ノルニラ連合国との戦争3
イリス達と別れたグレン達、エクシア隊は船をよじ登って船へと侵入していく。甲板についたグレン達は周りを見渡し、即座に行動に移す。彼等は気配を読んで侵入した為、見張りはマストの上に有る見張り台にしか居ない。その為、見張りからは下は暗くて見えない。逆に安全の為などからランタンの灯りが見張り台には灯っている。
「アイナ、頼む」
「ええ」
アイナの魔法により、風の刃が発生して見張りの首を跳ね飛ばす。彼等はそのまま警戒しながら進んでいく。一人が進んではハンドサインで指示を出して進んでいく。海の戦いが得意なノルニラ連合国の兵といえど、憑依兵器であるエクシア隊には関係なく、瞬く間に制圧されていく。
「なんだ、お前達は……」
船内通路の先で
「制圧完了だな」
船内に残っていた敵の気絶させ、縛り上げながらグレンは二人に話しかけた。
「これからどうしますか?」
「当然、次の船よね?」
「ああ、そうだ」
「島の方はいいの?」
「必要ないだろ。むしろ、邪魔になる」
「それもそうね」
彼等はそのまま次の船へと向かっていく。その一方、海から港に上がったイリスとその護衛獣である妖狐のリタ。そして、親衛隊であるイルル達は堂々とこの島を収めている領主の城へと大通りを歩いていく。
「~♪」
イリスは楽し気に青い傘を差しながら水たまりを進んでいく。その後ろを二人も楽しそうに不自然な雨の中を進んでいく。二人とも傘を差している。そんな三人の前に巡回の兵士が数人現れた。
「お前達、こんな夜更けに何をしている。この先は領主様の城と軍の施設しかないぞ」
「ボク達はそこに用があるんだよね」
「なんだと?」
「イリス、問答なんて必要ねーのです」
「同意」
「それもそうだね。ボクはイリス・フォン・エーベルヴァイン。アスタリア帝国所属の者だ。君達に降伏勧告をしてあげる。拒否するなら、死んで貰うよ」
「「「っ⁉」」」
イリスが名乗り、降伏勧告を出すと兵士達に同様が走る。そして、即座に数人が剣を引き抜き、残りは弓を構える。
「冗談って事はないよな?」
「もちろん」
「そうか……なら、断る」
「じゃあ、ここで死んでもらうかな」
「それも断るっ!」
隊長であろう兵士の剣があっさりとイリスの身体を肩から斜めに斬り降ろす。袈裟斬りを受けたイリスの身体はそのまま崩れて水となった。
「なにっ⁉」
「化け物かっ⁉」
それらの水は振っている雨と合わさり、元の身体に戻っていく。イリスは何事も無かったかのように楽し気に微笑みを浮かべる。
「降伏しないなら、仕方ないよね」
「慈悲はくれてたやったのです」
「問題、無し」
「にっ、逃げろっ!」
「馬鹿、その前に鏑矢を……」
イリス達の言葉に襲撃を知らせる為に鏑矢をあげようとした兵士は地面に有る水溜まりから生えた水の槍が貫かれる。いくら兵士でも、正面と死角から同時に無数の槍を乱射されたら避ける事は出来ない。
逃げだした兵達も彼等の前に有る水溜りから水で出来たシーサーペントが複数現れ、兵士達に襲い掛かって上半身を抉りとっていく。
「さぁ、案内してくれ」
イリスが掌を上にして片手を前に出して、兵士達の血を集める。そこから、次第に人型となってイリス達を先導していく。しかし、重要な施設である為に警備も厳しく、イリス達の前に障害が立ち塞がる。だが、そんな彼等には仲間だった者達の血で作られた物が礫となって襲い掛かり、体内に入り込んで暴れる。内部から破壊された彼等は血液を全て抜かれて干からびて倒れていく。
静まり返った暗い街の中を歩くイリス達は城の前へと到着する。それと同時に主を出迎えるが如く、城の門が開かれる。
