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魔石職人の冒険記  作者: 川島 つとむ
終章  魔石職人
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初めてのデート

登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記) バグ=バグ(台詞表記)  レイシア=レア(台詞表記)

 仕事の合間をぬって、町のデートに丁度いいお店や娯楽施設など調べていたんだけれど、どういったところが女性に受けるのかよくわからない。初めはグロッサブさんに町中の案内を頼もうとしていたけれど、どうもモンスターに関係した場所には詳しいけれど、それ以外のムードがありそうな店とか、女の子が喜びそうな店とかには詳しくないんだそうだ。

 こうなったら、食事する場所だけ予約するようにして、後は町をぶらぶらして気に入りそうな店を探す感じで考えておくかな。結局は人の好みなんて人それぞれで、他の人がよくても幸が気に入ってくれなければ意味がないわけだしね。そう考えてみれば計画にも余裕ができて、気持ちも楽になった気がする。行き当たりばったりって感じだけれど、まあ冒険者らしいからいいんじゃないかなって思う。

 幸の好みでわかっていることといえば、結構音楽を聴きながらのんびりするのが好きだったり、デザートを食べたりすることが幸せのようだったので、そっち方面のお店などを見付けたら行ってみてもいいかもしれないな。そう考えてミリアナ達にもそういう店を知っていたら教えてもらう。

 ジャドはそういう店についてあまり詳しくはないんだよね。冒険についての情報なら、いろいろ頼りになるんだけれどな~

 とりあえず、幸には後日町を回ったり飛空艇に乗ったりしてデートしようと言い、その日の昼飛空艇で昼食の予約と夜は雰囲気がいい音楽の流れる食堂があったのでそこの予約をすることにした。

 まあそこ以外は未定の適当な計画なんだけれどね。

 そして約束の日、普段より気持ち良い服を準備して幸とデートに出かける。


 ロプ 「あまりこういうのには慣れていないから、準備らしいものといったら食事の予約ぐらいだけれど、今日はよろしくな」

 幸  「はい。でも、この町なら初めての物が一杯ありそうだから、歩いているだけでも楽しいかもしれないね」

 ロプ 「そうだな。そこまで時間には縛られないから、気になった所にはどんどん寄り道して行ってみようか」

 幸  「うん」


 最初は大通りから二人で手を繋いで歩いて行く。いつも一緒だったので、手でも繋がないとデートって感じじゃなかったからね。ちょっと恥ずかしい気もするけれど、ここは我慢だ。

 そして最初に気になったのが服屋だった。


 幸  「少しいい?」

 ロプ 「ああ、いいよ」


 僕も普段こういうところにはあまり来ないので、覗いて見てもいいかなって考えた。僕が今まで買っていた服とかは、商業ギルドの販売課で手に入れていた。ギルド員だったので、少し安く購入できたしね。

 店内は種族毎に別けられた後、男女で棚が別れて置いてあった。服のデザインは、今まで見たことがないような物が多く、服の生地や縫い合わせなど高い技術力が窺われた。フォーレグス王国の技術力を知る事ができただけでも、この店に入ったかいはあったってものだな。まあ今はデートの方を優先させるべきなのだろうけれどね。


 ロプ 「何か欲しい服とかあったか?」

 幸  「うーん。いいなって感じの服はあるんだけれど、合うサイズとかが少ないんだよね。ここっていろいろな種族の服を取り扱っているみたいだから余計置き場が少なくなっちゃって、丁度良い服が手に入り難くなっちゃってるんじゃないかな?」


