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ゴブリン対策準備3




 イリスがログハウスを完成させると、既に太陽が傾いて隠れるような時間だった。その為、イリスは直ぐにご飯の準備を行う。普通は奴隷にさせるのだろうが、イリスは自分で厨房に立って用意していく。


「食材は鮭といくらの醤油漬け。肉は無しっと。まあ、小麦粉はあるし……この際だから調味料を色々と用意しようかな」


 外に出てその辺にある木を一本、切り落として圧縮して皿やソース容器など小物や大きな箱のような器を作成していく。それらが終わればソース容器に醤油やウィスターソース、とんかつソース、油に加えて個体か液体か気体かわからないコロイドに属するマヨネーズなどを作成するイリス。醤油を作った応用で調整こそしたが時間はほとんどかかっていない。


(マヨネーズは流石に時間と魔力が掛かったね)

「活け造り、活け造りっと」


 巨大な鮭を水で作った刃で綺麗に切り取って一匹まるまる活け造りにしてしまう。それと同時進行で多数の触手を操って小麦粉を油と卵を再現したものを混ぜて生地を作成し、水分などを調節して瞬時に生地を作成する。それらを切って宙に浮かせた熱湯の水球に叩き込んで解しながら茹でるイリス。


「ソースの作成だー!」


 カルボナーラのソースをイメージしてこちらもカルボナーラソースみたいな何かを作成する。その間に竈では触手が頑張って木の板に棒を当てて高速回転させ火をおこしていた。


「これで火はついたね」


 火種を頑張って乾燥させた薪にくべて燃やしていく。火を大きくしながらフライパンを乗せて油を引く。フライパンを温めている間にもう一匹の鮭を3枚に降ろして切り身にしていく。温まったフライパンで切り身の一部を焼いて解し、作ったカルボナーラソースもどきと混ぜていく。次に塩水を作って箱に満たして鮭の切り身を突っ込むイリス。


「よし、パスタも茹で上がったね」


 カルボナーラソースもどきとパスタを混ぜ合わせて木製の皿に盛って触手でデーブルに運んでいく。食器類も木製ながら揃えて食べる準備が完了したので、イリスは室内からテラスに出て皆に声をかける。


「ご飯できたよー! って、死屍累々だね」


 河原で身体を痙攣させながら震えている皆さん。その皆さんから戦乙女であるブリュンヒルデ達が出てくる。


「ご苦労様。今日の訓練はそこまででいいから彼らを運んできて」


 ブリュンヒルデ達はイリスの命令に従ってログハウスの中に運んでくる。


(魔力切れでリジェネーションも働いてないみたいだね。まあ、訓練中に補給はできないよね。とりあえず症状は筋肉痛とかだし魔力をあげてリジェネーションでいいか)


 それぞれの身体に大量の魔力を含んだ水を口に流し込んでいく。流し込まれた水から魔力を吸収してリジェネーション用魔法回路のスイッチが入る。直ぐに筋肉痛も治っていく。イリスはその間にジュルで覆ったロウソク替わりの松明に火をつけて光源を確保していく。


「うぅ……」

「死ぬぅ……」

「つれーでやがります……」

「ご飯ができてるよ。食べないと持たないよー」

「くそっ、なんとしても食べるぞ……」

「いい匂いがします……」


 呻き声をあげながらも立ち上がって席に着いていく。目の前に湯気を出した美味しそうな匂いを醸し出す料理達に腹の虫が盛大に鳴り出す。


「これをこの人が作ったのかしら……」


 アンナローゼは作られた料理に驚いていた。聖女として下手な貴族よりいい生活をしていた時ですら見た事がない料理であり、明らかに香辛料も沢山使われていて豪勢な料理とわかるのだ。間違っても奴隷に出すような料理ではない。


「さて、アンナローゼはテーブルマナーってわかる?」

「ええ、それはもちろん」

「イリス、早く食わせろでやがります!」


 リタがフォークを握ってテーブルをトントンと叩く。主人であるイリスの許可がない限り生殺し状態になるのだ。


「駄目だよ。これから皆にはテーブルマナーを日々の食事の中で覚えて貰う。講師はアンナローゼでね。もちろんリタもだ」

「うっ……」


 嫌がるリタに無情な一言を告げたイリスはそのまま各自にフォークなどの握り方を教えていく。


「この料理の食べ方はわかる?」

「いえ、申し訳ないのですが、初めてみた料理なのでわかりません。貴族の中でも高位の者が食べる者くらいに高価な代物だと思われるのですが……」

(確か中世くらいからパスタが食べられてたはずだけど、まだなのかな? 売れそうだ)

「お母様……そんなにですか?」

「「美味しそう……」」

「どうでもいいからさっさと食わせやがれです!」

(お腹すいてやがるのです!)

