表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔石職人の冒険記  作者: 川島 つとむ
第六章  魔石の可能性
46/54

治癒の魔石

登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記)

 残念ながら幸の鎧は発明王の作った物の方が高性能みたいだったので、僕の分も含めた幸以外の防御力強化を何とか終わらせることができたといった感じだろう。後は足りないものがあれば、その都度開発していけばいいな。

 久しぶりの依頼も終わった事だし、次はいざという時の為の治療技術を研究して行こう。とはいっても、錬金合成を繰り返して偶然見付けるのを待つくらいなんだけれどね・・・・・・

 しばらくそんな感じで魔石を合成していると、治療を助ける魔石ではないものの、興味深い魔石が偶然できた。なんというのか、空間に干渉できる魔石というのかな? それを何に活用できるのかはもう少し考えて見なければいけないけれど、上手くすれば転移系の魔道具が作れるかもしれない。まったくの偶然ではあったけれど、いい物ができたな!

 まあ、その時はそうやって幸と喜んでいたのだけれど・・・・・・どうやらまた魔法陣を描き間違えていたようで、何度やっても同じ効果を持つ魔石を合成することができなかった・・・・・・またこのパターンか!

 しかし再び日本に飛ばされなかっただけよしとしておかなければいけない。それとあの時の魔石とは違って、手元に魔石が残っているので、日本で開発した魔石の属性を追加する魔道具を使えば複製可能だった。転移する効果とまた違う魔石みたいなので、しばらくは魔石の特性を把握する研究の必要はあるだろうな。


 その後も続きの合成を地道に掛け合わせて行く。たまに気が付かないうちにポカをするようだけれど、それなりに錬金術にも慣れてきたのか、合成できる数も増えて試す事ができる数も、それに応じて増えていた。おかげで切り札もさらに強化できそうだった。まあ、目的は治療の魔石なのだが、そっちはまだできなくて相変わらず偶然に頼るしかないけれどね。

 それとも、教会で祈った方が早いのだろうか? 神の声が聞こえれば回復の奇跡が使えるようになって、魔石に応用できるかもしれないしな~。その場合、僕はどの神様にお祈りしたらいいのだろうか?

 商売の神様はいないし発明の神様も存在していない。やっぱり幸運を司っているエムファラン神かな? なんと言うか、こういう作り出す作業といえば芸術っぽくもあるから、凄くマイナーになるけれど芸術の神様っていう神様もいた気がする。生産系はその神様にお祈りしてみればいいのかな? まあ、絵とかそういう技術とはかけ離れていそうだけれどね。

 あまりにも進展がなかったので、真剣にそんな事を考えてしまう。でもって、幸に誘われて気分転換を兼ねた散歩で教会巡りもしてしまった。奇跡の力には恵まれなかったけれどね。


 たまに顔を出すジャドの誘いを受けてちょくちょくと息抜きを兼ねた冒険をしながら錬金合成を進めて一ヶ月が過ぎた。錬金の技術もさらに上がって合成できる数が四つになると、さらに合成パターンが増える。

 試す必要がある合成表を新たに書き出していくつか合成して行くと、ついに治療に効果がありそうな魔石を作り出す事に成功した。なかなか進まなかったけれど、錬金技術が低過ぎたってことだったのか・・・・・・。

 諦めずにがんばってよかったって思えるな!

 まあ、まだ魔石の一つが見付かっただけで、魔道具として完成していないからこれからが肝心だけれどね。そして今度は偶然ではなくて、量産できる事も確認できた。そんな訳で、久しぶりに治療魔道具の研究が少しだけ前進するかもしれない。

 手始めにまずは完成した魔石の特性を調べて行くことにした。

 確認できたのは、今まであった生命属性の魔石とは違い、明らかに回復効果があるというところだ。ただ、これは表面的なものなのか、もっと神官達が使う奇跡と同じような効果があるものなのかわからない。それを確認する為に怪我をするとか嫌だし、実験の為に怪我人を探したいとも思えない。

 表面上のものなら後々後遺症とか残ったりするかもしれないからな。そんな責任は負いたくない。そうなって来るとやはり適当な動物か、モンスターでも捕まえた実験がいいのだろうな。さすがにこんな事に動物を使うのも罪悪感があるが・・・・・・そう考えるとやはり適当なモンスターならこういう時は気が楽だろう。

