表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔石職人の冒険記  作者: 川島 つとむ
終章  魔石職人
50/54

モンスターの暮らす町

登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記) バグ=バグ(台詞表記)  レイシア=レア(台詞表記)

 僕が転移させられて来た場所は、モンスターだらけの場所だった。近く遠くに、どこを見回してもモンスターだらけ。種類もさまざまで、最近は見なくなったコボルトやゴブリン、ジャイアントやドラゴンといった大型種なども平然と歩いているものの、こちらに襲い掛かって来る様子はなかった。

 そんな中に僕ら仲間がいて、それを囲むようにこちらを向いたアラクネ達が包囲している。あきらかに警戒しているのは僕達の行動で、後ろで歩いている危険なジャイアントなどのモンスターを警戒している様子は見受けられない。

 幸はそんな状況で僕に抱き着き、無事を確認して喜んでいた。周囲がこんなデンジャラスな状況になっているにもかかわらず、どこか安心してしまえる。これも幸やジャド達仲間がいるからなのだろうか? それとも魔道具の件で感覚が麻痺しているからなのだろうか? よくわからないや。


 バグ 「まずはこの国の住人になるにあたり、お互いに攻撃したりして傷付け合わないという約束をして欲しいのだが、賛成してもらえるかな?」

 ジャド「できる訳が無いだろう・・・・・・殺らなければこっちがやられる」


 僕と幸が抱き合って安心しあっているところ、ジャド達は全員武器こそ構えてはいないが、いつでも攻撃できるよう警戒をしているようだな。いや、ミーリスはあまり警戒していないか?


 バグ 「では聞くが、今君は彼らから襲われているのかな?」

 ジャド「いや、でもそれはレイシアさんや、アラクネがいるからだろう?」


 なんていうか、発明王の言葉を聞いていると、もう全て任せておけばいいんじゃないかって思えて来るな。ちょっと前まであんなに反論していたのが、馬鹿みたいに思える。

 それにしてもアラクネは警備の者なのかな? よくわからないがジャドとの会話を聞いて、おそらくレイシアさんより発明王の方が余程怖いって言いたくなった。もう逆らわない方がいいぞ。


 バグ 「そこのゴブリンこっちに来てくれるか?」

 ゴブ 「ゴブ? オレ、カ?」

 バグ 「そう、お前だ、ちょっとこっちに来てくれ」


 え? 何これ。ゴブリンって人間の言葉が話せたのか? ひょっとしたら発明王が関わると、常識すら書き換わるんじゃないのか? もうここまで来ると、何でもありじゃんって思えて来るな。


 ジャド「ゴブリンが喋った・・・・・・」


 みんなが呆然としている中、ジャドがぼそりと呟いたのが聞こえて来た。やはりミーリスはあまり驚いていないな。ひょっとして元々ゴブリンは喋るのが普通なのか?


 ゴブ 「オレ、コレカラ、シゴトアル。サボルト、ゴハン、タベラレナイ」

 バグ 「悪いな、でもそう手間は取らせないよ。これから君の仕事を見せてくれるかな? いつもどんなことをしているのか教えてくれればいいよ。そうだな、手間賃に券を一枚あげよう」

 ゴブ 「ゴブ! ワカッタ、ミセテヤル、ツイテコイ!」


 発明王が紙切れを渡すと、何故かゴブリンが人間のように喜んでいるのがわかる。あの紙はゴブリンにとって何か重要な物なのかな? それにしても直ぐ隣に人間がこんなにもいて、それでも襲って来ないし警戒してもいないゴブリンなんて、珍しいものを見たな。そんなことを考えていると、ゴブリンはさっさと移動していて、発明王も何やっているって感じで声をかけて来た。


 バグ 「ボーとしていると置いて行かれるぞ。ゴブリンより鈍臭いって言われたくなかったらちゃんと歩け」

 ジャド「あ、ああ。わかった」


 みんなで移動すると、アラクネ達も同じだけ移動して周りのモンスター達がなんだって感じでこっちを見ているのがわかった。まるでこっちが珍しい種族って言われているようで、微妙に居心地が悪いな。そんな風に感じてはいたけれど、ジャド達と無事に再会できたことをお互いによかったと言い合いながら付いて行く。