「それもそうだね。このカルボナーラはフォークでこうやって巻いて食べるんだ」

「カルボナーラ……」


 イリスが実演して食べ方を見せていく。直ぐに皆も真似をして食べていくが、子供達は上手に負けないようだ。


「スプーンをこうやって使うと簡単だよ」

「楽だねお姉ちゃん」

「うん。これならなんとか……」

「スプーン無しでもできるようにならないとね」

「「はい」」


 レナとニナはスプーンありでどうにか食べられている。


「イリス~」

「はいはい」


 リタは上手いこと行かないので、イリスが後ろから手を添えて手とり足とり教えていく。他の人も元からフォークやスプーンの扱いに慣れているアンナローゼが教えてくれたので比較的楽にできた。


「ん~美味しいでやがります!」

「生まれ初めてです!」

「美味しいね、お姉ちゃん!」

「ええ。どんどん食べられる」

「うめぇ、うめぇよ!」

「美味ですわ」

「お代わりもあるからいっぱい食べていいよ。後、こっちも食べるように」

「「「うっ」」」


 やはり生魚に抵抗があるのか、サーモンにはイリスとリタを除いて誰も手をつけていなかった。


「寄生虫とかは排除しているから安全に食べられるよ」

「それはわかっているのですが……」

「米が欲しくなりやがりますが、これはこれでいけるでやがりますよ」

「だよねー」

「お兄様がそういうなら試しに……」

「フィー!?」

「私も試すね!」

「そうね」

「じゃあ、俺も」

「わかりました。皆で試しましょう」


 結局、全員で刺身を食べていく。


「うーん、あんまり味がしない」

「醤油をつけないとだめだよ」

「なるほど……」

「あっ、これは結構美味しいね!」

「確かに……」


 双子のレナとニナやグレン、子供達は美味しいと食べていく。そんな中か、フィリーネがイリスがつけて食べている醤油を試しに掛けてみた。


「こっちのしょーゆというのを試してみますね……」

「あっ、それは……」

「っ!? つ、つーんってします」


 わさびが溶け込んだ醤油に涙目になるフィリーネ。


「ワサビっていうのが入ってるからね。これはこれで美味しいけど、まだフィリーネ達には早いかな」

「子供なのでやがりますよ」

「うぅ……」

「私達はやめておこう」

「……罰ゲームに食べさせるのもいいかもねえ」

「「「っ!?」」」

「まあ、それは置いておいて毎日こんな感じで食事を用意するから辛いとは思うけど頑張ってね」

「「「はい!」」」


 全員が元気よく返事をする。この時代の娯楽は少ない為に食事という現代でも娯楽の一つに数えられるものを使って彼らのやる気を出させるイリス。


(ふふふ、日本で作られた調味料は伊達ではないのだよ!)

「食事が終われば個室に案内するね。基本的に移動は自由だけど、グレンは女の子達との直接の接触を禁止するから」

「まあ、そうだよな。俺もイリスの、主人の奴隷に手を出す事なんてしないよ」

「うん。まあ、私は理解があるからグレンにも奴隷をあてがうよ。あと2人貰えるから好きに選んでいいよ。友達の男でも、自分のものにする女の子でも」

「マジかよ!?」

「マジだよ」

「グレンだけずるいー」

「レナ、駄目」


 慌てて妹を止めるニナ。明らかな越権行為であり、相手がイリスではなく典型的な貴族なら処罰されてしまうだろう。


「ずるくないよ。君達は私が直接養うけど、グレンに買ってあげる奴隷の食費とか全部グレンの給料から引くからね」

「それって……」

「借金って事だね。まあ、グレンが頑張って働いてくれれば私からは何もしないし、こことは別の家も立ててあげる。もちろん、繋げるからその辺は安心してくれていいよ」

「つまり、俺が頑張ればいいって事だろ! 任せろ!」

「よろしくね」

(他の子に手を出されたら困るし、グレンのモチベーションも上がる)


 奴隷が奴隷を持つ事はできないので基本的にイリスの奴隷になるので、グレンが選んだ奴隷の購入代金と自分の開放資金を貯めないといけないので結構な額が必要になる。


「でも、それぞれに個室が貰えるの?」

「その予定だよ」

「私はイリスと一緒がいいのでやがります」

「まあ、リタはそうなるね」

「あの、私はレナと一緒にしてください」

「ニナもその方がいいよ」


 リタはイリスの守護者なので一緒の部屋になる事になった。双子は一緒に居たいという事を聞き入れて一つの部屋になった。


(広めの部屋にすれば大丈夫だよね、多分)

