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グレッグ砦





 イリスがベアトリスから精神魔法を習っていく。それは実地訓練のように、基礎を教わってからイリスはベアトリスから何度も精神魔法を行使される。

 その都度、互いに相手の精神魔法を解析し、理解を深めていく。イリスは自らの体内に魔法回路を作り上げ、精神魔法専用に数本用意する。その用意した場所にベアトリスからの精神魔法を流し込んで、相手の魔法を複製していく。本物と複製の違いはあれど、互いにギャラルホルンを持つからこそ可能な方法だ。

 こんな方法なため、三ヶ月ほど経つとイリスの精神魔法をかなり強くなった。

 他の聖女候補は何人かが精神が壊れてしまったが、そういう者達はベアトリスの精神魔法で治療されて聖女候補から外されていく。聖女候補として残ったのはアリアドナとイリス含めて、数人のみだ。

 そんなイリス達はベアトリスの前に集められ、整列させられて羊皮紙が配られる。羊皮紙には結果が書かれている。


「さて、三ヶ月間の訓練、ご苦労様でした。最前列にいらっしゃる皆さんは合格です。よく頑張りました。後は神殿に戻り、次の過程に進んでください。後列にいらっしゃる皆さんは不合格です。希望する者だけ残れば補習を行います。それではこれからの皆さんの活躍を期待しております」

「「「「ありがとうございました」」」」


 全員が頭を下げてお礼を言ってから、解散する。解散したイリス達は浸かっていた物を片付けていく。イリスも例外ではなく、レナとニナと共に片付けていく。


「ご主人様、片付けが終わりました」

「こちらも終わったよ~」

「ありがとう。こっちも終わったから、休憩にしよう」


 レナとニナが室内の小物を片付け、イリスは設置したウォーターベッドを片付けていく。この室内、普通はもっと質素で硬いベッドだった。だが、イリス達が改造して快適空間に作り変えられていたのだ。


「これからどうしますか?」

「カリキュラム通りなら、戻ってからすぐに次の課題が与えられる。レナ、そうだよね?」

「確か、次の課題は自分を最低限護衛できる部隊を自分で用意することでしたね。期限は五ヶ月で、終わると次の課題が与えられます」

「私達は大丈夫だよね。すぐにいけるし~」


 イリス達は自らの家臣団で作りあげた傭兵団がある。この者達を護衛に使うことでこの課題はクリアとなる。


「そうだね。この五ヶ月、どうすごしても最終的に護衛を用意できたらいいから、最初は休みにあてよう。多分、そのように組まれているはずだし」

「そうだね。休みなく朝から晩までずっと働きっぱなしだったし、休みは欲しいね~」

「それがいいかと思います。護衛を集めたら、神殿が発行する特別クエストを受けていき、護衛の戦力が十分であるか試す期間に入るそうです」


 この特別クエストは他が発行するクエストと難易度は同じでも、報酬額が違う。神殿から聖女候補の護衛には補助金がでているからだ。それにその聖女候補が聖女になれば、そのまま神殿騎士として目仕上げられるので、他の科の人にとってもこれはチャンスである。


「それでは三ヶ月ほどゆっくりとしますか?」

「まさか。そんな無駄な時間は過ごせないよ。タイムリミットは近付いてきている。まずは三日を休みということにして、街で買い物をしてからグレンの下へと向かう。そこで相談してから、最初の一ヶ月で皆の身体を更新する。それが終われば依頼を受けて資金稼ぎだ。その資金を運用していくつかの商会をばれないように乗っ取る」

