儲けのタネ
アイナとユイナを連れて帰ったイリスとグレンは他の子達と合流して家に戻る。直ぐにリビングで2人の紹介が行われた。
「この子達はアイナとユイナ。一応、私の奴隷だけどグレンのだから仲良くするように」
「「よろしくお願いします」」
「「「よろしくお願いします」」」
各自の紹介が行われる。年長者であるアンナローゼと女の子達はお互いに話し合っている間にイリスは厨房で歓迎用の料理を作っていく。といっても、作れるのはたかが知れているので今日はトマトソースパスタと液体を固まらせたデザートのゼリーがあるぐらいなのだが。
(やばいよ。ゼリー作るのに魔力がいっぱいるっ!?)
ゴブリンの生命力を魔力に変換して容量を大量に増やしたのに、料理に必要な物を作っている為、常に減っている。ゼリーに関しても色とりどりの綺麗な物を沢山作ったのだから仕方ない。
「なあ、イリス」
「どうしたの?」
料理をしているイリスの下にグレンがやって来た。彼の手には赤く変化したミスリルの大剣が握られている。
「これなんだけど、大丈夫か?」
「ん~大丈夫じゃないかな。ただその大剣にサラマンダーが宿っただけだし。魔器とかになっただけだよ」
「これが魔器!?」
魔器とは魔法の武具などの事を示す。他にも呼び名があり、魔剣や魔槍などがある。これらの対になる物としては聖剣などの聖器も存在している。どちらも強力な力を秘めた品々でダンジョンなどで希に手に入れる事ができる。作り出す事も可能でだが、性能は落ちる。
「サラマンダーが成長すると同時にその大剣も成長するから頑張ってね」
「マジかよ……でも、成長ってどうやるんだ?」
「古今東西、成長させるには餌を与えるしかないよ」
「餌はなんだよ」
「魔力と命」
「魔力はわかるけど命かよ……」
「その大剣で殺しまくってたっぷりと血を吸わせる事だね。今は出てこれないだろうけど、成長すれば大剣からも出てこれるし……サラマンダーは成長すればドラゴンになるよ」
「マジかッ!? ドラゴンライダーとかになれんの!!」
ドラゴンは最強生物と言われる強さの象徴であり、男の子の憧れだ。ましてやドラゴンを駆るドラゴンライダーとなれば尚更である。
「なれるよー」
「よっしゃぁぁぁぁっ!!」
「寝る前に毎日魔力をあげるんだね。アイナとユイナにも手伝って貰えばいい」
「わかった! やってみる!」
「あと、2人とエッチな事はしばらく禁止だから」
「えっ!?」
男の子だけあって精通も終えているグレンは女の子の身体に興味津々だった。流石に初日にするつもりもないが、アイナとユイナもしっかりと覚悟をしている。2人は性奴隷としての教育をしっかりと受けてアルマントに買われずとも売りに出されて、貴族の玩具にされるか娼館などで働かされるかのどちらかだったのだから。
「するなとは言わないけどさ、とりあえず明日から家を拡張するから待ってね。それと2人には今日、皆に施したのと同じようにするから」
「そ、そうか……って、戦わせる気か!?」
「何を今更。うちに無駄な手勢を養う余裕はありませんよ!」
「おかんみたいな……まあ、相談してみる」
「それがいいよ。2人が稼いだ分はグレンの借金に回すからね」
「お、おう」
「それじゃあ、これを持って行って」
「わかった」
出来た料理を次々と運ばせるイリス。しかし、ふと疑問に思った。
(男の私が料理するとか変じゃない? いや、現代じゃ間違ってないし、料理人なら……いや、でも仮にもご主人様なんだし……まあ、不味い料理はできれば食べたくないし、食べてくれるのは嬉しいけど。今の料理って私しか作れないし……まあいいか)
結局現状維持にする事にしたイリスはさっさと料理を仕上げていく。パンプキンスープなども作って食卓に出す。
「す、凄い料理です」
「うん……」
アイナとユイナは出された料理に驚き、釘付けになる。
「今日も美味しそう」
「そうだね」
「料理の腕が凄いわね」
「はい。お兄様、凄いです」
奴隷の皆も嬉しそうにしている。リタに関しては尻尾をブンブンと振りながら両手にフォークとスプーンを持って完全に待て状態だ。
「まだか、まだでやがりますか!」
「はいはい。それじゃあ食べようか。2人の歓迎も兼ねてだから無礼講にするよ。じゃあ、食べようか。頂きます」
「「「頂きます」」」
「「? 頂きます……?」」