 ちょっとマッドな実験をしなければいけないので、幸には見せられないと考えジャドと森に行くことにした。


 ロプ 「ちょっとジャドと遊びに行って来る」

 幸  「はーい。じゃあ私もレイシアさんの所にでも遊びに行って来ようかな」


 一応心配するかもしれないから、声をかけてみると幸もお出かけするようだしそれがレイシアさんの所だったら安心できる。そんな訳でジャドを誘いに行った。あ! これでジャドが家にいなければ、馬鹿みたいだな・・・・・・


 ロプ 「おーい、いるか~」

 ジャド「おー、どうした? 一応今は手が空いているぞ」


 よかった、家にいてくれたようだ。ホッとしたのと、付き合えるぞって言ってくれたことに感謝する。


 ロプ 「それは話が早くて助かる。ちょっと実験したくて適当なモンスターを捕獲したいんだがいいか?」

 ジャド「まあ、構わないが、どんなモンスターだ?」

 ロプ 「治療効果を確かめたいから、弱いやつでいいぞ」

 ジャド「それならゴブリンでも何でもいいな。分かった。準備するからちょっと待っていてくれ」

 ロプ 「ああ、ありがとう」


 モロモロの感謝を伝えた後、しばらくして準備を整えたジャドを連れ、マギーで近場の森までやって来る。適当に森の中を進んでいれば、何か出て来るだろうって感じの、お気楽な移動をしていると早速何かが出て来た。


 ジャド「お、丁度いい。ゴブリン共だからこいつらを捕まえようぜ」

 ロプ 「ああ、治療の魔石の効果テストになるから、怪我をさせても問題ないぞ」

 ジャド「了解!」

 ロプ 「束縛の糸をここに、スパイダーネット」

 ジャド「どりゃ!」


 こっちは普通に捕獲して行くけれど、ジャドは思いっきり攻撃して瀕死にして行く。一応即死しない程度には手加減しているかな? 死に掛けてはいるが、まあ止めは刺していないので直ぐ治療したら大丈夫だろう。癒した後に暴れられると困るので、縛った後で魔石を使って効果を確かめて行ったけれどね。

 合計で七匹のゴブリンを捕まえて一度森から脱出することにした。


 ジャド「見た感じ、その魔石の効果はばっちりなようだが、それの何を調べるんだ?」

 ロプ 「ああ、表面的なものなのか、中の骨とかもちゃんと治っているのかどうか知りたいんだ。後はどれくらいの傷まで癒せるのかってところかな」

 ジャド「それはまた・・・・・・グロイ実験になりそうだな」

 ロプ 「ああ、あまり気は進まないんだが、わざわざ怪我をしたくないし、実際に治っているか確認もできていないのに、骨を折りたくもないからな。仕方ないよ」

 ジャド「確かにな。だからこいつらなのか」

 ロプ 「まあ、多少罪悪感はあるけれど、まあ今後どうしても必要になって来ることだからな」

 ジャド「確かに。今までたいして致命的なことにはなっていなかったけれど、今後も無事とは考えない方がいいからな。目標としては、欠損の回復か?」

 ロプ 「ああ、できれば冒険者だけじゃなくて、病気なんかも治療できるといいんだが、まずは欠損までかな? 欠損してかなり時間が立ってしまうと、神官の奇跡でもどうにもできないって聞いたんだが、そっちも癒せるといいなって考えているよ」

 ジャド「それができれば、神官は必要なくなるな」

 ロプ 「文句言われるかな?」

 ジャド「どうだろうな? 直接何かして来るとかは、あまり考えたくないが、まあ覚悟だけはしておいた方がいいんじゃないか?」

 ロプ 「そうだな~。成功していたら考えることにするよ」

 ジャド「確かに、失敗しているかもしれんうちから考える事じゃないな」

 ロプ 「だな」


 その後、詳しくは割愛するが何度か実験してわかったことは、神官の使うヒールより少し威力の小さい回復って感じのものだと考えられた。欠損についてはくっ付いたりしなかったので、思っていた効果は得られなかったという感じだな。そうなると切り札と同じで魔石同士を合成して強化する必要があるだろうか?


