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魔石職人の冒険記  作者: 川島 つとむ
第三章  異なる世界
26/54

その後

登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) 鹿島雄二=鹿島(台詞表記) 佐竹寿美=佐竹(台詞表記) 武田亮二=武田(台詞表記) ログロレット=ログ(台詞表記) ジャド=ジャド(台詞表記) レイシア=レア(台詞表記)

 ログロレットさんと接触して、さまざまな情報を交換し合った僕は、元の世界への帰還を一時保留する事にした。というのも、元の世界へと帰る為の手段が、魔石の錬金合成の失敗しかありえない状態で、しかもその失敗箇所がまったくわからないという、お手上げ状態だったからである。

 花見が終わりゴールデンウィークという連休を過ぎ、初夏に差し掛かる季節になってやっと研究所の再建が終わると、泉の調査から研究所の職員達が戻って来るて、やっと第二の居場所となりつつある我が家が元に戻ったって感じがしたよ。

 盗撮などを防止する魔道具も既に完成していて、研究所の敷地内を守るように展開している。襲撃事件があってから研究所の外には出してもらえないものの、研究所の敷地内は結構安心した暮らしが送れるようにはなったかな。


 今僕が研究しているものは、自然のエネルギーを集めて魔石にできないかというものである。

 あれから日本中を調べたらしくマナが沸く場所を二か所、合計で三か所確保できたのだが、その程度だと魔石の作製数が圧倒的に足りないので、そういう研究をし始めたのだ。

 今のところなんとなく形になっているのが、雷の魔石である。雷系の魔法が使えるようになる訳ではないのだけれど、雷に含まれている電力は活用できそうだった。魔力が含まれていないので、純粋なエネルギーだね。

 その他で自然の力を溜め込めるものは、火と水と風と土と光と闇それぞれに時間をかければ魔石化はできるものの、雷と違ってその力の使い道がうまく行かない。例えば雷なら電力としての供給が可能だったのだが、火で作られた魔石はなんというか火力が中途半端なのだ。おそらく寒いところに持って行くのにはいいのではないかな?

 ただ金属を溶かすみたいな火力が得られないからそこまでの魅力が感じられない状態だ。せめててんぷらを揚げれるような温度とか出ればまた違うのだけれど・・・・・・風とかもそよ風を感じる程度で、まだ扇風機という電化製品があればそっちでいいと思う。

 マナの泉から魔力を集める方は、一日に一個しかできないのだが魔石を生成する事に成功している。こっちはそのままだとただの魔力の塊なので、属性はどれになるかというと無属性になるのかな? そんな属性なんてほんとはないのだけれど、その無属性のままだと魔法として利用ができないので、属性を付加する為の変換魔道具を開発した。元となる属性魔石が必要になって来るのだけれど、魔道具に変えたい属性をセットして、無属性魔石もセットすると一時間くらいで属性を付加する事ができる感じの魔道具を作れた。


 ロプ 「うまく行かないな」

 幸  「雷の魔石はうまく作れたんだし、何が違うのかな?」

 ロプ 「あれは作れたけれど、めったに雷が落ちないから作れるのは運次第だからな~」

 幸  「そうだね。まあ焦っちゃ駄目だよ」

 鹿島 「気分転換に、飲み会でもするか?」

 佐竹 「鹿島さんは、飲みたいだけでしょう?」

 ロプ 「一応、可能性は考えたんだよ・・・・・・雷は、他の魔石を作る時と違って、持っているエネルギーが大きいんじゃないかってね。だから例えば火の魔石の火力を上げようと思えば、マグマから作るとかなら必要なエネルギーが得られる可能性があると思う。まあその場合魔道具の耐久度と、マグマの中から引き上げる為の設備とかが必要になりそうな気がしますけれどね」

 幸  「それだと光とかになると、宇宙に飛ばすとかになるのかな? 土や闇は、これ以上どうしたらいいのかわかりませんね」

 佐竹 「確かに闇など、密閉した暗さ以上のものは思いつきませんね。土は、もっと地下深くにしたらいいのかなって思いますが」

 鹿島 「深くに埋めて増えるのは土じゃなくて圧力じゃないか? 風はビル風を集めて作ってみたんだからそれ以上っとなると、戦闘機にでもくっ付けて飛んでもらうとかならいけるかもしれんな」

