試験1
ログハウスに大量の奴隷を連れて戻ったイリスは召喚と戦争の準備を行っていく。まず、イリスがやった事は川原をジュルで埋め尽くして弾力のある地面に整地したのだ。その間に奴隷達には栄養をふんだんに詰め込んだ水と食事を取らせて風呂へと入らせた後、睡眠をしっかりと与えた。
次の日、全員を整地した川原……いや、グラウンドに呼び出して各人員毎に整列させた。彼らの前にイリスは堂々と立つ。
「君達の主人はこの私だ。大量のお金を借金して君達を購入した。借金の金額は白金貨九枚金貨四〇枚。それが君達に投資した金額だかね」
白金貨は一枚一億円もする。つまり九億四千万もの金額を投資したのだ。
「さて、これを踏まえて聞くように。五ヶ月後には戦争が開始される。そこで私達も参加して武功を上げないといけない。わかるね? 君達に与えられる選択肢は私の下でいい生活を行うか死ぬか奴隷として地獄を体験するかだ」
イリスの言葉を聞いて絶望する青年や子供達。ドワーフの大人達はこちらをしっかりと見ている。
「さて、これから生き残る為に厳しい訓練を積んでもらう。頑張って好成績を収めた者達には昨日みたいに美味しい料理を毎日三食を与える。風呂は全員に入って貰う。要は結果を出せば厚遇するって事だね。簡単でしょ?」
昨日の料理の味を思い出して奴隷達は拳を握る。彼らにとってもいい生活を維持する為に努力をするのは当然だ。港に到着するまで乱雑に船の倉庫へと押し込まれて航海して来たのだ。もちろん、何人も死んだ。彼らは生き残ったからこそ売られたのだ。
「私は優秀な者達を奴隷としては扱わない。仲間として扱うし、それに見合った報酬を支払う。ただし、努力をしない者は容赦なく切り捨てる。怪我や病気もこちらで治療するからそれらを理由に努力をしない奴も切り捨てるからそこだけは注意するように。では、まず戦闘班と支援班に別ける為の適性試験を行う。それと君達の教官を紹介しておく。私の守護者のリタだ」
イリスの横に立ったリタを見た者達は色々な感情を持った。一つは獣人である事の侮り。一つは存在の格を感じての畏怖。一つは子供達の中に居る少ない獣人達の憧れ。
「アタシはリタ。お前ら価値の無いゴミ共を優秀な兵士にしてやるから感謝しやがれです。それとアタシの言う事を絶対服従しやがれです。聞かねー奴はぶっ殺してやるからそのつもりでいやがれです」
「リタ、殺しちゃ駄目だよ」
「……ちっ、なら殺さねーように拷問してやるです。よく考えたら教材にも使えて便利でやがりますからね」
可愛らしい顔でケラケラと獰猛に笑いながら喋るリタにガタガタと震える子供と大人達。ドワーフの一部は平気そうにしているが、彼らも本能的に叶わないと理解している。
「死ぬような痛みを与えられても直ぐに回復してあげるから安心してね。では、ドワーフ達とイルルは後方支援班だ。あとは全員がとりあえず戦闘班。今日は軽く適性を見るだけだからグレンはアイナとユイナと一緒に彼らの適性を調べて。リタは僕と一緒だ。レナとニナは魔法適性を調べる。フィリーネは治療をお願い」
「了解なのでやがります」
「了解」
「「はい」」
「では各自行動開始。ドワーフ達とイルルはこちらに来るように」
イリスの下にドワーフ達と購入した憑依兵器の実験体である龍とドワーフのハーフの少女イルルがやって来る。イルルは実験体番号しか名前が無いという彼女にイリスが付けた名前だ。元は彼女の中に召喚された龍神イルルヤンカシュから取られている。
「鍛冶の腕が一番いいと思う人を聞くのは君達に聞くのは無粋だろうから、実際に作って貰って判断する。トップの10人にはお酒を褒美として出すからね」
集まった者達はイリスを見極めようとしている者や興味の無い者、軽視している者が居るがお酒と聞いて表情が変わった。イルルだけはぼーと無表情で立っていたが。
「さて君達にはこれから試験を受けて貰う。内容は工房を始めとした拠点制作能力。武器、防具、装飾品の性能。拠点の中には炉を始めとした道具類もそれぞれトップの人を選出する。ハンマーや金床など鍛冶には必要な道具が多いだろうしね」
「質問だ」
「どうぞ」
「材料はなんだ?」
「これをリサイクルして貰う」
イリスが保管場所の扉を開けてゴブリンが使っていた大量の剣や槍、鎧を見せる。
「そんなゴミで作れっていうのか?」
「そうだよ。一流の人なら叩き直せるでしょ? 低級の素材でも優秀な武器を作れる人は要るけれど、上級の素材でそれなりの物しか作れないのは要らない。火はリタが用意してくれる。それ以外は君達次第だ。工房制作能力試験の期限は日没まで。始め!」
一斉に森に向かっていくドワーフ達。一部はジュルに覆われた川原を確かめている。
「なあ、使えるものはなんでも使っていいんだよな?」
ジュルを確かめていたドワーフの一人がイリスに声を掛けてくる。
「うん、いいよ」
「そうか。なら、弟子たちと協力するのはいいか?」
「もちろん、全然オッケーだよ」
「助かる。ではこれを耐熱加工はできるのか?」
「出来るよ」
「ほう……」
イリスがドワーフの人と話していると服の裾が引っ張られる。
「ん?」
そちらを振り向くとイルルが裾を引っ張っていた。
「ん。我、アレがいい」