 ロプ 「うーん、大体必要な情報は集まったから、一度帰ろう」

 ジャド「了解。一度ってことはまた直ぐ来るのか?」

 ロプ 「そうだな。単純な強化でどうなるか試してみたいかな」

 ジャド「ならまた捕獲するのは面倒だな。ここで待機しているからロップソンだけ行ってくれ」

 ロプ 「悪い。頼むよ」

 ジャド「あいよ~。まあこっちとしても、これは必要な実験だからな。協力は惜しまないぞ」

 ロプ 「じゃあ直ぐ戻って来るから、お茶でもしていてくれ」

 ジャド「そうさせてもらおう」


 マギーに積んでいたお茶と保存食などを渡して、急いで家に戻ることにした。これは運用試験の市販品ではないので、消耗しないタイプの魔道具だ。それに魔力を持たないジャドも使えるので、このまま渡しても問題ない。常備していてよかったな。いざって状況ではないんだけれど、何があるかわからないって本当だなって思ったよ。

 急いで家に戻って来ると、幸はまだ帰って来ていないようだ。まあまた直ぐ出かけるからとりあえず用事を済ませるか。

 とりあえず効果が二倍になっているであろう治癒の魔石と、四倍になっていると思われる魔石を用意してみる。後は現地で合成できるように錬金の準備を整えて、ジャドが待っている所へと向った。


 ロプ 「お待たせ~」

 ジャド「おー、お帰り」


 合流すると、まずはさっき回復できなかった欠損が回復できるかどうかのチェックをする。結果としてはある程度時間が立ってしまった、あるいは既に治療済みな状態だと回復不可能だということがわかった。ただ、四倍にした治癒魔石ならば、切られて直ぐ傷口を合わせた状態で治療を施す事で、癒すことができることがわかった。

 つまり、魔物に食べられた場合はどうにもならないけれど、切断された場合は癒せるってことだな。つまりそれなりに優秀な神官と変わらない奇跡が起こせるということだ。


 ジャド「十分な成果じゃないか? 神官がいないとか、やられた時にこれがあればかなり助かるぞ」

 ロプ 「だな。僕が思っていた程ではなかったけれどな」

 ジャド「いやいや。これでどれ程の冒険者が助かるか、想像もつかん程だぞ」

 ロプ 「まあな。上を見ればきりがない事はわかっているんだが。もう少し考えてみたい」

 ジャド「そうか。まあ上手く行くかどうかは、わからないがやれるだけやってみるといいんじゃないか?」

 ロプ 「だな。ちょっといろいろ試してみるよ」


 一応満足できる結果を得られたので、僕らは帰ることにした。余程の事が起きない限りは、現状で十分だと思うけれど満足したら終わりだし、そもそもその余程の事が起きた時が怖いんだよね。

 とりあえず、今できた治癒の魔石を基に新たな魔石の合成か、魔石を利用した魔道具の開発をメインにいろいろと考えて行くことにしよう。まずはアイデアがないから、魔石の合成から開始して行く。


 魔石の合成表を作りながら治療に関しての知識を思い浮かべて行く。体の一部を欠損した場合、即対応した時には治療に成功するけれど、時間が立つと不可能になる。それは一体なぜなのか。予想される原因としては、傷口を塞ごうと血液が固まったりして状態が変化したことにより、その変化した状態を正しい状態と判断して癒そうとしているのかもしれない。

 または、切断されて失った部分を作り出すことができない為、苦肉の策として切断面を皮膚で覆う事でそれ以上のダメージを防ごうとしているとかだろうか? 切断されたばかりで失ったはずの部位がある場合は、その間を繋げることで元に戻ろうとして再生できるって感じかもしれない。

 さて、もしこれらの仮説などが正しかったとしても、欠損部位を再生させるヒントにはなりそうにはない。それと、多くの場合は欠損部位を紛失してしまうので、それを作り出さなければいけない。これは日本で少しだけ聞きかじったクローニングという技術を使うか、ホムンクルスに関する知識の方が近い気がした。

 ようは既存の回復の知識とまるで違う技術が必要だということだ。

 しかし刀傷などの少し肉が抉られたような極小の欠損であれば、傷跡も残らない程に癒すことができるのも確認している。それを考えると、こちらも日本で学んだ遺伝子というものを利用すれば欠損箇所を作り出す事も不可能ではないと思える。