 幸  「なるほど、結構考えてみると上はあるものですね」

 鹿島 「そうだな。ただもっと上がありそうで、まだまだって気はするんだがな」

 幸  「それでいくとマグマは当たりって気がしますが、実現不可能っぽいですね」

 鹿島 「魔法を使えばいけそうって気がするが、魔石を作るのに魔石を使うって感じになりそうだな」

 佐竹 「現時点で無理なものは、後回しにしたらいいのですよ。いずれ何か方法も見付かるかと」

 鹿島 「そうだな。まあ今日は飲んで気分転換だ!」

 幸  「はいはい、お酒でも買ってきますよ」

 ログ 「そうですね。一時的に保留にでもしておきます」


 今の僕は、襲撃を警戒して一般の仕事をすることを禁止されていて、代わりの仕事として研究所で新たなエネルギーの開発を手伝うという名目で、研究員という立場になっていた。どうせ一般の仕事はできないのだし、研究所の手伝いでそっちに時間が取られ出したってのもある。

 マナの湧く泉を見付けたのと、魔法を使える人との接触が僕の環境をいろいろと変えてしまったようだ。

 さて、一時保留にしたのはまあ仕方ないとして、次に何を開発したらいいのか・・・・・・ここはやっぱり、自由に外を歩く為の何かしらの魔道具の開発辺りがいいかな?

 そうしたらまた遊びにも行けるしね。うんそうしよう、そうすれば自分の足でいろいろ見て回れて、さまざまな魔道具の開発アイデアが出て来るはずだ。


 鹿島 「もう他に何を作るのか考えているのか・・・・・・根っからの生産者だな~」

 佐竹 「物作りが好きな人は、大体こんな感じですよ。苦手な人は途中で面倒になって止めてしまいます。私も生産活動はたまになら楽しいと思いますが、正直面倒ですね」

 幸  「それって、ゲームの話ですか?」

 佐竹 「ええ。一種の異世界みたいなものですから、結構楽しいものですよ」

 ロプ 「異世界ですか」

 佐竹 「はい、といってもこっちの世界の人が作った世界なので、こじつけたものとか生産だと細部は表現されていませんがね」

 幸  「へー、私もやってみようかな?」

 佐竹 「ぜひ一緒にやりましょう」

 鹿島 「まあ良いが、護衛の仕事はおろそかにするなよ? おそらくはもう襲われる事はないと思うが、絶対じゃないからな」

 佐竹 「それはもちろんですよ。趣味と仕事はきっちり切り替えます」

 鹿島 「ゲームを趣味と言い切りやがった!」

 ロプ 「僕もやってみようかな。何かアイデアになりそうな気がするし」

 幸  「あ、それなら一緒に始めましょうよ!」

 鹿島 「お前ら、そのうちゲームばかりして仕事しろって言われたら、これが仕事ですとか言いそうで怖いぞ・・・・・・」

 幸  「それ良いですね!」

 鹿島 「勘弁してくれ・・・・・・」


 その後、実際にゲームっていうものをやってみたが、中々に面白かったよ。実際の世界はあんなに簡単にLVが上がって強くなったり、ラストアタックといって最後に止めだけさせば、経験値がもらえるとか都合のいい事は起きないのだけれどね。

 生産も、インゴットを叩いたりもしないで、剣などの装備ができてしまっていた。剣には柄の部分もあって、革を巻き付けたり握り手に合わせた調整も必要なのに、そういうものもない・・・・・・思わずなんだと! って叫んでしまったよ・・・・・・


 佐竹 「ロップソンさん、これゲームですので、そんなに深く考えてはいけませんよ」

 幸  「こういうちまちましたものは、嫌いな人が結構いるものですよ?」


 二人はそんな事を言って、特に気にする風でもなく、ゲームを楽しんでいた。

 こっちが一か月近くかかって作り上げる剣を、わずか数秒で完成させられた時には、理不尽過ぎて文句を言いたくなった。

 そんな感じだったので実際にモンスターと戦い、現役で生産をしている僕からしたら納得いかない事だらけで逆にストレスが溜まりそうだった。一応面白いとは思うんだけれどね。それでも佐竹さんに続いて幸さんも、ゲームにはまったようで楽しそうに遊んでいた。


