表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/28

槍の聖女との遭遇




 クリシュナによって案内され、外に向かっているイリスとリタ。リタはイリスの中に入り、イリス本人は歩きながら考え事をしていた。


「クリシュナ、この施設って修理できる?」

(この施設、このまま破棄するのって問題ないんだよね~)

「可能かと思われます。それ相応の技術と素材が必要なのですが……」

「わかった。クリシュナ自身が直せるの? 私達にはそんな技術はないけれど……」

「可能です。しかし、必要な資材はどうするのですか?」

「こっちで用意するよ。そうだね、私の配下の者達がいるから、その人達を使えばいいよ」

「了解しました」

「ああ、肝心なところを聞いてなかった。どんなのが作れる?」

「衛星からマスターに埋め込んだ瞳まで、なんでも作れます」

(これはすごく助かるね。これからのことを考えると、私には傭兵団ではなく、軍隊が必要だ。そのためにもここで作られる兵器は使える)


 イリスは未だに自分の領地を一欠けらも所持していない。先の落としたノルニラ連合国の領土は父親が奪い取っている。つまり、イリスには自由にできる土地がないということでもある。そうなると武器の生産などなかなかできないので、この現代よりも進んでいる古代技術の生産地はイリスにとって宝の山だ。


「じゃあ、よろしく頼むよ」

「イエス、マスター」


 外に出ると、ニナやグレン達が待っていてくれる。彼等と合流したイリスは早速、クリシュナを紹介する。


「今回の探索の目的は彼女。見た目通り、古代兵器の人型機械だから」

「クリシュナです。よろしくお願いいたします」

「俺はグレンだ。こっちがアイナとユイナ」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

「私達はご主人様のメイドで、ニナとレナだよ」

「私が姉のレナです。それでこれからどうなさいますか?」

「それなんだけど、ここを私達の拠点とする。クリシュナの指示に従って施設を直して欲しい。それとやばい物はさっさと運び込んでしまって。私は予定通り行動するから、普段の護衛はリタとレナ、ニナにお願いする」

「了解。それじゃあ、よろしくたのんます」

「おう。クリシュナだったか、どこに運んだらいい?」

「こちらです」


 ドワーフの人達が洞窟の中にユミルの炉心などを運び込んでいく。イリスはアイナとユイナをリーダーとして森の探索に戦闘部隊半分を派遣する。残り半分の部隊をこの場の護衛としてグレンに指示して周りの山の木を切らせて防衛施設を作らせる。


「ところでイリス、ここにこんなの作っていいのか? 許可とか……」

「あ~うん」


 当然、神聖王国王都ヴァルハラとは距離がかなりあるが、それでも近郊と呼べる場所にある山だ。こんなところに正体不明の軍事施設があれば、神殿側としても気が気ではないだろう。


「許可とらないといけないかな……っと、そろそろ迎えがくるみたいだ」


 虚空を見詰めながら、イリスが笑う。イリスの瞳には軍事衛星から撮影された地表の映像が写っている。その映像には複数の騎馬が列をなしてこちらに向かってきている。どうやら彼等は王都から馬車の跡を追ってきている。


「迎えというと、連中か」

「だね。ああ、そうだ。全員にもう一度私達の立場を通達しておいてね」

(それにしても、やばい連中がきたや。まあ、王都の近くなら仕方ないけどね)

「俺達がノルニラ連合国から落ち延びてきた貴族の娘とその配下ということだろ?」

「そうそう」

「わかってるよ」


 イリスとグレンが話している間にニナとレナがお茶の用意をしていく。しばらく二人のお茶を楽しんでいると、イリスの前に普通の騎士団ではなく、神殿に所属する聖騎士団がこちらにやってくる。

 彼等は白銀の鎧を身に纏っており、槍と乙女が描かれた旗をもっているものもいる。彼等は槍の聖女と呼ばれるエルサ・ストレームの騎士団であり、その任務は聖女の護衛である。

 肝心の聖女は長い金色の髪に碧眼の美しい女性で、上半身が白銀のブレスアーマーで下はスカートになっている。彼女の手には光り輝く聖槍が握られている。彼女こそが槍の聖女と呼ばれる聖槍グングニルの使い手であり、ヴァルハラの守護者エルサ・ストレームである。


「ストレーム様、目標を発見致しました」

「ご苦労様です。目標の保護をお願い致します」

「了解しました。対象を殲滅し、目標を保護します」


 エルサ・ストレームが槍を示すと、騎士団の一部が槍を構えて突撃(ランスチャージ)してくる。その軌道はどうみてもグレン達を殺すつもりだ。彼等聖騎士団にとって目標はあくまでも誘拐されたイリスなのであり、他の連中はどうでもいいのだ。


