シェルター前攻防戦
登場人物 ロップソン=ロプ(台詞表記) 小林幸=幸(台詞表記) 鹿島雄二=鹿島(台詞表記) 佐竹寿美=佐竹(台詞表記) 武田亮二=武田(台詞表記) ログロレット=ログ(台詞表記)
佐竹さんを先頭にして、シェルターへと急いでいた僕達の前に、別働隊として先回りしていたらしいタルタロスのメンバーと思われる魔法使いが立ち塞がったのは、シェルターの前に辿り着いた時であった。
近くの壁が崩されているところを見ると、研究所施設の壁を破壊しながら進んで来たらしいね。やっぱり魔法使いには常識が通用しないようだ。よく見てみると、研究所のいたるところの壁や床に穴が開いていて、シェルターを探すのに走り回っていたことがわかるが、そんなことよりも今や自分の家ともいえる場所を破壊しまわった魔術師結社に、怒りが湧き出て来る。
ロプ 「焼き尽くせ、ファイアアロー」
完全に敵対行動だと判断して、待ち伏せていた十人の魔法使いに対して先制攻撃を放つ。
魔術師「空気よ凍れ、アイスシールド」
魔法数拡大で十人に発動された火の矢が、魔術師達がそれぞれに展開したアイスシールドによって遮られてしまった・・・・・・
佐竹 「ハッ!」
火の矢が飛んだ瞬間には走り出していたのか、佐竹さんが持っていた警棒で魔術師の一人に打ちかかっていたのだが、展開中のアイスシールドによって受け止められてしまう。
幸 「ショックボルト!」
佐竹さんを狙って魔法を使おうとしていた魔術師に向けて、幸さんから雷属性の魔法が飛ぶ。
彼女は元々戦闘行為が苦手だった為、攻撃力の無い、しかし敵の動きを束縛するような魔道具を渡しておいたので、それがここに来て援護射撃という形で役に立ってくれた。どちらかといえば、防衛用に作ってみたんだけれどな~
しかしそれでも相手は十人いるので、幸さんだけの援護では佐竹さんを助けるには至らない。
ロプ 「大地の怒りをここに、アースボム」
投擲タイプの魔法では相手に防がれてしまうので、魔術師の足元を吹き飛ばすことにした。
半数の魔術師がその攻撃に吹き飛ばされて床に転がることになったのだけれど、逆に言えば半分の魔術師にはかわされてしまった。
普通に耐えた者と、おそらく魔力の流れを読まれて瞬時に回避行動をしたのだと思う。さすがに魔術師を名乗るだけあって、魔法戦も慣れている者がいるようだった。
佐竹さんは、爆風に紛れるように距離をとって態勢を立て直している。
魔術師「マナよ吹き飛べ、メンタルバースト」
まずい! 僕は一瞬で精神力を活性化させてその攻撃に備えることができたものの、佐竹さんと幸さんは精神力を吹き飛ばされて、気絶させられてしまった。
ロプ 「闇より来たれ、メンタルストーム!」
このまま残った魔術師に精神力を削られれば抵抗もできずに捕獲されてしまうと思った僕は、闇属性の魔石から力を引き出して上位精神攻撃を侵入者十人に対して発動させた。
さすがに闇の魔石を一つ消耗させただけあって、十人全員の精神力を消し飛ばすことに成功したようで、彼らの捕獲に成功したようだった。ただ、たった十人の撃退に魔石を一つ消耗するのは効率が悪い気がして、もったいなく思ってしまったよ。
とりあえず、佐竹さんと幸さんをシェルターの中へと移動させてちゃんと寝かせることにする。そして捕獲に成功した魔法使い達から魔晶石や、触媒になりそうな物などを抜き取って、手足を縛った後で口も縛って自殺と呪文を唱えられないようにすることにした。
鹿島さん達は大丈夫だろうか? この十人が手練れで、他に実力者がいなければいいんだけれどね。とりあえずは捕獲した魔術師と、佐竹さん幸さん達とシェルターの中で待機させてもらおう。
案外殺さないように戦えっていうのは、難易度が高いな・・・・・・。殺さないで倒すには、メンタルバーストが一番いい気がするのだが、そうそう連発できるものでもない・・・・・・
そこでふと手持ちで良い物があるのを思いついたよ。
切り札の前方には爆発系の魔石が、後ろには誘導の為の魔石が付いている・・・・・・つまり前方の魔石を空の吸収形の魔石に変えて誘導してやれば、いちいち魔法を使わないでも相手の精神力を吸い取ることができるという理屈だ。
無力化が狙えて、こちらは魔力を活用することもできるという、一石二鳥の兵器が完成する訳だ。そして完成した切り札を見て、こいつの欠点がわかってしまった・・・・・・
