結婚式
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記) バグ=バグ(台詞表記) レイシア=レア(台詞表記)
その後落ち着いてから結婚式の話を幸にする。
ロプ 「ベルスマイアさんが、日本式の結婚式をしてくれるって言っていたんだが、どうする?」
幸 「できたらやりたいかな。そういえばこちらの結婚式って、どんな感じなの?」
ロプ 「こっちは結婚の儀式っていうのがあって、教会で神官が神様にお祈りしてくれて、認められれば神様が祝福してくれるんだ。ただ、教会に二人で行って、神官に祈ってもらうだけだよ」
幸 「日本の結婚式とは大分違うみたいね。じゃあ、日本式の結婚式が終わったら、こちらのもする感じかしら?」
ロプ 「いや、聞いた話では日本式の結婚式で十分なんだそうだよ」
幸 「そうなのね。じゃあベルスマイアさんにお願いしなきゃね」
ロプ 「だな。ちょっと連絡して来るよ」
幸 「一緒に行こうか?」
ロプ 「じゃあ、行くか?」
ひょっとしたらいろいろと話もあるかもしれないし、一緒に会いに行くことにした。
町の広場まで行って、ガーゴイルに向って話しかけるっていうのは、なんていうか不思議な感じだな。
ロプ 「ベルスマイアさんに結婚式の話があるって言ってもらえないかな?」
ちょっと緊張するような、ガーゴイルにこんな話をするのが恥ずかしいというか微妙な気持ちでそう言うと、待っていたかのように、ベルスマイアさんが転移して来た。
配下 「こんにちは。まずはおめでとうと言っておきますね」
ロプ 「あ、どうもです。いろいろ相談とかも乗ってもらってありがとう」
幸 「お久しぶりです。えっと結婚式の方、よろしくお願いします」
配下 「はい、じゃあいろいろと説明とかありますので、部屋の方に転移させてもらいますね」
そう言うとちょっと豪華な応接室っぽい部屋に、転移させられていた。手でどうぞって示されたソファーに座ってみるけれど、これかなり上質な布でできているってわかるソファーだった。デザインもそうだけれど、材質そのものが僕の知らない布で作られているな。これは王族でも早々持っていないんじゃないかなっていう豪華な品物だと判断できた。
配下 「まずは結婚式についてですかね。幸さんは知っていると思うのでロップソンさんに説明して行きましょうか。貴族の結婚を思い浮かべてもらえれば少しわかりやすいかと思いますが、日本の結婚式では両家が繋がることになりますので、結婚式に参列する家族や友人などを呼ぶことになります。残念ながら幸さんの方は参加者がいない状態になりますが、そこはバグ様とレイシアさんが参加することになっています」
幸 「レイシアさんだけじゃなくて、バグ君も参加してくれるのですか?」
配下 「ええ、おそらくこちらの世界で幸さんと一番関係性が近いのはバグ様でいらっしゃいますからね」
ロプ 「前々から思っていたんですが、バグさんって元はドラゴンなんじゃないですか? やっぱり異世界からやって来ていたんですか?」
配下 「バグ様はレイシアさんに召喚されて、スライムとして転生して来た方ですよ。その後いろいろありまして再びドラゴンとして転生したのが、ロップソンさんがお会いになられたバグ様の姿です。ですから大元は異世界人で間違いないので、同じ故郷を持つ幸さんの事をバグ様はお気にされているのです」
ロプ 「そういう関係性なのですか」
幸 「故郷が同じってだけで、殆ど赤の他人なのに、こんなに良くしてもらえてちょっと恐縮してしまいますね」
配下 「まあそこは気にしなくていいですよ。バグ様の気まぐれとでも思ってもらえればいいです。話を戻しましょうか。ロップソンさんの方の参加者は、御両親が健在ならば呼んでいただいてもかまいません。それと御友人や結婚を知らせたい付き合いのあった方々も参列してもらって構いません。ただし、この国で式を執り行いますのでルールが守れる方であればとさせてもらいますけれどね」
ロプ 「はあ。わかりました」