アイナとユイナも続いて挨拶をして食べ始める。食べ始めると直ぐに笑顔になって一心不乱にどんどん食べていく。大量に用意していた料理は凄い勢いで減っていく。
「食べながらでいいけど、明日は家の増設を行います。グレンとアイナとユイナの家を別に作るのとお風呂を設置したいからね」
「お風呂!?」
「いっ、いらないのでやがりますよ!!」
「却下。露天風呂の予定だし、本格的にゴブリンと戦いだしたら血とか泥が凄くなるしね」
「「「ごくっ……」」」
「あ、あのゴブリンって……」
「アイナとユイナは知らないだろうけど、私達はゴブリンの討伐任務中なんだよね。今は戦えるように教えている最中だけど」
トマトソースパスタをフォークで巻きながら説明するイリス。
「グレン」
「おう。えっとな、俺は2人を助ける為にイリスに力を貰った。その力のお陰でアイツの攻撃から2人を守って耐えられたんだ。この力なら俺達だけでもゴブリンを倒す事がきっとできる。それで、2人も一緒に戦って欲しいんだ。戦い方や力はイリスがくれるから……駄目かな? どうしても嫌なら、イリスをどうにか説得して俺が2人の分まで頑張るから……」
「いいよ。グレンには助けて貰ったし、今度は私達の番だよ」
「うん。私もいい。ただ待つだけなんて嫌。力を貰えるなら戦う」
2人は力強く頷き、戦う事を選んだ。イリスも余裕は無いとは言ったが、グレンが頑張ればどうにかなるだろうとは思っていた。そもそも魔法回路を与える前なのだから代わりに家事を頑張って貰えばそれでもいいのだ。
「ありがとう。イリス、頼む」
「任せてよ。それじゃあ、今夜にでも施すから明日から訓練だね」
「「はい」」
頷く2人。話が終わったのを待っていたフィリーネがイリスに声をかけてくる。
「あ、お兄様……少しよろしいでしょうか?」
「どうしたの?」
「私も回復魔法だけでなく、攻撃手段が欲しいです」
「攻撃手段か……でも、回復役を前線に出す訳にはいかないから遠距離攻撃になるけどいい?」
「はい。遠距離攻撃となると……弓ですか?」
(弓か。フィリーネでも身体強化を使えば強弓も扱えるかな)
身体強化のおかげで大人顔負けのような力を出す事ができるのだ。今ですら、華奢で折れそうなほど細い小さな女の子が一人で木を引き抜いたり、担ぎ上げたりできるのだから強弓といえどどうにかなるだろう。
「そうだね。でも難しいよ? 最低でも弓を使いながら回復魔法も使えるようになって貰うから」
「大丈夫です。頑張りますからお願いします」
「アンナローゼ、どう思う?」
イリスは回復魔法を教えているアンナローゼへに聞いてみる。こういう事は先生に聞くのがいいのだ。
「ええ、大丈夫だと思いますわ。フィーは天才のようで、既に回復魔法に関しては一人前ですね。上級クラスをこれから教えようと思っていたくらいですし、弓の訓練に時間を取られても問題ありません。むしろ、私が捕まった時の事を考えると体術と武術に関しては教えて頂けるようこちらからお願いしようかと思っておりました」
アンナローゼが捕まった理由は上空からグレーデンが率いるドラゴンの突撃による奇襲を受けたのだ。しかも、そのドラゴンには多数の召喚師が乗っており、地上に降りると同時に大量の召喚獣が溢れ出し、物量による虐殺を開始したのだ。召喚師を乗せたドラゴンは召喚が終わるとさっさと空へと上昇し、ブレスを吐いて敵兵を味方ごと蹴散らすという方法で混乱状態に陥れた。聖女であるアンナローゼは回復を全力で行なって戦線を持たせようとしたが、それが原因で位置を特定されてドラゴンの奇襲を受けた。それもドラゴンに丸呑みにされて捕らえられたのだ。聖女がいなくなればあとはどうとでもなるというようにドラゴンは飛び去った。実際に程なくして軍は壊滅した。飲み込まれた聖女はそのまま領地に戻ったグレーデンに捕らえられたのだ。
(あの時、内部からでも強力な攻撃ができていれば私は……いえ、それ以前に今のような力があれば飲み込まれる前に自力で逃げ出せたはずです……フィーには私のような思いをして欲しくありません。せめて出来る限りの対策を講じなければいけません。幸い、イリスはあの豚蛙から生まれたとは思えないほどの子です。まだ判断は保留ですが、少なくとも今のところは問題ありません。それよりも巫女しか力をお借りする事ができない天使を使役している方が問題ですね)
「それじゃあ、弓を覚えようか」
「はい!」
