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喜目良商店街の悪魔  作者: 稲荷崎 蛇子
8/14

part08 喜目良商店街の魔女



 夏祭り三日目。これが最終日である。

 その日、喫茶青大将は朝から二名の客を迎えていた。


「二十万円で買い取ります」


 犬飼は現金の束をカウンターに乗せ、鰐淵はカップを磨きながら頷いた。価値が二倍になったのだから、これで充分だろうと。だが、カウンターで犬飼と相対しているのは蛇川であった。


「おやおや? よくそれだけの金額で交渉など考えましたね。恥という概念を持ち合わせないようですが、蛮族の方では仕方ありませんね。私は文明人なので教えて差し上げます。そんな値段ではお話にもなりません。教会の権利書くらい用意してからテーブルに乗せて下さい」

「あら? こちらは善意で申し出ていますが、理解できないご様子。致し方ない事ですね。魔女に善意などという概念は難しいでしょう。浅ましい欲望に囚われた、愚かな肉饅頭にせめて主の情けがあらん事を願います」


「は? 肉饅頭とは自己紹介ですか?」

「どうやら鏡をご存じないようですね」


「例え話のセンスが絶望的です。私は魅惑のマーメイド美女なので、肉饅頭は不適切です」

「……失礼しました。思わず人間の価値観で測っていましたが、あなたは魔女や悪魔の類ですものね。そちらの界隈では、さぞ魅力的な体なのでしょう。お詫びします。普段はゴブリン向けの読者モデルなどを?」

「ブチころがすぞワン公」

「あら? できるものならどうぞ」


 蛇川と犬飼は座ったまま、その視線に殺意と憎悪を込めて睨み合う。鰐淵は磨き終えたカップを並べながら、別の椅子に座る針澄に話しかけた。


「なんだってこうなるかね」

「仕方ないよ。願い事が何でも、って聞いたらそりゃあね」


 朝の早い時間など、普段は閑古鳥が鳴いている店内である。しかし今日だけは、ちゃんと客が入ってきてコーヒーを頼んでくれた。もちろん、注文しただけで二人とも手をつけないが。

 何が起きたのかとなれば、理由は亀谷にある。


 昨日、鰐淵を見送った亀谷はその後、商店街の夏祭りを見物していた。その際に人々の注目を集めたのは、例の百万円で何が購入されたのか、であった。

 話のタネにでもなれば、という程度の気持ちで人々は亀谷に訊ねられた亀谷は、正直に答えて回った。それは、願い事を叶える悪魔が封印された品物だ、と。

 ほとんどの人は冗談だと思ったか、亀谷の言う事などアテにならないと一笑に付した。しかし、その話を信じる者もまた、いたのだ。


「願い事を叶えるなんて、絶対欲しいじゃん。あたしにも頼ませてよ」

「邪悪な物品があると聞きつけ、処分しに来ました」


 そう言いながら、針澄と犬飼は開店と同時に現れた。昨日の内に願い事を使ってしまうべきだった、と後悔した鰐淵と蛇川は、しらばっくれる事も試みた。だが犬飼の目には、蛇川が懐に隠している事をあっさり看破されてしまう。渋々とお腹をめくって服の中から万華鏡を取り出した蛇川は、その値段を釣り上げる方向に考えを変えたのだった。


「もう一度よくお聞きなさい。その邪悪な道具を使う事は、非常に危険です。身の丈に合わない願い事をした場合、魔界と現世を繋いでしまう事だってあるのです。それを私が安全に処分すると言っているのです」

「わからない人です。それは極端な例で、あくまで私は制御できる範囲での使用をすると言っているでしょう。今夜にでも、高級なお肉と寿司でワインを開けてパーリナイする予定です」


