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現代ダンジョン・オーバーキル!  作者: フェフオウフコポォ


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第85話 美女と美少女お外に出る


暗い闇を抜けた先――そこはダンジョンの出口に直通し、しっかりと整備された日本だった。

後ろを振り向けば、紅色の結界膜が変化し、人が通れない程の大きさに縮んでいる。


「……え、ここ……どこ?」

「……ダンジョンの外?」


ルミナとカリーナがキョロキョロと周りを見回し、ミレイユが呟き、カグヤが驚きの声を上げる。


「まさか直通で出るとはな……」


石動のオッサンは頭を掻きながら呟く。

その横で、鷹司さんは少し拗ねたように肩をすくめていた。

少し不満がありそうな顔ながらも、どこか楽しげな雰囲気を隠しきれていない。


だが――俺は浮かない顔をしていることだろう。


偽物の俺と偽物のセリフィアが消えた光景が、頭から離れない。

彼らは消滅したのか、それともどこかへ行ったのか。

その答えが分からず、悶々とした気持ち悪い感情が心の中で動いている。


「マスター……」


セリフィアがそっと近づき、俺の横顔を覗き込む。


「安心してください。あちらのマスターにも、私がいます。」


……


……なんか。


……なんか、一気に大丈夫な気がしてきたな。


「ご主人様! 外だよ! ダンジョンの外に出られた! やっと出られたー!」

「うふふふ。楽しい事がいっぱいありそうね。」


気が大分楽になった気がした俺に、ルミナが笑顔で抱き着いてくる。

カリーナも腕を絡めながら言葉を添える。


「あなた様が気に病む必要はありませんよ。」

「私たちが一緒にいますから。」


ミレイユとカグヤも近寄り温かい言葉をかけてくれる。

仲間たちの声が重なり、胸の重さはどんどん無くなってゆく。


俺は一度深く息を吸い込み、吐き出した。


――そうだ。

立ち止まったところで、どうにもならない。

それに消滅したかどうかもわからない。今は情報が足りない。


それに、そもそも『偽物の俺』は試験のギミックだった。

悲しいけど、そういうものと受け入れ、元気にやっていたら儲けもの。そう思うくらいがちょうど良いはずだ。


自分の中で納得でき、気持ちの切り替えが終わる。


「あ。」


どうしよう。

落ち着いたせいで、気づいてしまった。


みんな、日本にきちゃった。

どうしよう。


セリフィア一人だけなら、なんとか誤魔化せたかもしれない。

だけど、ゲームキャラとして濃い特徴を持つ美女と美少女しかいない集団なんて、目立ち過ぎる。


とりあえず編成解除して戻すか?

いや、こんなに喜んでいるのに可哀想だろう……どうしよう。


「中村様。」

「はい!?」


また混乱しかけた俺に、鷹司さんが声をかけてきた。


「先ほどは大変失礼いたしました。あまりに信じられない光景の連続に、少し我を忘れてしまいました。」


あ。ご令嬢な雰囲気に戻ってる。

この人、塔の中で『やだー!』みたいな感じになってなかったか?


とはいえ、だ。

かしこまった調子で来られると、社会人スキルが勝手に唸ってしまう。


「いえ。こちらこそ緊急時と思い大変失礼いたしました。ご寛恕ください。」

「とんでもございません。中村様のご対応は適切でした。試験官として貴重な経験をさせていただきました。ありがとう存じます。」


あ。

また思い出した。

この人、セリフィア達がゲームキャラだって気づいている人だった。


顔に冷や汗が流れた気がした。


だけど鷹司さんはニコリと微笑んでいる。


「どうぞご安心くださいませ。ダンジョンの中でも申し上げました通り、私は中村様の味方でございます。

本来ならば色々とお話を重ねたいところではございますが――」


鷹司さんがチラリと後ろに目を向けると、彼女のSPっぽい女性が走ってきている。

それを確認し、俺に向き直って言葉を続けた。


「本日は見事に攻略を果たされたお祝いとして、私の者に皆さまのご宿泊先を手配させていただきます。どうぞホテルにて、ゆっくりとおくつろぎくださいませ。」


「えっと…ありがとうございます? ただ、そこまでお世話をおかけするのも心苦しいので――」

「……マスター。真意を測るという意味では提案に乗るのも一つの手かと。」


突然の提案に、どうすべきか考えながらも口が勝手に断っているとセリフィアが、こっそり意見をくれた。


それは確かにそうだ。

それに話を聞く限り、かなり権力者っぽい家柄みたいだし……やばい。なんか面倒臭そうな気がしてきた。


「会話の中で、エクスポーションの購入者とも言っていましたので、良い取引先となる可能性もあります。」

「そういえば……言ってたわ。」


この人がポーションを5億円で買う人なのか?

そう考えると、お誘いを断るという選択肢は無い気がしてくる不思議。


「私は試験官としての務めもございますゆえ、明日の夕方にでもホテルの方へ伺えたらと思っております。」


鷹司さんは俺の答えが肯定であると踏んだのか、泊まるものとして話を進めている。

背後に控えた女性のSPへ軽く視線を送ると、合図を受けた彼女はすぐに前へ進み出て、鷹司さんから一言二言受け、すぐにスマホを操作し始めた。


「あとは、この黒瀬くろせに案内させますので。ご要望などがございましたら、彼女に申しつけください。それでは石動様。まいりましょうか。」

「お、おう。」

「中村様。本日は誠にお疲れさまでございました。そして貴重な経験をさせていただき心より御礼申し上げます。」


鷹司さん自身は、再び令嬢らしい落ち着いた微笑みを浮かべると、優雅に踵を返した。

その姿は、先ほどまで塔の中で見せていた奔放さが嘘のように、きちんとした社交界の令嬢そのもの。


「では、皆さま。ごゆるりとお過ごしくださいませ。」


柔らかな言葉を残し、彼女は静かにその場を離れていった。


残されたのは、SPの女性らしき黒瀬くろせさんが頭を下げている光景と、彼女の背中に漂う気品の余韻だった。



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