 ちょっと残念だって表情をしていた。確かに人間の町なら人間の服だけを置いておけばいいので、いろいろなサイズの服が置けるものな~


 店員 「お客様、よろしければ採寸しましょうか?」

 幸  「え?」

 ロプ 「ひょっとしてオーダーメイドの服ってことですか?」


 後ろから店員が声をかけて来たのだけれど、まさか服をいちいち作ってくれるってことなのか? それだとかなり割高になりそうな気がするな。

 店の方もそれをわかっているのか、さらにこう言って来た。


 店員 「お値段は書いてある値段で構いませんよ」


 僕は思わず値段を確認してしまった。この値段でこの技術力・・・・・・しかもオーダーメイドってなると、安いなんていうものではないな。これって採算取れないんじゃないのか? はっきりいってこんな商売を続けていたら直ぐに潰れるだろうって言いたい値段だった。


 幸  「どうしよう?」

 ロプ 「まあ、せっかくだし記念に作ってもらうのもいいんじゃないかな?」


 お店の方には赤字になりそうで申し訳ない気がするけれどね。


 店員 「それでは少々時間をいただきますね。こちらへどうぞ」

 幸  「あ、はい。ごめんね、少し待っていてくれる?」

 ロプ 「構わないよ」


 そう言うと別の店員さんが、お茶を入れて持って来てくれた。待機場所というか休憩場所もあるようで、そこで待っていたらいいみたいだな。

 そこでのんびりとしていると十分位して幸が戻って来た。


 幸  「お待たせ」

 店員 「それでは服は先程の一着だけでよろしいですか? もしよろしければもう何着かお作りしますが」

 幸  「あ、じゃあもう少し見させてもらってもいいですか?」

 店員 「はい、後程お気に入りの服を持ってあちらまで来てもらえますか? 申し訳ありませんが先にお支払いを済ませてもらって、遅くても明日一杯には完成すると思いますので受け取りの時に予約の札をお持ちください」

 ロプ 「わかりました」


 それだけ言うと、店員さんは他のお客のところへと行ってしまった。

 それからさらに服を見て行って、合計で三着の服を買うことになった。仕上がりは明日の昼頃になるということで、支払いを済まして予約の札を受け取ってから店を後にする。時間的にはもうちょっとお店などを見て歩けそうだな。

 一緒に歩いて行くとタイムリーな事に、時計屋さんを見付けた。

 こっちの世界というか、フォーレグス王国以外の国になって来るとそれなりの規模の町に一つ時計台が建っていて、ディクラム教の信者が一時間毎に時計の針を動かして鐘を鳴らせるなどして、時間を知らせるのが普通だった。つまり王族でなければ個人で時計を持っていたりはしないのだ。

 その時計も自動で動く訳ではなく、王宮お抱えのディクラム教徒が時間を確認するたびに針を動かしてくれるようにと、精霊にお願いしているのが実情である。

 それに対してフォーレグス王国ではその貴重な時計をこうやって自動で動くようにして、一般市民に販売していたりする。

 今までは仕事場に時計が配置されていたので、時計を持つ必要性を感じなかったのだけれど、今日みたいな日には時計があった方が便利じゃないかなって感じた。


 ロプ 「時間がわからないと不便だろうし、せっかくだから買って行こうか?」

 幸  「そうね。私も一つ持っていようかな」


 開発当初は大きかったと聞いていたのだけれど、ここで売り出されている時計は日本で見かけた腕時計と遜色ない大きさまで進化しているみたいだな。二人でお互いに似合いそうな腕時計を選び合って買って行く。僕の方はシンプルなタイプの黒い腕時計で、幸のは赤いアクセサリーのような細い腕時計を選んでみた。小さいので多少見えにくいかもしれないけれど、幸は視力が悪いってこともないみたいなので、問題なく見えるそうなのでよかった。

 ぱっと見はアクセサリーみたいなので、幸にはよく似合っている。

 露店などもあってちょっと食欲を刺激されるものの、この後ちゃんとした昼食を予約してあるのでここは我慢して、飛空艇乗り場の方へと移動するついでに、町の様子を窺いながら移動して行く。