これ、自分も投げる為には触らないといけないから・・・・・・投げる時に自分の精神力が削られる・・・・・・
発想は、悪くないと思ったんだがな~
何か進展するまでやることも無いので、敵が来た時の事を考えて、何か他の手立てを考えることにする。そして、棒のような物が精神を吸収したらいいのではと考え至った。早速シェルターの外の廃材と化した壁のところから鉄の棒を拾って来る。
魔石化するのならば銀の方がいいのだけれど、これも一応金属であるのでできなくは無い。魔法威力も要らないしね。変換効率はおそらく悪くなるだろうけれど、今回の場合はそこの部分はどちらでもいいだろう。
問題は、これの持ち手のところかな。このまま持っていたら自分の精神力が削られるので、即席で革を巻き付け、そこにさらに包帯を巻き付けて持ち手を作る。
せっかく作った切り札改良型も、ついでにこの棒にリンクさせよう。直接触れないのなら、この棒で誘導させたら持っていけるだろう。これで、一応の迎撃準備は整ったかな~
そう思って、シェルターに帰ろうとしていると、複数の足音が聞こえて来た。
魔術師の可能性が高いと考え、シェルターの扉を閉めて物陰に隠れて待ち受けることにした。幸い、ここには瓦礫が多く、隠れるにはもってこいだった。
やがて現れた者達は、魔術師の集団だった。数はおそらく三十人くらい? やっぱり多勢に無勢だったようだね。では早速改良型切り札の効果を試させてもらおうか~
棒を通じて命令を受けた切り札が、魔術師集団の最後尾を走っていた者に素早く飛んで行った。
ウッ!
魔術師「どうした!」
ばれないうちに、できるだけ多くの者の精神力を奪わなければいけないな。そう思い、できるだけ低空の足元を移動させて、次々と魔術師の精神力を奪って行った。
彼ら魔術師はこの世界の人間との混血とはいえ、精神力は極わずかであった為、気絶させるのは簡単だった。切り札がほんの一秒くらい接触するだけで精神力が尽きてくれるので、見付かりさえしなければなんとでもなりそうな感じだったのだが、まあそこまで相手も馬鹿ではないようだった。
それでも半数以上は気絶させることができたので、上々だろうね。
切り札が発見された以上、それだけで対処するのは難しいので、今度は僕自身の手で精神力を削らせてもらおうかな。
できるだけ音を立てずに素早く魔術師に接近する為に、切り札を僕の反対方向へと誘導して一気に襲い掛かることにした。
グッ!
さすがに鉄の棒で殴っているので、うめき声が出るのは仕方ないね。手短な魔術師数人にも一撃を入れて、驚きから立ち直るまでの間にさらに一人気絶させることに成功する。
こちらに気を取られている間に、背後から切り札を誘導してさらに二人を倒すのがとりあえず限界だった。
それでも僕の前で対峙している魔術師の数は七名とかなり減った為、かなりやりやすくなった感じだな。援軍がさらに来る可能性もあるので、こいつらもさっさと倒していかないと危険はそこまで変わらないな。
ロプ 「荒ぶる力よ吹き飛ばせ、メンタルバースト」
闇の魔石は消費してしまったので、腕輪に溜め込んでいた魔力で対象を拡大して、三人の魔術師の精神力を吹き飛ばす。本当なら相手から吸い取った精神力を使う予定でいたのだけれど、魔法一発分くらいの魔力くらいしか吸収できていなかったので、急遽温存していた腕輪の力を使うことにした。
ここで捕まったらどの道腕輪なんか、意味が無いかもしれないからね。
魔術師「おのれ! 溶け落ちろ、アシッドボルト!」
ロプ 「甘い!」
射撃系の魔法ならば、こちらの魔力吸収の棒で対抗できる。
魔術師「何!」
撃ち込まれたアシッドボルトを棒で吸収して、さらに驚いている魔術師の精神を奪って気絶させた。元々が肉弾戦の得意な連中ではない為だろう、ジャドのような素早さがないので僕でも十分接近戦で戦えそうな感じだった。ついでにまだ驚きから復帰できていない魔術師を攻撃して沈めて、残りが二人になる。
魔術師「マナよ吹き飛べ、メンタルバースト」
射撃系では勝ち目が無いと判断したのか、精神力を削りに来たので、僕も精神を活性化させることで魔法に抵抗しつつ、切り札を誘導して遠い方の魔術師を気絶に追い込む。
残りは目の前の魔術師一人だけ、援軍が来なければこれで最後になるな。そう思いつつ棒により攻撃と、回避された時に備えて切り札を飛ばす二段構えで、魔術師の精神を吸い取ることに成功した。