 ロプ 「幸にも辛い思いさせて悪かったな」

 幸  「大丈夫、ロップソンこそ、無事で本当によかったよ」

 ジャド「心配したぞ」

 ロプ 「みんなもいろいろすまなかったな」

 ニナ 「気にしないでいいよ。っていうか今現在の方がちょっとね・・・・・・」


 そう言ってニイナは落ち着かないって感じで周囲を窺っていた。


 レア 「そんなに心配しなくても、彼らは逆に人間が怖いと思っているから、襲って来ないよ」

 ミア 「え? そうなんですか?」

 レア 「ええ、見かける人間全員に殴られて、人間は全員強い種族なんじゃないかって疑っているから、喧嘩なんか売ろうと考えないよ」

 ミア 「はあ。あっでも、違うってわかったら、襲われるじゃないですか」

 レア 「そういうお馬鹿な子は、監獄に入れられるから誰も襲って来ないよ」

 ジャド「何だかなーって感じだな」

 レア 「バグに言わせれば、言葉が通じて意思疎通できるのに、見た目が違うからって争うのが人間の悪いところなんだって」

 ミア 「それは耳が痛い言葉ですね。確かにこうして町を歩いていても、どのモンスターも警戒すらしていませんし」


 そう言われてみれば、こちらばかり警戒しているみたいだけれど、モンスターの方は珍しそうに見るやつがいるだけで、警戒したり攻撃しようみたいな意思を持っているやつはいないな。

 そしてゴブリンは前方に見えて来た王城のように大きな建物へと入って行った。


 ジャド「でかいな」

 ミア 「ここは何でしょうか?」

 バグ 「見ればわかる事を、いちいち立ち止まって考えるのは無意味だぞ」

 ミア 「あ、はいすみません」


 発明王まで結構距離が離れていたので、ミリアナの呟くような声は聞こえていないと思ったのに、ばっちり聞こえていたようだ。結構地獄耳だな・・・・・・みんなに視線で気を付けようって無言の合図を送ると、仲間が頷いているのをレイシアさんが苦笑いして見ているのがみえた。しまった。レイシアさんは発明王と常に一緒にいると考えていいので、こちらの様子が筒抜けだぞ!


 レア 「さあ、早く行きましょうか」

 ジャド「はい」


 みんなが微妙に顔色を窺いつつ、建物の中へと入って行く。

 そこはかなり広い平屋の建築物だったのだけれど、ゴブリンがこれでもかと詰め込まれていて、何かを一生懸命やっているようだった。発明王がいるところへと向いながら何をやっているのか見てみると、どうやら工具を持ったゴブリンが木を削っているようだな。一部削っては隣にそれを置いて、また自分のところに積まれた木を取り出しては削っている。

 つまりこれはゴブリンが生産作業をしているということだろう。いったい何を作っているんだ?

 発明王の下に辿り着くと、おそらく町で声をかけたと思われるゴブリンが他のゴブリン同様木を削ってはここを削ったみたいに自慢げに見せて来た。ゴブリンってドヤ顔もできるのか・・・・・・そんなどうでもいいことが頭に浮かんだ。


 ニナ 「ゴブリンがドヤ顔して木片を見せて来るって、不思議な感覚だね」

 ミリ 「私はこれだけの数がいて、襲って来ない方が不思議だと」

 レア 「ここはゴブリンが流れ作業でテーブルを作る工場なの。さすがに人間の職人みたいに複雑な工程を一人で作ったりはできないけれど、工程を一つに絞ればこうやってみんなで一つの物を作って行くくらいは彼らにも十分できるの。だからフォーレグス王国では、彼らもこうやって仕事をこなしてくれているよ」

 住人 「わしもここに来るまではゴブリンがここまで頭が良い種族だとは思わなかったのう。改めて冷静に見て行けば、ここにいるモンスター達はどいつも愛嬌があって、楽しいやつらばかりだったぞい」


 この人は、このモンスターの町にも人間が住んでいるんだって証明になると言われて紹介されたグロッサブという、モンスター研究家なのだそうだ。今後何か困ったことがあったら、相談するといいって言われたな。