 それにしても町中を多種多様なモンスターが歩いているって、変な光景だな~

 そんな事を考えながら、幸がアクセサリーを見ているのを眺める。これらのアクセサリーも最近になって流行り出したのか、モンスター達が身に着け出したものだ。飛空艇で国中の人間の町に素早く移動できるようになった為、彼らは人間の暮らしぶりを見てみようとあちこちに出かけては真似をするようになった。

 アクセサリーを身に着けるのもその影響だと思う。まあ、幸はそういう流行とは関係なしに、光物に惹かれたんだと思うけれどね。これもなかなかできの良い物が揃っているな。こういうセンスの良い物を見かけると、生産者としては悔しいと思う。でも悔しいけれどこれも記念になるから、ペンダントを一つ選んで幸にプレゼントすることにした。


 ロプ 「今日の記念に一つ、買って行こう」

 幸  「いいの?」


 そう言って僕の顔を伺って来るけれど、その意味は僕の作品じゃなくてもいいのかっていうことだ。幸の表情からそう読み取れたことが嬉しいなって思う。幸と出会って、かなり長い時間が過ぎたんだな~


 ロプ 「ああ、せっかくだからね」


 それに告白が成功したら、日本式の結婚式を頼む事になっている。そこでは指輪の交換という日本の儀式があるそうで、その指輪は気合を入れて作ったものを用意していた。そっちを自分で作っているのでこれくらいはいいだろう。


 幸 「ありがとうね!」


 嬉しそうにしてくれるその顔が見れたことが、褒美のようなものだな。

 時間的にはそろそろ予約した飛空艇に乗る時間が迫って来ていたので、飛空艇の発着場へと向った。よくよく考えてみるとお客として乗ったりするのは初めてかもしれないな。


 幸  「ちょっとドキドキするね」

 ロプ 「だな。自分達で造っていたんだがな~」


 遠くからこちらに向かって飛んで来る飛空艇が見える。あれ程巨大な金属の塊が、人を乗せた状態で空を飛んでいるとか、考えてみると不思議な気がするな。バグさんが墜落しないよう対策しているそうだけれど、それでも今まで一件も墜落事故を起していないってことも、凄いなって思える。


 幸  「さすがにあの大きさの物が降りて来るのは怖いね。こうバランスが崩れて落ちて来たら、大事故になりそうな気がするね」

 ロプ 「確かにそうだな、そう考えると降りて来る場所が近過ぎる気もするな」

 幸  「日本の飛行場みたいに、もっと離れててもいい気がするね」

 ロプ 「実際に見た事はないけれど、確かに待っている所と、滑走路みたいな所はかなり離れていたな。あれはあれで安全に配慮されているのかもしれないけれど、歩くのが大変なんだろうな~」

 幸  「確かにそうだね」


 そんな話をしていると百メートル程離れただけの場所に、飛空艇が降りて来るのが見える。さすがに迫力がある光景だった。この飛空艇を運転しているのはジャドらしい。まあ今まで手動に切り替えることはなかったらしいので、実際に飛んでいる時に多少方向指示で舵取りをするくらいの仕事しかしていないそうだけれどね。

 完全に自動化にしてしまうと運転者が寝てしまうとか、仕事している感覚がなくなるとかでやらないのだそうだ。普段、離発着のような危険に繋がる操縦は必要ないのだけれど、操作自体は必要となっていた。

 だからジャドが上手く着陸させている訳ではないのだけれど、すっと着陸を成功させたところを目の当たりにするとある種の感動を覚えるな。ジャドとしてはここに降りるって指定しただけになるんだろうけれどね。

 昇降口が開いて人が出入りできるよう階段が降りて来た。前方が入り口専用の階段で後部が出口専用の階段なので、詰まる事無く乗り込むことができるようになっている。僕達も人波に乗って飛空艇へと乗り込む。

 普通はフリーの席に着くところだけれど、今回の僕達は予約して乗り込んでいるので一つ上の指定席の所へと向った。さらに上も造ってあって、そっちは身分の高い貴族みたいな連中が滞在できる部屋なども造ってあるのだそうだ。つまり、内部構造としては三階層になっているってことだな。