 ロプ 「鹿島さんはゲーム、しないんですか?」

 鹿島 「俺はああいう、手元でちまちまやる作業は苦手でな。試しにやってみた事はあったが、直ぐにやめてしまったよ」

 ロプ 「そうですか・・・・・・」


 どうやら僕も、鹿島さんと同じでゲームは苦手なタイプらしいな。調合など草だけ加工したのに、瓶がどこかから湧いて出るとか見ると、生産舐めるなって言いたくなるのがなければ、純粋に楽しめるんだけれどな~

 まあ、多少でも気分転換ができたと思って、アイデアを考えることにした。


 数日後、僕は外に行く為の魔道具のアイデアを思い付いた。盗撮防止用に作成した魔道具の原理を応用して、魔力で認識を阻害するというものだった。

 エネルギー開発の方は以前保留のままだったけれど、特に急かされたりしている訳でもないので、好きに行動させてもらっている。それにそっちの方は特にいいアイデアも思い浮かばないしね。

 開発を続けてから大体三日くらいで認識阻害魔道具が完成して、早速指輪型のそれを装備して研究所内を歩いてみた感じ、実験は成功って感じだった。

 ただ、幸さんや鹿島さんに話しかけてみたのだけれど、目の前にいるのにどこかから声がとか言われたのには驚いたよ・・・・・・これでは外に行った場合、仲間ともはぐれてしまう・・・・・・ちょっと考えていた魔道具と違うかな?

 魔道具としては成功なのだけれど、みんなで出かけることはできそうに無いので、改良が必要なことがわかった。

 そこからさらに数日かけて、鹿島さんと佐竹さんに魔道具を持ってもらい、二人の間にいる人物の認識を阻害するという魔道具へと改造して、まずは研究所内で検証をする。その結果うまくいっていたようなので、今後研究所を出て外に行く事もできると思われる。ただ、立ち位置などに気を付けなければいけないので、少し訓練みたいなものは必要になるかもしれないな。

 それでも始めは念には念を入れて、ログロレットさんにも護衛を頼み、何度も実験的に外へ出てみたりもした。完全に大丈夫かどうかはわからないのだけれど、一応問題なしと判断され、やっと自由に行動することができるようになったよ。


 今現在、ログロレットさんは日本の研究所内に支部を作って、そこで活動をしている。名目は共同研究となっていて、日本側は科学技術的に魔法を応用した開発をメインにおこない、秘密結社ノアは魔法的に魔石を利用した開発を目指した研究をしていた。一見別々に研究しているように思えるのだが、お互いに現在の進捗状況などを報告しあい、気が付いたところなどに意見を出し合って研究を進めている。

 そのおかげなのか今ではどちらも仲間意識があり、簡単な錬金術を使う事もできるようになっていた。

 そんな感じで順調な活動ができるようになって秋になろうという頃、ログロレットさんからこんな提案をされる。


 ログ 「ロップソンさんも、外に出て活動できるようになりましたし。一度我々のイギリス本部へ来てみませんか? 本部に設置された結界魔道具の調整もしてもらいたいですし」

 ロプ 「そうですね、ちょっと行ってみたい気がしますね」

 鹿島 「現地での警備も、してもらえるのですよね?」

 ログ 「もちろんです。こちらとしてもロップソンさんには、何かあってもらっては困りますからね。不安があるようならできる限り問題点を洗い出して、対処して行きたいと思っています。先行して本部周辺などを見てみますか?」