 それにしても、疑う訳じゃないけれど本当に家具を作っていたのか・・・・・・そう思ってみて見ると、確かにテーブルの一部なんだとわかるパーツがみつかる。

 実際に作業して出来上がって行くパーツを追って行くと、組み立ての工程をしている者達がいて、テーブルがどんどん作られて行くのがわかった。ちゃんと表面を磨いているのか、布のようなもので擦ったりしている。その隣でははけで透明な液体を塗ったりもしていた。いくつも並んだテーブルはおそらくその透明な液体が乾くのを待っているのだろう。

 おそらく完成品となったテーブルを近くで見てみると、とてもゴブリンが作っているとは思えないできの物になっていた。ちゃんと装飾が施されているのだ。多分どこか人間の町に持って行って、これはゴブリンが作りましたって言ったら、誰一人信じる者はいないだろうな。そんな出来栄えになっていた。

 この町に飛ばされる前にいろいろ言われた僕は、なんというか気力がなくてもう周りを警戒するどころじゃなかったけれど、そうじゃなかったジャド達はこの段階に来て周囲のモンスターにいちいち警戒することをやめたようだ。何かあれば周りのアラクネが守ってくれるのだろうっていう気もするしね。

 そして次に連れて行かれた場所は畑だった。


 ジャド「コボルトが農業しているな」

 ミア 「これが夢でないのなら、これほど平和なことはないですね・・・・・・」

 レイ 「私達の今までの常識が、まるで通用しない気がしますね」


 ここでも発明王が紙をコボルトに渡すと、コボルとは喜んでいくつかの野菜をもいでこちらへと差し出して来た。


 コボ 「コレ、オレガ、ツクッタ。ウマイ」


 さすがにまだ近くに来られるのには慣れないけれど、グロッサブさんが受け取っているのを見て、僕らも真似するように受け取っていった。しかもこいつらもやっぱり人間の言葉を話せるんだな・・・・・・そう思うと今までそんなやつらを倒していたのかって、微妙な気持ちにさせられる。

 発明王が作り出した水球を宙に浮せて、グロッサブさんが野菜を軽く洗っているのを見て、僕らも真似して洗い実際に食べてみた野菜はとても今まで食べていた野菜と同じ物だとは思えないくらいみずみずしくて美味しかった。これなら調理しないで生でも普通に食べられるぞ!

 さっきレイが言っていたが、ほんとにここでは僕達の常識がまるで通用しないな。


 次に連れて行かれたところは再び町中に戻って商売をしているお店だった。日用雑貨から食品、小物に至るまで結構な品揃えのお店だったのだけれど、僕達が注目していたのはそこで働いている店主だった。初めは人間が働いているのかとも思ったのだけれど、それは下半身が隠れていたからで、店の中をウロウロしているところを見ると違うということがわかった。

 その店主はラミアと呼ばれる半人半蛇のモンスターだった。ラミアはかなり強い部類に当たるモンスターで、決して油断のできない相手である。思わず警戒してしまうのも冒険者としては仕方のないことだろう。

 そんな僕らに警戒の必要は無いとでも言いたげに、グロッサブさんがラミアに近付いていって買い物をしていた。それを見た僕達は緊張をほぐすように深呼吸する。気持ちを切り替えることも冒険者には必要な技術だ。

 そうして周りを見ると幸とミーリスは驚いてはいるものの、さほど緊張しているようには見えないな。幸はまだ冒険者としての日が浅いからとっさに緊張できないだけだと思うけれど、ミーリスはどうしてそこまで平気なんだ?

 あまり詮索はしない方がいいのかな?


 バグ 「そろそろ昼だな。さっきのコボルト達が栽培した野菜を使ってできた料理を、食べに行ってみるか」


 驚きの連続で気が付かなかったけれど、確かに腹時計ではそろそろお昼時だと思える。しかしモンスターが作った野菜をモンスターが調理して、それを食べるっていうのはなんとも不思議な気持ちにさせられるものだな。あの野菜を食べた後では当たり前に美味しい料理が出て来るって予想できているだけに、余計に複雑な思いがするぞ。


 ジャド「これ、めちゃめちゃ美味いな!」

 ニナ 「本当だ。サチさんのより美味しいとか初めてだよ。あっ、ごめんね」


 料理屋の奥の個室に案内され、そこで運ばれて来た料理を頂く。発明王は料理を持って来たウェアラビットと何やら話をしていたのだが、せっかくの料理が冷めないうちに食べろって言われて食べてみると、思わずって感じでジャド達が叫んでいた。