「わかったよ。フィー達はどうする?」

「私達は……」

「お兄様、別の部屋でいいです。私もお母様離れしないといけないですし……」

「フィー」

「それに寂しかったら部屋を移動すればいいだけですし……いいんですよね?」

「うん、いいよ。むしろ床暖房を入れているけど、まだ布団とかはろくなのがないし皆で集まって寝るといいかもね」


 ログハウスの下には暖炉と竈で温められるようにされた水路が下水路とは別に作成されており、ログハウス全体を暖かくするようにできている。壁の間に貼られたジュルの事もあって暖炉を付ければかなり暖かくなるが、布団がないので寒さは堪えるだろう。


「わかりました。ありがとうございます」

「娘の成長の為にも仕方ないですね」


 こうして部屋割りが決まった。食後はそれぞれの部屋に案内していく。家具もなく、干し草のベッドとテーブルと椅子くらいしかないのでどこも変わらない。そんな部屋でも個室を与えられた事で皆は喜んでいる。奴隷には過ぎた扱いだから喜ぶのは当然だが。


「じゃあ、汚れを落としてゆっくり休んでね」

「どうやって汚れを落とすのですか?」

「アクアエレメンタルを召喚するから綺麗にしてもらう」

「うっ」

「あうっ」


 顔を真っ赤にする女の子達。


「空いている一室を使って綺麗になろうね。服も朝までには綺麗になるし」


 真っ赤になった女の子達を部屋に入れて服を脱ぐように命令し、召喚したアクアエレメンタルに任せる。少ししてローブを羽織っただけの姿になった女の子達が出てきた。


「おやすみ」

「「「おやすみなさいませ」」」


 リタを除いていそいそと部屋に逃げ込んでいく女の子達。まあ、体内まで綺麗にされればその恥ずかしさは相当なものだろう。


「リタ、家をお願いね」

「了解でやがりますが、イリスは何をするのでやがりますか?」

「私はまだまだやる事があるからね」

「魔力が殆ど残ってねーのに?」

「うん、それでもだよ」

「なら、私も付き合ってやるです」

「リタ……」

「私はイリスの守護者でやがりますから、当然でやがりますよ」

「そうだね。じゃあ、グレンにさっさと入ってもらって行こうか」

「了解でやがります」


 2人はグレンに女性陣が終わった事を教えてから完全に火が落ちて外に出ていく。これから見張りをするのだ。ここは魔物の領域のすぐ近くであり、見張りをしなければ何時襲われてもおかしくない。ましてやゴブリンの事もあるのだから襲われる確率は非常に高くなっている。


「さて……来るかな?」

「ぜってぇ来やがるです」

「そうなの?」


 河原を歩きながら話していく。リタが先導してイリスが攻撃された場合、何時でも守れるような位置で進んでいく。リタの目には暗闇でも昼間のように見通せているのでこの配置は間違いない。そもそもイリスだけで見張る時はかなり無茶をする予定だった。


「昼間に対岸にゴブリン共の偵察部隊が近付いて来てやがったです」

「そうなの!?」

(全然知らなかったよ!)

「おそらく夜に襲撃をかけてきやがるのです」

「だろうね」

「こっちから攻めやがるですか? 2人とはいえ、イリスの魔力は殆ど使ってやがるですし」

「攻めるのも一手ではあるけど、やっぱり防衛の方が楽だよ。何より――」


 河原の端に到達して靴を脱いだイリスはそのまま川の中へと入って手近な岩に座る。素足は水につけたままだ。


「――弾薬。補給物資があるここの方が戦い易いしね」


 イリスにとって水とは武器であり弾薬だ。水があるだけ水を作り出したりする分、余計な魔力を使わずに魔法が行使される。当然のその分を威力に回す事もできる。自らのフィールドで戦う方が誰しも強いのは当然だ。


「なら、寄ってくるまで待ってやるですか」

「わっ」


 リタはイリスの横に座ってそのまま身体を倒して頭を膝の上に乗せてる。森の方に視線を向けて監視しつつだ。


「撫でろって事かな?」

「その通りなのです」


 耳と尻尾をパタパタと揺らしているリタの頭を優しく撫でるイリス。それに気持ち良さそうしながら尻尾を揺らして楽しそうにしている。


(さて、暇だし回復力を入れようかな。しかし、体内の魔力だけじゃ足りないね。何かないかな……)


