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喜目良商店街の悪魔  作者: 稲荷崎 蛇子
3/14

part03 喜目良商店街の花売



 悪魔は実在する。

 鰐淵の身に宿る人外の力は、俗に悪魔と称される存在の力である。鰐淵はその気になれば鉄だって砕けるし、新幹線より素早く走る事もできる。銃弾だって目で見てから避けられるし、そもそも拳銃で撃たれた程度では怪我をしない。身体の一部、あるいは全身を悪魔化させる事は鰐淵にとって難しい事ではないし、日常で役立てる事すらある。

 だが鰐淵にその気がないのは、決して人並みの生活を謳歌しているから、などという理由ではない。

 至極単純な理由として、悪魔と化して動き回ると、ものすごく疲れるし、ものすごく腹が減るのだ。


「青大将の兄ちゃん、今日もよく食べるね」

「そりゃあな。ちょっとでも食っておかんと」


 悪魔としての力と、その持続時間は体内のカロリーに依存する。だがたくさん食べれば良いという事でもない。人体が一度に吸収できるカロリーには当然ながら限界がある。胃の中で消化され、きちんと栄養が摂取され、はじめて意味があるのだ。


「大食いには挑戦しないのかい?」

「しねーよ。体質の問題でな。食う頻度は多いが、一度に食う量は人並みだよ」


 鰐淵はジライヤの屋台を手伝い終わった後の夕方、商店街の花屋前にて。その店主が出す屋台の肉饅頭をかじっていた。


「しかしババァやるじゃねぇか。花より肉まん売った方が儲かるんじゃねぇの?」

「っせーわ。んなもん売る乙女がいるか。心はいつでも美少女なんだよ」


 喜目良商店街でも古くからある花屋は、老齢の店主と、その孫のアルバイトで営まれている。鰐淵は、いつからババァはババァだったかと記憶を辿ってみるものの、幼い頃からババァであったという結論に至る。その変わらぬババァぶりに、年齢を訊ねる事すら躊躇してしまう。


「もう半分妖怪みてぇなもんだよな……。だが肉まんがうまいのは認める。もう一個くれ」

「おらよ。美老女の手作りだ。ありがたく食らえ」

「ババァお前自分の事、美老女って呼んでんの?」


 腰の曲がったまま、杖を置くと店主は振りかぶって肉饅頭を投擲。鰐淵の顔面に突き刺さる熱々の肉饅頭。半分だけくわえると、むしり取って鰐淵は食事を続ける。


「ババァ手が滑ったのか?」

「わかってるじゃないか」


 鰐淵は財布より肉饅頭の代金だけ小銭を取り出し、右腕だけ悪魔のそれに変質させる。


「はいよ、お会計……あー手が滑った! くたばれババァ!」


 勢いよく鰐淵の手から放たれた小銭群は、しかし店主の顔には当たらない。年齢とは裏腹に素早く動くと、手近にあったバケツを構えた。カンカン! と小気味良い音を立てながら、バケツの中に小銭が収まってしまう。


「今くたばれって」

「言ってねぇ」

「ならあたしの耳が耄碌したってのかい?」

「当たり前だろ……ババァなんだから……」

「心は美少女だってんだろ!」

「ってぇな! 殺すぞババァ!」


 店主が杖で鰐淵の脚を殴り飛ばす。鰐淵は肉饅頭の最後のひとかけを飲み込むと、花屋に貼ってあるポスターを何気なく眺める。


「おい美老女、あれなんだ?」

「あー? なにって……いつも通りさね」


 それは夏祭りのポスターで、鰐淵も知る物ではあった。胸元よりも低い位置にある店主の頭越しに、鰐淵は続ける。


「いや、今年の借り物競争。なに? 賞金とか出すの?」

「あぁ、青大将の所は寄り合いに来ないから知らんのか。今年はいつもより盛り上げようって話になったのさ。あの腐れ店長に、もっと顔出して愛想良くするよう言っときな」


 ポスターには、二日目に行われるイベントである借り物競争について、賞金や景品がある旨を記載されている。鰐淵の記憶では、このイベントの勝者に名誉以外のものが授与されるのを見た事がない。毎年やっている事だが、鰐淵はいつも遠目に眺めているばかりであった。