そうすると、呼ぶとしたらジャド達くらいかな? 後商業ギルドで口が固そうな人なら呼べるかもしれないな。冒険者ギルドの方ではそこまで付き合いの深い人がいないので、そう考えると僕の交友関係って、物凄く狭いかも・・・・・・
その後もいろいろと説明を受けた後、実際の予行練習や当日の衣装などの話をして一度帰ることになった。参列者として商業ギルドの人を、一部誘いたいって話は、後日向こうへと連れて行ってもらって、直接報告や説明などをする予定だ。日本だと出欠確認の手紙を出すのだそうだが、リンデグルー自治国とはかなり距離が離れているからな~
だから転移で連れて行ってもらう。一応ジャド達にも話しておかないとだな。
ロプ 「ジャドいるか?」
ジャド「おお、いるぞー。どうした?」
僕達パーティーメンバーは、みんな個々に人間区画で近くの家をもらったので、御近所付き合いをしている。おそらくはこの時間、みんな家に帰って来ているだろうことはなんとなく把握していた。だからこの時間帯ならみんなで集まって幸との関係と結婚式に参加してもらう為の話を、みんなにすることができるだろう。
ロプ 「ちょっと報告したい事と、参加して欲しいことがあってな、みんなで話がしたい」
ジャド「お、やっとか。待ってろ、直ぐみんなを呼んで来る」
さすが長い付き合いだけあって、言わないでもおおよその見当が付いたみたいだな。嬉しいやら照れくさいやら複雑な気分だ。本当にジャドにはいつもお世話になった。
みんなには僕達の家に集まってもらい、そこで話を聞いてもらうと思う。二人用の家になるのだけれど、一応みんなが座れるくらいの広さはあるからね。
ロプ 「えっとこのたび僕と幸は結婚することにしました。それでみんなにはその結婚式に参加してもらいたくて声をかけたんだが、予定は空けられそうかな?」
ジャド「たぶん大丈夫だと思うぞ。後で予定の日を教えてくれ」
ロプ 「わかった」
ミア 「二人とも、おめでとうございます。でも結婚の儀式に私達が参加するって、どういうことですか?」
ニナ 「立会人?」
ロプ 「いや、結婚の儀式じゃなくて結婚式っていう日本式の結婚式っていうやつをするんだ」
みんなが不思議そうな顔をしてこちらを見て来るけれど、これは僕も詳しくないんだよな。
レイ 「まあ、見学だけなら特に構わないと思う」
幸 「式自体は見学していてもらえればいいですよ。その後でみんなで食事をしながらお祝いする感じかな?」
ニナ 「ご飯食べるの? お祝いの食事なら美味しいものが出るかもしれないね~」
ミリ 「なら日本の料理が食べられるかもしれないな」
ジャド「おお、それはぜひ参加したいものだな」
みんな食べ物に釣られやがった・・・・・・まあ、確かに日本で食べた料理はどれも美味しかったから、気持ちはわからないでもないけれどね。
ロプ 「じゃあ、日にちが決まったら知らせるよ」
ジャド「ああ、よろしく頼む」
幸 「後、礼服なんかも用意してもらえるといいかも」
ニナ 「礼服?」
何それって顔をされるけれど、まあこれは上流階級でもなければ持っていなくて当たり前かもしれないな。一般庶民は普段着を持っていれば上等だろう。下手をすればその服さえヨレヨレだったり、ボロボロなのもよくある事だからな。
ロプ 「ああ、そういえばそれもあったな。結婚式に相応しい格好をして来て欲しいみたいだ。男は黒い服みたいだな」
幸 「女性はあまりハデ過ぎなければ着飾った服でもいいかも」
ロプ 「まあ、そんなに厳しい取り決めとかある訳じゃなさそうだから、変な格好でなければ問題ないんじゃないかな?」
幸 「そうだね」
ジャド「わかった。ちょっと服屋にでも行ってみるよ」
幸 「たぶん礼服で通じるところに行ったらいいよ」
ミア 「わかりました」
ニナ 「そういう買い物も、たまにはいいかもしれないね~」
レイ 「冒険していた頃は、着飾ったりとかしないですからね」
ミリ 「見栄えより生存を考えるからな」
ジャド「だな」
これで一応日取りを決めて、商業ギルドの方に話をしに行けば、準備は整うかな~
準備といっても僕にできる事は参加者の都合を聞いていくくらいかな。式そのものの詳しい知識もないので段取りや準備など、全てベルスマイアさんに任せっぱなしになっている。その式の日取りを聞いてみると、参加者の都合などを考えて十日後のお昼丁度に始めようと言われた。
