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魔石職人の冒険記  作者: 川島 つとむ
終章  魔石職人
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収納の魔道具

登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記) バグ=バグ(台詞表記)

 大量に用意された袋や箱を魔道具にして、やっと納品が終わると屋敷でのんびりとする。今回の納品は、周囲の反応を窺いつつ評価されそうならば、作成者である僕を傷付けてはいけないみたいなアピールをする方向で話が進んでいた。

 実際に反応を見ていると、この発明品はいろいろなところから便利だと評価されて、注文が殺到していると話があるので、近いうちに追加の袋などが届くことになっている。しばらくは忙しい日々が続きそうだな~

 そして届けられた袋を魔道具化する作業だけで、その日が終わってしまうような生活が続いていた。暇を持て余すよりはいいのかもしれないけれど、ひたすらこれだけって日々もさすがにきついよな。それに他にも今まで納品していた魔道具なども注文されたりもするので、そっちも作って行かなければいけない。一気に忙しくなったものだ。

 まあ、日本のように納品期日がぎちぎちに決められていないだけ、まだましなんだろうけれどね。これがいつまでに納品しろとか、一年先まで決められていたとしたら・・・・・・僕なら直ぐに逃げ出すな・・・・・・


 そんな忙しい日々を過ごしながらたまにジャド達にも手伝ってもらっていると、あっという間に日々が過ぎて行く。そしてそれにともない魔道具の作製者として、僕の名前が世界中に広がって行っているのがわかった。役に立つ便利な魔道具の開発者として名前が売れたことで、周辺国から注目さているようである。

 やっとあっと言われるような魔道具を開発できたし、これだけ名前が売れた者を誘拐とかしようとしたら、あちこちの国が黙ってはいないだろうと思えた。まあそれによる嫉妬とかが増えることもあるかもしれないけれどね。それでも表立って何かしようとする者は、いなくなるんじゃないかな?

 まだまだ納品が山積みになっているので、ちょっと今は手が離せない状況だけれど、これがある程度納まったらちょっとみんなでのんびりするのもいいかもしれない。できれば幸と二人で旅行みたいな事をして、結婚の儀式ができるといいのだけれど・・・・・・もう少しだけ、幸には待っていてもらえると嬉しいな。

 まだ完全に危険が無くなった訳でもないだろうし、様子を見て幸を旅行に誘ってみようと考えた。


 黙々と作業を続けていて休憩の為に座ろうと周りを見渡して、ふと昔に思ったことが頭に浮かんで来た。確かテーブルや椅子などが簡単に出し入れ出来たらいいなって考えた事があったのだけれど、あれって折り畳みの家具ではそこまでかさが減らなかったので、意味がないなって考えたりしたものだった。

 今ならひょっとしてこの魔石で便利な家具が作れるのではないかな?

 そう思うと、今まで単純作業ばかりで疲れていたことも忘れ、ちょっと開発したくなってしまった。やっぱりこういう思い付きとかでも開発に関われると楽しいものだな~

 そんなことを考えつつ早速できた家具を出し入れしてみると、思っていた通りうまく掌サイズのアクセサリーのように収納できた。スイッチを押すと出て来たり、アクセサリーに戻ったりする家具である。これも売り出したらかなり人気が出る魔道具じゃないかな?

 一般の人はあまりお世話になることはないかもしれないけれど、冒険者なんかには人気が出そうな気がする。後は生産する人なんかも、使い勝手がいい道具なんじゃないかな? 今度納品に行く時にでもフラメルさんに見せてみよう。そうとなるとがんがん作って行かなきゃな~


 ジャド「絶好調だな~」

 ロプ 「たまたまって感じの物が重なっただけだけどな」

 ジャド「まあ運も実力のうちっていうからな!」

 幸  「がんばったからですよ」

 ロプ 「そうかな?」

 ニナ 「いいなー。ロップソンさん、もうかなりの金持ちなんじゃない?」

 ミリ 「少なくとも、この中では一番お金を持っているだろう」

 ロプ 「多分あるだろうな」

 ジャド「そもそもが、魔道具は最低価格でもかなり高額の物になるだろうからな。一つ売れればかなりの利益だろう」

 ミア 「確かにそうですね」

 レイ 「そう考えると、私達がもらった装備はかなりお得ですよね」

 ニナ 「そうだった!」

 ジャド「例えばの話だが、名前が売れた今のロップソンに、オーダーメイドで装備を作ってもらおうとするなら・・・・・・それなりの危険を覚悟した依頼を十回以上達成しないと買えないくらいは、価値があると考えられるな」