 幸  「いえ、本当に美味しいですから。バグ君、これって日本の野菜ですか?」

 バグ 「いや、さっき見て来ただろう? コボルトが育てている野菜だぞ」


 日本の野菜。それで作った料理はほんとに別格の美味しさがあった。今食べた料理もそれに匹敵する程の美味しさがあったのだけれど、日本の野菜を使わずにこの味を出しているのか・・・・・・みんなも少ないけれど幸が作った日本の野菜を使った料理を食べているので、これには驚かされたようだ。

 という事は、ここにあるこちらの世界の野菜は、もはや日本の野菜と比べても遜色がないということになるんじゃないのか? 今まで苦労して開発しようとがんばっていた野菜が、普通にここでは栽培されていると知って、がっくりする。


 ミリ 「レイシア先生、前より美味しくなってないか?」


 先生? ミーリスがレイシアさんのことを先生と呼んだ。

 前々から何かしらありそうだとは思っていたけれど、やはり何か知っているのだな。そう思っているとジャドも気になるのか、ミーリスを見ていることに気が付いた。他のメンバーも、気にはなっているみたいだな。まあ当然か。


 ミリ「たいした話ではない。私は冒険者養成学校に入学は出来たのだが、素質が無いと言われて一年目で追い出された。その後先生に拾われて冒険者に必要な事を教えてもらって、冒険者になれた。それだけの話だ」


 ミーリス程の使い手が、冒険者養成学校を落第になっていたのか? そんな馬鹿な話があるものかと思いたいのだが、確かここにいるレイシアさんも学校では落ちこぼれだったとケイト教頭先生から聞かされた気がする。

 こんなに才能溢れる人達を落ちこぼれ扱いする学校って、ほんとに教育機関として大丈夫なのか?


 ジャド「おいミーリス、何で今まで黙っていたんだよ? そういう情報は共有しておいた方がいいんじゃないか?」

 レア 「彼女には、こちらの情報を漏らさないように、私達に付いて喋れなくさせてもらったわ。だからミーリスが悪いわけじゃない」


 ジャドのもっともな意見を、レイシアさんが遮って説明した。なんというか、発明王もそうだけれど凄く警戒心が強いって感じがしたよ。一流の冒険者っていうのは、そこまで警戒するものなのかな?

 さすがにみんなもレイシアさんから口止めされていたのなら仕方ないと思ったのか、料理を味わうことにしたみたいだ。まあせっかくの美味しい料理だ。じっくり味わっておかなければ勿体無いってものだろう。


 ニナ 「ミーリスはこんな美味しい料理を食べていたんだ。いいな~」


 その言葉にミーリスは苦笑いって感じの表情を微かに浮かべた。普段あまり感情を表に出さないから、この微かな変化も長く付き合って来てやっと理解できるようになった変化だ。そう考えれば、例え秘密があったとしても、ミーリスは確かに僕達の仲間で間違いはないだろう。


 ミリ 「いや、確かにこれ程ではなかったが、昔少し世話になっている間食べていた。しかしそれも少しの間だけだ。冒険者になりたかった私は、実力が付くと直ぐ冒険者として登録したからな。それから先生には会っていなかった」

 ロプ 「それにしても、ミーリスが落ちこぼれっていうのは、納得いかないな。こんなに何でもそつなくこなせるのに」

 ジャド「あー、それは俺も思ったな。剣も魔法もばっちりでどこが落ちこぼれだって言いたいぞ」

 バグ 「レイシアも学校では落ちこぼれと言われたぞ」

 ジャド「それ、やっぱり本当の話だったのか・・・・・・俺達の学校って、見る目ないんじゃないのか?」

 レア 「多分だけれど、それは違うと思う。学校は普通だと思うけれど、バグが特別なのよ」


 僕らが学校を非難しているとレイシアさんがそんなことを言っていた。ちょっと誇らしげにそう言っていたけれど、ミーリスは発明王の教えを受けた訳じゃないんじゃないのかな? それとも、レイシアさんが受けた勉強方法をそのままミーリスに施したってことになるのか?