 鹿島 「そうですね。その方が上を説得しやすいかもしれないので、一度そういう風に話を付けてもらえますか?」

 ログ 「了解しました。それでは先行して行かれるのはどなたにしますか?」

 鹿島 「そう焦らないでください。おそらく部下を二・三人派遣すると思いますので、まずは会議を開きたい。そうですね、早ければ五日くらいで準備できるかと思いますよ」

 ログ 「わかりました、こちらもおもてなしの準備などさせますよ」

 鹿島 「よろしくお願いします」

 幸  「海外旅行ですか。私初めてなので、楽しみです!」

 佐竹 「じゃあ幸さん、パスポートも無いのではないですか?」

 幸  「あ、そうです、ありません! ロップソンさんもじゃないですか?」

 鹿島 「だな。今まで想定していなかったからな。幸もついでにパスポートを作ってもらえばいい」

 佐竹 「そうですね、ついででしょうからね」


 安全確認で先にイギリスに行った護衛の人達から問題ないと連絡があり、無事にパスポートも手に入った僕達は初の国外へと向かうことになった。

 一応名目上は仕事の出張となっているのだけれど、本部の見学と結界の調整、そんな作業を終わらせた後はイギリス国内の観光をするなど、かなり自由に楽しませてもらったよ。

 観光がある程度落ち着いた後は、せっかくこちらに来られたので、ギリスのマナの泉も見て回ることになった。

 日本のマナの泉とこちらとの差がわかれば、マナについての新たな発見があるのではと思ったのである。まあ散々日本の科学研究で調べたり、イギリスの魔法の調査がされた後なので、僕が見たところで新たな発見は無かったんだけれどね。

 結局、風水的に丁度条件が重なってマナが溜まるようになった泉ということで落ち着いたようだった。まあそれ以外に説明のしようがなかったって感じだね。

 そんな感じで収穫は特にないものの、お互いの協力関係を強化すると共に行動範囲を増やす事もできて、それなりに満足の行く旅行になった。

 その後も積極的に各地を回って、こちらの世界を満喫することにした。といってもみんなの都合や旅行費などがあるので早々遊びまわったりはできないけれど、機会を見付けてはあちこち行ってみるようにはしてみた。


 研究者の一員として、こっちの世界に馴染み気が付けば四度目の夏が来ようとしていた。今では魔石によるクリーンなエネルギー資源を供給するシステムの構築が完成していて。どうにかして魔石の作製数を増やそうと日本と秘密結社で協力して研究をしている。

 マナの泉は今のところ枯れる事は無くマナを生み出し続けているのだが、相変わらずどうしてマナが湧くのかが判明しない。僕自身のマナを使っても一日に魔石は三つしか作り出せないので、残る手段としては、世界中にあるマナの泉を調べ上げ、土地を確保してしまおうという計画が持ち上がっている。それでも必要数が確保できるとは言えないのだけれどね。

 そんな生活を続ける僕の元にはずっと幸がいて、護衛として鹿島さんと佐竹さんもずっと一緒だった。これだけ長い間一緒にいれば、もうこの四人は家族とでもいっていい関係になっていた。

 この頃になると、もう元の世界に帰りたいという思いもかなり薄れていて、ここしばらくは帰る方法を探す事もしなくなっていた。漠然とではあるが、僕はこの世界で生きて行くのだって思いまで抱いていたよ。

 そんなある日、幸が作ってくれた朝食をいつもの四人で食べながらテレビを見ていると、東京の秋葉原とかいう場所でコスプレイヤー達を生中継で紹介している映像が流れていた。

 微妙に向こうにもいそうな感じの戦士とか、魔法使いっぽい格好の若者がテレビに映っている。

 いかにも作り物の姿で、現実にそこまで素肌を露出させていると、それだけ致命的なダメージを受ける可能性が高まるので、あんな姿で戦う者は皆無なんだよなってちょっと飽きれた感じでテレビを眺めていた。

 それでも個性の強い冒険者達は、独自のファッションをしていた気がする。まあ素肌を晒すって自殺行為はしていなかったけれどね。せいぜい装飾品や、色でアピールといったところだったかな。


 鹿島 「お、あの子のコスプレ、かなり気合が入っているな。アニメとかの魔女っ子かな?」

 佐竹 「ゲームではないと思いますよ」

 幸  「うーん。あんなアニメあったかな?」


 みんながそれぞれに感想を言っている中、僕は息が止まりそうな程の衝撃を受けていた・・・・・・


 ロプ 「そんなまさか・・・・・・」


 思わずそう口をついで出た言葉に、幸は気が付いたようだった。


 幸  「ロップソン、どうしたの? 知っている子がいた?」


 僕の視線の先の女性は、あきらかに日本人じゃなくて周りの子に比べたら少し背が高く、つばの広い魔法使いらしい使い込まれた帽子に、少し見栄えを気にしたようなやはり使い込まれたローブを着ており、その背中にはゴールドドラゴンをかたどったようなリュックを背負っていて。魔法使いのはずなのに杖の代わりに、腰に剣を挿していた。

 その女性はあきらかに他のコスプレイヤーのような安っぽい感じには見えなくて、そのままモンスターの中に移動してみれば臨場感抜群になるほど、実用的な姿をしている。そう、それは本物の冒険者の姿だった。

