魔石の可能性
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) ニイナ=ニナ(台詞表記) ミリアナ=ミア(台詞表記) レイセモルス=レイ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) ミーリス=ミリ(台詞表記)
第六章 魔石の可能性
翌日、僕らは久しぶりになるクエストを受ける為、冒険者ギルドに集まった。それと昨日ちょっと早めに家に帰れたので、ニイナの日本刀が完成したので早速渡す事にする。
ロプ 「ニイナは風と相性が良かったみたいだから、今回も風の属性を付けておいたぞ」
ニナ 「うわ~。ありがとう~」
前回はギルド内で剣を抜いちゃったけれど、今回は我慢していた。まあでも使いたくてうずうずはしていたけれどね。そんな感じで騒いでいるところに、ジャドが依頼を持って来る。
ジャド「適当に持って来たんだが意見を聞かせてくれ。まずはこのゴースト系の・・・・・・」
ロプ 「あー、悪いが蜘蛛系と幽霊は幸が苦手だ」
ジャド「そうなのか? じゃあ他ので狂った精霊の討伐と調査ってのはどうだ?」
ロプ 「今現在でどれくらいの精霊が狂っているんだ?」
ジャド「うん~と・・・・・・現在の時点では二十匹だな。結構厄介な感じだな」
ミア 「早く原因を突き止めないと危ないですね」
ニナ 「それって緊急?」
ジャド「いや、まだ緊急ではないな、村の近くの塔らしいが、まだ人的被害は無さそうだ」
ミリ 「随分呑気な話だな」
ジャド「おそらく町じゃないところと、金額的なところで緊急になっていないんだろうな」
ミア 「他の冒険者の皆さんは、受けないのでしょうか?」
ロプ 「おそらくそんなに良い稼ぎじゃない依頼だが、危険度だけは結構高そうだからな。緊急にでもならなければ受ける冒険者はいないな」
緊急依頼になれば、冒険者ギルドから上乗せの依頼料が出るので、受ける冒険者も出て来るだろうと思う。まあ他の冒険者はそれを待っているってところだろうな。
ロプ 「ジャドがそれを持って来た理由は何だ?」
ジャド「確かに稼ぎは悪いが、これはギルドに対して貢献度が高い。今後何かと有利になる可能性があるからかな。祭りで三位に入賞した事もあるから、ここでさらに顔が売れるってことだ」
ロプ 「なるほどね。今金銭的に余裕が無い人はいるか?」
ニナ 「大丈夫だよ」
ミア 「私も問題ありません」
レイ 「大丈夫です」
ミリ 「問題ない」
ジャド「じゃあ受けて来るぞ」
みんなでサインをすると、早速マギーで村まで移動することになった。
ロプ 「原因の調査もあるらしいが、塔なんだから原因もわかりやすくていいな」
ニナ 「あきらかに塔の中で問題が発生してるね」
レイ 「今回は既に狂ってしまった精霊への対処だけですね」
ジャド「おそらく原因は魔道具だろうが、ロップソンはそっちには詳しいだろう。任せるな」
ロプ 「まあできるだけがんばるよ」
ミリ 「問題は精霊の相手だな。普通の武器では効果がない」
ジャド「そっちもそれぞれにロップソンから武器を作ってもらっているから、問題ないだろう。相手が空中にいる場合とか、接近できない時が厄介だな」
ミリ 「最悪は囮かな。狂っているなら正常な判断はできないはず」
ミア 「危ないですよ」
ジャド「最悪だ。うまく誘い込めれば、そんな事はしなくていいだろう」
作戦会議をしながら移動して、村へと到着した。
ロプ 「ちょっと今回用の指輪を作るから、時間をくれ」
ニナ 「あ、だったら私も日本刀の使い勝手をチェックしたい!」
ジャド「わかった、ちょっと休憩してから行こう」
ミリアナと幸がお茶の準備をし始める。
こっちは全員分の指輪に魔法抵抗を上げる効果を持たせたものを作って配ろうと考えている。精霊といえば、魔法を使って来ることがほぼ確実なので、しっかり準備しておかないと一瞬でやられてしまう。相手が狂っているので連携して襲って来るなどの組織立った動きがないのがせめてもの救いだろうな~
ただし、狂っているのでどんな行動をして来るかもわからないが・・・・・・
ロプ 「出来たぞー、全員これを身に着けておいてくれ。多少でも魔法に対して抵抗力が増すはずだ。ミーリスは多分そっちの魔法防御とは重ならないはずだから、なんだったら重ねがけしてもいいと思う」
ミリ 「わかった」
