ノルニラ連合国との戦争4
イリス達が一夜にしてノルニラ連合国の一国を落とした事は瞬く間にアスタリア帝国に知れ渡った。そして、その進撃は一旦止まる。イリスは帝都に呼び出されたのだ。それと同じくして、ノルニラ連合国では長い雨が定期的に降り続くようになった。
数百年の歴史を持つアスタリア帝国帝都。人口10万人を超える大都市にして、帝国の中心地であり、中央には巨大な城が存在している。その城にある謁見の間にイリスはやって来ていた。
「イリス・フォン・エーベルヴァインよ、此度の戦果、褒めて遣わす」
「はっ」
イリスと父親であるグレーデンは皇帝陛下の前で跪いている。
「では、此度の戦で手に入れた土地はイリス・フォン・エーベルヴァインに与える」
大臣がそう宣言する。しかし、海の利権は大きい為に邪魔が入る。
「お待ちください。イリスはまだ若輩者です。ここは父親である私が代理で統治致しましょう」
(美味しいところ、全部取る気だね。そうはさせない)
「ふむ。どうなさいますか、陛下」
「イリスよ、汝は何を望む?」
「はっ。私は土地は要りません。代わりに欲しい物がございます」
「なんだ? 言ってみるがよい」
「リヴァイアサンを頂きたく、思います」
「ふざけるなっ! リヴァイアサンを求めるという事は元帥になるという事だぞ!」
列席する貴族達からも叫び声があがる。確かにリヴァイアサンはベヒーモス、シズと並ぶ帝国の守護神である。そして、それらを扱えるのが元帥として陸軍、空軍、海軍を支配している。つまり、イリスの言葉は海軍のトップが欲しいと言っているのだ。
「リヴァイアサンを求めるか。爺、こやつは使えそうか?」
「はっ。確かに水属性の才能と魔力量は末恐ろしいレベルです。使役している守護者も一級品ですからな。ですが、元帥としてというなら、勉強が足りませんな」
「だろうな」
「はい。ですから、リヴァイアサンだけ欲しいのです。元帥閣下はお年を召しておられますから、前線で活躍するのは大変でしょう。ですので、私がその武力装置にならせて頂きたい」
「面倒な事を全部儂に押し付ける気じゃろ」
「……滅相もありません」
イリスは内心、面倒だと思っているのでその事は事実である。皇帝陛下は面白そうに笑う。
「褒章をそちらにしていただけるなら、残りの連合も落とし、今回の分も含めて全て王様に献上させていただきます」
「何を言っておる! そんな事、認めておらん!」
「え? だって、海洋の管理とかすごい面倒だし、船を操る人だって殆ど殺したし、帝国軍に任せた方がいいかなって……」
「よい。此度、落とした所はエーベルヴァインの領地とする」
「はっ」
グレーデンは喜ぶ。それほどにまで船と海は重要な戦略拠点になるのだ。大量輸送の要である港が栄えるので、税金もそれだけ入ってくるのだ。
「さて、爺。実際にどうだ?」
「確かにもう前線に出るのは辛いので、後継者を探そうかと思っている所ですな」
「そうか。では、イリスよ、残りのノルニラ連合国を落としてみせよ。リヴァイアサンが欲しければ半年以内だ。それで候補としてやろう」
残りの国が10ヵ国存在するので、ほぼ月二ヶ国も落とさなくてはならない。
「意見をよろしいですか?」
「よい」
「では、二ヶ月以内に全てを落とせればくださいますか?」
「ほぅ。つまり、それは二ヶ月で全てを落とす手段があるのだな?」
「はい。仕込みはすでにしております」
「一ヶ月だ。一ヶ月で落とせば貴様にリヴァイアサンを与え、次の海軍元帥として認めよう」
(一ヶ月か……間に合うけど大変だね。うん、やっぱりアレで行こう)
「ありがとうございます。皇帝陛下のお心遣い、感謝致します」
こうして、勅令が下ったイリスは急いでノルニラ連合国へと戻っていく。移動で二週間はかかるので、実質二週間ぐらいしか時間がない。時間が無いイリスは全てを無視して、ノルニラ連合国へと急ぐ。
ノルニラ連合国へと到着したイリスはグレン達にも合わずに水流を操作して、残りの国へと迫る。雨が降り続いてい視界の悪い現状、直ぐに都市へと入る事が出来た。そして、二人は政府のある城へと訪れる。
「何者だ」
二人の兵士は歩いていくるびしょ濡れのイリスと傘を刺しているリタに警戒し、槍を構える。
「イリス・フォン・エーベルヴァイン。アスタリア帝国の貴族です。評議会の方にお会いしたい」
「ふざけ……」
「残念です。リタ」
「ひゃっほー!」
兵士が構える間も無く、瞬時に接近したリタは爪を一閃して二人の兵士の首を落とす。首を落とされた兵士から血柱が噴き出す。リタはそれを赤い傘で受け止めて血で汚れた爪を舐める。イリスは血が降りかかるのも気にせずに中に入っていく。その後にリタも続いていく。
「リタ、もっと殺したい?」
「ん~どっちでもいいぞ、です」
「そっか。なら、手っ取り早く行こう」
兵士達の血を吸収し、知識を得たイリスは気にせずに綺麗な長い銀髪を靡かせながら進んでいく。しかし、直ぐに兵士が現れてくる。
「貴様等、な……」
しかし、イリスが睨むだけで兵士達は動かなくなり、その場で倒れていく。
「か、身体が動かない……」
イリス達は気にせずに進んでいく。リタだけは邪魔という感じで蹴って道を開けている。そして、ついには国家元首が居る元まで辿り着いた。その扉をリタが蹴って開ける。直に護衛であろう兵士達が、出て来るが彼等も直に動きが止まった。それどころか、身体の中から破裂するように血を噴き出して倒れていく。
「なっ、なんだ、お前達は……っ⁉」
「アスタリア帝国所属、イリス・フォン・エーベルヴァインです。選んでください。無条件降伏か全滅か。どちらでもお好きなように。ただし、解答時間はこの砂時計が落ちるまでです」
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけていません。それと決断はしっかりとお願いします。貴方の言葉にこの都市の国民全てが死に絶えます。この人達のように」
「なんだと……」
「この雨は私が降らせています。私の魔力をたっぷりと染み込ませて。そして、それは既に都市全員の身体の中に入っている。後は私が命令を下すだけです」
「そんな馬鹿な……」
「人体の70%は水です。なら、私の魔力で汚染する事も容易い。さあ、どうしますか? 何万という人が死ぬ事となるでしょう」
「お勧めは抵抗しやがる事です。そうなれば、とっても楽しい事になりやがるです」
「……こっ、降伏する……だから、民には酷い事をしないでくれ……」
「ここは皇帝直轄地になるので、おそらく逆らわなければ酷い目には合わないでしょう」
「わ、わかった」
「では、この書類にサインを。それと何時も貴方達を殺せるという事を忘れないでください」
直ぐにサインをしていく。都市に住む全ての住人が人質となっているのだから、仕方がない事だろう。
「さて、時間が無いから次行くよ」
「はいなのです」
こうして、ノルニラ連合国の国はどんどん落とされていく。中には抵抗し、軍人が居なくなった国もあった。そして、そこに残されたのは干からびた死体だけだった。