 でも僕が思わずその女性に引き付けられたのはそんな見た目などではなくて、彼女自身を見たことがあったからである。

 しかし、もし彼女であるのなら、あの背負っているリュックは、袋なんかじゃなくて、本物のドラゴンのはずだ。そう思った瞬間、まるでテレビ越しに見ていた僕に気が付いたといった感じで、ドラゴンの首がこちらへと動いた。そして錯覚なのかもしれないのだが、確かに目が合ったと思えた。


 鹿島 「うん? 今あのリュック、動かなかったか?」

 幸  「ギミックでも組み込まれていたんですかね?」

 ロプ 「あの子は、向こうのテイマーだ。凄腕の戦士でもあったはず」

 鹿島 「それはほんとか?」

 ロプ 「あったのは二度程くらいしかないけれど、あのドラゴンとの組み合わせは見間違いじゃないって言える程、よく覚えている」

 佐竹 「え! 消えました!」

 鹿島 「魔法か!」


 今まで映っていた彼女の姿はそこには無くなっていた。しかし映していたと思えるテレビ局の人達は、消えたことに特に反応も何もしていなくて、そのまま他のコスプレイヤーを撮影している。


 ガシャーン


 僕の混乱を加速させるかの様に研究所全体に硬いクリスタルの割れるような音が響き渡った。そしてその音に思い当たることがある・・・・・・


 ロプ 「結界が破られた?」

 鹿島 「まじか!」

 佐竹 「シェルターに避難を!」


 さすが護衛と感心する間もなく、佐竹さんに手を引かれて僕と幸は走らされ、鹿島さんが周囲を警戒しながら佐竹さんに付いて走り出す。

 そして、あと少しでシェルターへと辿り着くというところでまたも、何者かが前を遮っていた。しかしある意味で、そこにいた者は誰なのかはなんとなくだけれど予想できていて、実際ついさっきテレビで見た女性であった。


 ?? 「貴方がロップソンね。迎えに来たわ」

 ロプ 「迎え?」

 ?? 「ええ、向こうでジャドという貴方のお友達が、ずいぶんと心配していましたよ」


 女性はそう言うと、誘うようにこちらへと手を伸ばして来た。あの手を取れば、僕は元の世界へと戻ることができるのだ。何の前触れも無くそう理解させられて、僕は喜ぶよりも戸惑いが先に来てしまっていた。