 イリスは悩みながら前世の知識を呼び出していく。アニメや漫画などから知識を探していくイリス。彼にとってはこれらはとても使える知識の宝庫だ。


(魔法、魔術……魔法使い、魔術師……魔法少女? 魔法少女……白い悪魔、桃色の破壊光線……収束魔法。いいね、周りの魔力を吸収して集めて自分の魔法に追加するってのが収束魔法だけど、追加ではなく自分自身に吸収して回復にあてる。リソースは消費しそうだけど魔法回路と組み合わせればいいか。問題は魔力を感覚などで感じ取る事かな。魔力の放出と回収を繰り返してみるか)


 魔力を少し放出して回収するイメージをして実際に空気中に放出する。次に回収をイメージして行っていく。だが、当然のように失敗する。


(魔力が抜ける感覚はわかるんだけど、回収は上手くいかないや……)

「イリス、何してやがるです?」

「空気中に漂ってる魔力を吸収できれば回復力が上がるかと思ったんだけど上手くいかないね」

「イリス……それは既に仙術の技能なのでやがりますよ」

「仙術か……リタは使える?」

「もちろんでやがりますよ」

「教えて」

「いや、大変危険な術式でやがりますよ。私もやった事があるのでやがりますが、暴走する危険性も……」


 特に怒りに囚われた時に暴走しやすくなるし、怨霊系などの相手は特に大変だ。取り憑かれる可能性もあがるのだ。取り憑かれれば下手したら肉体を乗っ取られる事すらある。


「大いに結構だよ。既に狂ってるからね」

「はっ、上等なのでやがりますよ」


 リタが周りの魔力を吸収してイリスに流し込んでいく。イリスが放出してリタが吸収する。それを繰り返してイリスに教え込んでいく。同時に仙術を利用して周りに溶け込むと同時に警戒も行っている。


(うわぁ~凄い勢いで色々と流れ込んでくるなぁ~。って、なんか変な気持ち悪いのも流れ込んでくる……これが悪意なのかな。ゴブリンの感情って奴かな)

(イリスは凄いでやがりますね。普通なら吐くのが当然なのでやがりますが……)


 しばらく修行をしていると、森の中から多数の赤い瞳がログハウスを覗いている。その数を把握していくと、とんでもない数だと判明し直ぐに移動する。


(前はよりすごく多いね。680体か……全部でどれくらいいるのかな。でも――)

(数が多いでやがりますが――)

(獲物がいっぱいだね!)(獲物がいっぱいでやがります!)


 イリスとリタの考える事は一緒だった。獲物を効率よく狩る為に隠れて様子を見る。欲望に染まった瞳をしながら森から慎重に出て周りを確かめるゴブリン達。数体の囮役が出て対岸の河原を警戒する。少しして周りの安全を確保したゴブリン達は森の中に居る者達にハンドサインで合図を送り、灯の灯ったログハウスを目指して外に出て来る。直ぐに弓兵達が河原に陣取って弓を構えて辺りを警戒する。


「ぎぎっ」(周辺に敵兵無し)

「ぎっ。ぎぎっ。ぎぃー」(了解。弓兵対配置完了。川の中を確認)

「ぎっ」(了解)


 数体のゴブリンが顔を川の中に突っ込んで魔物が居ない事を確認していく。明らかに訓練されて集団行動を行っているゴブリン達は人間でいう精鋭といえる。


「ぎぎっ」(周辺に敵兵無し)

「ぎっ。ぎぎぎっ! ぎぃぎぃぃぃっ!!」(了解。跋渉を開始する。進軍開始!)


 川を渡り出したゴブリン達。途中で深くなり泳いでいく。驚異なのは布ならまだしも金属製の鎧を着たままに加えてさらに武器を持って緩やかとはいえ川を渡る事ができる肉体能力にほかならない。彼らは安全だと誤認した川を150体の弓兵達を置いて残りの530体が泳いで渡ってくる。


(さて、始めるよしようかな!)

(よーし、狩ってやるです!)


 川を渡り切ろうとしたゴブリンに対して水による隠蔽を止めて川の底から奇襲を開始する。


(殺っちゃえ、サーペント)


 水で作成した触手に蛇の頭部を作らせた。水中では透明であり、ゴブリン達に視認されない蛇が無数にイリスの身体から放たれた。サーペント達は獲物を求めるように襲い掛かり、今にも渡り切ろうとしていたゴブリンの足に噛み付いていく。


「いぎっ!? ぎっぎぃいいいいいいぃぃっ!?」(痛っ!? 痛いぃいいいいぃぃぃっ!?)