 ミア 「そんなにですか?」

 ジャド「ロップソン、今度魔法の日本刀をオークションに出してみろよ。どれだけの値段が付くのか、見てみたいな」

 ロプ 「確かに見てみたい気もするよな。だけど今はそんな余裕ないよ」

 幸  「確かに納品しないといけない物が、一杯あるからね」


 そう言って、全員で後ろを見る。山盛りになっている加工待ちの袋や箱の山である。もうそろそろ見るのが嫌になって来そうだな。これを永遠と続けられるかどうかで、生産者になれるのかどうか、試されている気さえして来るぞ。

 みんなで一服してとりあえず残りを頭から追い出す。みんな同じ気持ちなのか、それぞれにお茶を飲んで気持ちを落ち着けていた。


 ロプ 「まあ僕はこんな感じで、しばらく冒険に行けそうにはないけれど、みんなは冒険に行ったらどうだ?」

 ミア 「何かそれだとわるい気がしますし」

 レイ 「ですね」

 ロプ 「いや、こっちは元々が生産者だったんだから大丈夫だ。それよりみんなには手伝ってもらってばかりだと、こっちが気を使うからな。ここいらで思いっきり暴れて来たらいいんじゃないか?」

 ジャド「いいかもな。どうするみんな?」

 ニナ 「行きたいかな」

 ミリ 「そうだな。元々ロップソン殿の抜けた穴を埋める感じでパーティーに入ったので、それくらいの活躍はしたいと思う」

 ロプ 「十分活躍できていると思うぞ。ミーリスがいるから、僕としても安心して任せられるしな」

 幸  「心強いですよね」

 ジャド「そういうサチさんはどうするんだ? せっかくだから一緒に暴れるか?」

 幸  「いえ、私はロップソンの手伝いでもしようかと思っていますから」

 ロプ 「好きにして大丈夫だぞ?」

 幸  「私は元々日本人ですからね。こういう作業は得意ですよ」


 そう言った幸に、みんなが何故って表情を浮かべたのがわかった。あー、日本人だと何故得意なんだってことかな? これがドワーフだったらああそうなんだって、納得したんだろうな~


 ロプ 「えっと、向こうの世界の日本人っていうのは、最低でも八時間は仕事をするんだ。で、その後で残業といって余分に働く。大体合計で一日十時間から十二時間は働いているかな?」

 幸  「それくらいですかね」

 ニナ 「何その拷問・・・・・・」

 ジャド「マジか?」

 ミア 「そんなに働き続けたら、体おかしくなっちゃいますよ!」

 ロプ 「ああ、だから労働基準法って言って、一日八時間しか働いてはいけませんって法律ができる程だ。ちなみにこの法律は働き過ぎて過労死した人が出て来たから作られたんだそうだ」

 ニナ 「え、今さっき、一日十時間以上だって・・・・・・」

 ロプ 「ああ、だから誰も法律で決めても守らないんだ。それどころか、無給料で働くところもあったようだな」

 幸  「そういうところは、働かないなら首にするって行って働かせていたんですけれどね。そしてそういう法律を取り締まっている機関には、お金を支払っていないので八時間以上は彼らが好きで残っているって言い張っていただけですよ」