「私利私欲に溺れた人間が、取り返しのつかない事になった例はいくらでもあります」

「私は追加でハーレムを作ってちやほやされます。そこまでしか願い事など利用するつもりはありません。小さな願い事なので、問題なく制御できるでしょう」


「ゴブリンのハーレムならまだしも、そんな大それた願いなど……」

「は? 学生時代は私のファンクラブもありましたが」

「その内、魔術や呪いで心を操っていない人数は?」

「う、ぐ、ぐぬぬ……!」

「おい蛇川、どうして否定しない。お前そんな事してたのか」

「ぐぬぬー!」


 苦しんでいる蛇川を他所に、犬飼は肩をいからせて立ち上がる。そして四人掛けの木製テーブルに向かうと、椅子をどけてしまう。


「このままでは話が平行線でしょう。埒があきません」


 そして中腰になると、勢いよく自身の右肘をテーブルに叩きつけた。静かに息を吐いて、蛇川をぎらりと睨み付ける。


「さぁ。己の力で決着をつけましょう」

「おや? 蛮族らしい判断です。ですが、そちらの流儀に乗るのが一番わかりやすいでしょう。その勝負、受けました」


 蛇川は自身の右袖をまくって肘の辺りで固定すると、くるくる肩を回す。それから鰐淵に視線を送り、顎で犬飼を指した。


「さ。やってしまいましょう」

「……何をだ?」

「おや? 話を聞いていませんでしたか? 腕相撲ですよ。見ればわかると思いましたが、説明が必要なようですね。彼女は腕相撲で、我々に勝負を挑んでいます。やかましいので、叩き潰して下さい」

「それはわかるが、俺がやるのか?」

「当たり前じゃないですか。ほら、デビルチェンジ。いつものようにデビルチェンジってやって下さい」

「俺それ言った事ないからな?」


 鰐淵は苦笑して、それからテーブルに向かう。蛇川に任せていたが、犬飼が諦める様子はない。彼女には残念だが、願い事は自分と蛇川で独占する以外にあり得ない。二十万円で購入するというなら売っても良いが、この手の願い事は使い方によっては金銭を凌ぐ価値を持つ。


「悪いが、怪我をしても知らんぜ」

「……来なさい」


 鰐淵は右手に力を集約させ、黒く変質させる。昨日はガス欠手前だったが、一晩ゆっくり眠った事で、それなりには回復している。全快とは言えないが、女性の細腕に敗北するものではない。

 右肘まで黒く染まった腕をテーブルに乗せると、鰐淵は犬飼とガッチリ手を組んだ。


「まいんさん。レフェリーと開始の合図を」

「おっけー。いくよー」


 二人の手が組み合う、その上に手を掲げる針澄。


「よーい、どん!」


 その手がスッと上がる。と同時に、鰐淵は渾身の力を込めて右手を押し込んだ。


「おおおぉぉ!」


 気合の咆哮と唸りを上げ、鰐淵の腕がぐんぐんと犬飼の腕を押し込む。一瞬でも耐えた犬飼をこそ褒めるべきだが、犬飼は諦めない。


「だあぁぁぁ!」


 犬飼の瞳は黄色く変色し、その手には神々しい輝きが灯った。そして腕の傾きが、鰐淵の力と拮抗するように止まる。


「私の拳が光って唸るッ! 悪魔を殺せと輝き叫ぶッ!」

「ぐ、おぉぉ……!」


 徐々に押し返される力に、鰐淵は抵抗しつつ、肉体の段階を静かに上げた。


「舐めるなよ……。人間風情が、この俺を!」


 テーブルの端を掴む左手にも力が込められる。それはうっかりすると、丈夫な木材をむしり取ってしまうのではないかと思う程である。


体の奥、心臓。そして血管の一本に至るまで、鰐淵は悪魔としての力を漲らせる。じゅわじゅわと何かが沸騰するような、音とも感覚ともつかない何かが頭に響くのを感じる。だがそれでも、悪魔化の深度をより強く、より深い所へと沈め続ける。


「ヴオオオァァァ!」


 狂乱の波動。それがそう呼ばれるものだと、その場にいる者では蛇川しか理解していなかった。さりげなく針澄の周囲に流れる魔力を調律する事で、針澄だけは守る事に成功する。その波動を正面から浴びる犬飼は、しかし全身に溢れる信仰でそれを弾き返した。


