第87話 ポーションとはなんぞや
ポーションとは何か?
ゲーム上ではHPを回復させる薬。
では召喚したポーションはどうだろう。
最上級のエクスポーションは四肢欠損すら回復させる効果を持つ薬だった。
――四肢欠損からの回復。
飲むだけで、失っていた左腕が元通りに復活する。
飲むだけで、無から有を作り出してしまう。
液体が体内で変化している可能性もあるから『無から有』は違うかもしれない。だが、それでも現実では考えられない効果を及ぼす。
エクスポーションほどではないにしろ、普通のポーションも小規模ながら同様の機能・効果を備えている。
つまり、俺から何かが失われたとしよう。
その時にポーションを飲む。
すると、俺から失われた何かを補うように作用するはず。
さて、実際にそれを一度検証したところ、その仮説は正解だった。
俺が失ったものは、ポーションを飲むことで無事に元通りに補填された。
……だが、たった1回の検証で『正しい』と断言しても良いのだろうか?
失われたものが補填された俺自身には、なにも問題はなく、むしろ万全の状態である以上、何度か繰り返し確かめることが重要なのではないだろうか?
幸いなことに、検証に協力をしてくれる体制は整っていた。
2回目の検証。
問題ない。
むしろ体調は万全。
3回目の検証。
全く問題なし。
腰やひざが痛くなるかと思ったが、一流ホテルはベッドも一流だ。
4回目の検証。
同時攻撃に耐えるなど、かかる負荷を大きくしてみたが、やはり問題はない。
むしろポーションを飲んだ直後は、身体が軽くなるような感覚すらある。
セリフィアは「とてもイイです」と満足げな感想を述べていた。
5回目の検証。
ここまで来ると、協力してくれる皆のテンションも上がってきている。
ルミナが「次はもっと激しく」と笑い、カリーナが「限界を試すのも悪くないでしょう」と艶やかに囁く始末。
俺は「いや、限界って……」と突っ込みながらも、結局は検証を続けることになった。
6回目の検証。
もはや検証というより再現実験だ。
俺が何度、俺の中の何かを失おうとも、ポーションはそれを補填し、また挑むことができる。
カグヤが「マスター、すごい!」と手を握り、ミレイユが「こんなの初めて」と微笑えんでいる。
肉体的にも精神的にも充実している俺は、もうポーションの効果に感動しか覚えられない。
こうして検証は、気づけば加速し、朝日が差し込んでも止まる気配を見せなかった――
……いや、朝日はまずいだろう?
とりあえず検証は十分にできた。
肉体疲労や特定の事象に限定する形ではあるが、ポーションによる回復の再現性は非常に高い。ほぼ確実に効果があると言っても過言ではないだろう。
……いや、ちょっと待とう。
確実とは『100%』のこと。
100%と断言するには試行回数がまるで足りないのではないだろうか?
これはやはり、以降で要検証である。
そうすれば、その内100%に近付いていくことだろう。
検証に満足し、少しだけ仮眠を取ることにした。
☆ ★ ☆ ★ ☆彡
鷹司さんは夕方に来ると言っていたので、明け方からの仮眠で睡眠時間が十分取れた。
チェックアウトの時間なども気にする必要もなく、起きている仲間たちはルームサービスを楽しんでいたが、何部屋もあるスイートで助かった。
それにしても、大人数で過ごすとなると、俺の自宅というのは少し厳しい。
エクスポーションが売れて、しかもゲーム会社も気にしなくてよい状況となれば、お金に余裕があることになる。
であれば、ホテル住まいという選択肢も悪くない。
掃除なんかもしなくて良いし、その都度面白い宿泊先を選ぶのも楽しそうだ。
そんなことを考えていると部屋の備え付けの電話が鳴り、近くにいたセリフィアが受話器を取った。
「はい――そうですか。分かりました」
静かに受話器を置き、俺の方へ向き直る。
「マスター。そろそろ鷹司さんがいらっしゃるそうです。最上階のレストランで打ち合わせをとのことでした。」
「あぁ、ありがとう。」
高級ホテルの最上階のレストラン。
フレンチかなぁ?
フレンチだろうなぁ……
あまり堅苦しいのは得意じゃないけど、マナーは結局『相手の気分を害さない』思いやりの気持ちを持っているのが一番大事だし、そこだけ気を付けよう。
「へぇー楽しみね!」
ニコニコ笑顔のルミナ。
彼女たちは、何をしても外見が最高だから、振舞いにもプラス補正が入る。問題ないだろう。
あ。
俺、着替えなくね?
やべ。
「黒瀬さんが服を用意してくれるようですよ。」
セリフィアの言葉と、ほぼ同時に部屋のチャイムが鳴り、そのままセリフィアが対応。
来たのは黒瀬さんだったようで、戻ってきたセリフィアの手には全員分の、しっかりした服が用意されていた。
至れり尽くせりやな。ほんま。
……なんでサイズとか分かったんや?
まぁいいか。
着替えて準備を整え、最上階へと向かうと、そこに黒瀬さんが控えていて案内してくれた。
通された部屋は広めの個室で、最上階からの眺めが楽しめるように設計された部屋で、とても良い雰囲気。
皆と夕暮れの光景にはしゃいでいると、ドアをノックする音が響き、鷹司さんが入ってきた。
「お待たせしてしまいましたでしょうか。」
「いえ、全然待っていません。それよりも素晴らしいホテルを準備いただいて、本当に有難うございます。」
入ってすぐに頭を下げられたので、俺もすぐに頭を下げる。
「ホテルをお楽しみいただけているようで嬉しい限りです。」
鷹司さんが顔を上げ、微笑みながら放った言葉に、俺は笑顔を返す事しかできなかった。