 幸  「マッテクダサイ!」

 ?? 「何かしら?」

 幸  「ツレテ、イカナイデ」

 ?? 「残念だけれど、彼には帰る場所がちゃんとある。彼が嫌だと言うのならともかく、貴方にそれを遮る権利は無いわ。決めるのは彼よ」

 ロプ 「僕は・・・・・・帰るのはもう少し待ってくれないかな? みんなにも挨拶をしたいし、それに遣り残した事もある。仕事も引き継がないといけないし・・・・・・」

 ?? 「貴方は既に、この世界に大きな影響を与えてしまっている。今直ぐにどちらにするのか決めてくれるかしら? 帰るのか、残るのか・・・・・・」


 そう言われて、向こうの世界の言葉が片言だがわかる、幸だけが事の成り行きを心配そうに見ていた。


 ロプ 「鹿島さん、佐竹さん。申し訳ないが、向こうの世界から迎えが来たみたいだ。どうやらお別れを言っている時間も無さそうだからごめん。ここでお別れになる」

 鹿島 「そうか、寂しくなるが、お前と会えて楽しかったよ」

 佐竹 「もしこちらにまた来られたなら、また一緒に遊びに行ったりしましょう。まだまだこの世界は広いですから、珍しい食べ物や、不思議なものなどたくさんありますよ」

 ロプ 「幸も、今まで一杯お世話になった。君がいてくれてよかったよ」

 幸  「ロップソン・・・・・・どうしても戻らないといけないの?」

 ロプ 「ごめんな、突然だったから、向こうで心配している親友がいるんだ。両親はいなくても、帰りを待っていてくれる者はいるから、帰れるのなら僕は帰りたい」

 幸  「じゃあ! 私も連れて行って!」

 ロプ 「向こうは、こちらほど便利じゃないし、モンスターも普通にいるんだ。危険過ぎるよ」

 幸  「それでも・・・・・・」

 鹿島 「今まで散々世話になって恩も返さないなんて、男じゃないぞ。女一人くらい守ってやれ」

 佐竹 「ですね。幸さん、生水などには気を付けてください。危険な世界ですから、護身術くらいは習っておいた方が良いですよ」

 幸  「はい!」

 ロプ 「じゃあ幸、もう戻って来られないかもしれないけれど、いいんだね?」

 幸  「うん」


 幸の覚悟を確かめ、僕は今だこちらへと手を伸ばしたままのまだ名前も知らない女性の手を取った。反対の手で、幸の手を硬く握り締めたまま・・・・・・

 瞬きする間に、元の世界へと帰って来ていた。特に衝撃がある訳でもなく、何か抵抗らしいものも光に包まれたり暗闇に包まれたり、そういう事もなくごく自然と事故が起きたと場所と思える平原に降り立っていた。

 何故直ぐに元の世界だと判断できたのかといえば、遠くに野生の動物を見付けたのだけれど、僕にとっては見慣れた動物であっても、向こうにはいない動物を発見したからであった。


 ロプ 「帰って来た・・・・・・」

 幸  「ココガ、イセカイ・・・・・・」


 僕達はただ呆然と平原を見ていた。どれくらいそうしていたのだろうか? 異世界にまで迎えに来てくれた女性が話しかけて来た。


 ?? 「ロップソンの家は、ジャドの隣だったわね? 送るわ」


 そんな言葉にお礼でもと思って振り向く間に移動は終わっていて、見慣れた我が家の庭に立っていた。僕達をここまで連れて来てくれた女性は、そのままジャドの家に向かったので、僕達二人はそのまま庭に残される。


 ロプ 「幸。ここが僕の家だ。ようこそ我が家へ」

 幸  「工房があるのね。ロップソンらしい家だわ」

 ロプ 「ずいぶん昔の事に思えるけれど、僕は生産者として活動しながら、冒険者としても行動していたからね。生産者としてはこれからがんばって行こうって感じの時に、事故で向こうに飛ばされちゃったんだけれどね・・・・・・」

 幸  「ロップソンは、また冒険者として活動して行くの?」

 ロプ 「直ぐには復帰できないだろうな・・・・・・丸々四年ちょっとの時間冒険からかけ離れた生活を過ごしていたから、さすがに体が鈍っていると思う。今直ぐ冒険に出ると、おそらく大怪我する事になるかもしれないな。それに、幸にもこの世界のことを説明していかないといけないからね」

 幸  「今度は私の方が、いろいろと勉強しないといけないんだね」

 ロプ 「だな」

 ジャド「ロップソン。無事だったか!」


 名前が呼ばれたかと思うと、背中に覆いかぶさるようにしてジャドが抱き付いて来た。余程心配していたようで、どこかに怪我が無いか触って調べて来るのがこそばゆい。


 ジャド「どうやらなんともないようだな! ちょっとばかり太った気がするが・・・・・・まあそれくらいならどって事ないな! レイシアさん、今回はいろいろとありがとうございました」

 ロプ 「レイシアさんって、孤高の乙女のレイシアさんか!」

 ジャド「ああ、そのレイシアさんだ」


 ジャドが口走った彼女の名前に、思わず驚きの声を出した。そのレイシアさんはジャドのお礼の言葉に軽く頷いただけで、何やら幸と話をしている様子だった。


 ロプ 「おい、何でこんな大物が僕を迎えになんか来たんだ?」

 ジャド「そうは言うが、もう他に手段なんかなかったんだぞ? 魔術師ギルドなんかも当たってみたが、相手にもされなかったからな。迷走してたらお前の魔石職人としての今後の活躍を期待していたのにって、商業ギルドの人がブレンダ女王に掛け合ってくれて、レイシアさんとの連絡の付け方を教えてくれたって事だ」

 ロプ 「連絡の付け方? 知り合いなんじゃないのか?」

 ジャド「昔は同じ冒険者養成学校で同級生だったそうだ。今は気軽に会えない状況なんだと」

 ロプ 「まあ、いろいろあったんだろうな~」

 ジャド「だな。まあそれにしてもよかった。一度依頼を断られた時には、もう駄目だって思ったんだぞ」

 ロプ 「え、断られたのか?」

 ジャド「ああ、詳しくはわからないのだが、力の一部を失っているとか何とか。まあとにかく、力不足だって言われて初めは断られた。まあでもその後一・二週間してから試してみたい事があるって連絡が来てな。それでついさっき迎えに飛んでくれたところだったんだよ」