さすがにこれ以上はつらい。魔術師のメンタルバーストを何度かくらい、その上魔石化のスキルも使った為に、もうそろそろ僕の精神力も、残り少ない感じがしたよ・・・・・・
ここら辺りで休憩させてもらわなければ身が持たないと思い、シェルターの中に移動して扉を閉め、少し寝させてもらうことにした。
どれくらいの時間寝ていたのだろうか? 時計を確認してみると、大体三時間位経っていることがわかった。
外の様子はどうなったのだろうか? 扉横に設置されているモニターで扉の直ぐ前の様子を窺って見ると、鹿島さん達が魔術師達を拘束して休憩しているのが見て取れた。
一応幻覚や洗脳されていた場合など警戒しながらゆっくりと扉を開いてみると・・・・・・
鹿島 「やっと出て来たか・・・・・・扉の前に魔術師達が倒れていたから、おそらくは撃退したんだろうとは思っていたが、反応が無くて心配したぞ~」
ロプ 「申し訳ない、精神力を、削られて、休息していました」
鹿島 「そういう理由なら仕方がないな。で、後の二人は無事なのか?」
ロプ 「二人は、まだ中で、寝ています。おそらくは、明日一杯は、寝たままかと」
鹿島 「いや、無事ならそれでかまわんとも。こいつら倒したのも、ロップソンなんだろう?」
ロプ 「ええ」
鹿島 「やっぱり。護衛対象の方が強いっていうのも、なんだかなーって気持ちになるが、なんにしても無事でよかった。動けそうなら、さくっと結界を張って安全確保してしまおう」
ロプ 「そうですね」
そんな感じで、鹿島さんに護衛されながら八箇所に魔道具を再び配置して、結界を再度発動させることができた。これで一応の安全は保たれた感じかな?
鹿島 「お疲れ様~。ロップソンはどうする? この後軽く打ち上げでもするか? それとももう休むか?」
ロプ 「さっき、少し寝たところなので、少しだけ、お付き合いしますよ」
鹿島 「よしよし、じゃあ事後処理は後回しにして、さくっと飲もう~」
その後夜遅くまで騒ぐことになったのだが、さすがにきつくなって途中で抜けさせてもらったよ・・・・・・
翌日から、大規模な瓦礫撤去作業が始まった。それと平行して、仮設住居も建てられる。研究所はあちこちに穴を開けられたことから建物自体の耐久度がかなり下がり、その場限りの修繕ではだめになってしまったようだった。
研究施設全般の建て直しが必要になった為、今回の襲撃者の組織が保有する資産を全て没収するように、行動を起した結果、組織運営が損失で破綻することになったようだった。これで厄介な組織が一つ潰れたな。
今後は魔法使いによる敵対組織みたいなものが無くなり、次は産業スパイ的なものに注意が必要なんだと、武田所長は言っていた。
秘密結社ノアのログロレットさんは、このまま日本に定住して今後も魔法と科学の融合を目指し、研究をして行くという話になったので、本部からもう少し人員を呼び寄せてイギリスの研究チームを作るという話になった。
仮設住居の隣に仮の工房を作ってもらった僕は、産業スパイ対策の魔道具の研究を始めることにした。
元の世界に帰りたい気持ちもあるにはあったのだが、どうやらそれは難しいようで、どこから手を付けていいかもわからない状況だった為、今は地盤を固める作業に没頭することにしたよ。
いろいろな魔道具を開発していたら、偶然にでも帰る方法を作れたり、思い付いたりするかもしれないからね。いつになるかわからないけれど、帰る事を諦めないで日々を過ごして行くことにした。
さて今開発中の魔道具は、カメラによる盗撮を防ぐ為の魔道具である。
この魔道具が開発できれば、この研究所以外でも利用価値はかなり高いはず。妨害電波というものからヒントを得て、大気中に魔力をばら撒き、撮影された映像や音に異変を起させるという感じのコンセプトで研究中である。
魔力が機械に影響を与える研究自体は、そこまで手間取らなかったのだけれど、常に魔力を流したままという話になると、直ぐに魔力が枯渇してしまうので、必要に応じて魔力をばら撒くシステムを研究中だった。
ログロレットさんの協力により防御魔法は使えないままだけれど、探索魔法が使えるようになったので、研究は順調に進みだしている。
鹿島 「ロップソン、あまり根を詰めるなよ。研究所の建て直しが終わるまでは、盗まれるような情報など無いんだから気楽に行こうぜー」