 まあやり方がわからないけれどね。

 クローニングの技術も確か遺伝子が絡んでいたな。そうすると、この遺伝子を調べる事で突破口が開けるかもしれない。この研究はホムンクルスの研究にも通じていて、禁忌に触れそうなところが問題だった。

 ホムンクルスにまるっきり関係ない研究だけれど、間違われて捕まるのは馬鹿らしいしね。

 ちょっと外部に漏れない状態で研究して行った方が無難だろう。そうなると地下の貯蔵庫を広げるとかして秘密の研究室でも造ろうかな。幸の為に造った冷蔵庫のおかげで、本来地下で食材が腐らないようにしていた部屋は、今現在まるっきり使われていない状態になっている。そこを工房下まで拡張して、地下施設にすれば少々怪しい実験を繰り返したところで、外部に気付かれることなく研究することができるかもしれない。

 そんな訳で、魔法で地下を拡張して補強して行く作業を始めた。

 穴掘り魔法で拡張は直ぐできたけれど、天井というか床が抜けると困るので、その補強はしっかりとしておきたい。祖の為数日地下で作業していると、酸素が足りなくなって息苦しくなったので、小さな換気用の穴を開けて魔法で空気の循環を行ったけれど、雨が降った時に地下がびしょ濡れになって溺れ死ぬかと思ったよ。快適な研究空間を作るのは、かなり難しいものだな・・・・・・

 それと、不幸な出来事ではあったものの、本格的に研究を始まる前で助かった。完成してから水没していたら資材だけでなく研究成果の羊皮紙なども水浸しになるところだったよ。


 数日、予定外のトラブルで余計な手間隙を取られてやっと研究を進める準備が整った。幸には地下の実験室には立ち入り禁止と言ってあるので、その呼び出しの対策も必要になった。本当に次から次へと問題が発生するものである。

 それと地下でどんな研究をするのか幸に説明しなければいけないので、それも頭を使うはめになった。まあ幸にならそこまで嘘を付かないでいいと思うけれど、あまりマッドなことをして嫌われたくないしね。研究過程で勘違いされて捕まりたくないって説明して納得してもらった。

 クローニングに近い実験をしたいからちょっとグロくなるかもしれないとも言ったら、納得してくれたよ。幸はそういうのが苦手だからね。最終的にはただの治療の魔道具開発なんだけれどね。さすがに上の工房でそういうのを見られたらご飯が食べられなくなるだろう。

 そんな感じで結構時間を費やしてしまったものの、研究を進める環境を造り上げこれで心置きなく実験ができるようになった。まあ、まだ取っ掛かりがわからない感じだから、地下に降りる必要はまだないけれどね。

 魔石の合成と平行して、遺伝子の解析方法を研究して行く。

 まずは誰でも持っているとされる遺伝子の情報を見ることができなければ、それを生かすこともできない。何かを電子顕微鏡とかいう物凄く小さなものを見る機械で見れば、遺伝子というものを見ることができるとかそんな情報を見たはずだが、僕はそういう機械があるとか遺伝子というものがあるとかしか知らないんだよな。

 知っているというだけでもこちらの世界の誰よりも凄い事なのだろうが、それを生かす方法がわからければ意味がない。そこで魔力探知の魔法を詳しく解析して、その応用を考えて行くことにした。

 これも魔力で性質の違いを個人個人解析できる魔法だからな。どうやって違いを見極めているのかを解析できれば、魔力を持たないような幸にも適用できるかもしれない。完全に魔力だけで判断しているのであれば、遺伝子とは関係ないかもしれないが・・・・・・その違いが遺伝子と関連していてくれればそこが突破口になってくれる可能性はある。

 まあ、まるっきり関係のない事を調べているのだとしても、それはそれで探知系の精度を上げる魔法探査の開発に繋がるだろう。そうして調べて行った結果、これじゃないかという魔法構造を発見することができた。

 それによれば、個人個人で違う何かが見付かっただけなので、遺伝子情報である可能性は現段階では低いのだけれどね。

 とりあえず探査魔法の改良型として、その魔法構造を魔道具に記録して保存しておく。これが遺伝子だった場合は、この魔法が鍵になって来るだろうからね。


 さて、まずは比較対象を増やしてこの見付けたものが遺伝子というものであることを証明するところから始める。もし遺伝子情報であるのならば、一人として同じものはないけれど、必ず人という共通情報を持っていなければおかしい。そしてもし人としての情報を持っているのならば、例えば手を失ったとしても本来の形を遺伝子が記録していなければいけない。

 その現在の状態と、遺伝子の状態を比較して欠損があるかどうか比較して治療するのが最終的な目的だ。足りない部分を、遺伝子情報を基に生み出すといったらいいのかな?