「グレン」

「おうよっ!」


 グレンが留め具を外して深紅に染まったミスリル大剣を背中から取り出し、正眼に構える。すると魔法回路の活性化により、溢れ出る魔力がグレンの身体に無数の線を光らせる。同時に大量の魔力を受け取ったサラマンダーのヴァルフレアが大剣から炎が噴き出させて巨大な刃を形成する。


「全軍防御なさいっ!」

「「「守護の盾っ!!」」」

「ヴァルフレアっ!」


 突撃してくる聖騎士団は三列に即座に移動し、盾を構えて聖女のエルサ・ストレームと共に魔法を発動させる。障壁が展開されると同時に振り下ろされた炎の大剣が激突する。

 そのまま降りぬかれた大剣の炎の刃は一旦砕けるが、すぐに再生する。その間に戦乙女達の剣技の通りに次の剣戟が放たれている。グレンからしたら大剣を振って剣舞をしているような感じであり、その攻撃速度は凄まじく速くて数も多い。


「なんだとっ!」

「アレは……」

「このままでは突撃が持ちませんっ!」


 イリス達に到達する前に障壁が砕かれると同時にグレンの炎も消滅する。そこに希望を見出すが、次の瞬間には森の中から大量の矢が飛んでくる。即座にエルサ・ストレームが槍を振るって矢を吹き飛ばす。


「ストレーム様を守れっ!」

「「はっ!」」


 矢の次は強力な魔法が準備されていた。その魔法は空から降ってくる炎の塊だ。炎の塊が着弾すると周りを焼き尽くして炎を巻き散らかす。当然のように聖騎士団と聖女は無事ではあるが、この炎はいわば餌なのだ。


「喰らえ、ヴァルフレア」


 周りの酸素と魔力を吸収した大量の炎はサラマンダーのヴァルフレアに吸収されていく。部隊員の魔力も吸収したサラマンダーは更に力を増していき、グレンの身体その物にも炎を身に纏わせる。


「いくぞっ」


 足裏や背中から炎を噴出させて加速し、相手の突撃を正面から粉砕する。聖女を護衛する聖騎士団はヴァルハラ王国でも最精鋭であり、その戦闘能力は一人一人が部隊のエースクラスだ。それが聖女の支援を受けるのでかなり強い。

 しかし、グレン達も負けていない。そもそもが、魔法回路により肉体と魔法が狂った領域で強化されている。そこにこれからの戦争で禁断や禁忌とも言われる憑依召喚を実行している。その上、英雄クラスの戦乙女達が身体に染み込ませて無意識でも使えるようにした戦闘技術は人の到達できるレベルではない。それに周りの部隊からの援護もある。


「おらっ!」

「くっ!」


 グレンは圧倒的な力と技術で突撃を止めて、相手の武器を破壊して燃やしていく。しかし、相手の攻撃をグレンも受けてダメージを追っていく。だが、グレンにはリジェネ―ションの魔法回路や炎の鎧があるのでほぼ問題ない。つまり、持久戦はグレン達が有利である。しかし、それは聖女自身が動いていないからだ。


「そこまでです」


 聖女であるエルサ・ストレームが槍を地面に突き刺した状態で透き通るような綺麗な、声を発すると大量の中級天使が召喚される。それらは森の中にいるイリスの配下にも狙いを付けている。


(うわぁっ、すごく頭が高いとかいいたくなるね。よし、言っちゃえ)

「帰ってください。邪魔です」


 しかし、そんなことは言えない。これでも一応、イリスはスパイなのである。そう、一応。しかし、天使達の反応は即座に起こされた。レプリカとはいえ、ギャラルホルンを通して発せられた命令であり、その身により上位の存在であるレギンレイヴを憑依させているので天使は逆らうことができない。


「なるほど。どうやら誤解があったようですね」

「そのようですね」


 イリスとエルサ・ストレームが互いに距離を取りつつ、護衛を挟んで笑顔で笑いながら対峙する。互いの護衛は主人を守ることに必死だ。どちらにとっても死地のような感じである。なにせ、この二人は護衛などより圧倒的に強いのだ。

 その二人が戦えば被害が大きいことは確実で、巻き込まれたらグレン達も死ぬ可能性が高い。


「こちらは貴女が誘拐されたと聞きましたが……」

「誘拐なんてとんでもないです。この人達は私の家臣であり、所属する傭兵団の仲間であり、大切な家族です」

「なるほど。メイドを連れているとのことだったので、貴族の方のようですが……詳しいことを教えていただけますか?」

「そうですね。では、まずは互いに武装解除を行ってお茶会でもしましょう」

「ええ、それは素敵な提案ですわね。全員、戦闘態勢を解除してください」

「グレン、こちらもです」

「了解」


 聖騎士団もグレン達も互いに武器を仕舞って、森の中にいる者達もでてくる。それでも互いに警戒はしている。その間にレナとニナが用意していたテーブルを互いの中央に運んできてお茶を入れていく。