そして日程が決まったので、早速商業ギルドへとお誘いに向かうことにする。
そっちに付いて来てくれたのもベルスマイアさんだった。フォーレグス王国ではそれなりの地位と回復職としての仕事などもあって、忙しい人だと思っていたのだけれど案外そうでもないのかな? 単純にモンスター達は頑丈で、怪我とか殆どしないだけってことなのかもしれない。
そういえば、フォーレグス王国ではあまり事件や犯罪みたいなものなども、聞いた事がないな。災害みたいな話も今まで聞いたことがないぞ。秘密裏に対処しているのか、そもそもが起こらないのかどちらなのだろうな~
何度か襲撃された身としては、過ごしやすくていい国だろうけれど。
ロプ 「お久しぶりです。フラメルさんはいますか? 魔道具とかは関係無しで、少し相談というか報告したいことがあるのですが」
ギルド「お久しぶりです、ロップソンさん。少々お待ちください」
そう言うと受付の人が確認に行ってくれた後、応接室に案内された。待つことしばし、やって来たフラメルさんは部屋に入るとちょっと驚いたような顔をした後、対面に座る。
鑑定員「ロップソンさん、お久しぶりですね。その後元気に過ごされているようで安心しましたよ」
ロプ 「いろいろお世話になっていたのに、突然移住する事になって申し訳ありませんでした」
鑑定員「いえいえ、こちらこそ満足に護衛する事もできず、危険に晒してしまい申し訳ありませんでした。それで今日はどのようなご用件で? 魔道具関連のお話ではないとお聞きしましたが」
ロプ 「えっと、突然で申し訳ないのですが、このたび結婚する事になりまして、その結婚式に参列してもらえないかなって思って来ました」
鑑定員「それは見届け人ということですか?」
ロプ 「いえ、どうも妻の故郷の風習で家族友達、知人などを呼んでお祝いをするんだそうです。えっと、結婚式というものをしてその後食事会みたいなものを開くようなのですが」
鑑定員「はあ、なるほど。つまりそれに参加して欲しいというお誘いですね。確かサチさんでしたか。事故の時に連れて帰って来たと言っていらした方ですね?」
ロプ 「ええ、それで今はフォーレグス王国という国でお世話になっているのですがその国の方針で、なるべく口の堅い秘密を守れる方だけ参加して欲しいんです」
配下 「今回に限り、おそらく会場内だけしか見ることはないと思いますので、そこまで厳しい制限はないと思いますよ」
フォーレグス王国のルールを説明しようとしていると、ベルスマイアさんがそう言って来た。会場だけしか移動できないようにするなら、そこまで制限しなくてもいいのか。なるほど。確かにモンスターと会わなかったら、ただの知人の結婚式に来るだけって話になるな。
鑑定員「えっと、失礼ですがベルスマイア様で合っていますでしょうか?」
配下 「はい。よくご存知で」
鑑定員「魔王軍との戦いでは随分とご活躍されたと聞き及んでおりますので。その後あなた方英雄達の所在は判明していなかったのですが、フォーレグス王国という国にいらっしゃったのですね」
配下 「主様がフォーレグス王国にいますので、そちらで過ごしています。今回の結婚式は、私が取り仕切らせてもらいますので、ロップソンさんに付き添いこちらに伺わせてもらいました」
鑑定員「なるほど、えっとお返事は直ぐの方がよろしいのですか?」
配下 「式は十日後の昼なので、その時迎えに来させてもらいますが、その時までにある程度正装した姿で待機してもらえれば問題ありませんよ。人数はそうですね。十人程なら問題ありません」
鑑定員「お話はわかりました」
ロプ 「よろしくお願いします」
鑑定員「いえいえ。こちらもロップソンさんには随分とお世話になりましたしね。こういうめでたいお話なら喜んで参加させていただきたいですよ」
配下 「それでは当日までに正装の方だけ準備お願いします」
鑑定員「わかりました」
結局ベルスマイアさんが説明というか、話を付けてしまったな。それにしても英雄っていったい・・・・・・?