「つまんねーぞ、です」
「まあ、いいんじゃない?」
城門を潜り、奥へと進んでいく。回りからは首筋を斬られてこと切れている兵士や、狼達に食べられている兵士達が多数居るが、イリス達は無視して進んでいく。
城内に入り進んでいくと、上の方で喧噪がイリス達に聞こえてくる。そちらの方に進んでいいくと大きな扉の前で、一目で高級品だと思われる鎧を着た兵士達とメイド服を着て狼を従えた犬耳の双子が居る。
「レナ、ニナ」
イリスの声にレナとニナは振り返り、頭を下げる。スコルとハティを憑依させた二人が、先行して城内に忍び込んで敵を排除していたのだ。
「ご主人様、もう間もなく開けられます」
「ちょっと待っててね」
「うん、よろしく」
二人は門を守る兵士達を見詰める。
「くそっ、増援だと……」
「だが、相手は子供だ」
「馬鹿野郎っ、相手は召喚士だぞっ!」
彼等は自分達が絶望的な状況だというのをしっかりと理解している。だが、それを更に上回る存在が居る。
「あはっ」
リタが足を踏み出すだけで、彼等は恐怖に身体が震え出す。EXボスのリタという存在は、彼等に恐怖を抱かせるには十分すぎるほどだ。
「面倒くせーから、蹴散らす、です」
「退避っ」
ニナの言葉に狼達は飛び退って道を開ける。そこにリタが歩いていく。彼女の手には黒い炎が生み出されており、周りの温度が急激に上がっていく。陽炎が発生している事からもその事がわかる。
「くっ、来るぞっ!」
リタが駆け出し、飛び上がると軽く兵士達の上を通る。そして、大きな門を可愛らしい掛け声を出しながら殴りつける。
「ていっ」
殴られた巨大な扉は一瞬、青い魔法陣を展開する。しかし、次の瞬間には弾け飛びながら黒い炎に燃やされて溶けていく。防御障壁が付与された分厚い鋼鉄製の扉をたったの一撃で破壊したリタは、床に降り立つとイリスの方へと走り寄り、撫でろと頭を差し出す。
「ありがとう、リタ」
「このぐらい容易いぞ、です」
「それでもね」
「ん」
あまりの事に惚けた連中はレナとニナによって素早く昏倒させられる。
「じゃあ、行こうか」
「ん」
イルルが頷いて先頭を歩いていく。部屋の中には非難していたのか、貴族が数人と王冠を被った男やその家族達が震えながらイリス達を見ていた。
「アスタリア帝国所属、イリス・フォン・エーベルヴァインです。大人しく投降してください。そうすれば民の身の安全と暮らしは保証しましょう」
「ふざけるなっ! 俺の命が民なんかよりも大事に決まっているだろう!」
「そうだ。それに我々はどうなる!?」
ノルニラ連合の一つである、ここを収める王と貴族は民をないがしろにして、搾取を続ける連中である。この提案は彼等にとって、受け入れられない物だ。
「そうですか。では、死んでください。ワルキューレ」
イリスの呼びかけに答え、万魔殿よりブリュンヒルデ、シュヴェルトライテ、ジークルーネ、グリムゲルデが瞬時に出現する。
「て、天使だとっ!」
「馬鹿な、それではこの戦いは……」
「ヴァルハラの連中が裏切……」
ワルキューレ達によって、彼等は剣で斬られ、槍で突き刺され、倒れていく。そして、倒し終えた後、イリスは玉座に座りながら辺りを見渡す。
「さて、後処理をしようか」
「はい」
イリスは死体が転がる中、微笑みながら膝に頭を乗せて甘えてくるリタとイルルを撫でながらそう行った。レナとニナはノルニラ連合の国旗を降し、アスタリア帝国の国旗をあげにいった。
こうして、ノルニラ連合の一国は僅か一夜で滅びた。この事から、他のノルニラ連合の国は警戒を強くし、アスタリア帝国の貴族達はエーベルヴァインを警戒しだしていく。