 ここがクローン培養みたいになるところだろう。あるいはホムンクルス? あれは魂の合成だから体だけならば普通にクローン技術とだというのが正しいかもしれないな。

 そう考えると、精神が壊れた人間を遺伝子から復元したら、ホムンクルスってことになるのかな? あまり実験したくないな。復元できるとも限らないしね。

 未来のことを考えていても仕方ない、まずは改良型探知魔法で街中の人間達の情報を適当に集めて行こう。非常に悪趣味にはなるけれど、なるべく冒険者で欠損がある人も対象にさせてもらった。そうして調べて行った結果、おそらくは遺伝子と断定してもいいかなって考えられる。

 本来この探知方法は魔力を調査するものであるが、そこに幸も含めて考えた場合、幸からは魔力がまったく感じられないはずだから、幸に対してはわからないとなるはずなのだ。それがこの探知魔法では多少情報が違って来るものの、確かに他の人間に近いものを発見することができていた。おそらく、これは異世界人だからこその違いだと思われる。

 そうすると次にやることは、この人間という存在の設計図ともいえる遺伝子を解析するのが次にやらなければいけないことだな。現在の状態と比べるとして、例えば右腕を失ったとしたら、その右腕に関する設計図がどこにあるのかを知っていなければ、創り出すことができない。

 そこで改良型探査魔法をさらに調整して行くことで、もっと詳しく遺伝子の情報を調べて行くことにした。


 それからしばらく僕は地下室に篭った実験を繰り返していた。そこには通報でもされたら邪悪な人体実験でもしていたのではと言われそうな光景が広がっている。さすがに研究内容を知っている身内にもこれは見せたくないなって思える。

 人間の腕とか足とかのパーツがあちこちに転がっているのだからさすがにやっている張本人の僕でも、思わずうわーって言いたい光景が広がっている。まあ、このパーツは明らかに肉でできているものの、どこか作り物めいて見えるのは中に血液が流れていないせいだろうな。一応、血管自体はちゃんとあるのがわかっているものの、心臓と繋がっていない為に、ただのパーツでしかない。

 これらは町で拝借して来た体の一部を欠損した冒険者達の情報から作成された肉体である。創り出すのに必要になるのは血液で、そこから肉体をかたちづくって行くのが実験してわかった。まあ、その血液は僕の血を使ったのだけれどね。僕の血を媒介として、魔道具によって情報を与えて肉体へと作り変えるといえばいいのだろうか?

 だから欠損した肉体によっては、完全修復できるとして何日か時間が必要になるかもしれない。

 その結果、出来上がった魔道具はお風呂のような容器を満たす液体金属と、錬金調合で栄養素を溜め込んだ混合液に浸かってもらう感じで、その中で欠損箇所を徐々に修復する感じになった。

 問題は、頭の部分の欠損・・・・・・目とか耳とか? になって来ると呼吸できるように調整しないといけないという事だろう。

 まあそこは風の魔法を追加して、新鮮な空気を肺に送り込めばいいだろうと考えているけれど、苦しまないかどうかは試してみないと、判断できないな。魚じゃないのだから、肺が液体で満たされたら苦しいかもしれない。