「では、まずはわたくしから自己紹介とまいりましょう。わたくしは聖槍グングニルの聖女、エルサ・ストレームと申しますわ」

「私はレギンと申します。残念ながら家名は収めるべき領土と共に失っております」

「それは……」

「はい。帝国とノルニラ連合国の戦いの結果、家名を一時的に失いました。もちろん、取り返すつもりです」


 イリスは嘘はいっていない。帝国とノルニラ連合の戦いの結果、イリスはエーベルヴァインの家名を一時的に失っている。そして、この作戦が成功すれば家名は取り戻せるのだ。


「辛いことを思いださせてしまいましたね」

「いえ、問題ありません。私には皆がいますから」

「それについてですが、詳しいことをお願いいたします」

「はい。実は……」


 イリスはエルサ・ストレームに説明していく。その内容はノルニラ連合国からやってきて、傭兵団として登録してお金を稼ぎながらヴァルハラを目指してやってきたこと。

 しかし、そのまま全員でヴァルハラに入るのは、人数も多くて要らぬ誤解を招くことや資金の面から考えて近くで稼いでからにしようということになったこと。そのため、ここでしばらく野営することにしたこと。

 そして、街に少人数で買い出しなどに入ったら、そこで丁度、聖女候補の募集をしていたので、天使を元から呼び出せたから受けたことを話す。

 しかし、聖女候補になるとヴァルハラからださせてもらえなかったので連絡がとれずにいたところを心配して迎えにきた仲間達と合流して外にでてきたとの話をする。


「つまり、誘拐でもなんでもなく、確認したら帰る予定だったと」

「はい。ここまで付いて来てくれている皆を放りだすわけにはいきません。といっても、現状ではこれからどうするか考えているところなんですよね。ここはダンジョンのようですが、制圧するわけにはいきませんから……」

「そうですね。許可がないかぎり、不法占拠になります。なので教皇猊下に話を通してあげましょう」

「よろしいのですか?」

「ええ、ただし条件があります。それはダンジョンとこの山や森の安全確保です。ここは学園や神殿でも使いますので、定期的なダンジョンと森のモンスターの掃討を行わなければいけません。それらを私の聖騎士団が代行しているのですが、ここ以外にもダンジョンは近くにありますので管理していただけるなら、構いません。それに聖女になると護衛として騎士団を作らねばなりません。彼等を護衛の聖騎士として登録するのなら教皇猊下も納得していただけるでしょう。ただし、自前になりますが」


 つまり、エルサ・ストレームがいう条件とはこの周りの安全確保と聖女につけられる護衛の騎士団を自前の費用で用意しろということである。教会側としてはここの管理費用と騎士団を用意する費用や手間がなくなるので助かるということだ。


(ここの管理程度、なんの問題もない。むしろ、私達にとってはとても助かる)

「わかりました。そのようにお願いいたします。しかし、まだ聖女ではありませんが、候補の段階でも構わないのですか?」

「構いません。候補の段階から護衛を見極めて準備する必要があります。巡礼や慰問などで護衛はどうしても必要ですからね。そのためにいろんな科が設立されているのです。まあ、流石に騎士団の規模はありませんが……裏切られる可能性を考慮しなければ、傭兵団くらいの規模なら不思議でもありません」

「では、私の場合は問題ありませんね」

「そうですね。傭兵団の場合は信頼できるかできないかが大きいですから。その点、臣下だったのなら大丈夫でしょう」

「はい。自慢の者達です」


 イリスとエルサ・ストレームが談笑していると、話がまとまったということで雰囲気も大分よくなっている。しばらくすると、馬車がやってくる。それからイリスはレナとニナを連れてエルサ・ストレームと一緒に馬車で帰ることになった。

 その後、エルサ・ストレームの働きで無事に森と山、それにダンジョンの管理が教皇から任されることとなった。しかし、エルサ・ストレームにしても、教皇にしても、イリスのことを全てを信じたわけではなくて警戒している。だが、実際にノルニラ連合国から逃げてくる貴族や民もいるので信憑性はあると思われている。






聖槍グングニル:必中はもちろんのこと、使い手にルーンの知識を与える。また投擲すると無数に分身して槍の雨をふらせたりもできる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