全員に指輪を配りちゃんと装備をしたことを確認した後、ジャドの合図でまずは村へと向う。軽く情報収集をしたところ、少し森に入った所に塔はあり、村自体には今のところ被害は出ていないらしいが、すぐ近くまで精霊がやって来た事もあったので、森への立ち入りが禁止になっているのだそうだ。
ただ塔の方から冷気が漂って来たり、そうかと思えば熱気が漂って来たりと、作物に影響が出ている可能性があって早急に対処して欲しいらしい。それと今はまだ被害は出ていないけれど、いずれ人的被害もあるかもしれないと思うと、やはり対処は必要だと判断しているんだそうだ。
まあ確かにその通りで、被害が出てからでは遅いんだよね~
そんな訳で早速塔へと行ってみることになった。
幸 「ウワー、セイレイガイッパイイルミタイ」
森に入って直ぐ幸がそう言う。そんなにいるのか・・・・・・慎重に行かないといけないな。確か精霊は一度狂ってしまうと元には戻らないって聞いたことがあったな。
ロプ 「狂った精霊は元に戻せないから、見付けた奴は全て討伐で」
ジャド「了解。サチさん、狙撃できそうなら撃ってくれ」
幸 「ワカリマシタ」
それから慎重に塔へと進む間、幸は銃の下のところについているカートリッジをいろいろ交換しながら攻撃していっているみたいだった。音がまったくしないので、これだけ見ていると何をしているのかさっぱりだな。ただ忙しそうに動いているのはわかる。
そのうち大分塔が近くなって来ると、幸が捌ききれなくなったのか、狂った精霊を目撃するようになって来た。
ロプ 「相当一杯いるな。ひょっとして見付かっていないのなら、このまま数が減るまで幸に任せた方が安全じゃないか?」
ニナ 「それに数が報告と全然違うよ」
レイ 「あれは依頼が受理された時点の数です」
ミア 「サチさんの負担になりませんか? やっぱり一人に任せるより、みんなで戦った方がいいかと思いますが」
ジャド「サチさんはどうだ?」
幸 「アルテイドナラナントカ。デモ、トウノサイジョウカイデ、セイレイガフエテイマスノデ、キリハナイカト」
ジャド「それなら行くしかなさそうだな。前進準備」
ジャドの意見に賛成だ。ただ、進むのはいいが、乱戦になると幸がどいつを狙っていいのか、わからなくなりそうだと思い、そっちは指示しておこうと思う。
ロプ 「幸はなるべく手の届かない空の敵を狙ってくれ。後はなるべく遠くにいる奴を頼む」
ジャド「行くぞ!」
合図で僕達は塔に向かって移動を開始した。
ロプ 「大地よ弾けろ、アースブリッド。流水よ荒ぶれ、アクアブリッド」
地面に近い敵はジャド達に任せて、僕は正面以外から来る空の精霊に向って魔法を飛ばしていく。正面上空は幸に任せた方がいいだろう。魔法が複数同時に使えるので、結構数来る敵に対応するのが楽になったな~。そう思いつつ、数を減らしながら塔へと向かった。
ジャド達が今相手にしている精霊はサラマンダーやフェンリルが多く、それに対して僕が狙っている精霊はウインドエレメンタルとファイアエレメンタルが多かった。幸が狙っている精霊もエレメンタル系かな。
しかし塔に近付くにつれ、上位の精霊が混じって来るようになり、少しずつ手強くなって来る。ジャド達の相手もイフリートへと変わり今は前進が止まってしまって、幸はフェニックスの相手をしていた。
僕としても他のみんなの手助けをする余裕がなくなって来ているのは、ジンという風の上位精霊と、取り巻きのエレメンタル達の相手をしているからだ。
さすがに上位精霊が出て来ると、魔法一発で倒す事が不可能になって戦闘時間が長引くと共に、取り巻き達もいるのでそちらにも注意しなければいけない。それと本来なら精霊には相性というものがあり、属性毎に得意苦手が存在して本来なら同じ属性にまとまっているはずの精霊達が、ごちゃ混ぜになっているところも厄介なところだった。
それによって精霊同士で傷付け合っている部分もあるけれど、こちらも使う魔法を切り替え選んで攻撃していかなければいけない。
相手によってはまるっきりダメージにならないどころか、吸収されて回復されかねないからね。
それでも何とか倒して前に進むとやっと塔の入り口に辿り着く事ができた。まあ、精霊に壁など意味がないと思うけれど、少しはホッとする。あいつら狂っているので、本来なら相当苦戦してもおかしくなくても、隙ならいくらでも見付けることができて、仕舞いには同士討ちまでしているので何とかなったかな。
