あのね、西の大国ドルマを制圧するの。
まず、国一つ。
私はエントランスに立ち、元国王の首をかかげると、民衆に曝した。
ここは私の国になったの。
今まで翻っていた旗を落として、新たな旗を掲げる。平仮名で「あ」って書いて私達の印。
「フレムちゃん、しばらく混乱すると思うけど、適任者を選任して安定させて」
「わかったよ、姉さん」
しばらくの間、減税だよ。それまでの供給を他国から持ってこないとね。一気に廃止すると戻す時に不満がでるからそれはやらない方がいいの。優しくしすぎると図に乗るのが人間だから。
「そうなると・・・・・・次はある程度、大きい所じゃなきゃ駄目かな」
ここは国と言っても、所詮人間が納め人間が住んでいた場所。
さらに悪政で国としての機能もほぼなしていなかった。
近隣諸国には目に留められないほどの小国。この大陸を実質支配してるのは二国、天人派のバルバリアと魔人派のドルマ帝国。この二つが二分していた。
五大陸あるけど、すべからず天人派と魔人派で見事に別れているね。
「ここは一応天人派だったから、次は魔人派かな」
片方に偏ると、片方が勢い付いて潰される。うまくバランスを取らないと。
だけど、そこにつけいる隙があるの。私達は第三勢力になるから、うまく誘発してくれるといいんだけど。
フレムちゃんとその護衛にパンドラちゃんを残して拠点へ帰還する。
雑務も必要だね。いくらフレムちゃんが優秀でも人出が足りない。
序盤はどうしてもゲリラ戦になっちゃう。まだ私達の存在が公になってない今なら、奇襲で強引に当主の首を取れば簡単かな。
と、次まではいいけど、その後はそう殺せばいいじゃないでは駄目だから、情勢をちゃんと見なきゃだよ。
ここで、もう一段階下地を作る。
数日後、改めて皆を集めて会議に入った。
「さて、次の行動だけど・・・・・・フレムちゃん、よろしく」
「うん、姉さん」
フレムちゃんが私の変わりに説明を開始した。
「まず、みんなもご存じの通りに、国・・・・・・っていうか城には一人、城守って呼ばれる戦士だか騎士がいるよね」
妹達も頷く。この世界では常識なのだろう。
「前回は小国ゆえ、姉さん達の誰かが気づかないまま倒しちゃったけど、大国になるとそうはいかない」
「そんな事今更だろう」
オニチナちゃんが口を挟んだが、フレムちゃんは構わず続ける。
「そうね、でもこれからの話に関係があるの。実はこの大陸の西、ギャラクラが最近城守を募ってるわ。なんでも現職がもういい歳みたいね。それで、ちょっとした選考会が開かれてる」
ここで、妹達が感づいた。
「・・・・・・あぁ、なるほど。城守は手っ取り早く高い地位を得られるしな。王族に簡単に近づける」
「そういうこと。で、パンドラかオニチナのどちらかがちょっと城守になってきてよ。あちらとしても竜人と鬼人ならその時点で合格点をあげるかもね」
「ふむ」
「そして、その少し南のノームによる領地では領主が跡取りを探している。後継者はいない、領主はかなりの高齢で明日もわからない身。ここは、同じノームで優秀な私が行こうと思う。領地では数々の問題を抱えているようだから、それを解決してやればすんなり信用してくれるでしょう」
フレムちゃんは自信たっぷりに眼鏡を光らせた。私もフレムちゃんなら問題なく取り入ることができると信じている。
「今の拠点が大陸の最南端、この前落とした国がここから少し北、大陸のへそ辺り。私達は西方から陣地を広げていこうと思ってる。そして姉さんには西の大国、ドルマ帝国を落として頂くよ」
大陸の西は海が広がるだけ、こちらからの侵攻はない。北西は竜人達が住む島国があるけど、あそこはこちらが仕掛けなければ手を出してくることはないって、パンドラちゃんのお墨付き。
別に全部落としていく必要はないの。同盟を組める所は協力した方が得策。
「ドルマ帝国は強大だけど、一枚岩ではない。内部でかなりグチャグチャしてるからね。皇帝はまだ若く、それゆえ愛人に唆され正妻である女王を追放、そこで同情した国民が騒ぎ立てている最中だよ。私は女王派と組んで皇帝派を速やかに殲滅するね」
ドルマが落ちたら、東の大国バルバルアが黙っていない。でも本来、隣国とは同盟を組んでてもおかしくないけど、魔人派と天人派という特殊な事情がそういった関係を簡単には結ばせない。そこが国と国を孤立させている要員。さらに種族間での確執もある。
私はそういうのを全部とっぱらって、魔人派も天人派も関係なく、葵派として纏めるよ。
妹達がいいモデルだ。みんな種族はバラバラでも私を中心に仲良くやってるもの。