「オォォ! ニンゲンごときが! ムダなコトををを!」

「くっ……!」


 見る人間が見れば、二人の周辺で大気が空間ごと歪むのを見ただろう。鰐淵の姿は徐々に、人間のそれから離れて行く。色だけでなく、皮膚の質は既に変化が終わっている。瞳の形状が変化し、その口は大きく開き、酸素を求めて呼吸が荒くなる。しかしじきに、その酸素すら必要なくなるだろう。

 自身の額に角が生えているのか、何も起きていないのか。鰐淵は自分でもわからなかった。


「ヴアアアア!」


 目の前の敵を滅ぼす。それだけの存在へと変化していく。

 だが、相対する犬飼は絶対に諦めたりしなかった。それがどれだけ凶悪な悪魔であろうと、その魂から光を奪う事は決して出来ない。

 その精神は、何者にも折る事ができないだろう。その意思の前で、人の命はどこまでも強靭であるのだ。

 その意思の名こそ、勇気。


「あああああ!」


 不屈の信仰心が、その末にとうとう奇跡を起こす。不浄なる悪に鉄槌を下すため、犬飼の右手には白く眩い炎が宿ったのだ。

それは悪しきのみを焼く聖炎。犬飼の祈りと信仰が具現化した、奇跡そのものだった。


「かがやけぇぇぇ!」


 握りしめた手が、一際強く鰐淵の手を握った。瞬間、鰐淵は刺すような焼け付く痛みを感じた。右手が火傷しそうなほど熱く、くまなく針でめった刺しにされたようである。


「ヴォォォォ! ガアアァ……! ……って痛い痛い! いや、ちょ、まっ……! 痛い痛い痛い! 熱い! 熱い熱いああああー!」

「はあああッ!」

「待て待て! もう終わってる! いぃってぇ! なにこれ痛い痛い!」


 鰐淵の肘は既にテーブルを離れていた。犬飼が握ったままなので、逃れようと必死に腕を振るものの、鰐淵は逃げられない。


「は、離せ……! 離せぇぇ!」


 だが鰐淵の言葉は犬飼に届かない。このままでは右手を消し炭にされると判断した鰐淵は、散り散りになりそうな意識をかき集め、テーブルを蹴りつけた。


「う、おぉぉ! 人間めぇぇぇ!」


 蹴り飛ばしたテーブルは、反対側の犬飼の腹部に突き刺さる。くの字に腰を曲げた犬飼は、肺の中にあった息を吐き出す。その瞳からは聖なる輝きが抜け落ちた。


「ぐぅ、っうふ……」


 それから、ゆっくりと鰐淵から手を離した。鰐淵は煙を上げる右手をさすりながら、全身で跳躍して距離をとる。対して犬飼は、ぜいぜいと乱れた呼吸を整えてゆるゆると右手を突き上げる。そして、宣言。


「私の、勝ちです……」


 腕相撲に勝利したのは、犬飼だった。


 次に静かな空間に響いたのは、蛇川の舌打ちである。


「さぁ……。その万華鏡をこちらに……。勝ったのは私です!」


 興奮冷めやらぬ様子で犬飼は言うが、それを受ける蛇川は涼しい顔で聞き流し、顔をそむけて視線だけを犬飼に向ける。


「おやおや? 確かに鰐淵さんと腕相撲をして勝ったようですね。正直意外でした。しかし……万華鏡をお譲りするとは? そんなお約束はいつされたのでしょう?」

「この魔女め……!」


 ぎりりと歯を食いしばった犬飼。だがそれを擁護したのは、鰐淵だった。


「そりゃないだろ。正直、ここまで正面から負けたんだ。二十万で売れるなら、それで良いと俺は思えてきたぜ」


 水道で右手を冷やしながら、鰐淵は蛇川に言う。これ程の力を使って、それでも諦めなかった犬飼にそれはあんまりである。そもそも二十万円の時点でぼったくりだと言うのに。


「そうですか? まぁ実際に頑張ったのは鰐淵さんなので、そこまで言うなら仕方ありませんね。私も折れる所は折れましょう」


 普段の蛇川ならば、ここで話を二転三転させてでもゴネただろう。鰐淵がそう思った瞬間、蛇川は椅子からぴょんと立ち上がり、腰に手を当てて犬飼を睨み付けた。にやりと意地汚い笑いを見せると、自信満々に言う。