「ぎっ――がぼっ!?」


 次々と大量のサーペント達によって襲われるゴブリンは悲鳴をあげて水中に引きずり込まれていく。噛み付いたサーペント達はゴブリンの赤く染まっていく。牙を通して血を吸っていく。吸われた血はサーペントの身体を通してイリスに流れ込んで魔力変換用に調整された魔法回路へと流れ込んで魔力と鉄分に変わっていく。鉄分は排斥されて魔力だけ利用される。


(喰らえ喰らえ!)


 流れ込んでくる知識などを流しつつ得られた魔力を利用して更にサーペントを増員していく。

 地上では水中を移動して別の場所から河原に出ていたリタが弓兵隊に突撃していた。


「あははははっ、死ね死ねッ、死にやがれですっ!!」


 身体強化を多重発動させたリタは超高速で移動してゴブリンを拳で胴体を鎧ごと殴りつける。それだけで鎧が粉砕されて身体に穴が空く。瞬時に弓兵達が射る為に準備をするが、リタが蹴りを放ち上半身を吹き飛ばす。尻尾が複数に別れて槍のようになり周りのゴブリン達を貫いていく。


「ぎぎきっ!!」(剣を使え!!)


 剣を引き抜いて構えるゴブリン達。その間を高速で駆け抜けてゴブリンの命を奪い取る真紅の風となる。


「楽しいっ、楽しいのでやがりますよ!」


 遠くから味方を気にせずに射抜かれてくる矢を素手で受け止める。


(投げ返してやるですよ!)


 リタが腕を七重奏セプテット、七重に強化して尋常でない速さで投げつける。矢は瞬時にとんでもない速度になってゴブリン弓兵を貫く。更に背後に居る敵もまとめて貫いていく。他にも放たれて来る無数の矢は硬化させた尻尾で防ぎながら走っていくリタに対してゴブリン達は捨て身の突撃でリタの動きを封じようとする。


「ちっ」


 飛び上がる事で回避するリタに対してゴブリン達は味方ごと火矢や毒矢を大量に放ってくる。


「はっ、しゃらくせえのでやがりますよっ!!」


 空気中を蹴り抜いて強制的に移動して軌道を変えて回避し、そのままの勢いで狙撃してきたゴブリン兵達の場所に更に加速して突撃する。空中で回転しながら踵落としを決める。それだけでクレーターを作成して周りを蹴散らす。


「素晴らしいでやがりますねえ……魔力が常に供給されるこの感触。やめられねえのです!!」


 身体強化を多重発動させている副作用もあり、身体中の血管が破裂しては再生されているがアドレナリンが出ているリタは一切気にしない。紅の風はリタの血も含まれているのだが、それを翼のようにしながら地を空を駆け抜けていく。

 水中では530体ものゴブリンの干からびた死体が積み重なっていた。そんな水中から空気の膜に覆われたイリスが笑いながら浮上した。


「あはっ、あはははは、楽しいねリタ!」

「全くその通りでやがりますね!」


 河原を血の海に変えたリタはイリスに同意しながら倒れたゴブリンを踏みつけて粉砕する。元々がエクストラクラスの獣人の身体能力が数十倍にもなったので、レベルが低くても弓兵しかおらず、混乱状態のゴブリンの中でも下級種では魔法回路を得たリタの相手にならない。今のリタを倒すなら最低でも回復を上回るダメージを与え続けねばない上に倒したゴブリンから魔力を得たイリスがリタにも魔力を供給し続けるので、完全にボス仕様と同じだ。


「もう終わりでやがりますか?」

「経験値稼ぎもいいけど、そろそろ夜が明けるよ。それにゴブリンロードも出現しているみたいだから生かさず殺さず搾り取ろう。鉄はいい収入源になる」

「イリスが言うなら構わねーです」

「まあ、まだ攻め込んだら数で負けるだろうしね」

「こいつらは所詮、下級種の偵察部隊でやがりますからねえ……次に期待って事でやがりますか」

「うん」


 イリスは川の底に溜まった死体を引き上げて触手の先端を腕にして、干からびた死体を引き抜いて鎧や武器を回収していく。


「リタ、力が有り余ってるなら其の辺の木を引っこ抜いてログハウス方面に投げといて。防衛拠点をもっとちゃんとしたのに使うから」

「了解でやがりますよ」


 リタは木々を引き抜いては対岸に投げていく。しばらくして死体と武具に分けたあとはリタの魔法で死体を焼却した。ゴブリンの弓兵達の死体も処理し、血の跡だけ残してイリス達はログハウスへと戻っていった。








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