フィリーネは元気よく返事をして母親と一緒に食事に戻る。
「アイナとユイナは武器の希望とかあるかな?」
「私は運動が苦手なので魔法がいいです。光と風が使えますから」
「私はお姉ちゃんと違って運動神経はいいから、前に出たい。グレンが大剣みたいだから、小回りが効く方がいいのかな?」
「そうだね。グレンが前衛でアイナが後衛。ユイナが遊撃など近距離と中距離どちらもできると良さそうだね」
「確かにそうだな」
(戦士、斥候、賢者ってメンバーになるのかな。スリーマンセルとしてはバランスはいいね。それに全員に体術とかも覚えてもらうからね。基本的に全距離に対応できるようにしておいて得意距離で戦うのがベストだしね)
かなり厳しい事だが、実際にイリスはやる気だ。優秀な者が居ないなら作ってしまえという考えのもと、妥協せずに教育していく気なのだ。
「さて、デザートを食べようか」
「おー」
「「「美味しそう」」」
「ぷるんぷるんしてるなー」
「実際に美味しいよ。これから頑張ったらおやつに出すからね」
「「「っ!?」」」
「じゃあ、明日からも頑張ろうね」
「「「おーっ!!」」」
「食べていいよ」
ゼリーを口に入れて満面の笑みを浮かべる皆を見ながらイリスも笑う。イリスは胃袋でやる気を出させたのだ。大量のゼリーが一瞬で消化されていく様は圧巻だった。
食事が終わり、身体の清めの時間となった。イリスとグレン、女の子達が終わってアイナとユイナの番になって色んな意味の悲鳴が上がったが、気にせずに放置しするイリスと、顔を真っ赤にしているグレン。2人は少しして中に入る。
「あーえろえろだね」
「うわっ」
「み、見ないで……」
「あぅぅっ……」
部屋の中では身体を真っ赤にさせて痙攣しているアイナとユイナ。奴隷としての性教育の過程で身体を開発されている子にはアクアエレメンタルの掃除はキツかったようだ。
「とりあえず眠らせるか」
「「んっ!?」」
アクアエレメンタルの身体の中にイリスが指を入れて麻酔液を注入する。アクアエレメンタルを通して彼女達の体内に麻酔液を注入して深い眠りに陥らせる。アクアエレメンタルは自身の体内に入ってきた液体を学習して覚えていく。
「殺さないように純度を気を付けないとね。グレン、彼女達の身体を触って」
「お、おう」
「ひぅっ!?」
「んんっ!?」
身体を触ってと言われたグレンは男の性か、胸を触ってしまった。しかし、イリスは2人の顔だけを見ているので気づかない。
「抓って」
「え? あっ、ああ……」
そのまま命令されて抓るグレン。それに反応するアイナとユイナ。そのまま少しして2人は眠りについた。
「あれ、何やってるの?」
「え? イリスが触れって……」
「胸じゃなくていいのに……グレンはスケベだね」
「お前っ、まさかわざとっ!」
「さて、何のことやら。それよりもさっさとやっちゃおうか。アクアエレメンタル、サポートよろしく」
イリスは2人の裸体に触れていく。自分の女ではないので、キスして魔力を流し込むなどはせずにアクアエレメンタルを通して行う事でより安全に魔法回路の作成を行っていく。
「す、凄いな……どうりで痛かったはずだ」
「あははは、あの時の事はちゃんと生きてるよ。そもそも私に作った時なんてマジで死にかけてるし」
「おいおい」
全身に文様のように細く魔法回路を作成し、電子回路のように精密に作られていく。そして、数時間後にはアイナとユイナも強化人間の仲間入りを果たした。
「よし、手術は終わりだよ」
「お疲れ」
「2人はベッドに……」
(干し草があるから床よりはましだけど、やっぱりベッドは欲しいんだよね。いや、待てよ)
「ベッド、ね」
「どうしたんだよ?」
グレンが2人に服を着せていく間にイリスは考え込む。そして、思い出した。
「今って干し草のベッドだよね。もっといいベッドにしようか」
「ベッドって硬い奴にするのか? 城で使ってたのは大量の布を重ねてマシにしてたけど、干し草の方がマシだと思うぞ」
「ああ、そんなちゃちなものじゃないよ」
イリスは水の魔法で弾力性、耐熱性、保温性のあるジュルを作成して長方形にする。中心部にお湯を入れて膨らませる。そして、挿入口を閉じると水の浮揚性を利用して体重の分散を図ったウォーターマットの完成だ。夏場は水を入れて、冬場はお湯を入れれば夏は涼しく、冬は暖かい便利な寝具となる。問題は水の入れ替えをどうするかという事だ。今回の場合は完全に密閉してある。