「私に勝てたら、本当に二十万円で売って差し上げます。ただし、私が勝ったら。高級なお肉と寿司とワインでパーリナイを奢って下さい。やりますか?」

「良いでしょう」


 犬飼は呼吸を完全に整えると、テーブルに右肘を叩きつけた。


「悪魔でもない魔女が、力比べでは分が悪いでしょう。ですが、手加減はしませんよ」

「おやおや? 面白い事を言いますね」


 蛇川は懐から乾燥した植物の根らしきものを取り出す。それを口にくわえると、二度三度と噛んで吐き出した。


「お前それ、ドーピングじゃないのか?」


 絶望的に貧弱な肉体の蛇川が、何故そんな勝負を受けるのか。その疑問が解消できた鰐淵は、ゴミ箱に吐き捨てられた植物を見て言う。しかし、蛇川は意に介さない。


「はい。魔術的な、筋力増強を行っています。今の私は普段の倍近い腕力を発揮します。スーパーつよつよ状態ですね」


 てくてくとテーブルに向かい、肘を下ろす。犬飼と蛇川の手が組み合った。


「普段の倍近い……?」


 鰐淵は蛇川の言葉を咀嚼するように繰り返した。悪魔の力と正面から渡り合った犬飼を打倒するのに、その程度の筋力で足りるわけがない。どれだけ倍にした所で、元の数値となる蛇川の筋力は、そこら辺の野良猫と良い勝負ができるレベルだ。


「怪我する前に辞めた方が良いんじゃねぇか?」

「いいえ。怪我をするのはシスターわんわんの方です」

「……きなさい」

「じゃ、いくよー? よーい、どん!」


 次の瞬間。閃光と共に蛇川の腕が吹き飛ぶ。そんな姿を幻視した鰐淵は思わず目を覆ったが、驚くべき事にそうはならなかった。


「う、ぐぐぐ……!」

「だああああ!」


 犬飼が発する気合に変化はない。だが、その姿は先ほどと違い、何の不思議な力も感じさせなかった。見た目相応の、女性の細腕からなる力しか感じさせない。


「そ、そんなバカな……!」


 そのセリフを言ったのはどちらだろうか。あるいは、両者同じ事を口に出したかも知れない。

 蛇川と犬飼の力は、テーブルの上でぴったりと拮抗していた。どちらの腕も傾く気配がない。


「一体どうなってんだ……?」


 鰐淵にはわからない。その時、状況を正しく全て理解していたのは蛇川だけであった。

 蛇川が行った事は、素手の接触を利用した調律である。自身の体にある魔力エネルギーを犬飼に流し込む事で、聖なる力の発動そのものを無力化していた。これによって、犬飼の腕力は肉体の筋力に依存したものになる。見た目相応、華奢な女性のそれである。

 それに加え、筋力増強の秘薬。これによって倍する腕力を得た蛇川は、犬飼を圧倒する事ができる。そうした作戦を立てていたのだ。


 しかし、状況はまさかの拮抗状態。これが意味する事は、蛇川の腕力は犬飼の半分しかなかった、という事である。まさかそこまで自分が非力と考えていなかった蛇川は、悔しさに歯噛みした。

魔女の秘薬とは大概がデメリットを含んでおり、今回使った筋力増強の代償は既に発生している。蛇川は今日一日、辛いものを食べるとお腹を壊す呪いにかかっているのだ。


「私は今日、カレーが食べたくなっても食べられません。そんな苦労までしているのに……!」


 どうせなら、もっと強力な秘薬にするべきだった。辛いものに加えて、酸っぱいものも我慢する秘薬であれば、確実に勝利をもぎ取れただろう。

だが、もしも勝利して得られた食事のワインが、酸味の強いものだったらどうしよう。ご馳走を前にお腹を壊すなど、許容できるリスクではない。その考えが、蛇川にそこまでの秘薬を使わせなかった。