イルルが指差した場所には地面に直接書かれた設計図が有った。そこにはイリスには理解こそ出来ないが、それを見たドワーフの瞳が危ない色を灯しだした事から異常な内容だとわかる。それもそのはずで、イルルが書き上げた設計図は失われた太古の遺産とまで呼ばれる代物だからだ。
「こいつは……ドヴェルグが作り出したユミルの魔導炉か?」
「我、それが最高、思う」
「ありえん。あれは本国にしか無いはず……いや、だがこれは……」
「この子にはドヴェルグの知識が憑依させてあるからね。」
「そういう事か! おい、これを作らせてくれ! いや、手伝わせてくれ!」
「主に許可、求める」
「頼む!」
「まあ、いいんじゃない? でも、作れるの?」
「無理だ!」
「それだけ言って無理なの!?」
「材料が足りんしな。劣化版なら出来るさ。設計図を書き直す。協力するからどうだ?」
「我、了承」
二人に加えて他のドワーフ達も混ざって意見を言い合って修正していく。次第に戻って来たドワーフ達も話を聞いたら加わって話し合っていく。大元の技術をイルルが提供してそれを元にして足りない部分を応用や別の技術から転用していく。
(何言ってるか全然わからなーい。というか、皆で協力してるし。別にいいけどね)
リタは既に飽きて戦闘班の方へいっていた。あちらからは罵詈雑言が飛び出しており、人格を貶めるような訓戒も聞こえて来る。リタが行っているのはハー○マン軍曹式教導だ。イリスが教えたのだが、リタはノリノリでやっている。
「貴様らが口から発して良いのは了解だけでやがります! わかったでやがりますか糞虫共!」
「「「「了解であります!」」」」
「声が小さいでやがります! 生焼けにされたいのでやがりますか! もう一度だけチャンスをくれてやるです!」
「「「「了解であります!!!」」」」
必死に走りながら叫ばされている戦闘班の者達。後ろからは炎の鞭を持ったリタが追いかけて来る。逆らえば容赦なく生焼けにされて控えているフィリーネに治療されてもう一度放り込まれる。必死に走って血反吐を吐いて倒れた者はレナとニナに回収されて治療を受けたあと、魔法の適性試験に回される。その後、ようやく眠らせて貰えるのだ。
「よし、作るぞ。坊ちゃんも手伝ってくれ」
「はいはい。こうなれば皆で最高の物を作ろうか。頑張り次第で大量のお酒をあげるよ」
「我、頑張る」
「「「「うぉおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!!」」」」
ドワーフは土と火の妖精であり、その祖は闇の妖精であるドヴェルグだ。そんな彼らが使える魔法は土魔法と火魔法。この二つとイリスのジュルを使って巨大な建物を数時間掛けて作り出していく。そんな建物の中心部にはユミルの炉が設置されている。これは非常に大きいが性能が凄まじい。何せこの炉で作られた物は全てがマジックアイテムになるのだから。
「後は火を入れるだけでユミルの炉は完成だ。次は仕事場を作るぞ」
「「「おう!」」」
(ドワーフの人海戦術、恐るべし。色々と領地開発も手伝ってもらえば楽になりそうだ)
「坊ちゃんは火をお願いするぜ」
「わかった。リタを呼んでくる」
イリスがリタを呼ぶと凄い勢いで飛んでくるリタ。尻尾はブンブンと振っていて呼ばれたのを喜んでいるのがまるわかりだ。
「なんでやがりますか?」
「火を入れて欲しいんだ。それも吉兆を司るリタにね」
「あとでもふもふしやがるならやってやってもいいでやがりますよ」
「いっぱいもふもふしてあげるよ」
「仕方ねーでやがりますね」
リタがユミルの炉にある扉から飛び込んで中で奉納の舞を踊る。リタが舞うに連れて黒い炎が生み出され、ユミルの炉に火が灯る。火は増幅されて炉の全体へと行き渡っていく。
「すげえな、おい」
「ん。力、凄い、いっぱい」
「確かにこれは凄い」
ユミルの炉が光り輝き、そして……爆発した。幸いにして被害は少なかった。
「おい! 無事か!」
「むー無事でやがりますが、耐久力がたりねーでやがりますね」
「やっぱりか。オリハルコンとかミスリルはねえから仕方ねえんだよな」
「ジュルを内部にも貼り付けようか。いや、壁を作る時にも入れよう。水の魔力が入る訳だし」
「そうだな。他にも色々と強化するか」
「我、手伝う」
「ありがとう」
イルルはイルルヤンカシュの力も一部とはいえ持っている。かの龍神の力は水を司る。そして、イルルは風の上位属性である嵐の力を持つ龍がドワーフに生み出させた為に嵐の力も所持している。それに加えてドヴェルグの闇までも持っているので属性としては水、嵐、闇といった感じになっている。そんなイルルと協力して徹底的に強化して再度挑戦すると、今度は出力が上がらなかった。水の摩呂が強すぎたのだ。
「これはもう、トライ&エラーしかないよね」
「ん、頑張る」
「だね」
「悪いが頼むぞ」
「任せてよ」
それから徹夜して二六三九回目で完成させた。直ぐにユミルの炉を使って事前に作っていたハンマーでハンマーを作り出す。ハンマーが終われば金床など必要な道具を作っていく。吉兆を司る黒狐の火が使われた為、どれも高性能な特殊効果が付いた。リタの性格のせいで些か攻撃的なのが多かったが。STR+100やATK+200などだ。防御系は一切でずに会心の一撃とかそんなのばかりだ。
道具が出来れば武器を作って競うのだが、提出された品はどれも非常に殺意が高い物ばかりだった。試験官のイリスは苦笑いをしていた。