転移でフォーレグス王国まで送ってもらった後、せっかくなのでちょっと話を聞いてみることにする。
ロプ 「ベルスマイアさんって有名人なんですか?」
配下 「さあ、どうなのでしょうね? 正直、あまり人にどう思われていようと気にしませんので」
ロプ 「先程魔王軍との戦いで、英雄だと呼ばれていたとかって言っていましたが」
配下 「ああ、それはバグ様からの指示で活動していましたから。それだけのことですよ」
そういえば、レイシアさんも最高峰の冒険者だって言われる程の強さだったし、それよりも強いっていうバグさんなら、人類軍で相当な活躍をしていても、不思議ではないよな。その関係者が英雄と呼ばれていたとしても、不思議な事ではないのかもしれない。
その後は特にすることもなくのんびりと過ごした。途中で衣装を作る為に採寸とかはしたけれど、それ以外はほぼお任せって感じだ。結婚式の最後に、引き出物と呼ばれる記念品みたいな物を渡すとか言われたので、何を配るか考えたくらいかな? それも考えてこれがいいのではって感じで意見を出しただけで、後はお任せになってしまった。
自分の結婚式なのに、これでいいのかなって不安になったくらいだよ。
それから前日に一度リハーサルをして当日、僕は幸と一緒に朝から会場で準備をしていた。
商業ギルドからの参加者も決まったので、席順を決める作業をするくらいだけれど、それが終わったら後は手順などを確認する。そして時間が迫って来て着替え終わるとそこで初めてお互いの衣装を見せ合った。
ロプ 「なんていうか、綺麗だな・・・・・」
幸 「ほんとに? ありがとう。ロップソンも似合っているから、普段からそんな感じの服もいいかもしれないね」
ロプ 「さすがにそれは堅苦しいよ」
純白の衣装は今まで見た事がない装いで、とても綺麗なドレスだった。おそらくこちらの世界では、貴族でもこんなドレスは持っていないだろうな。頭から被っている布は反対側が透けて見える程薄いようだ。いや、よく見てみると細かいが網目状になっているのでその隙間から向こう側が見えるのだろう。
危険が無い世界ならではの布って感じだな。こちらではなるべく厚手の布にして、衝撃などから体を守ろうって発想が主流になるから、このような装飾としてしか役に立たない物は作られてこなかった。しかし、フォーレグス王国を見ているとこれからはそういう考え方こそ、主流になって行くのかもしれない。
ロプ 「そろそろ時間だな。行こうか」
幸 「はい」
二人で会場入り口近くの待機室へと向い、幸をバグさんに一先ず預ける。本来なら、幸の父親とかが花嫁を連れて会場入りして来るのだそうだが、こちらに幸の身内はいないのでバグさんがその役目をすることになったそうだ。一旦ここで別れ、僕は先に式場のベルスマイアさんの前まで行って待機する。会場内を見渡すと、半分はよく見知った顔ぶれが来てくれている。とはいっても大体二十人くらいかな?
残り半分は幸の関係者ってことになっているのだが、そちらは知らない顔ぶれが何人か見られた。バグさんの配下の人って、案外一杯いるんだな・・・・・・そう思っていると、商業ギルドの人達が集まっているテーブル付近でざわざしているのがわかる。何かあったのかな? そう思いつつも、もう式が始まる直前なので話を聞きに行けるような状態ではないな。後で話をする時間もありそうだし、覚えていたら聞いてみよう。
しばらくして、会場が暗くなり式が始まった。ピアノという楽器によく似ている物が奏でる曲に合わせて、幸がゆっくりと入場して来る。リハーサルと違って実際の式はなんというか、とても神聖な雰囲気がして、誰もが静かに進行していく儀式をただ黙って見詰めていた。バグさんの配下達はさすがに日本式の結婚式の知識があるので、いちいち驚いたり戸惑った感じはないものの、僕の関係者は要所要所で驚いていたのが伝わって来る。
それはジャド達も同じで、始めてみる結婚式とやらは余程衝撃的だったみたいだな。誓いの儀式も無事に終わり指輪の交換をした後、さすがに人前でキスしろっていうのは、僕としても恥ずかしく思えてさすがに少し躊躇したものの、これをしないと式が終わらないらしいからやらない訳にいかない。
そして覚悟を決めて頭にかぶせてある薄い布、名称はベールとか言うらしいのだが、それを上に避けて幸と口付けを交わした時に、とても暖かな光に包まれたのを感じた。
