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次の異変と異世界の住民達の話①

 ――レフィリアがゲドウィンと戦ってから半月後。


 ガルガゾンヌの王城を攻略してからは、意外にもとんとん拍子にあっさり物事が進んだ。


 城壁の屋上に立ち並ぶ魔導兵器をレフィリアが片っ端からぶった斬って破壊していき、ついでに正門を守っていた部隊もそのまま一掃して、外からエーデルランドの軍隊が入り放題な状態に開放した。


 そこから後は、国境線沿いに待機していたエーデルランド軍がクリストル兄妹からの連絡を受けて一気にガルガゾンヌへ攻め込み、市街に残った魔族や魔物を掃討して、シャルゴーニュ公国を魔王軍の手から解き放ったのである。


 奴隷や家畜として囚われていたシャルゴーニュの国民たちも逐次救出され、再び人間としての生活と尊厳を取り戻したのであった。


 城壁が人間たちに突破されて以降も、ゲドウィンがまた戻ってきて姿を現すことはなく、幾らかの孤立した残党こそ国内に残ってはいるものの、魔王軍は事実上、シャルゴーニュ公国を完全に放棄したと人類側からは見なされていた。


 そしてレフィリアは兄妹らと共にエーデルランドへ帰還を果たすと、魔王軍から国を取り戻した救世主として盛大に持て囃された。


 国をあげた宴が連日続き、エーデルランドの国王だけでなくシャルゴーニュの生き残っていた王家の者達からも最大級の感謝と賛辞の言葉を賜った。


 ――しかし、彼女は正直素直に喜べるような気持ちにはならなかった。


 たった少しの間とはいえ、一緒に過ごし戦った仲間を失ったのだから。


 竜騎士と男賢者は此度の戦いで絶命。


 聖騎士レフィリアと共に魔王軍と勇敢に戦い、国を救う重要な手助けをした偉大な英雄として国葬を受けた。


 女僧侶だけは何とか一命を取り留めこそしたが、あまりの重症だった為、まだしばらくは安静にしていなければならない状態である。


 立て続けに参加しなければならなかった宴や式典といった行事が何とか終わり、レフィリアは少しの間、エーデルランドの王城で休息の日々を過ごしていた。


 またしばらくしたら、王国の方針が決まり次第、魔王軍討伐の旅に赴かねばならない。


 レフィリアはやや気疲れした表情でそよ風に吹かれながら、城のバルコニーから城下町の平和な風景をぼうっと眺めていた。


「レフィリアさん、ここにいましたか」


優し気な女性の声で背後から誰かに呼ばれる。


レフィリアが振り向くと、そこには蒼い髪の女剣士、サフィアがいた。


「あ、サフィアさん。どうしました?」


 この国に帰ってきてから変わったこと、というより変えたことと言えば、クリストル兄妹のレフィリアに対する呼び方と話し方だ。


 あまりにも会う人会う人から“レフィリア様”と傅かれて恭しく呼ばれ過ぎたことから、レフィリアは様付けの呼ばれ方に疲れてしまい、せめて自分の召喚者であり付き合いの一番長い二人には、様付けで呼ぶのは止めてほしいと頼んだのである。


 二人も最初の頃は戸惑っていたが、レフィリアとしては出来れば友人のように接したいと望んだことを聞き入れ、今では更に打ち解けて話が出来るようになっていた。


「国王陛下と元帥閣下から招集を受けました。至急、集まってほしいと」


「ちょっと急ですね。確か集まりは明日と聞いていましたけど、何かあったんでしょうか?」


「私も詳しいことは知りませんけど、どうやらシャルゴーニュより北西の大地、《ブレスベルク》から逃げ果せて来た者がいるそうですよ」


 レフィリアたちは今回、謁見の間ではなく会議室のような場所に集まる。


 部屋には既にルヴィスや元帥を始めとした関係者が何人か集まっており、最後に国王が入室したことで会議が始まった。


 小太りのエーデルランド国王がまず最初に口を開く。


「諸君、休暇中の者も急に呼び立ててしまってすまない。状況に変化があったので早いうちに話を進めておきたくてな……元帥よ、詳しい話を頼む」


「はい。実は数日前、シャルゴーニュで住民の救出活動を行っていた我が軍の遠征部隊から、魔王軍の占領地についての情報を持つ者を保護したという連絡が入り、我が国へ連れてきてもらったのです」


 そういうと、元帥は部屋の扉の前にいる兵士に合図をした。


 合図を受けた兵士は扉を開けて、外から一人の人物を入室させる。


 その人物はずんぐりむっくりとした壮年の男性で、サンタクロースのように長い立派な髭を蓄えていた。


 毛髪の色は夕日のように赤く、髭は丁寧に編み込まれており、太っているというよりは屈強で筋骨隆々な逞しい体格をしている。


「この者は魔王軍に支配された国の一つである、ブレスベルクの首都、工廠都市サンブルクから遥々逃げ果せてきたハーフドワーフの職人です。彼から長らく詳細不明だった、ブレスベルクの状況についての話を伺おうかと思います」


 元帥に促され、髭の男は深く礼をすると静かに口を開いた。


「ご紹介に預かりました、私はサンブルクで金細工師を生業としている者です。皆様にはどうか、魔王軍の手に落ちた我が国の内情を知っていただきたく、お忙しいところを集まっていただきました」


 目の前で話し始めるハーフドワーフの男に、レフィリアはというと話に耳を傾けながらも、編み込まれた長い髭にどうしても視線が集中してしまっていた。


(わぁ……如何にもって感じのスゴイ髭。ちょっと想像イメージより体が大きい気もするけど、これが本物のドワーフかぁ。いや、ハーフだからドワーフと人間の間に生まれたのかな?)


 レフィリアにそんなことを思われているのも他所に、ハーフドワーフの男は話を続ける。


「少し長くなりますが、どうかお聞き下さい。――あれは数か月前に突然起きた出来事でした」



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― 新着の感想 ―
今晩は、お邪魔します。 レフィリアの仲間、ずいぶんキャラが濃いですね。個人的に王道の冒険者パーティーっぽくて好きですね。 人間を食肉や皮製品に加工って、やることがえげつないですね…。 鳴動浪波斬! ア…
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