 ミア 「酷いところですね!」

 ジャド「そんなところ、さっさと潰せばいい」

 ロプ 「まあ、幸はそんな国から来ているから、働くのがそこまで苦痛じゃないって話だ」

 幸  「苦痛じゃないというよりは、慣れているって感じかな。それに好きでやることなので問題ないです」

 ニナ 「そっかー。でも無理はしちゃ駄目だよ?」

 ロプ 「大丈夫だ! サチが平気でも、僕が先に倒れる。だから無理はしないよ」

 レイ 「それは安心できますね」

 ミリ 「ロップソン殿が倒れないか心配になるがな」

 ジャド「そうだな。じゃあ一回冒険に行かせてもらうか~」

 ニナ 「やった~~」


 それからしばらくは手伝ってくれた後翌日の冒険の準備をすると、明日冒険に行くという話でまとまった。

 翌日はそんな訳で、幸と二人でせっせと作業をしていた。


 ロプ 「何か手伝わせてすまんな」

 幸  「平気ですよ。それよりも、全然減っている気がしませんね」

 ロプ 「商業ギルドの方は複数人で作れるからな。こっちは僕しかできない作業だからどうしてもこうなるんだろう」

 幸  「がんばりましょう!」

 ロプ 「ああ!」


 なんだかんだと、幸が側にいてくれて助かる。さすがにこの量に囲まれて一人だと気が滅入ってきそうだしね。二人で作業をして、たまに息抜きに雑談やお茶を一服して、作業を続けるとあっという間に夜になった。ジャド達は今回マギーが使えない為、何泊か野宿しながらの冒険になるそうだから、このまま二人で過ごすことになる。まあ、護衛の兵士がいるので二人っきりではないけれどね。

 しかし、こんな一般人ともいえる僕らの護衛に、意外にも兵士達の反応はいいものであった。


 兵士 「俺、ロップソンさん達の護衛になるの、結構楽しみなんですよ。いっそこのままずっとでもいいのにな~」

 ロプ 「でも、これから夜勤だとさすがにきつくないか?」

 兵士 「いやいやこれから始まる夜勤に、この夜食が食べられるんなら逆に気合が入りますよ! それに気休めかもしれないが、防御の付加されたリングもありますしね。結構ここの護衛の仕事は楽ですよ」

 幸  「喜んでもらえたら作ったかいがありますよ」

 兵士達「「最高です!」」

 ロプ 「まあ、何かあった時には、頼りにしていますよ」

 兵士 「余程の使い手でない限りはここの守りは突破できませんから、任せてください。少なくとも時間稼ぎはさせてもらいますよ」


 そんな感じで、結構和気藹々としていた。幸の作るご飯とかが目当てだったりするけれどね。正確に言えば、日本の調味料を使った料理が、彼らには宮廷料理よりもご馳走に感じられたのだろう。実際の話し、僕としても幸の作るご飯以外食べる気がしないって感じだしな。たまに自分でも作るのだけれど、やっぱりどこか味が違うのだよね・・・・・・

 まあでも、彼らだけに全てを任せている訳ではない。この屋敷の周りには、魔道具による防御が固められている。

 正面の門を見張っている兵士が許可しない者は侵入できないように結界が張られているのだった。それとそれでも突破して来る侵入者に対抗して、警告の魔法が展開されている。これは侵入者を見付けると、屋敷内の者が異変に気が付くというものだった。

 これで少なくとも不意打ちはなくなると思う。まあそんな警備体制もあって、兵士はどこか気楽な感じなのだと思う。実際に警備に立てば、おきらくではなくしっかり働いてくれているだろうけれどね。

 そんな彼らに守られて、僕達は夜しっかりと休みことができた。


 ブレンダ女王から各国へ僕の所属をあきらかにしたり、僕自身魔道具が作れる有用性をアピールしたおかげか昨日のような、ある意味手薄な状態になっても襲撃されることがなく平和な朝が迎えられた。

 国の保護が受けられるっていうのはかなり安心感があるものだな。

 その後も生産で忙しい日々が続いたものの、襲撃者はやって来なかった為、ジャド達も段々と冒険へと出かけるようになった。まあ息抜きに僕達も参加したりしたけれどね。

 そして納品と新しい収納できるテーブルや椅子などもかなり高評だったらしく、そっちの注文なんかも殺到してますます忙しい日々を過ごす事になる。あれから一ヶ月以上の時間、襲撃もなく過ごせているし、その間にそれなりに名前も売れて下手に手出しできなくなったのだと思われたのだが・・・・・・


 バキン!