まだ気が抜けないのでそのまま内部に突入後、そこにもいた精霊達をそれぞれが倒して行く。
ロプ 「雑魚は任せろ!」
ジャド「任せた! こちらはこのデカブツの相手をするぞ!」
何でこんなでかいのが無理やり塔の中に納まっているんだよと言いたいそいつは、ベヒーモスといわれる土の上位精霊だった。こいつのおかげで一階部分がほぼ埋まっていて、上に続いていたと思われる階段なんかも崩れてしまっている。
雑魚のエレメンタルは、二階からやって来ているので、とりあえずそっちを対処して行くことにした。魔法を二種類同時に扱えるようになったのがほんとに助かっていると感じるよ。
そうでなければ魔法の種類を変えなければいけない今回の戦闘で、攻撃の手数が半減するってことになり、殲滅速度がかなり遅くなっていたと思う。
雑魚の相手を終えて警戒をしたままみんなの様子を見てみると、ニイナが苦戦しているのがわかる。あー、ニイナの武器は風の属性を持っているから、土属性の敵には攻撃が通りにくいところ、さらに相手が上位精霊だから攻撃が効きにくくなっているんだろうな。
こればかりは相手が悪かったというしかないな。
逆にジャドとレイの武器には火属性が付加されている為、ダメージの通りがよくてがんがんダメージを与えているみたいだ。こうしてみると、武器の属性を一種類に限定してしまうっていうのは致命的かもしれないな・・・・・・
ロプ 「ニイナ、前の武器は持って来ているか?」
ニナ 「あるよ!」
ジャドとレイに触発されたのか、むきになって攻撃しているニイナに声をかける。
ロプ 「こっちに持って来てくれ。幸は雑魚の相手をお願い」
幸 「ワカッタ」
ニナ 「どうするの?」
ロプ 「前の武器をサブとして使う。ちょっと待っていろ属性を火に変えるから」
受け取った武器の柄に仕込まれている魔石を一度解除すると、再び魔石化することで属性の入れ替えを行う。大量の魔力を無駄にする結果になるのだけれど、今回は仕方ないと思うことにした。
ロプ 「よし行って来い!」
ニナ 「うん! ありがとう!」
やっぱり特殊スキルがあるのか、戦闘中の生産速度が上がっている気がするな。殆ど一瞬で属性の入れ替えを終わらせると、ニイナがそれを持って戦いに参戦していく。風属性の時の爆発的な印象はないものの、火属性に変わった武器は相手に先程と比べ物にならない程のダメージを与えていっている。これでとりあえずいいだろう。
ロプ 「幸、雑魚はこっちで引き受ける。ベヒーモスの攻撃に参加してくれ」
幸 「ハイ!」
再び雑魚を担当して、たまに出て来る雑魚を倒す事に集中する。
あまりベヒーモスを暴れさせると、塔その物を崩壊させかねない為、壁や支柱へのダメージに注意しつつ体力を削るのに、そこそこの時間がかかってしまった。
ベヒーモスを倒すと元いるべき場所へと帰って行ったのかそのまま姿が消えて行ったので、一階に大きな空間が出来たのだが、階段を含めて殆どが踏み潰されていた。
ジャド「さてどうやって上に登るかだな」
ニナ 「私の出番だね!」
僕もこれはどうしたものかと思っていると、ニイナがバックパックから鉤爪付きのロープを取り出してそれを振り回し始める。お! ひょっとして引っ掛けて登るのかな?
見ていると何度か失敗して、それでも六度目くらいに引っ掛けることに成功したみたいだった。
ジャド「よくやった!」
レイ 「さすが盗賊ですね」
ミリ 「なるほど、こういう技術も必要になるのか」
ミア 「ニイナ凄いです!」
早速二階へ向うにあたり、慣れているのかニイナが先行してするすると登って行った。でもニイナが先頭で大丈夫か? 不安はあるものの、ニイナももうベテラン冒険者なんだと自分に言い聞かせて任せる。
上に登ったニイナが一度ロープを引き上げて、別のところへと固定したみたいで再び下に垂らして来た。
ニナ 「早めにお願い!」
ロプ 「僕が行く」
上に精霊がいたのだろう。ちょっと焦った感じだったので、軽装だったのと雑魚の対応なら僕の方がいいかと思い、先に登らせてもらうことにした。ジャドは重いから一番最後がいいだろうな。
ニイナのようにするすると登れなかったけれど、何とか二階に辿り着き、がんばって耐えていたニイナに加勢する。二人で精霊の襲撃を防いでいる間、一階の方にも精霊が出て来ることがあるのか、そっちでもたまに戦闘しているようだった。
原因を取り除かないと、これがずっと続く感じだろうな~。いったい何があったんだろう?