これはさすがに知っている。こちらの世界でおこなう結婚の儀式の時に神様に祝福されたカップルが包まれる光だ・・・・・・ベルスマイアさんから神様に祝福してもらえるので、問題ないとか言われていたとはいえ、まさかほんとに祝福を受けるとは思ってもいなかった。
幸もさすがに神様の祝福を受けるとは予想もしていなかったのか、ビックリして言葉を失っている様子。
配下 「無事に祝福を受けることができましたね。おめでとうございます。では次は披露宴に移りますので、退出をお願いします」
呆然としていると、ベルスマイアさんにうながされたので部屋を退場する。堅苦しい儀式はこれで終わりみたいで、次はみんなでお祝いの食事になるようだ。幸はここでドレスを着替えるのだそうだ。なんていうか、せっかく綺麗だったのにもったいないって感じるのと、女性はいろいろ着飾って大変だなって思ったよ。
会場を移してみんなが食事している席で、僕は各テーブルを回りお酒を振舞うことになる。これも新郎の務めなのだとか。せっかくだし、さっき何でざわついていたのか聞きに行ってみるとするかな。幸の方はミリアナ達が席までお喋りしに行っているようなので、任せておいて大丈夫そうだな。
ロプ 「お久しぶりです。今日は来てくださってありがとうございました」
長 「久しぶりだな。元気そうでよかったよ」
ロプ 「フォーレグス王国に来てからは、襲われることもなくなりました。ご心配おかけしたようで、申し訳ありません」
長 「いやいや、こちらこそろくに守ることもできずに申し訳ない」
鑑定課「今日は様子を見られてよかったよ、フォーレグス王国という国は、何もかもが桁違いに優れているようだね。椅子もテーブルも、このテーブルクロスだってかなり高い技術水準を示している。できる事なら貿易したいところなんだが・・・・・・どうやら現在ほんの一部としか、取引しない方針らしいな」
ロプ 「ええ、いろいろと特殊な国らしいので」
鑑定課「残念だな。まあ、それがこの国の方針では仕方がないがね」
ロプ 「話は変わるのですが、先程式が始まる時ざわついていたようですが、何かあったんですか?」
そう切り出してみると、みんなしてなんだったかって考え込み、ああって感じで思い出したようだ。
長 「十日前に、ベルスマイア様がいらしたと聞いた時にも驚いていたんじゃが、あの少女もフォーレグス王国縁の方だったんだなって知って、驚いていたんじゃよ」
そう言って視線を向けた方を見てみると、そこにいたのはアルタクスと呼ばれていた少女だった。確かレイシアさんとよく一緒にいるって話だったけれど、それくらいしか知らないな。
ロプ 「あの少女が何か?」
長 「ロップソン君は知らなかったのかね。魔王軍の襲撃があった時に人が化け物に代わる呪いを受けた者が世界中に溢れておってな。上級冒険者でも歯が立たずどこの国もまいっておったのじゃが、ベルスマイア様とあの少女、後二人の英雄がそれら怪物を次々と倒して回られた。特にベルスマイア様は傷付き倒れた者に癒しの奇跡を持って、多くの者を助けられた聖女様なんじゃよ」
ロプ 「おそらくその怪物には一度会っています。僕達では到底歯が立たなくて、やられる寸前でレイシアさんが通りかかって助かりましたが、あんなのを倒して回られたってことは、あの子も相当な実力者だったってことなんですね」
今見ているアルタクスは、子供っぽさがない無表情な顔をして淡々と料理を食べていた。同じテーブルにはレイシアさんとバグさんがいることから、ひょっとしたら同格の強さがあるのかもしれないな。人は見かけによらないとはよく言ったものだ。
ロプ 「なるほど、それは知りませんでした。確かにフォーレグス王国は凄い人ばかりいますね」
長 「ロップソン君、少し頼みたいのだが、サチさんの手を引いていた御仁を紹介してはくれんかね?」
ロプ 「それはどうしてですか? 僕も幸がレイシアさんに世話になっている関係で、知り合っただけでそこまで深い付き合いはないんですけど」
長 「あの御仁はおそらくこの会場内で一番地位が高いお方だと見受けられる。この機会にぜひ知り合っておきたいのじゃよ」
そう言うギルド長は先程までのどこか身内に向ける態度がなくなり、商売で登り詰めた者が持つ鋭さを備えた男に見えた。僕としてはそこまで親しい仲ではないのでなんとなく断りたかったのだけれど、さすがに恩もあるしそうも言っていられないようだな。