 ロプ 「ここだな。指定席なんて初めてだからさすがに緊張するな」

 幸  「だね」


 窓側の席で、二人で向かい合って座れるテーブル席だった。外の様子を見ながらここで食事なんかもできるのだろうな~

 席に着いて外を眺めてみると、現時点でも相当の高さの場所にいるのがわかった。どの階層もドラゴンやジャイアントなどを乗せられる程、天井が高い造りだからそんなものなのかもしれないな~

 外だけでなく、内部なども見ていると聞きなれた声が聞こえて来た。


 ジャド「よう、いらっしゃい。どうだ、なかなかいい席だろう?」

 ロプ 「ジャド、ああ外も見えるしいい席だな。仕事の方はどうだ?」

 幸  「ジャドさん、こんにちは」

 ジャド「サチさんもいらっしゃい。仕事はそうだな・・・・・・こんなデカブツを俺が動かしているって思えば結構いい気分だな。離着陸が殆ど自動だから物足りなく感じる事はあるが、まあ事故を起したらどれだけの人命が失われるかを考えれば、逆に操作できなくてよかったなって思うことはあるな。さすがに毎回そんな人命を背負わされたら逃げ出したくなるだろうしな」

 ロプ 「確かにそうだな。でも航路設定とか、大きく離れたりはできないんだろう?」

 ジャド「ああ、ある程度なら自由に飛べるんだがな。余り外れ過ぎるとコースが修正されるし、時間がずれそうになっても調整されるみたいだな。だからほんとに簡単な操縦だよ。まあ蛇行運転みたいなことならできたな」

 幸  「そんなことしたら乗客が酔っちゃうよ。乗り物に弱い人もいるんだから・・・・・・」

 ジャド「あー、いやいやそこまで細かくはできなくて緩く蛇行するって感じだから、乗客には殆ど感じられないかもしれないな。運転者の気分的なもんだよ」

 ロプ 「そうなのか。案外暇なのか?」

 ジャド「そうだな。でも逆に片時も気が抜けないって感じじゃないから、きつくはないかもしれないな。一応交代したりして運転しているけれど、ずっと乗っていないといけないってなるときつい仕事になるからな」

 ロプ 「確かに一回二回飛んで終わりじゃないなら、きつ過ぎるか。運転者は少ないのか?」

 ジャド「いや、学校で訓練されて運転免許をもらったやつらがけっこういるから、そこまで人手不足って感じじゃないぞ。まあ初めは運転できるやつがいなくてきつかったがな。今は一日中動いているんだが、余裕で交代しながら回せているかな」

 ロプ 「そうか、まあ無理していないならよかったよ」

 幸  「お疲れ様です」

 ジャド「おっと、そろそろ戻るよ。二人とも楽しんで行ってくれ」

 ロプ 「ああ、またな」

 幸  「がんばってね」

 ジャド「仕事がない時とかに遊びに行くことにするよ」

 ロプ 「了解」


 仕事に戻って行くジャドと入れ替わるように、ケンタウロスが料理の乗ったワゴン車を押してこっちにやって来た。


 乗員 「料理をお持ちしました。ごゆっくりお寛ぎください」


 そう言ってテーブルに料理を並べて行く。


 ロプ 「ありがとう」


 まだ離陸していないのに、もう料理が運ばれて来るなんてな。まあせっかくなので食べながら離陸するのを待つかな。


 ロプ 「これが日本で夜だったら、夜景が綺麗なんだろうな~」

 幸  「あ、確かにそうかも。そう思うとちょっと残念だね」

 ロプ 「そう考えると夜は真っ暗の中を飛んでいるのかな? さっき一日中飛んでるとか言っていたが・・・・・・」

 幸  「ある程度は自動って言っていたから、問題ないんじゃないの?」

 ロプ 「あー、そうだな。コースを外れたら教えてもらえるか」


 せっかくなので、窓から外を見つつ食事を始める。料理は汁物のスープの類がなくて、その代わりに蓋の付いたコップにワインが注がれていてそれが出されていた。揺れてもこぼしたりしないようにという気遣いなのだが、実際にはコップが倒れる程の振動がないのは確認済みである。