「弾力性もあるし、漏れも心配ない。激しい運動はわからないけど……どうかな?」
「これに寝ればいいんだな……」
グレンはウォーターマットの上に寝転んで見る。直ぐに嬉しそうな表情になる。
「これはいいな! 譲ってくれ。アイナとユイナを寝かせたい」
「まあ、みんなの分を作るから別に問題はないよ。難点は重い事なんだけど、私達には関係ないしね」
「重い……確かに重いけど、身体強化を使ったら問題なく運べるな」
「じゃあ、それはグレンの部屋に運んで2人を寝かせておいて。私は他の部屋も作ってくるから」
「わかった」
イリスはレナとニナの部屋や、フィリーネとアンナローゼの部屋も回ってウォーターマットを設置していく。
「これは凄い、気持ちいい」
「レナ、遊んじゃ駄目」
「えー」
「丈夫にしてあるから多分大丈夫だよ。壊れたら教えてね」
マットの上で飛び跳ねて遊ぶレナを注意するニナ。ベッドはトランポリンみたくて子供の格好の遊び道具になるので仕方のない事かもしれない。フィリーネはというとこちらは恐縮していた。
「こんな素晴らしい物を使ってもいいのでしょうか……」
「気にしなくていいよ。フィリーネの為に作ったんだからね」
「はっ、はいっ」
アンナローゼは昔の事を思い出して泣いていた。
「これがもっと前からあればあんなに痛くは……」
「あははは……」
イリスは笑うしかない。そして、とりあえず父親達に献上して他の人達にも売ろうと思ったのだった。
奴隷達の部屋にウォーターマットを設置した次はイリスの寝室だ。イリスは部屋を二つ使っている。一つは執務室とされている。執務室の奥には寝室への扉があり、現在その部屋は巨大なウォーターマットで殆ど埋められていた。というのも、リタの一声があったのだ。
「これくらいでいい?」
「おっきくていいでやがりますよ!」
複数人が寝れるキングサイズのウォーターマットに飛び乗ってゴロゴロと転がるリタ。
「でも、大きすぎない?」
「何言ってやがるですか。どうせ毎日数人でくっついて寝やがるのですから、これぐらい必要でやがりますよ」
「リタと私だけじゃ……」
「ニナ達はイリスの妻でやがりますよ。なら、一緒に寝るのは当然でやがります」
「あー」
動物は固まって寝る。獣人も家族で固まって寝るのが当然だと思っている。もちろん、大きくなれば獣人達も別れて寝るのだが、夫と妻は常に一緒に寝ている。
「それにさみーでやがりますし、肉布団なのです」
「あはは、それは確かにあるね」
(その方が暖かいし、仲良くなれるかな)
現状、イリス達は毛皮や粗い毛布でくるまって寝るしかない。その為、冬は固まって寝る方がいい。今までもイリスとリタ、ニナとレナ、フィリーネとアンナローゼで寝ていた。
「グレンはアイナとユイナが居るし、ニナとレナを呼ぼうか」
「フィーは呼ばねーのでやがりますか? 仲間外れはいけねーのです」
「フィリーネは明日だね。ニナとレナのどちらかが明日はアンナローゼと寝てもらうから仲間外れにはならないよ」
「それならいいのでやがります」
「リタは優しいね」
「そんなんじゃねーです」
イリスはそっぽを向いたリタの頭を優しく撫でる。尻尾はパタパタと揺れていて嬉しそうだ。しばらくしてから2人を呼んで仲良く4人一緒にイリスを中心にして抱き合って眠った。
次の日、本格的な増設工事が始まった。長めの渡り廊下を作り、同じ大きさのログハウスを作り上げた。更に次の日には同じようにもう一つ作ったのだ。どんどん増築と改築を行って、最初に作ったのと合わせてログハウスを三つ作った。ログハウスはイリスとグレンの家族で別れて一つずつを使う。残りの一つは共有スペースとして食堂や訓練ができるようにしたのだ。渡り廊下は正方形になるように設置して中庭を作った。これでそれぞれが靴を履かずに行き来ができるようになっている。そして、余っている残りの一角にはイリスが浴場を作り上げた。
この浴場は畑の方へ送られる水路から水を引いて、配置されたアクアエレメンタルがお湯に変換して常に湧いている状態にされている。同時に河原の方にも出られるようになっていて、屋根付き露天風呂も作成されている。この2つの風呂を日替わりでイリスとグレンの家族で使い分けている。男女別ではないのは一緒に入る為だ。ただ、数日に一度くらいは男女別に入って仲を深める事にしている。