 ロプ 「うん? その説明だと事故から一ヶ月も経っていないじゃないか。レイシアさんと連絡が付くまでに何年もかかったのか?」

 ジャド「は? いや連絡が付くまでにそりゃあ時間はかかったが、それでも一週間ちょいだったぞ。だから事故の後からだと、一か月ちょっと過ぎたかな。あ、商業ギルドの期限は事故の話がいっているから、期限は停止しているから安心しろ」

 ロプ 「ああそれはありがたいが、僕は異世界で四年ちょっとは過ごしていたんだぞ?」

 ジャド「まじか!」

 ロプ 「まじまじ。だからたぶん体も鈍って直ぐに冒険は行けそうにないな」

 ジャド「まあ、仕方ないよな。ところでさっきから気にはなっていたんだが、あの子は何だ?」

 ロプ 「僕が異世界に飛ばされて、初めの頃に出会ってからずっと手助けしてくれてた子だよ。彼女から言葉とか教わって、いろいろと世話になっていた」

 ジャド「連れて来ちゃったのかよ?」

 ロプ 「ああ。まあなんとなく離れがたくて・・・・・・向こうではもう家族みたいにずっと一緒だったからな」

 ジャド「こっちは心配して、いろいろ動いていたって言うのに、女作ってよろしくしてたってか? 俺の心配返せってんだ!」

 ロプ 「悪かったよ。これでも向こうでは帰還方法をいろいろ調べたりもしたんだぞ。だが向こうはそもそもが魔力が無くてな。そう簡単に魔法が使えなかったんだよ」

 ジャド「魔法が無い世界か・・・・・・そいつはきついな・・・・・・よく生き残れたな?」

 ロプ 「いや、魔法は使えないのは確かだったけれど、その代わり人類に敵対するようなモンスターもいなかったんだよ。戦うとしたら同じ人間だった」

 ジャド「へー、ちょっと想像も付かんな」

 レア 「私はそろそろ行かせてもらうわ。依頼は完了でいいのよね?」

 ジャド「あ、すみません。ありがとうございました。」

 レア 「それでは、サチさんを危険に巻き込まないようにね」


 そう言うとレイシアさんはそのまま消えるように帰って行った。


 ロプ 「それにしても、さすが冒険者のトップと言われるだけあるな。無詠唱で空間転移を使うんだな」

 ジャド「だな。魔術師ギルドのギルド長でもできるかどうかわからんぞ。テイマーで、戦士でもあって、おまけに魔術師か? 真似しようとも思えないな。どれだけ才能持ちなんだ?」

 ロプ 「あれ、孤高の乙女は学校時代、落ちこぼれだったって話だぞ?」

 ジャド「はあ? デマじゃないか?」

 ロプ 「いや学校時代はほんとにおちこぼれだったって話だ。パーティーも組んでもらえなくて、ソロでダンジョンに潜っていたって話だぞ。これは当時ケイト教頭が担当教師をしていたって言っていたから、又聞きの情報じゃないよ」