 それなら確かに発明王の特殊勉強法って感じだけれどな。ひょっとしたら学校を開けば、レイシアさんみたいな優れた冒険者がぽんぽん出て来るんじゃないのか?

 落ちこぼれって言われていた人が、最高峰の冒険者と呼ばれる程になるのだから、才能のある人を育てたら・・・・・・英雄級の人材がごろごろ出て来てもおかしくはないんじゃないのか?


 午後からも町の中を案内される。どこに案内されてもモンスターがいたるところにいるのに、そこには命のやり取りを感じさせる殺気みたいなものは感じられなかった。

 本来なら当たり前のように出会った瞬間戦闘になるはずのヘカトンケイルという巨人も、サイクロップスという巨人もこちらを視界に納めたのがわかっているのに何もしないで通り過ぎて行った。ドラゴンはもとよりヴァンパイアや、生者を憎むとされるリッチといわれるアンデットですら、ここでは襲い掛かっては来なかった。

 まるでこちらが取るに足らない存在のように無視されているようだ。でも実際には無視されているのではないく、道を歩いているとそのまま向って来るのではなく、ちゃんとぶつからないように避けてくれる事から理解させられた。

 この町は発明王から説明されたように、本当にモンスターと人間が共存しているのだ。信じられない事実だが、ここまで見て確かめてしまっては信じるより他ないというものだろう。これで人間を見下しているというのなら、わざわざ強者である彼らが、道を譲ってはくれないだろうからね。

 だから僕達は発明王に提示されたように、この国の国民として認められた証のカードの魔法とやらを受け入れることにした。


 発明王達は仕事があるようなので戻って行った後、僕達はグロッサブさんに案内されてそれぞれに与えられた家へと向った。それぞれの家といってもお隣さんなんだけれどね。そして僕と幸は同じ家で暮らすことになった。ミリアナ達は一人で住むらしいのでちょっと小さめな家で、僕らは二人なのでそこより少しだけ広い家になる。

 日本の住宅事情からすれば結構立派だと思える家ではあるが、こっちの家からすればこじんまりとしたアパートといってしまっていい家かもしれないな。しかしさすがに今までと比べると技術力が高そうだった。

 日本のように水道がちゃんと設置してある為、井戸に水を汲みに行かなくてもいいし、コンロも常備されているようだ。そして床下には冷蔵庫もあるようだ。氷を作る程の低温にはなっていないが、これならば食材が痛まないだろうくらいの温度にはなっている。

 こちらの世界の住人であれば、十分過ぎる程贅沢な環境で、多少狭くても全然文句はないだろうな。しいて不満を言えば、洗濯機がない事かもしれない。まあそれくらいは自分達で洗えって感じなのかもしれないけれどね。

 とにかく今日はいろいろ疲れたということで、みんなゆっくり寝て、翌日からこの町に慣れる努力をすることになる。なんといっても僕達は今まで冒険者としてモンスターを倒して来た。直ぐ横をモンスターが楽しそうに歩いているなんて環境には、当然のことであるが直ぐに馴染むことができずに、ついつい武器を構えたくなってしまうのだ。

 襲っては来ないとわかっているのだけれど、条件反射的に魔法をいつでも使えるように準備しようって体が反応してしまう。なんていうのか、反射行動みたいなもので殺意みたいなものはないから相手も気にしていないようではあるが、ここでこの条件反射はトラブルの元でしかない。

 おそらく僕達の今までの常識と、この街の常識に違いがあり過ぎるのが問題なのだろう。

 そこでなるべくモンスター達と交流を持つことで、常識の修正をしようという話になって、みんなでモンスターが集まる場所に行くことにした。普通ならそんな魔窟などに近寄りたくもないって思うものだろうけれどね。

 まだ町に不慣れな為、グロッサブさんに案内してもらった所は、娯楽施設の一つだった。


 ロプ 「これって・・・・・・ボーリング場か?」

 幸  「ビリヤードもあるわね」


 確か発明王も日本から来ていたって感じなんだよな? それならまあ納得できるかな? しかし、いろいろな種族の者が笑い声を上げながらボーリングを楽しんでいるというのも、ちょっと不思議な気分になるな。ジャイアント族とか、ドラゴンなども遊んでいる為、種族に合わせた大きさのボーリング施設もちゃんと造られている。