 ある日の真夜中、まるでそんな油断を突くように屋敷の結界が壊れる音が聞こえた。そしてもう一つの機能として、侵入者が屋敷内に入ったという知らせが届く。近くにいたジャド達も一斉に起きて正面玄関へと向った。敵は正面から堂々と入って来ているようだし、そこにかなりの数が集まっているようでもある。普通なら背後などに気を付けなければいけないところだけれど、今は魔道具の警戒でわかるので全員で正面玄関へ向った。

 下手に分散するよりは、みんなで固まって移動した方がリスクも少ないと思われたしね。

 正面入って直ぐのホールに兵士が集まり、そこから先に通さないようにって防戦しているようだな。外で警戒している兵士達もまだ戦闘を継続しているようだ。早速加勢する為に、僕達も兵士達の下に急ぐ。


 戦闘の様子は襲撃者の方が腕前は上だと思われるが、兵士達もよく耐えているようだ。でも勝敗のバランスは拮抗しているように思える。おそらくは僕の造ったリングで、一時的にダメージを軽減しているのと自然回復力が高まっている為に、何とか持ちこたえられているのだろう。

 襲撃者も意外な粘りを見せる兵士に驚きつつ、なんとか奥へ侵入しようと強引な攻撃をしていた。僕達はそれを防ぐ為に突撃する。少なくとも入り口で押し止めることができれば、侵入者を複数人相手にしなくて、一人二人だけ相手にすればよくなる。

 押された兵士と入れ替わるように、盾で襲撃者を押し返してジャドが前に出る。そしてそれを確認した襲撃者一人が、光る指輪を持って前に出て来た。その光を目撃した瞬間、僕達の体は動かなくなる。

 しまった、これは魔道具なのか!

 そう判断するものの、既にその力に捕らわれて、僕らは動く事ができなくなっていた。幸以外は・・・・・・

 動けなくなった僕が、敵に捕まって連れさらわれそうになった時、銃を構えた幸が人を撃つことをためらってしまうのが見てわかった。大丈夫だ、幸がここで人殺しになる必要はない。僕には利用価値があり、今直ぐに殺される心配はないんだから。そう伝えたかったけれど、体動かないのと同様に口も動いてはくれなくて、幸に僕の意思を伝えることはできなかった。


 幸  「っ!」


 そんな僕の願いも空しく、何もできずに連れさらわれるのが嫌だったのか、幸が攻撃を仕掛けたのがわかった。


 襲撃者「何! 蛇眼の魔具に抵抗できる者がいたのか!」


 襲撃者の一人が声を上げ、幸の攻撃を受けて仲間の一人が倒れたことに気が付いたリーダーっぽい男が、僕を連れだすことを優先するように指示を出していた。そしてそれを支援するよう、幸へと攻撃を仕掛けて行くのが見えた。動けないままの僕はそこまで確認できた後は縛られ、やっと動けるようになったと思った頃には拘束されていたのでそのまま抵抗空しく連れていかれる。

 裏路地を走り回った後に馬車に乗せられ、運ばれるのを何とか暴れて抵抗したかったところだが、どうすることもできなかった。


 馬車はかなりの速度で走っているのか、かなり揺れていたのがわかる。街中を走っている時はここまで揺れが酷くなかった事から、既に王都を出た後でどこかへ運ばれているということがわかった。馬車以外にも馬の蹄の音が聞こえる事から、かなりの集団で移動しているのだと判断できるな。

 おそらくは襲撃して来た連中が、馬車の周りを囲んでいるのだろう。いったいどこに向うつもりだ? このまま国外に連れて行かれたら、みんなが足取りを探すこともできなくなってしまいそうだ。何か手がかりになりそうなものを残したいけれど、それもできそうにない。打つ手無しだ・・・・・・

 そう思いつつも何か手はないかと考えていると、馬車の速度がゆっくりになって来た。ということは、それ程離れた場所ではないということか?