「賞金ねぇ……。いくらもらえんの?」

「一等は百万円、二等は二十万円、三等は商品券だよ」


 鰐淵は驚き、目を見張る。この商店街にそんな豪華賞金を出す余力があるとは驚愕であった。


「百万円……とはまた、えらく気合の入った額だな……。二十万だって安くはないが、百万円なんてどこから出て来たんだ?」

「さぁて、ね。その辺も商店街の寄り合いで決まったんだ。そういやジライヤの旦那が怪我したんだって? 参加できなくて、あの暴れ牛もさぞ悔しがってるだろうね」

「どんっだけ嫌われてんだよ……」


 鰐淵は呆れながらも、ポスターをしげしげと眺めてから、店主に視線を戻す。


「しかし、地域活性化もちゃんと考えてるわけだ。こんな賞金なら、結構遠くの人も来るんじゃないのか?」

「みたいだね。やるのは明日だけど、今年は初日から人が多いよ」


 ジライヤの屋台も、最初こそ売れ行きは良くなかったのだが、昼からは盛り返した。遠方から来たらしき客も多く見かけたが、こういう理由があったとは。

 鰐淵は感心して頷く。とは言っても、午後からはお菓子を全て配り終えた犬飼が屋台に協力してくれたというのも大きかった気がする。鰐淵には殺意溢れる濁った瞳を向けてくるが、それ以外の通行人には満面の笑みで呼び込みをしてくれた。この暑い中、一生懸命に呼び込みをする可愛らしい修道女は、見ていて何だか応援したくなるのも事実だ。お客はみんな笑顔になれたし、針澄も敵意どころか仲間意識すら感じたらしい。鰐淵だけが取り残される地獄のような空間だった。


 あの暴力シスターがジライヤの味方をするなら、明日以降の屋台は心配ないだろう。

 ちなみに炎天下の中でも汗をかかない理由に関して本人いわく、神の御加護があるから、との事である。


「借り物競争ねぇ……」


 悪魔の脚力を以てすれば、一等は容易だろう。鰐淵は口角を上げると、上機嫌で喫茶青大将へと足を向けた。蛇川が一人で店番をしているはずである。恐らく、しているはずなのだ。


「蛇川は……いやあいつじゃ無理か」


 知る限り、借り物競争で有利になる能力を蛇川は持っていない。探し物占いみたいな事もしているが、基本的に蛇川の占いはアテにならない。当たる時は非常に細かい所まで的中させる事もあるのだが、十回やって一回当たればラッキーという程度。借り物競争において、その借り物を捜索する事には使えないだろう。


 足場を作る魔法、という本物の魔術は蛇川の切り札だが、蛇川の使える魔法などそれしか鰐淵は見た事がない。本人もそれしか出来ないと言っている。である以上、鈍足の運動音痴など勝負にもならないだろう。


「一応は教えてやるか……。百万だしな」


 軽い気持ちで鰐淵は思う。もし参加したら、その鈍足ぶりを笑ってやるのも悪くない。


「よぉ蛇川、ちゃんといるかー?」


 ドアベルにされたカウベルの音がガランガランと鳴り、鰐淵は喫茶青大将のドアを開ける。中ではエプロンをかけた蛇川が接客中で、和気あいあいと客とのお喋りに興じていた。


「おや、鰐淵さん」


 のんびりと片手を上げる蛇川。あの性格破綻者と話が盛り上がるなんて、一体どんな客なのだろうかと鰐淵は視線を移す。そこには一人の大柄な男性が、スキンヘッドにサングラスという出で立ちでコーヒーを楽しんでいた。左手でカップを握っているのは、右手を怪我しているからだろう。その手にはきつく包帯が巻かれていた。