 中にはゴブリンやコボルトも遊んでいて、どちらかといえば子供サイズの体格なので、それに合わせた子供用といえる小さなボーリング場で遊んでいるのがわかった。

 こうして眺めてみると、外見が違うだけで中身は人間と大差がないっていうのがよくわかる。せっかく来たので、僕達も遊んで行く事にして、主に僕と幸でルールとかやり方などを指導して、空いた時間は周りのモンスターを観察したりして過ごすことにした。

 結局近くで一緒に遊んでいてわかったことといえば、見た目を気にしなければ人間と何も変わらないということだった。ミリアナが上手くボールを投げられないのを見た、隣のレーンのアンドロスコルピオンが寄って来た時はさすがにドキってしたけれど、普通にどうやって持つとか構えるとか指導してくれてなかなかいい成績が出るようになった。

 ちなみに、アンドロスコルピオンって種族は、アラクネが蜘蛛の下半身なのに対して、蠍の下半身の種族だ。このモンスターもそこそこ強い部類のモンスターなので、本来ならこんなにのんきに話したりはできない。そんなモンスターとこんなに気安く話をするって言うのは、夢でも見ているような気分にさせられる。

 グロッサブさんは逆に、モンスター研究家を自称するだけあって、嬉々として話しかけていたりした。

 こうして考えると、お隣さんのお付き合いみたいなものまで、人間そのものって感じがするな。そしてこっちがちょっと恐々話しているのを見て、人間はそんな感じだね~って苦笑いまでしていた。モンスターなんてと言っていたこっちが偏見の固まりかって言いたくなったよ。


 モンスターの外見さえ気にしなければ、この町は居心地がよかった。なんて言ってもご飯が上手い! 料理が得意でない人でも、ここの食材を使えばある程度の美味しい料理になる。まあ黒焦げにしたりしなければって感じだけれどね。それでも発明王っていうか、バグさんはまだこの野菜には満足できていないようだな。幸がレイシアさんの所へ遊びに行ったりしていたので、そんな話が聞けた。

 ある程度お金は持っているとしても、いつまでもだらだらしている訳にも行かないだろうし、この町で何かしらの仕事をするといいって言われる。確かに家は用意してもらえたので、タダでご厄介になっているものの、ご飯にはお金がかかっている。本当は家のお金も支払って当たり前なんだろうが、気にしなくていいと言われてしまった。

 まあとにかく、食事代はかかるし、日々の消耗もあるので何かしら働かなければ、いずれはお金が尽きるかもしれない。

 僕は商業ギルドに行けばかなりの蓄えがあるのだが、しかしジャド達はそうも言っていられないだろう。ちなみにこの町には冒険者ギルドが存在していなかったので、冒険者として活動することはできなかった。

 まあモンスター退治とか、この町に喧嘩を売るような職業だからな~

 そんな事を考えていたある日、とりあえず僕向きの仕事をバグさんの方から紹介された。

 仕事の内容は、野菜の品種改良だった。それと時間が空いていたら畑のお手伝いといったところだろうか? 僕としては野菜を美味しくするのは願ったり叶ったりなのだが、既に僕が考えていた水準を遥かに超えて美味しいと思うのだが、これ以上を作れっていうのは本当にバグさんには不満だったということなんだな・・・・・・

 あの人どんだけ完璧主義なんだよ・・・・・・これ以上ってどうすればいいのかさっぱりだって思っていたのだけれど、幸がもう少しみずみずしくとか、もう少し甘みが欲しいかなって教えてくれた。つまり幸にとってもこの野菜は不完全に感じるということだ。いいだろう! 幸がまだまだだっていうのなら、やってやろうじゃないか!

 幸い僕のような行き当たりばったりのやり方ではなく、受粉させて美味しい野菜を作って行くって方法まで教えてもらえたから、バグさんの期待にも応えられるようにがんばって行きたいと思う。それに魔道具を作ることを禁止されて、悶々とした日々を過ごすことを考えればこの仕事は僕にぴったりだった。

 当面仕事がないジャド達には、畑の手伝いに行ってもらって、こっちは品種改良の仕事をすることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