しばらくそこで全員が二階に上るまで時間を費やす事になった。と言うのも、ニイナと違い他の女性達はロープを登るのが下手だったことがわかり、少し登ってはずり落ちるといった事を繰り返した為だった。仕方がないので、周囲の警戒をミーリスにお願いしてジャドに上がって来てもらうと、僕とジャドで女性陣を引っ張り上げる作戦に切り替える。
まあ、そっちはそっちでロープの固定に手間取ったけれど、下にいた幸がうまく固定してくれたので何とか引っ張りあげる事ができた。
こんなところで三十分くらいの時間を消費してしまったけれど、再び塔の最上階を目指して僕らは移動を再開した。二階以降も雑魚の精霊や、上位精霊などが襲って来るけれど数が結構減っていて、何とか進めている。どうやら溜まっていた精霊をかなり倒した事によって、新たに狂った精霊と残っていた精霊がふらりとやって来るって感じになったようだね。
これくらいの数ならまだ安心できるなと思いつつ進むと、三階に上がったところで村人っぽい姿の人間の死体を発見した。
ミア 「村に被害は無いとか言っていませんでしたっけ?」
レイ 「確かに村人に被害は出ていないと言っていましたね」
ニイナが死体を探ると、何かわかったのか話しかけて来た。
ニナ 「多分これ、変装だと思うよ。村人に変装して塔に忍び込んだんじゃないかな? 後こんなの持っていたよ」
僕に渡して来たので受け取ると、かすかに魔力を感じる。
ロプ 「微かだけれど魔力があるな。おそらく魔道具の一部っていった感じだと思う」
ジャド「とすると、これが精霊の暴走の原因になっている魔道具の一部ってことだな」
ロプ 「詳細はわからないが、それで間違いないだろうな」
ニナ 「こんなの持ち出してもたいした価値なんて無いだろうに・・・・・・」
横目で水晶球を見詰めてそう言うニイナが、何て無意味な事をって感じの顔をしていた。まあお宝を狙って持ち出そうとしていたのなら、もっと高価な物を盗めばいいのだろうとは思うけれど、魔道具の一部だから価値があるとでも思ったのかもしれないな。
それでこんな事件になっているのだからこちらはいい迷惑なんだけれど・・・・・・
ロプ 「避けろ!」
やれやれって感じでバックパックに水晶球を入れていたら、急に悪寒のようなものに襲われて幸を抱えて慌てて飛びのいていた。他のみんなはビックリしていたものの、とっさに散ってそれぞれが部屋の壁まで後ずさっていた。
階段を上がって直ぐの場所に死体が倒れていて、その隣に湧き出るように出て来たそいつはシャドウ、闇の精霊のようだった。おそらく出て来る時に攻撃しようとしていたのだろう死体の一部が吹き飛んでいて、あのままあそこに立ち止まっていたら誰かやられていたのではないかと思われた。
そう思うととっさに回避できたのは偶然かもしれないけれど、さすがベテラン冒険者達だと思えた。全員が警戒して隙を窺っていると、死亡してかなり時間の立つ死体に向って攻撃しかけ始めた。まるで反撃されるのをかわすように位置を変えながら必死に戦っている姿を見ると、怖いというよりは哀れだと思えて来る。
それでも狂っていてもその戦闘能力には恐るべきものがあって、僕らは思わず息も止める程硬直してしまった。やがで死体が塵のように崩れ去ったのを確認してなのか、呆然と床の一点を見詰めた後、そのシャドウは襲って来る事なく霧のように霧散して消えていった・・・・・・
あれは、ただのシャドウとは思えなかったな。
ミリ 「あれは出来れば相手にしたくない相手だな」
ジャド「だな。とにかく先を急ごう」
みんなも賛成して、まずは原因となった魔道具を止める為、最上階を目指した。