ロプ 「確かに、そうですね」
佐竹 「私達は今後を考えて、魔法を用いた襲撃者向けの訓練もがんばらないといけないと思いますが・・・・・・」
幸 「佐竹さん、がんばってください!」
鹿島 「メンタルバーストだったか。あれはかなり危険な魔法だな。襲って来た魔術師自体もそれで簡単に倒せたそうじゃないか」
ロプ 「そうですね。やはりこちらの、世界の人間は、魔力が、無い為に、精神力の、総量自体も、少ないですから、あの魔法を、使われると、抵抗も、難しいでしょうね」
ログ 「我々魔術師は自身の精神力が少ないので、自力の魔法詠唱は不可能なのです。ですので魔法を使うには、魔晶石が絶対不可欠なアイテムになってしまっています。正直、アイテムの補助が無くても使う事のできるロップソンさんが、羨ましいですよ」
ロプ 「僕は、向こうでは、落ちこぼれですけどね」
鹿島 「あれだけ動けて落ちこぼれって、お前の世界の人間は、みんな超人だな~」
ロプ 「ああ、落ちこぼれは、魔法使いとしてです。これでも長年、冒険者はしていたので、そっちでは、ベテランですよ」
鹿島 「なるほどそういうことか。それなら護衛の俺達よりも、戦闘に関しては上なのかもしれないな~」
ロプ 「こっちでは、いろいろと、制限されていますから、そこまでの力は、出せないですよ」
佐竹 「制限とは?」
ロプ 「魔力が、枯渇している為に、僕の、魔道具の力を、完全には、引き出せません」
幸 「見てみたいですね~。百%の力を出しているところとか」
鹿島 「だな」
そんな会話をしていると余分な力が抜けて、焦らずに研究を続けて行けそうな気がした。
春になり、研究所の基礎工事が始まる頃、ついに日本で魔力が湧き出る場所が発見されたという話が出て来た。僕らは早速調査に出かけ、どのような条件が揃えば魔力が湧き出るのかの研究が始まる。
一応今までも富士山や神社など、魔力がありそうな場所を研究所の人達が回っていたのだけれど、反応が無かったという話だったので、ほぼ諦めていただけに嬉しい情報だった。
場所はどってことの無い森の中の泉付近で、特に由緒ある場所とか伝説みたいなものとか、そういう類のものは発見できなかった。何で魔力が湧いているのかな?
ログ 「イギリスでも、こんな雰囲気の場所でマナが湧いていました」
武田 「ということは、何かしらの共通点があるということだろうね。ちなみにイギリスではどれくらいそのマナの湧く場所があるのかな?」
ログ 「我々が知っている限りでは、三箇所程でしょうか」
武田 「何か共通項は発見できなかったのですか?」
ログ 「残念ながら、泉というところだけですね」
武田 「それだけでも、手がかりにはなりますね。泉を中心に探させて見ますよ」
ログ 「そうですね。それがいいと思います」
その後は研究所が完成するまで、ここでの調査が開始されるようだった。ちなみに僕は研究所へと帰還することになった・・・・・・危険だからという話だったが、調査も大事だと思うのにね・・・・・・
まあ工房が無いので研究所で活動するのが、僕としては過ごしやすいのかもしれないけれどね。そんな感じで、こっちへと帰って来たのは幸さん、鹿島さん、佐竹さんの四人だった。
結界も完成していて、わりと安全だと判断された研究所の敷地内に桜が咲いていたので、僕達はそこで花見をしながら、武田所長から調査がどうなったかを聞いていたのだけれど、特に進展なしという報告だった。
やっぱり僕も調査に加わるべきだったんじゃないかなと思ったりもしたけれど、やっと探査系が使えるようになったくらいの魔法使いでは、あまり役に立たないのかなって思い直す。
盗聴対策の魔道具は、現在調整段階まで進んでいるので、まあのんびりと花見をしながらやっていても、特に問題は無い感じだね。それと平行して、マナの湧き出す場所が見付かったのならば、魔力を貯める装置の開発もして行こうと考えていた。
魔法構造自体は、腕輪と近いものでいいと思うのだけれど、こっちの人間でも扱えるようにしなければいけないところが、ちょっと工夫が必要な部分だった。
とりあえず魔石に加工できるようにするのと、作った魔石を使いやすくする為に、乾電池という物の形に銀を加工してそれを魔石化させていくことにしよう。
どっちも大体の目星は付いたので、酔って忘れないうちにメモをして、後は花見を楽しむことにした。