「こちら、ジライヤの店長さんです。今日のお手伝いはどうでしたか?」

「バーサーカーじゃねぇか!」

「ばぁさーかー?」


 性格破綻者とウマが合ったのは、性格破綻者であった。

 驚きのあまり、ドアの前で立ち止まってしまった鰐淵は考える。この店内で暴れられては洒落にならない。万に一つ、右手を怪我しているという特徴が合致しているだけの他人かと期待してもいたが、蛇川が言うにはジライヤの店長で間違いないらしい。ついさっきまで、その娘というだけの少女と一緒にいたが、地雷と呼ぶにふさわしい喧嘩っ早さだった。その父親など、推して知るべしである。


「……いらっしゃいませー……」


 鰐淵は出来るだけ笑顔を作ると、そそくさと奥に引っ込むべく、店内を早歩き。しかしそれを許さないのが、本来は味方であるはずの蛇川だった。


「鰐淵さん、今日の屋台どうだったか教えてあげたらどうですか? 何だか頭のおかしい黒づくめに襲われて大変だったじゃないですか」


 その頭のおかしい黒づくめのおかげで午後の売上を盛り返している。


「おぉん? ウチの店とやる気か。やったんぞ、おぉぉん?」


 地の底から響くような野太い声を出すと、その巨体を揺らし始める。見た目通りすぎる言動に、鰐淵は両手をひらひらと振って応える。


「あーいやいや。教会のシスターさんが勘違いしただけですよ。何なら午後からは手伝ってくれて、それはそれは繁盛しましたよ」

「おぉん?」


 熊や猛牛を思わせる巨体は、安心したように座り直す。

 彼は針澄まいんの父、針澄獏頼。力士のような体だが、格闘技の経験はない。その代わり、日々の路上で鍛えた喧嘩殺法と、長年の修行で得た調理技術が自慢の四十五歳である。


「まいんが世話ンなったってな……。ありがとうよ」


 サングラスの奥からぎらりと光る視線は、鰐淵を突き刺すようであった。


「聞いて下さい鰐淵さん。まったくバクライさんたら、ずっとまいんちゃんの話ばかりなんですよ。鰐淵さん、手なんか出してませんよね? そんな事をしては殺されてしまいます」

「おぁぁん?」

「んなもん出すか!」

「おや? そんなに否定しなくても、冗談に決まっていますよ。喫茶店の店員たるもの、余裕がなくてはお客様にくつろぎの時間を提供できません。さあ働いて下さい」

「冗談になる冗談にしろよバカじゃねーの」


 鰐淵は手早くカウンター裏にあるエプロンを手に取ると、腰に巻く。それと入れ替わるように、蛇川はカウンター席に座った。


「鰐淵さんのコーヒーはクソまずいので、それ以外がおすすめですよ。たくさん注文して、ウチの売上に貢献して下さい。私は鰐淵さんが来たので今から休憩します」

「おぉん?」


 会話が通じないという点で、鰐淵の前に座る両者は同じだった。果たしてどちらがマシかと考えながら、鰐淵はお湯だけは沸かしておく。コーヒーでも紅茶でも、どちらにせよお湯は必要だろう。


「ご注文は?」

「コーヒー」


 鰐淵は獏頼の注文に従い、豆を用意。


「おやおや? バクライさんたら勇敢ですね。私の忠告は無駄に終わってしまったようです。どうしてですか?」

「おぉん?」


 蛇川の問いに対して、巨体に見合う太い首を傾げて答える。


「人も物も、多少気に入らねえくらいが丁度良いのさ」

「そりゃ俺のコーヒーが気に入らねぇように聞こえますが」

「おぉん?」


 鰐淵は豆を挽きながら、獏頼について考える。話によると喧嘩っ早いらしいが、人を怒らせる事に関して天才的と呼んでも良い蛇川が相手をして、まだ問題が起きていない。どういう理由からだろうか。


「鰐淵さん、今私の事を考えていましたか? 残念ですが、鰐淵さんはタイプじゃないので好きになられると困ります。ひょろくて蜘蛛みたいな体ですし、なんか女々しい感じもします。出直して下さい」

「殺意ってのは何色をしてるんだと思う?」


 答えは黒。鰐淵の右手は思わず殺意の色へと変質し、その握力でカップをうっかり握り潰してしまう。こんな事で力を使って無駄にカロリーを消費してしまうから、いつまでも体に肉がついてこない。