 ジャド「ってことは何か? 人間努力したら、誰でもああなれるって事か?」

 ロプ 「さあ。そうなのかな? とりあえず長いブランクがあるから、しばらく冒険は出来そうにないな。幸の今後の生活の面倒も見ないといけないからな」

 ジャド「わかった。えっとサチさん、ロップソンが世話になったな、俺はジャドって言うんだこれからよろしくな!」

 幸  「ハイ、ヨロシクデス」

 ジャド「片言だけど、言葉は通じるな」

 ロプ 「まあ僕が異世界に行った時に、お互いの言葉を教え合ったからな」

 ジャド「ロップソン、体が鈍っているなら、一度学校で復習して来いよ。多少は感覚も戻るかもしれないぞ」

 ロプ 「そうだな。行ってみるよ」

 ジャド「じゃあ、またちょくちょく様子見に来るぞ」

 ロプ 「いろいろありがとうな。依頼で使った金は、いずれ返すよ」

 ジャド「おう! 気長に待つことにする」


 そう言って家に戻って行くジャドを見送り、幸を連れて家の中へと入って行く。まずは幸の部屋を用意しないとだな。後は幸に必要な生活道具もいるだろう。


 ロプ 「幸は今後どうやって過ごして行く? 冒険者になりたいとかなら、学校に入るのがいいと思うんだが・・・・・・」

 幸  「私には無理だよ。喧嘩もしたことないのに」

 ロプ 「じゃあ、僕が冒険とかで家を空けている間、安全を確保するような魔道具でも開発するか~」

 幸  「うん・・・・・・モンスターがいる世界なんて怖いから、そうしてもらえると安心かな?」

 ロプ 「とりあえず、今日からこの部屋を使ってくれ」

 幸  「ありがとう」

 ロプ 「今後の事は、おいおい考えて行こう」

 幸  「うん」


 とにかく突然環境が変わった為に、何をしていいのかがわからなかったので、一服した後に今日は休む事にした。

 そして一夜が明けた。

 幸のいた世界ではほぼ全ての物が、ボタン一つでできてしまうところだったな。それに対してこちらの世界ではいちいち手間ひまをかけて火を起すとか、あるいは魔法で火を付けるなどの行動が求められる。火を付けるという作業一つとっても残念ながら、幸にはきつい生活になることが予想できた。

 なので、早急に日常生活で不便に感じないような魔道具を、次々と開発する必要が出て来た。幸い、元の世界に戻って来たことで、ほぼ無制限に魔石を作る事ができるようになったので、早速基本的な火を起す魔道具と水を呼び出す魔道具を作る。

 あまりジャラジャラと魔道具を身に付けていると不便だろうから指輪に七つの魔石をはめ込んだ物を作り、必要になるたびに、魔法構成を調整して機能を追加するようにする。

 まずは単純に、キーワード『炎』によって任意の場所に火を呼び出す機能を付けて、続いて『水』によって、同じく任意の場所に水を呼び出せるようにした。このキーワードは日本語をベースにしている為、幸にしか扱えないと思われる。

 まあ日本語をマスターされたり、解析されたら終わりだろうけれどね・・・・・・

 さて続けて、火と水を組み合わせて『お湯』の機能を付けて、お次は『光』基本属性は一通り使えるように設定しておく方がいいかな? 『風』『穴』『闇』結構ぱっと必要なものって思い付かないものだな~。他のは一緒にいて、気が付いたら追加かな?

 じゃあ次は防御系だな。補助系の魔法をログロレットさんから教わったので、それを使って悪意を持って近付く者に対して自動的に結界を展開するようにしておこう。それと、あまり使う機会があるのは問題かもしれないけれど、攻撃魔法を使えるようにしておくかな。

 『精神爆破』これでメンタルバーストの魔法で相手の精神を吹き飛ばして無力化できるだろう。こんなところかな?

 早速台所で、どうやって火を起そうとか思って立ち尽くしていると思われる幸に、魔道具を渡すことにする。


 ロプ 「おはよう幸、魔道具を作って来たからこれを身に着けてくれるかな?」

 幸  「おはよう、ロップソン。これでいいの?」


 指輪を装備した幸に、火の起し方を教えて行く。


 ロプ 「まずはここの薪をここに置いて、薪を目標にして『炎』ってキーワードを言ってもらえるかな?」

 幸  「えっと。『炎』・・・・・・うわ、火が付いた!」

 ロプ 「よしよし。ちゃんと機能するし、目標の設定も問題無さそうだな。じゃあ次はこの鍋をここの金具に引っ掛けて、鍋の中に『水』又は『お湯』ってキーワードを唱えてくれるかな?」

 幸  「うん、やってみるね。『お湯』・・・・・・お湯が出た!」

 ロプ 「温度調節は、イメージでできるからね。今度から顔を洗ったりする時にはそれでお湯を出すといいかもね」

 幸  「あ、それとっても助かるかも!」

 ロプ 「じゃあ、今日のところは僕が簡単な朝食を作るから、わからないところがあったら言ってくれ」

 幸  「うん」


 そんな感じでいろいろ相談しながら朝食を準備して、二人でご飯を食べた後は、町に出かけて買い物をする事にした。幸は手ぶらでこちらに来たから、着替えも何も持っていない状態だからね。

 そんな感じで、まずは幸の生活環境を整える事を優先させることにする。まあそうしないと心配で、冒険者学校へ行ったりできないともいえるしね。


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