 王都の周辺に隠れ家になりそうな建物があるのだとしたら、それは地方貴族の別荘かそれらの廃墟を根城にしているかだろう。できれば内通者がいない状況ならいいのだが、リンデグルー自治国は昔勇者を暗殺してその事実を最近まで隠し続けて来た国だ。裏切り者の貴族がいても不思議ではないな・・・・・・

 そんなことを考えているうちに、どこかへと担ぎ上げられた状態で連れて行かれて、椅子に座らされる。そしてご丁寧に逃げられなくする為か、椅子に縛り付けられて固定されてしまった。おかげで手足を動かすこともできないので、せいぜい動けたとしても、椅子を倒すくらいしかできないようにされてしまった。


 襲撃者「さてさて、いささか乱暴な扱いになってしまったがまずはようこそと言っておこうかね」


 そう目の前で男の声が聞こえた。しかし目も口も布が巻かれていて男に反応を返すことができない。僕としてはせめて周囲の状況ぐらいは知りたいものだけれど、それも許されなかった。


 襲撃者「単刀直入に言おう。我々の為に君の力を使いたまえ。そうだな、もしこちらの言う通りにしてくれるのなら、褒美として君の仲間には手出ししないというのはどうかな? 了解なら頷きたまえ」


 ここは下手に逆らわない方がいいのかもしれないな。しばし考えた後、頷いておくことにした。


 襲撃者「ほー、素直に了解してくれるとは嬉しいね。ではその約束が嘘でない証に制約を誓ってもらおうかな」


 そう言って、右手に何か球状の物を握らされた。


 襲撃者「これは魔道具で、制約を破れば神罰が下るという契約の玉だ。ただし、神罰はまずは縁が遠い者から落ちていき、やがて近しい者が誰もいなくなって初めて自分に落ちる。そういうアイテムなのだが、私の為に君の持てる全ての力を使うと約束したまえ」


 これはまずい、これではこいつに逆らえば幸やジャド達が危険に晒されてしまう。だからといって、こんなアイテムを持ち出して来るような奴の言う事を聞いてしまえば、どんな悲劇が起きてもおかしくはない。


 襲撃者「うーん? さっき協力するって言う素直な態度は偽りだったのかな? まあ好きなだけ抵抗するといい、こちらには君を素直にする方法は、いくらでもあるのだからね」


 そう言ったと思うと口を塞いでいた布が解かれ、それと同時に何かを飲まされる。慌てて口を閉じようとしたけれどそれは叶わず、強引に流し込まれてしまう。

 そこからの記憶というのか意識は、かなりぼんやりしていた。ただ、何か必死に耐えようという思いだけが残っていて、何度か飲まされる液体もどうにか吐き出そうとしていたことは覚えている。時間も曖昧になり、もはや自分が誰なのかもわからなくなりそうになっていると、急に状況が理解できるようになっていた。

 慌てて周囲を確認してみると、襲撃者だと思われる男達は床に倒れて動かず、一人だけ僕の目の前に立っている男がいるのがわかる。


 バグ 「ロップソン。幸達との取引は終わっているがお前にも確認しておく。お前を救出する条件についてだが、今後魔道具の開発を止めること、そして僕の創ったフォーレグス王国に移住して暮らして行くこと。条件を飲むなら助けるがどうする?」


 男が発明王であることにホッとして、助かったのだと理解できたのに、そこに待っていたのは先程までいた男同様の取引の言葉であった。しかもそれは僕の生きがいともいえる生産を止めろという契約である。そんな事はできないと僕は助けられた恩も忘れて反論していた。


 ロプ 「僕に魔道具を作るなっていうのか。それは僕の生きがいを捨てる事と同じことだ」

 バグ 「ならお前の生きがいの為に、幸達の命を捨てる方がいいのか?」

 ロプ 「なんでそうなる! 幸達は僕がどうにかして守ってみせる」


 何でわかってくれない、そもそもなんで魔道具を作ってはいけないのかすらわからない。それに今までもそうだったけれど、みんなで力を合わせれば例え今回だって何とかなったはずだ。幸達だって、できるだけの装備を作ったから、きっと今頃みんな無事で僕を助けようとしてくれているはずだと考えた。


 バグ 「今回の事で、お前が無能である事は証明された。今更できもしないのに守れるから安心して欲しいとか言われても、説得力などないがな」

 ロプ 「確かに今はまだ力はないかもしれないが、今後はわからないだろう?」


 そう、例え今現在が発明王より劣っているとしても、未来はわからない。これから発明王を超える装備を開発して、幸達をもっと安全にしてやる事もできるかもしれない。その為にも、やはり魔道具を作り続けなければいけない。


