皇宮へ(7)
「まんまと騙されるところだった。この女を抱きたい気持ちはあるが、生き延びることが優先だ。交渉に応じないなら、この裏切り者の女を殺す」
第二皇子は手に持つ短剣を女性の左胸に近づけた。
その時、彼女のつけるペンダントが目に付く。
サイズの合わないドレスを着せられ、胸の辺りははちきれそうになっており、谷間の盛り上がりも不必要に大きくなっている。そのせいで本来であれば、ペンダントトップはその谷間に隠れるのだろうが、浮き上がって一部が見えたのだ。
(あれは……剣に絡みつくドラゴンでは!? なぜアトラス王太子殿下の身分を示すペンダントをあの人質の女性が身に着けているのだ!? 王太子殿下が自身の身分を示すような貴重なペンダントを、そう手放すはずがない。まさか、あの女性が盗んだ……? いやそれはあり得ない。あのアトラス王太子殿下に限ってそれはない。そうなると……まさか。まさかあの女性は……!)
「ベネディクト第二皇子、そちらの人質の女性は……マリナ・サラ・アシュトン嬢なのですか!?」
僕の言葉に第二皇子は悪魔のような表情で笑う。
「そうだ。お前たちが利用した僕の元婚約者で、爵位を剥奪された公爵の娘だ! 秘密の通路のことをこの女、お前たちに明かしたのだろう? 専属皇宮騎士の多くは、お前たちの手先と入れ替わることになった。だがさらに秘密の通路から侵入した専属皇宮騎士のフリをした輩がいるのだろう!? 全てを手引きしたのはこの女だ」
生きていらしたんだ、アシュトン嬢は!
「人質なんだ。ゆえに殺しはしないさ。だが帝国を裏切った。帝国民でありながら、皇家に反逆したんだ! 本当はこの女とお楽しみをするところだった。しかしお前らに邪魔され……。だが真実を知ることが出来た。この裏切り者のメス豚が! この陶器のような肌に、傷の一つができても、文句は言えないよな!」
「やめろ!」
剣を手に、駆け出そうとしたまさにその時。
ザッシュと音がして、その後に断末魔の叫びが聞こえる。
「アトラス王太子殿下……!」
「クウ、この下衆な男は縛り上げ、地下牢にでも入れておけ。明日の演説に皇族全員が必要なわけではない」
そう言うとアトラス王太子殿下は、右手首を切り落とされ、情けない叫び声あげる第二皇子の襟を掴み、アシュトン嬢から引き離す。そしてそのままその背中を蹴った。
アトラス王太子殿下が、あんなに人を乱雑に扱うのを初めて見たので、僕は驚きを隠せない。
常に冷静沈着であり、優しさに溢れ、温情のある王太子だった。
だが今の彼は、まさに戦の神そのものに思える。ブルートパーズのような瞳に、怒りの炎が感じられてしまう。
(彼は……彼を怒らせてはいけないんだ。普段は平和の神そのものだが、一度彼の怒りに火がついたら、とんでもないことになる……)
ドラゴンの宝剣をひと振りし、鞘に納めたアトラス王太子殿下は、アシュトン嬢の方へと駆け寄る。目隠しされている彼女は何が起きたのか分からず、腰が抜けたようにベッドのそばに座り込んでいた。
「アシュトン嬢、生きて……無事だったのだな」
そう言葉を発すると、アトラス王太子殿下から放たれていた怒りのオーラがスーッと引いた。優しくアシュトン嬢の体を支え、ベッドに座らせると、ゆっくり目隠しの布を外し、口にかまされた布を取っていく。
僕はハッとして、動きを再開させる。まずは絨毯の上でのたうち回る第二皇子を気絶させ、彼の着ていた上衣をちぎった。簡単ではあるが、応急処置で止血を行う。次に仲間に声を掛け、第二皇子を担がせた。このまま地下牢へと向かうことにする。
寝室を出る前、チラリと振り返ると……。アトラス王太子殿下は、アシュトン嬢の手首を拘束していたロープを外していた。
アトラス王太子殿下のあの眼差し。
あれは間違いない。
彼にとってアシュトン嬢は……。
そこでレイラ姫の顔が脳裏に浮かんだ僕は、何とも言えない複雑な心境になる。
「クウ、行かないのか?」
「! ああ、すまない。行こうか」
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