 料理のメニューは、肉と魚どちらかから選択するタイプで、日によって出される料理は違うのだそうだ。せっかくなので肉と魚に別れて注文したので、それぞれに半分ずつに分けて食べ比べてみることにした。

 付け合せに野菜やポテトなどもあるけれど、こっちは自分達で品種改良していたので、美味しいのは当たり前って感じだけれど、負けず劣らずで肉や魚も美味しい。肉を煮込むのに使っている赤ワインなども、フォーレグス王国で作られたお酒になるのだけれど、肉によく合っていてとろける美味しさに仕上がっていた。

 そんな肉料理を堪能しつつ料理に合わせて用意された飲み物も、赤ワインなので料理に合うな~

 それに対して幸が選んだ魚は、白ワインで蒸し焼きにされた白身の魚で、こっちもワインで臭みなどが消えているだけでなく、ホクホクの身が絶品だった。飲み物のそれに合わせて白ワインが用意されていて、後味がスッキリする。

 これは予約して正解だったなって思える昼食になったな。

 ちなみに飛空艇での食事は、予約客だけしか振舞われないようになっている。下の階の客は、移動手段として乗り込んでいるので、途中個人グライダーで飛び降りるのも自由だ。それに対して上の階は飛空艇での観光みたいな感じの客が乗っている為、僕達のように食事しながらのんびり外を見て回る感じだった。

 確かお土産のコーナーとかもあったはず。一時期暇だった僕達も、飛空艇の模型などを作って土産品として納品してたことがあるので、おそらく見に行ったら置いてあるかもしれないな。


 料理を味わっている間に離陸していたようで、窓から見える景色も上空からの物に変わっていた。料理の感想を言いつつ景色を眺め、約二時間かけてフォーレグス王国の王都から最も遠い町まで飛ぶと、折り返して戻るコースを飛行する。一週回るコースだと時間がかかり過ぎるので、あまり観光には向かないのだ。

 だから観光として飛ぶのなら、合計四時間の往復コースがよく使われていた。

 行きに景色を十分堪能したので、帰りではお土産コーナーに立ち寄って、どんな物が売られているのか見て楽しんだ。見ているだけなのは、お土産を買って行くとしても運転しているのは身内なのでお土産の意味がないんだよね。


 ロプ 「この国も大分発展して来たな」

 幸  「そうだね。町中にモンスターが一杯だけれど、それを気にしなければいい国だと思うよ」

 ロプ 「だな。仕事とかも探せば直ぐ見付かるし、これだけモンスターと警備体勢がしっかりしていたら他国からの侵入者に襲われる事もない。お金も商業ギルドに寄らせてもらって引き出したから生活に困る事はなさそうだしね」

 幸  「この国だったらのんびり暮らしていけそうだね。何かあればバグ君が守ってくれるし」

 ロプ 「そこは自分で何とかして行きたいところだけれどな。まあ侵入者がいれば動いてくれるんだろうな~」

 幸 「ご飯も美味しいから、ここに来られてよかったよね」

 ロプ 「それは確かにな」


 売店を冷やかしつつそんな会話をしていた。夕方になり町に戻って来ると遊技場などで遊ぶ。こういう遊ぶ場所は元々こっちの世界にはあまりなかった為、殆どが日本の遊びが多いようだな。ボーリングとかパターゴルフなどもある。そんな中にポツリとこちらの世界の遊びなどが混じっていたりするが、そういうのは魔力を使った遊びなので、幸が参加できないものが多かった。