 まあ、とにかくまだ安全性なども試していない為、どうにかしてモロモロの実験もしたいところだった。


 ロプ 「ということで、実験のアイデアってあるかな?」

 幸  「町にいる冒険者の人に協力してもらうのは?」

 ジャド「サチさん、それは安全確認ができてからだ。これが一時的なもので、例えば数日で腕が傷むとかそういう事態になったら、その人に申し訳ないしな」

 幸  「確かにそうね。じゃあ動物実験?」

 ロプ 「あー、日本でもねずみを使った実験とかしてるんだったな」

 幸  「うん。最終的には臨床実験って言って、協力してくれる人を探すんだけれどね」

 ジャド「じゃあ結局人で試すってことか。それなら犯罪者でも捕まえて来るっていうのがいいだろうな~」

 ロプ 「それなら山賊とか野盗とかがいいか」

 ジャド「じゃあちょっと依頼を確認してみよう」

 ロプ 「だな」

 幸  「ここはつくづく日本じゃないんだなって感じたわ・・・・・・」


 そんな事を呟いた幸も連れて、みんなで冒険者ギルドへと向かった。


 ミア 「あれ? ジャドさん、ロップソンさん、サチさんも。こんにちは~」

 ニナ 「やっほ~」

 ロプ 「こんにちは。二人共こんなところでどうした? 昼食か?」

 ジャド「よう~」

 幸  「こんにちは」

 ニナ 「だって、やることなくて暇なんだもん。ご飯もあるけど、噂話でも聞いて暇つぶし感じかな」

 ジャド「ほー、そりゃ申し訳ない。まあちょっと依頼見て来るのでロップソン達はここにいてくれ」

 ニナ 「え? 何々、三人だけで冒険に行く気だったの? ずるいよ!」

 ロプ 「う~ん、申し訳ないが、一応これも実験が絡んでいるんだよ」

 ミア 「実験ですか?」

 ニナ 「私もやる~」

 ロプ 「まあ、依頼があるかどうかわからないし、ちょっと実験内容はお勧めできないものだぞ?」

 ニナ 「何それ? やばい実験?」

 ロプ 「うーん。あまり褒められた実験ではないかな。ちょっとグレーなものになりそうなやつだ」

 ミア 「ロップソンさん、それはちょっとやめた方がいいんじゃないかな?」

 ロプ 「まあ、普通は褒められたものじゃないんだけれどな。成功したらかなりの人が喜ぶ発明になると思う」

 幸  「そうですね。今まで冒険者を諦めるしかなかった人や、モンスターの被害者とかが喜ぶよね」

 ミア 「そうなんですか?」

 ニナ 「詳しく教えてよ」

 ロプ 「あー、後でいいか? さすがにここであまり喋りたくないからな」

 ニナ 「わかった! 後で絶対に聞かせてね!」

 ロプ 「ああ」


 しばらくするとジャドが戻って来て、山賊退治の依頼を持って来た。内容は山賊の退治なので、生け捕りにする必要はなく、実験に使っても問題はなさそうだった。問題は経過を見たりするのに結構時間を必要とすることと、その為に山賊を生かしておく必要があるところだろう。ようするに、試験をする間の監禁場所が必要になるところだろうな。

 相手が犯罪者なので、逃げられるのは困るのだ。まあ、そこは拘束しておけば問題ないのだが、やはりどこに捕まえておくかというところが問題だろう。


 ロプ 「魔道具が完成したら商業ギルドに報告しないといけないから、やっぱりあそこで協力してもらうのが一番かな?」

 ジャド「大丈夫か? 捕まったりしなければいいんだが・・・・・・」

 ロプ 「そうだな。駄目そうなら研究そのものを止めるって方向で話してみるよ」

 幸  「私も一緒に行く」

 ロプ 「じゃあちょっと待っててくれるか?」

 ジャド「わかった、まだ飯も食っていなかったからな、ここでのんびりしているよ」

 ニナ 「行ってらっしゃい~」

 ロプ 「じゃあ、ちょっと行って来る」


 そう言うと、商業ギルドへと向った。今回の発明は、神殿に喧嘩を売っているようで、ちょっと受け入れられるものなのか微妙なんだよな~ かなり危険な気もするが、一応相談してみないことにはなんともいえない。

 でも、この発明自体は破棄するにはあまりにも勿体無い、画期的な発明になると思える。

 将来的に、僕達自身もお世話になるかもしれないから、なおさら実験だけは済ましておきたいところだな。できれば、この魔道具でいろいろな人が救われると嬉しいとも思うしね。商業ギルドがどう考えるか次第だな。