「なるほど、わかりました」

「わかんないよ~教えて?」

「あとでね~」


 イリスは乗っ取った商会を利用して、全く関係のない存在としてヴァルハラの情報を集めるつもりなのだ。


「まあ、どうでもいいや。ニナはご主人様の猟犬として襲ってくる敵を駆逐すればいいだけだしね」

「よろしくね~」

「任せて」

「そもそも、護衛はリタがいますので、必要ないかもしれませんが……」

「三人で護衛して、二人が常に傍にいるからいいんだよ。一人は休憩や遊撃に回せるからね」


 リタはイリスの中に常に潜んでいる。彼女は自らの存在を薄くし、イリスに纏わせることでイリス以外が知覚できないようにしている。


「わかりました。それではしばらくは休憩ですね」

「だね。流石に三ヶ月も動きっぱなしは疲れた」

「おやつが食べたい~」

「リタは油揚げがたべたいぞ、です」

「みんなで食べにいこう」

「「やった、です」」

「やれやれ……」


 皆で片付けが終わり、部屋を徹底的に綺麗したイリス達は馬車の駅へと向かう。そちらでは馬車に乗るために結構な行列ができている。


「レギン」


 並んでいると、声をかけられて振り返る。そこにはベアトリスが経っていた。


「ベアトリス教官。色々とお世話になりました」

「こちらこそ、戦線を支える上で大変助かりました。あなたの成長には驚かされました。これからの活躍を期待できるほどです。ぜひ、聖女になってください」

「ありがとうございます」

「それでは、我が主のためにあなたが聖女になることを楽しみにお待ちしております」

(彼女は我が主の新たなる代行者になりえる存在か、見届けねばなりません)

「はい。頑張らせていただきます」

(ベアトリスの楽しみって、絶対にろくなことにならないだろうね……)

「っと、順番ですね。それでは」

「はい。また会いましょう」

(会いたくないけど、合わないといけないんだよねー)


 二人は互いに思う事をしることができる精神魔法を持っているが、それ故に精神防壁を強固にしているために読めない。


「匂い、覚えた?」

「覚えた。問題ないよ」

「私もです」

「そっか。じゃあ、乗ろうか」


 三人が馬車に乗る。しかし、馬車はいったばかり、中は空いている。そこでイリス達は奥の部分に座る。


「眠いから、膝かして」

「どうぞ」

「すぐにシートを引いてクッションを置くね」


 ニナはシートを引き、クッションを置いていく。レナが座り、その膝にイリスが頭を置く。ニナも後ろに座ってイリスの足を自分の膝の浮いて満足そうにする。


「お休みください」

「ついたら起こすからねー」

「お願い~」

(ベアトリスのことで疲れたし、これで少しはゆっくりできる……)


 ほぼ寝ないで三ヶ月を過ごしたイリスは、そのまま安心しきった表情で眠りだした。



 少しして、他の聖女候補が乗り込んできた。その中にはアリアドナや綺麗洋服を着た貴族の少女もいる。その少女もどうにか試験に合格した聖女候補の一人だ。

 彼女は平民であるアリアドナやイリスのことをよくよもっていないようで、ちょっかいをかけている。しかし、眠っているイリスは一切関与していない。イリスのほうにちょっかいをかけようとしても、護衛である二人が邪魔をする。スコルとハティを宿している二人と、影に隠れているリタの殺気だけで震えあがり、近づけなかったからだ。







 イリス達がいなくった後、グレン達はクリシュナの指示に従って洞窟の最下層にある、隠された遺跡の修理を開始する。洞窟その物を閉鎖して一部のパーティーは討伐させて素材、ゲームでいうドロップ品を集めて提出していく。表向きは問題ない。監視員は毎日夜にお酒に突合せ骨抜きにしていく。

 裏ではドワーフ達が別の穴を開けて、そこから資材を運び込んで修理を進めていく。ユミルの炉まで設置され、必要な螺子などを作っている。


「どうだ?」

「修理と同時に生体パーツやブレインコンピュータの量産を行っております。そちらはどうですか?」

「ゴーレムの製造と教えてもらった船の製造を行っている」

「了解しました。いざとなれば、マスターのためにここに秘匿した戦力を放出してヴァルハラを強襲します。そのためにもよろしくお願いいたします」

「任せておけ」


 地下に潜った彼等はイリスのために準備していく。来るべき日のために。



 ヴァルハラ以外でも当然、動きあがある。アスタリア帝国だ。そちらでも動きがあった。動いたのはイリスの兄であるジェラルド・フォン・エーベルヴァイン。

 軍服に身を包んだ美青年の彼は膠着しているトゥルガ王国にあるグレッグの砦からイリスがヴァルハラに戻ったタイミングで動いた。これは偶然ではなく、常にイリス傍に監視をつけているからだ。