「さてさて、利用できる者は利用して。いらない者は全部殺して。さっさとノスタルユーリ、大陸統一しちゃうよっ!」
私が腕を上げると、妹達も続いて掛け声を上げた。
三週間後、私とパンドラちゃん。そしてエルフの双子、エルシーちゃんとエルダちゃんがドルマ帝国の裏門近くに潜む。
辺りは闇に包まれていた。星一つなく、すでに天辺は越えている。女王派との接触は済ませ段取りは決まっていた。城の見取り図も頭に入れたし、城守の詳細もわかっている。
女王派とは別の反皇帝派なども取り込んで、私は一気に皇帝の首を頂くの。
現女王はドルマの高官の娘で、その高官がかなり智英高く人気が高いみたい。つまり、この高官が反乱の礎を担う人物。皇帝を無き者にした後はこの人を頭に据えれば混乱も押さえられるよね。でも、ちゃんと首輪はしとくつもり。
時間になった。一人の兵士が私達を手引きする。
「いくよ。エルシーちゃん、エルダちゃん、よろしくっ」
「ハイぞなっ!」「了解ぞなっ!」
突入は私とパンドラちゃんの二人。隠密行動で即時決戦。
まず、私は自分で自分に強化を施す。
ドルマの国民は大半が異種間配合の混合人。人間の次に多い混血種族。
城守はうまい具合に異なる種族の特性を継いだ超人。
武器は間に合わなかった。しかし相手の力量が未知数なら今出せる最大限を引き出すまで。
「いいよっ! お願いっ!」
「いくぞなっ!」「ぞなっ!」
強化を終えた私に、エルダちゃん達の魔法が発動する。
二人が唱えたのは私と同じく上級強化魔法。
つまり、重ねがけってわけだよ。倍ではなく乗だから、上昇率は跳ね上がる。
体に黒いオーラが纏わり付く。まるで締め付けられるよう。
「姉様、人の身では五分ももたないぞなっ!」
わかってるよ。今にも手足がもぎれそうだもん。血がすごい勢いで体中を巡ってるみたい。
「では、姉者。行くとするかの」
パンドラちゃんが槍を構えた。私も両手にナイフを握る。
手引きの人には申し訳ないけど、悠長に城門から入ってられないよ。桟橋も降ろせないしね。そもそも、この人が姿を表したのは、皇帝と城守が離れたから。もうそれが分かっているのなら問題はない。
「じゃあ、私に続いてっ! 私は真っ直ぐ皇帝を仕留めるね」
「了解じゃ」
言い終えて、飛ぶ、闇夜を切り裂くように城門を私達は飛び越える。
黒い服なのも相まって見張りには認識されづらいはず。
着地すると足が悲鳴を上げた。激痛が走る。でも、私は構わず前に駆けた。
残像を残しながら移動していく、パンドラちゃんはさすがだね、息一つ切らさずに私に付いてきている。
途中、庭園に見回りの兵が何人もいたけど、私達が通りすぎると、兜をつけた首がポロポロと落ちていった。城が目の前に迫る。前回のとは比べものにならないほど大きい。
でも迷うことはない。ルートは頭に入ってる。最短ルートを走る抜ける。
城に入ると、兵士がごろごろ目に入る。目に付いた者から順に私は動きを止めずに回転しながら喉を裂いていく。切れ味は意味を成さない。圧倒的なスピードで鎧ごと引きちぎっていった。
声を出す前に仕留めているけど、さすがに数が多い。仕留め損ねた兵に増援を呼ばれた。
「・・・・・・これは城守にぶつかっちゃうかなぁ」
出来れば鉢合わる前に終わらせたかったけど。そううまくもいかないか。
階段と登り、屋外に出ると皇族が住まうパラスが見えた。
ここが最終防衛ライン、近くに当然兵達の詰め所も構えてあった。
そこから蟻のように兵士達が湧き出てくる。
「しゃあぁああっ!」
私の眼前に槍の先端が飛び込む。咄嗟に上半身を屈めて避けた。強化状態じゃなけりゃ今頃顔が半分になってたよ。すごい切り込みだった。他の兵とは一線を画す。
足を止めざるを得なかった。こいつがあれだよ、城守って奴だね。
「侵入者めがっ! 晒し首にしてやるわっ!」
私の何倍も体格がいい、大柄な兵士。ドルマの城守は巨大な槍を振り上げる。
超重量の鎧もなんのその、俊敏な動きで私に迫る。
私の横腹を狙った横凪の刃が、もう一つの刃で塞がられた。
「おいおい、うちの姉者に刃を向けるとはなんと無礼な」
パンドラちゃんが片手で城守の槍を押さえていた。
「りゅ、竜人だと!?」
暗闇でも頭から生える二本の角が存在感を露わにしている。パンドラちゃんを一目で竜人だと気づいた城守は冷静ではいられないだろう。
「さ、姉者はこのまま先に行くのじゃ、帰ってくる頃には終わってるじゃろ」
「うん、よろしくねっ!」
今の状態なら私でも倒せるだろうけど、なにぶん時間が限られてる。
私はパンドラちゃんの言葉に甘えて、パラス前に組する兵達を薙ぎ払いながら中を目指した。