 割れたカップの破片を集めて捨てると、蛇川は何かを思い出したようにポケットから取り出す。折り畳まれた紙を出すと、カウンターに置く。


「あぁそうそう、鰐淵さんはご存じですか? 今年の借り物競争は一等だと百万円がもらえるそうですよ。どこから出てくるのか不思議ですよね」

「なんだ、蛇川も知ってたのか。俺もどこからそんな大金が出て来るのか気になってるんだが、まぁ出すって言うからには出すんだろう」


 蛇川が置いたのは、借り物競争の告知チラシである。


「おぉん? なんだぁ、おめぇら知らねぇのか? 百万たってお前……。いや、どうせ俺には関係ねぇからどうでも良いか」

「何です? 気になる言い方をされますね」

「うるせぇ。本当は俺が出て金をもらうつもりだったが、この手だしな。参加できねぇイベントに興味なんかねぇし、話もしたくねぇ」


 痛々しい右手を持ち上げて言う姿は哀愁がある。しかしその手は喧嘩で骨折したものであり、鰐淵は一切の同情心を持てない。


「何にせよ、こんなチャンスを逃す訳にはいきません。明日は鰐淵さん頑張って下さい」


 蛇川の言いぶりは、まるで鰐淵の参加が決まっているような話し方である。しかし鰐淵は元より参加するつもりで、特に異論を挟むつもりもない。


「忘れる前に渡しておきましょう。参加証をもらってきたので、明日はこれを持って下さい」

「……なんだ、これ?」


 こつ、と硬質な音を立ててカウンターに出て来たのは、缶バッジである。人に不快感を与えない程度にデフォルメされた蛇の絵が描いてある。


「可愛い絵です。私が学生なら、鞄に三個は付けておきたいですね」

「うーん……そうかぁ?」

「こんな感じで、色んな缶バッジが参加者には配られているそうです。参加証という事で、明日の受付で提示しないと参加できません」

「こんな物をねぇ……」

「ちなみに当日受付はしないそうです。今日の内に参加申請してきた私に感謝して下さい」

「へえ? そりゃ素直にありがたいな」


 鰐淵は缶バッジを手に取ると、ズボンのポケットに入れる。コーヒーを獏頼に差し出すと、獏頼は迷う事もなくカップに口を付け、眉間の皺を深くした。


「もし一番になったら、私にも半分ください」

「やだよ」

「もちろん私も協力します。大金ですから、それはもう私だって頑張りますよ。具体的には、借り物を用意します」

「へえ?」

「当日はインカムを付けて走って下さい。借り物競争ですから、指定の品物を素早く得る事が必要でしょう。私は鰐淵さんの指定された物を用意して、ゴール手前で渡します。上手く行ったら賞金を半分下さい」

「分け前は大きいが……お前にしちゃ珍しくまともな提案だな……」

「大金がかかっていますから、あまりふざけるのも……。いえ、そもそも私はいつもまともですが。頭のおかしい鰐淵さんを基準にしないで下さい」


 仮に蛇川に半分やったとしても、それでも五十万。とても無視できない金額だ。悪魔の力に加えて、どこまで役に立つか未知数ではあるが協力者もあるとすれば、一等は揺るがないだろう。

 鰐淵は獲ってもいない狸を数えてから、にやりと笑みを作る。と、獏頼が勢いよくカップを傾けるのが視界に入った。娘も同じ飲み方をしていたな、などと思ったつかの間。獏頼は小銭を叩きつけるように置くと、そそくさと帰り支度を始めた。