 ロプ 「すみません、新しい魔道具のことで相談したい事があるので、フラメルさんを呼んでもらえますか?」

 ギルド「ロップソンさん、いらっしゃい。少し待ってくださいね」


 受付の人はそう言って確認を取りに行ったようだ。直ぐに戻って来ると応接室に案内される。


 ギルド「直ぐ来ると思うので、ここでお待ちください」

 ロプ 「はい」

 幸  「私もここにいていいのかな?」


 そういえば幸は、商業ギルドで交渉事するのに付いて来るのは、初めてかも。


 ロプ 「大丈夫だよ。どっち道一緒の家に住んでいるんだから、内容も知っているしね」

 幸  「そうだね」


 そしてそれ程待たずにフラメルさんがやって来た。


 鑑定員「お待たせしました。なにやら相談という事でしたが、何かありましたか?」

 ロプ 「えっといきなりなのですが、今回発明した魔道具の実験に、こちらにも協力していただきたいかなって思いまして、その相談に伺いました」

 鑑定員「ほー、新しい発明ですね。まだ実験段階という話のようですが、一体どんなものでしょうか?」

 ロプ 「えっと、今回の魔道具はモンスターなどに襲われて体の一部を失った人など、体の一部を欠損した人の治療をする魔道具なのです。ただ、その性質上安全の確認とか利用可能なものなのか僕の方では判断できないので、相談しに来ました。

 一応今冒険者ギルドで仲間が待機していて、山賊を捕まえて来て実験が成功するのかどうか試そうって感じで待機している状態なのですが、こちらで安全確認とかモロモロの検証をする為の場所の提供などお願いできるのか、確認したかったのですが・・・・・・どうですかね」

 鑑定員「これは、ちょっと私の一存で決めていいことではなさそうですな。少しお時間をいただいてもよろしいですか?」

 ロプ 「はい、どうぞ」

 鑑定員「では少し失礼しますね」


 帰って来た時に、何かしら拘束とかされないといいけれどな~。そんな事を考えて、内心ビクビクしながら待っていると、二十分程待たされた後で、商業ギルドの長と一緒にフラメルさんがやって来た。


 長  「お話は伺いました。そうですね、結論から言えば教会を敵に回しかねない危険なものだと判断できますが、魔道具の実験検証は進めておきたいですね。この魔道具を使用禁止にするかどうかは後回しにして、まずはロップソンさんが提案されたように実験検証を進めさせてもらってもいいですかね?」

 ロプ 「はい、実験には時間もかかりますし時間を無駄にしない為にも、まずはそっちを優先して欲しいと思っていましたので、お願いできますか?」

 長  「わかりました。山賊を捕らえるという話でしたか。部屋を用意させてもらいますので、後程裏口よりお願いできますかな?」

 ロプ 「はい、では準備の方お願いします」


 こうして商業ギルドで当面極秘になるけれど、実験をしてもらえることになった。こっちで実験して、また商業ギルドでもって言うと、二度手間になるし信頼面もだいぶ変わって来るからな~。引き受けてもらえてよかったよ。

 冒険者ギルドに戻ると、早速ミリアナとニイナも連れて山賊を捕獲する為に依頼を受けることになった。

 山賊を捕まえるのはとても簡単で、潜んでいる者などもいたのだけれど、普通にジャドとニイナも見破っていたし、もとより幸が正確に位置を特定していた。

 僕らは幸の冒険者の成長訓練も兼ねて、指示を聞きながら次々と捕獲してあっさりと依頼を終了させる。捕獲した山賊は、合計で十二人。これは暴れていた山賊の中の一部で、依頼達成の条件としてどうしても倒した証拠が必要とされる者がいた為、それを除いた者が捕獲対象になったからだ。

 まあどちらがより残酷な運命を辿るかについては、あっさり死んでいた方がよかったと思えるかもしれないけれどね。自業自得とはいえ、こいつらも運がなかったってところだろう。それか、これも好き放題暴れた為に巡って来た運命なのかな?

 残念だけれど、彼らには同情したりできないから有無をいわさず連れて行かせてもらう。

 こうして商業ギルドの地下で魔道具の実験が開始された。

 まずは魔道具が予定通りの成果を発揮しているのを確認し、その後の安全を見る為の検証と、教会との関係性を考えた交渉を始めて行くことになる。

 交渉自体は商業ギルドにお任せだけれどね。僕にはこういう駆け引きとか、ルールがわからないからな~

 わからないものは任せるのが一番だ。

 安全が保障されるのと、上手く交渉が成立してこの魔道具で沢山の人が救われる事を祈っておこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