ロプ 「わかりました、確約はできませんが、聞くだけ聞いてみます」
長 「ああ、よろしく頼むよ」
そう言った時には先程の鋭い視線は和らいでいて、頼れる長だなって感じの存在になっていた。なんというか、こういう切り替えも商売人には必要なのだろうね。僕には真似できそうにないな。
申し訳ないと思いつつ各テーブルを回って、バグさんのところに辿り着いた時に、ギルド長に言われたように、会って欲しいという話をしてみると、意外とあっさり了承してもらえた。ただ今は式の最中であり、この場で話し合うのは礼儀に反するとして、帰りに送り届ける時少しだけ付き合うと言われる。まあ、確かにいきなり商談を始めるとか、雰囲気をぶち壊す行為だろうね。さすがにギルド長も申し訳ないって僕に謝って来たよ。
その後は特に変わったこともなく、ちょっとした余興みたいなものなども行われて、その全てに驚きながら商業ギルドの人達は帰ることになった。特に料理は絶品だった。これ、たぶん日本の食材を使って調理されているな。じっくりとは食べられなかったけれど、かなり美味しいって感じたよ。
さて本来ならば、この後新婚である僕達はこのまま旅行へと出かけるのだそうだが、あいにく他所の国に行くのは危険でもあるので、旅行はしないことになった。その代わり温泉がある所に泊めてもらえるのだそうだ。幸はそれを聞いて凄く喜んでいたな。
しかし、その前に商業ギルドの人達の見送りをしたかったので幸には先に温泉に行ってもらい、後で合流することにする。バグさんが直接転移で送ってくれるっていう話になった為、一応紹介しっぱなしっていうのもどうかと思い、付いて行くことにした。
そして転移した商業ギルドの応接室で、会談することになった。
バグ 「それでどういった用事か聞いてもいいかな?」
長 「では単刀直入に、我々商業ギルドと取引をお願いしたい。今回伺った限り、あの場を仕切っていたのはベルスマイア様だったように思われますが、貴方様があの場で一番の地位に当たる方だとお見受けしました。そしてあの場にあった家具や小物、料理や文化、どれもこれもかなり高い技術力が窺えます。そのほんの一端でも構いませんので、取引させてもらえないかと思いロップソン君に紹介してもらえるようお願いしました」
バグ 「まず初めに僕はお金やその他、地位や名誉といった一切のものに興味を持っていない。これは例えフォーレグス王国が世界中から孤立させられたとしても別にこっちとしては何一つ困らないという意味で、そういったものは不要としている。それを踏まえた上で、どういった取引がお望みなのか聞きたいな」
・・・・・・なんというか、まるで入り込む余地がない質問をされて、一応一緒に参加していたフラメルさんやギルド長、僕まで絶句してしまった。
バグ 「ちなみに同じ条件で、同盟関係を結ぶことに決まった国もある。お前達はどうなのだ?」
長 「同じ条件で、取引出来た国があるのですか! ちなみにそれはいったいどちらの国で?」
バグ 「真似をしても意味はないぞ。回答がでないようなら、取引する価値はないな。僕と取引がしたいのならば、せめてこちらにもメリットになるものを用意してから話しかけてくれ。話は以上か?」
長 「そうですね。今直ぐには思い付けませんので、またの機会までに考えさせてください」
バグ 「ではロップソン、引き上げるぞ」
そう言われて立ち上がると転移させられていた。
ロプ 「なぜ断ったのですか?」
バグ 「どこに取引しようと思う要素があった? 今回彼らを招待した目的はなんだかわかるか? お前がこの国に来て元気で暮らせていると知らせる為だが、彼らはその祝いの席で商談を持ちかけて来たのだぞ。しかもまったく面識のない相手がいきなりだ。そこにお互いの信用など存在しないだろう。
それにこちらの技術力が欲しいと言って来た相手にそれをそのまま渡せば世界のバランスはどうなる。仲間のギルド員すら満足に守れもしないやからに、過度な力は不要だ」
なんといっていいのか、いろいろとこの人は規格外なんだなって思ったよ。だからあまり立ち入らないようにしようと思う。それより幸が待っていることだし、そっちを優先しようかな。
いずれ何かしら交渉できることができた時に、また機会を作ってあげられればいいだろう。そう考え今後の自分達のことを考えていくことにした。




