備している衛兵たちは、そのまま魔王軍の兵隊として利用されているからな。ライブの日には連中も例外なく、ほぼ全員がライブへと足を運ぶ」


「なるほど……つまり、今サンブルクのお城にはこの国の住民である兵士が多く配備されているのですね」


 レフィリアのどこか浮かない表情に、若旦那は何かに気づいたようにして彼女をじっと見た。


「……レフィリア殿、俺は何も無血で犠牲もなしに勝利が手に入るとは思ってねえ。王城に乗り込むとなれば本来は敵じゃねえ、俺の同胞たちと戦わなけりゃならねえだろう」


「……はい、戦わなくて済むのならそれに越したことはありませんが」


 なるべくなら救うべき対象であるサンブルクの住民に刃を向けたくないという、レフィリアの優しさにサフィアとルヴィスも言葉を重ねる。


「ですけど、それが言うほど簡単に出来るなら苦労はしませんものね。エリジェーヌと会うまでにきっとどこかで会敵して、何度かはやり合わないといけないかと思います」


「それに相手は屈強なドワーフの戦士だ。あのぶっとい腕から繰り出される、相手を鎧ごと両断する斧の一撃。――とてもじゃないが、ずっと手加減して戦えるような手合いじゃない」


 つまりいざ戦闘となれば、手心を加えて戦えるような者達ではないのだ。


 こちらも生き残らなければならないため、戦ったとなれば意図せずとも致命傷を与えたりすることもあるだろう。


 レフィリアほどの能力ならその辺りも何とか出来るかもしれないが、その隙を今度はエリジェーヌに狙われないとも限らない。


 すると少し顔色が戻って来た賢者妹が手を上げて意見を出した。


「あっ、でしたら今度のライブの時を狙ってエリジェーヌを急襲するってのはどうでしょう?」


「不意打ちか。有効かもしれないが、失敗した時のリスクがものすごく大きいな」


 賢者妹の考えにルヴィスは難しい表情を向ける。


「もし手早く仕留められなかった場合、俺たちはサンブルクの兵士どころか一般市民まで全員敵に回した状態で、逃げ場のない場所に囲まれることになる」


 その言葉にサフィアも同意して頷く。


「住民たちと敵対することもですが、エリジェーヌと戦闘になった場合は彼らを大勢巻き込む可能性も高いです。実質人質として扱われるかもしれませんし、きっと城に乗り込むよりもずっと被害が出るでしょうね」


「うーん、じゃあどうしたら良いのかなぁ……」


 全員が頭を悩ませていると、急にレフィリアが口を開く。


「不意打ち……でしたら一つ、思いついたんですけれど」


「おっ、何か案が出ましたかい?」


 レフィリアの方へ顔を向ける若旦那に、彼女は問いかける。


「あの、確かライブって今月末……つまり七日後にまたやるんですよね?」


「ん? ああ、本来サンブルクで予定されていた定期ライブは月末だから絶対にやる筈だぜ」


「それに兵士として城に勤務しているこの街の住民たちもみんな、ライブには出て来るんですよね?」


「おう、おそらくはその日だけならほとんど出て来る筈――まさか」


「エリジェーヌがライブをやっている間、王城を攻めましょう」


 そんな事を、レフィリアは真面目な顔で自信満々に言い放った。


 それでもルヴィスは難しい顔をしたままであったが。


「うーん、流石に城主不在で兵士も大勢出払うとなれば、何か対策を講じているのでは?」


「だとしてもです。たとえ何かしらの罠か何かがあろうと、サンブルクの住民と戦うよりはずっとやりやすいです」


「私たちの目的は城攻めではなくエリジェーヌの討伐ですが、留守中の城へ攻め込むのには何か意図があるんですよね?」


 サフィアの問いに、レフィリアは勿論と人差し指を立てる。


「はい、城攻めはあくまで下準備です。まずは派手に城で暴れまわって、ライブ中のエリジェーヌにライブを中断させて、城まで引き返させます」


「なるほど、ライブによる疲れと突発的なアクシデントによる精神的な動揺から生じる心の隙を狙うのか。城で万全に待ち構えている状態で戦うよりは、まだ勝機が見いだせるかもな」


「ええ、彼女の性格から考えるならばきっと単身で城まで戻って来るかと。まあ、もし兵士も引き連れた状態で城を包囲しようとしてきたら……その時は撤退も視野に入れましょう」


「ふむ、それでいいんじゃねえか? 物はまた作ったり治したりできるが、人はそうはいかねえ。多少、城をメチャクチャにしたって王様も何も言わねえだろう。もし何か言われたら、俺が全部責任もってやらぁ」


 若旦那はガハハと元気に笑い、親指を突き立てる。


「私もレフィリアさんの案に賛成です。他に妙案も思いつかないので」


 賢者妹の言葉にサフィアも同意として微笑みながら頷き、ルヴィスも特に反論せず了承した。


「ならば、ライブの日まで見つからないよう潜伏して、当日はライブ中に王城へ攻め込む計画で行こう」


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