「おぉ……コーヒー、クソまずくて気に入ったぞ。じゃあな」


 しかしそれは、娘と同じ飲み方をしていた訳ではない。単にその場を脱するため、急いで飲み終えたに過ぎなかった。


「おめぇら……なぁんも知らねぇんだな……。寄り合いには顔を出した方が良いぞ」

「何です? 何です? 教えて下さいよ。何か隠していますね?」

「おぉん?」


 獏頼は椅子から立ち上がると、蛇川と鰐淵を交互に見る。それからサングラスを持ち上げ、二人の間違いを訂正した。


「おめぇら、考える事がド甘いんだよ」


 それからドアベルにされたカウベルを勢いよく鳴らし、足早に去って行った。残された二人は顔を見合わせると、訳がわからないと言った顔を互いに浮かべ合う。


「あぁ、もしかすると副店長なら何か気が付いたかも知れませんよ」

「いざとなったら俺を売れば百万くらい、とか言ってるんじゃないか」

「おやおや? 副店長をずいぶん安く見積もったものですね」


 とてとて、と副店長の入った箱に向かう蛇川。布をめくって、何やらふんふんと頷いている。中から何か、恐らく尻尾を壁面に叩きつける音が鳴り、蛇川は驚いたように口元を覆う。


「なんて事!」

「どうしたー」


 バーサーカー親父のカップを洗いながら、鰐淵は興味なさげに聞いてみる。すると蛇川は慌てた様子でカウンターに戻ってくる。それから鰐淵の前に立った。


「……あ、これマジの奴です」

「……本当にどうした?」


 窓の向こうを注視した蛇川は、その脚を振り上げて空中を踏む。


「鰐淵さん! 伏せて!」


 鰐淵が頭をカウンター裏に引っ込めると同時に、けたたましい音を立てて窓が割れた。


「うぅぅ、あぁぁぁ!」


 蛇川が放つのは、裂帛の気合と、あらゆる物質を断絶する足場魔法。見えない壁に阻まれ、空中で静止したのは大量の粒だった。何の粒だろう、と鰐淵は見つめて、それからすぐに理解する。BB弾だ。


「来ますよ! あれは……」


 鰐淵は僅かに頭を出すと、その姿を見た。割れた窓から覗くようにこちらを見ているのは、全身を防弾ジャケットと防刃グローブ、それから金属ブーツでしっかりと固めた中年男性であったのだ。


「やるな……。さすが蛇ちゃん」

「おもちゃ屋の百舌さん!」

「おもちゃ屋の……もずさん?」


 鰐淵はその顔を見て、それが商店街でおもちゃ店を営む顔見知りである事を認めた。


「あ、ほんとだ。百舌さんだ」


 たまに喫茶店に来るのを見かける。子供好きの独身で、商店街では比較的穏やかな人物であると鰐淵は記憶している。


「百舌さん……やってくれましたね」


 蛇川が睨みつけると、百舌はその手に巨大な銃を構えていた。


「悪いね……参加者リストに名前があった以上、こうするしかないんだ」

「そこまでしてお金が、百万円が欲しいんですか?」

「百万円? ……あぁそうだね。当たり前だろ?」


 その言葉に続いたのは、きゅううん、という機械音。そして百舌は構えた銃から、大量の弾丸を吐き出した。

 凄まじい発砲音と共に飛び出した黄色い弾丸は、木製のテーブルや椅子を破壊し、その殺人級の威力を見せつける。が、蛇川より後ろには届かない。


「改造エアガンじゃこれが限界か。……なら!」


 百舌は背から光る棒を抜き放つ。手元のスイッチを作動させると、どこぞのヒーローの決め台詞が電子音声となって鳴る。


「熱血、モズブレイド!」


 警棒ほどの長さのそれは、灼熱の温度を宿したまま赤い軌跡を描く。棒の周辺だけ空気が歪む熱量を備えているのは、鰐淵から見ても明らかだった。


「そして、行け! リリィちゃん部隊!」


 背負っていたリュックから飛び出したのは、五台のラジコンカーである。その上には、これでもかという量の火薬を抱えた女児人形が乗っている。


「うおぉぉ!」


 鰐淵は咄嗟にカウンターから飛び出すと、蛇川の体を抱え、四肢を悪魔化。人間の視覚と反射能力が対応できないだけの速度を繰り出し、ドアを蹴破るように飛び出した。

どろっとした黒い残像だけが残り、百舌は二人の姿を見失った事を理解する。


「……逃がしたか……。鰐淵くんは強敵だから、ここで倒しておきたかったんだけどな……」


 はぁ、と百舌は溜息を吐き出した。



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