 だから無難に幸と卓球やテニスなどで遊んだりして軽く運動する。多少運動しておいた方が夕食を美味しく食べられるだろうしね。それに日本に関わるものに触れていると、幸もどことなく嬉しそうだったので、僕としても笑顔が見れて嬉しい気持ちになれる。


 ある程度時間を潰した僕らは予約を入れたお店へと向かう。

 夜景の綺麗なお店とかあればムードとやらもあるのだろうが、こっちにそんなお店はないからその代わりとして、段々と流行り出した音楽の流れるお店を選んでみた。ここにはある程度腕に自信が付いて来た学校の生徒が演奏を披露してくれるお店なのだそうで、ジャズバーみたいないい雰囲気とまでは行かないものの、幸に向いている店だと思えた。

 実際店で絶好の位置で演奏している学生達が見られるテーブルに着くと、幸は音楽を聴きながら微笑を浮かべて学生達を見ていた。どうやらこのお店も気に入ってもらえたようだ。

 しばらく会話もなく音楽を楽しんでいると、邪魔をしないよう静かに料理が運ばれて来た。前もって予約してあった為、注文を聞かれることもない。


 ロプ 「日本に比べたらそんなにいい店じゃないかもしれないけれど、どうかな?」


 演奏の合間に運ばれて来た料理を勧めながらそう聞いてみる。穏やかな表情を見てみれば答えなどわかりきっているけれどね。


 幸  「またあの時のような店に来られるなんて、思ってもいなかったから嬉しいよ。ロップソンも覚えていたんだね」

 ロプ 「さすがに忘れられない想い出だよ」

 幸  「そっか、ロップソンもこういうお店、好きになってくれたんだね」

 ロプ 「ああ、なんていうか普段の忙しさを忘れられていいよね」

 幸  「ホッコリできる雰囲気があるよね」

 ロプ 「料理も美味しいしな」

 幸  「だね。お酒の種類はあまりなさそうね」

 ロプ 「こっちの世界では、そこまで農業が発達していなかったからな~」

 幸  「今後、増えて行くといいね~」

 ロプ 「今日改めていろいろ見て回ったけれど、大丈夫だろう。ここ数年で一気に文明が加速したって気がする。この調子で行けば、もっともっといろいろ豊かになって行くさ」

 幸  「それはそれで、日本みたいになりそうでもう少しのんびりして欲しいけれどね」

 ロプ 「あー、確かに時間に追われるのは嫌だな」

 幸  「まあ、今のところ全体的にのんびりしているみたいだけれどね」

 ロプ 「だな」


 次の演奏が始まったみたいなので、一度会話を止め音楽を聴きながら食事をする。食事の後はもう少しこの場の雰囲気を感じていたくて、お酒を注文して音楽を聴いて行くことにした。僕は日本に行った時に飲むようになった清酒。こっちでお米に似た作物を育てることで作られるようになったお酒を注文し、幸は元々こちらにあったモルトという品種改良して甘い実を付けるようになった果物を使ったカクテルを飲んでいた。

 いくつかの音楽を堪能し、曲の合間で余韻を楽しんでいた幸に、僕は告白する。

 おそらくいいムードというやつはこんな感じなんじゃないかなって思えたからだ。それなりに自信はあるが、少しだけ不安もある。そんなちょっと緊張の混じった声で、これ以上酔いが回らないうちに、しっかり言葉にしておこうと思う。


 ロプ 「幸、今更って感じもするが、これからの人生、僕と一緒に過ごしてくれないか。名前が売れたことで、これからも襲撃にあう可能性はあるが、幸は僕が守る。だから今後も一緒にいて欲しい」


 ちょっと唐突過ぎたか、幸が目を見開いてこちらを見ていた。答えが直ぐ貰えないっていうのは、緊張を強いられるものだな。それでももう少しわかりやすく、僕の気持ちを幸に伝える。


 ロプ 「僕と結婚してくれ」

 幸  「はい、これからもよろしくお願いします」


 そう照れたように微笑んで、幸は受け入れてくれた。


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