 バグ 「じゃあ、今直ぐこの瞬間、幸が危険に晒された場合、お前に助ける力はあるのか? 死んだ後であと少しすれば助ける力が付くとか言っても遅いと思うがな」

 ロプ 「だが!」

 バグ 「そこまで魔道具を作りたかったのなら、周りを巻き込まないようにうまく立ち回ればよかったのだ。巻き込んだ後で、それを収拾できる力がないお前が何を言っても、今更だと思うぞ。それでも魔道具作りを続けて行きたいか? それともどれだけ犠牲が出たとしても、お構いなしで魔道具が作りたいのか?」

 ロプ 「それは・・・・・・」


 発明王の言葉に、熱くなり過ぎていたと少し冷静さが戻って来たような気がした。確かに幸達の命と比べられれば、魔道具の方を諦めるのが筋だろう。


 バグ 「確か、あっというような発明をすることが目標だったらしいな?」

 ロプ 「ああ」

 バグ 「革新的な医療魔道具に、空間拡張の魔道具。目標は達成されていると考えるが、まだ足りないのか?」


 そういえばそうだった。僕の目標は世界をあっと言わせるような発明をして名前を広めること、それは既に達成されていて、世界中って訳にはいかないまでも周辺国では有名になっていると思う。今はまだだとしても、これから僕の名前がさらに広がっても行くだろう。既に僕の目標は達成されたといってもいい状態だった。ならば幸達の命を優先してもいいかもしれない・・・・・・


 ロプ 「ほとぼりが冷めたらまた、開発しても構わないだろうか?」


 それでも、この先ずっと禁止されるのはきついと思い、そう問いかけた。


 バグ 「そうだな。開発の計画内容と、出来た物のチェックをこっちにさせてもらえるなら、許可してもいい。勝手に開発してそれをばら撒くのは迷惑だからな。お前の尻拭いをこっちに押し付けられるのは納得がいかない。次に迷惑だと判断したら、幸には悪いがお前には死んでもらうかもしれないな」


 何でたいして知りもしない相手にここまで言われなければいけない! 大体僕には発明王に迷惑をかけるようなことをした覚えがない。確かに何度か襲撃を受けて、手助けをしてもらいはしたが、それくらいで自分の人生を否定されたくはなかった。


 ロプ 「僕が何時尻拭いをさせたっていうんだ」


 だから僕はそう言った。そして瞳に意思を込めて睨み付ける。これでもいろいろと考えて、人の役に立とうとがんばって来たんだ。それをごちゃごちゃと上から言われたくはない。そう思っていたけれど・・・・・・


 バグ 「日本に置いて行った魔石がその後どうなったかをお前は予想できているのか? イギリスの秘密組織はその力を使って街中で金を強奪したり、好きなだけ人を殺したりして随分と楽しそうに暴れていたぞ」

 ロプ 「そんな馬鹿な!」


 思わず叫んでいた。

 発明王の言葉がよく理解できない。

 そして一生懸命理解しようと思えば思う程、自分の作った魔道具が悪用されて、それによって人が死んだという事実に打ちのめされる。正直発明王の言葉を否定したかった。嘘を言うなと言えれば、どれだけ楽か・・・・・・しかし、おそらくこれは事実なのだろう。発明王が浮かべる表情には、どれだけ迷惑をかければ気がすむのかって言っているように見えた。

 自分の開発した魔道具は、人を不幸にする事もあるのだと理解すると、発明王の言うように魔道具を作るのは止めた方がいいのかもしれないと思えた。


 バグ 「自分の作った物ぐらい、しっかりと責任を持って対処して欲しいものだな」


 今までの咎めるような言葉ではなく、同じ魔道具を作れる生産者として、アドバイスされるかのようにそう言われた気がする。それで僕の心は決まった。僕の作った魔道具で不幸になる人がいるのなら、これ以上はやめようかと・・・・・・


 ロプ 「わかった。そちらの条件通り魔道具の開発は止めることにする」


 僕が発明王の条件を飲むと、発明王は襲撃者を一瞬で全員どこかへと飛ばしてしまった。やっぱり何もかもが僕と違って上だな。そう考えているとモンスターがうじゃうじゃといる町へと転移させられていた。


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