「くっそぉぉぉ!」


 蛇川は、憎悪に顔を歪める。こんなに細い、棒きれのような腕のどこにそんな力があると言うのか。太さの話をするなら、自分の方が太い。肌だって犬飼は常に修道服で隠しているから、紫外線に荒らされていないし、謎の加護は常に服の中を夏涼しく冬暖かく保っている。自分は基本的にラフな格好しかしないし、そのため紫外線には毎年肌をやられている。堕落した生活のせいで睡眠も不規則になりがちだ。


「あなたなんかに、持たざる者の気持ちがわかりますか……!」


 犬飼は自分より頭一つくらい背が高い。不愉快極まる。

そして教会の仕事を真面目にやるので、周囲の評価も高い。自分は仕事など心底どうでも良いので、いつも小うるさい文句を言われる。

 こんなにも楽だけして結果が欲しいのに。こんなに頑張りたくないのに。


「こんな世界……私は認めません……」


 飲んで寝て食べて遊んで、息して歩いてるだけで周囲からちやほやされたい。こんなに願っているのに、どうしてそれが叶わないのか。祈っただけでスーパーパワーを手に入れられる犬飼が憎くて仕方なかった。


「いつだって、私の祈りだけ、届かない……! なら! そんな神様は要りません!」


 その憎悪は、蛇川の力となる。


「私の祈りは、私が叶えます!」


 蛇川の肉体は、果たしてその祈りに応えた。それは、頑張りたくない、疲れるのは嫌だ。そうした想いを、憎悪と怨恨が凌駕した瞬間だった。


「うああああ!」


 絶叫と共に、テーブルに叩きつけられたのは犬飼の右手。次いで高らかに掲げられたのは、蛇川の拳であった。


「しゃあああ!」


 勝利の悦楽に酔いしれ、歓喜を叫ぶ。悔しそうに崩れ落ちる犬飼を見下ろすのは、蛇川にとって強烈な愉悦でもあった。


「私の勝ちです……。これで私は二十万円分の食事と、願い事を使えます。文句はありませんね……」

「くっ……」


 拳を握った蛇川は、しかし。ゆらりとテーブルに現れる人物の存在を失念していた。犬飼を押しのけるように現れたそれは、テーブルに右肘を置いて構える。


「……え?」

「さ、それじゃあ決勝戦だね」


 針澄まいんが、獰猛な笑みを浮かべていた。


「じょ、冗談ではありません。あなたはシスターと違って、混じりっけなしに自前の筋力だけです。まいんちゃんを越えるだけの秘薬を飲むとなると、私もタダでは済みません」


 蛇川は鰐淵に鋭く視線を送る。


「では、まいんちゃんもシスターと同じく。まずは鰐淵さんを倒して頂きましょう。鰐淵さんどうぞ。はい、やって下さい」


 だが鰐淵は軽く首を振って苦笑い。


「勘弁してくれ。さっき危なく右手がなくなる所だったんだぞ。カロリーも使いすぎたから悪魔化なんてしばらく無理だし、悪魔化しないで触られたら痛くてたまんねぇよ。見ろこれ。治るのか?」

「そんなの良いからやって下さい。痛いくらい何ですか。火傷用の軟膏でも塗って下さい。私なんて今日はカレーが食べられないんですよ?」

「いやいや。無理だ無理。いくらお前だって女子校生を相手に簡単には負けんだろ。追加のドーピングでどうにかしてくれ」


 針澄に勝つ事がどれだけ困難か鰐淵は理解していない。その事実を把握した蛇川は、酸っぱい物に加え、更に苦い物までを食べられない事を代償に追加のドーピングを行った。


「もう今日はお菓子くらいしか食べられません! その覚悟を見せましょう!」


 しょっぱい物まで封印した場合、犬飼に奢らせる食事が本格的に楽しめない。ここが限界である。


「今の私は三倍以上の速さと力を持っています……。ここまで強くなったのは久しぶりですよ……。自分でもどこまで制御できるかわかりません。せいぜい、すぐ終わらないよう。私を楽しませて下さい……!」


 全身から闘志を漲らせた蛇川が針澄と相対する。そして、その手を組み合わせる。


「行きますよ!」

「来いオラァ!」


 そして戦いの火蓋が切って落とされる。


「ぐわあああ!」


 一瞬でひっくり返された蛇川は、その勢いのまま盛大に尻餅をつかされる事になった。



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