 そんな彼は空を飛ぶブラックドラゴンの上に立ちながら、両軍が激突しているグレッグ砦を見詰めている。


「操られた人形共か。情報通り人形使いがでてきているのか。ならば、やることは一つだな。甦れ、死した我が英霊達よ。今一度、現世で我等が宿敵を撃ち滅ぼせ」


 召喚の魔法陣を戦場全体に生み出し、骸骨の兵士を大量に召喚する。ベアトリスの対策として精神操作が効きにくいアンデットの兵士を使うのだ。


「契約者たるジェラルド・フォン・エーベルヴァインが命じる。スケルトンドラゴンよ、辺り一帯を毒に染めて砦を破壊せよ」


 普通の召喚ではなく、契約したスケルトンドラゴンを呼び出し、猛毒のブレスを吐いていく。地上は瞬く間に猛毒の沼に覆われ、地獄となる。アスタリア帝国の者達は即座に撤退し、無駄死にを避ける。しかし、トゥルガ王国の兵士はそうはいかない。ベアトリスの精神魔法で操られている彼等はそのまま突撃していき、毒で溶けてアンデットの兵士に斬られていく。


「さて、今日こそ彼女を捕らえにいくとしよう」


 ブラックドラゴンが飛翔し、グレッグ砦を超えてさらにその先の街へと移動する。そして、更にその先に移動する。同時に事前に用意して仕込んでおいた召喚陣を発動する。それによって街を包囲し、攻め込んでいく。


「見つけたぞ、人形使い、ベアトリス」

「何故ここが……」

「教えることはない。それよりも、降参して俺の軍門に降れ。貴様と俺が組めばできることは多い」

「お断りします」

「妃にしてやるぞ」

「それでも、お断りです」

「そうか。ならば、無理矢理にでも物にさせてもらおう。それほどに貴様の力は必要だ」

「させません。来てください、ドミニオンっ!」


 本来ならばここでベアトリスは逃げられるはずだった。イリスがいなければ、その街にベアトリスがいて、どんな姿をしているかなんて彼が知るはずがなかったのだ。だが、イリスを監視している今回は違った。ましてや、本来は聖女の護衛もいたのだ。だが、イリスのことを警戒してヴァルハラの防衛力強化に戻した。これによって、ベアトリスを護衛する戦力は決定的にかけてしまった。ここで戦闘に特化した聖女がいればまた話は別だった。

 しかし、入念に捕らえる準備をしたジェラルド・フォン・エーベルヴァインに軍配がくだり、聖女であるベアトリスは捕らえられることとなった。彼女の護衛は全滅し、彼女だけを誘拐される。それが今回のジェラルド・フォン・エーベルヴァインの目的だった。


「これは思わぬ拾い物だ。本来は弟の援護にきただけなのだが……素晴らしい誤算だ。これはイリスを褒めなくてはいけないな。厄介な奴を手に入れられたしな。だが、あのガマガエルの父上と同じというのはいただけないが……それを我慢するだけの価値はこいつにはある」

「ぐる?」

「食べ終えたのならいくぞ」


 ブラックドラゴンが食べているドミニオンを飲み込み、そのまま飛翔していく。彼の手には気絶したベアトリスが鎖で雁字搦めにされて抱かれている。ギャラルホルンも取りあげられているので、これでイリスの目的も達成だ。だが、それは報告されたらだ。ジェラルド・フォン・エーベルヴァインはもちろん、報告せずにベアトリスを懐に入れたままにするので、イリスの仕事はこのままである。

 こうして、歴史は修正不可能な影響が与えられた。イリスが存在しえなければ進むことはありえないルートだ。これからイリスの行動によってどんどん歴史がかわっていく。





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