第83話 チリトリ・オペレーション
またパンプキンの笑い声に、少し憤りを感じ始めた頃。
融合して巨大化した魔石ゴーレムの討伐は、すでに終わっていた。
動きにくいと思っていたが、足の踏み場がないほどに、部屋一面に散らばる大量の魔石。
「「うわぁ……」」
俺たちの声が被る。
思わず金額を換算してしまい、つい現実逃避しかけたのだ。
「「あっ」」
これだけの魔石ゴーレムが出現し、倒したのなら、塔に異変の一つでも起きているのではないか――
そう思い水晶に目をやるが、不規則な揺らぎが見える程度で、他に異常は見当たらない。
偽物と顔を見合わせ、お互いに首を捻る。
「マスター。お疲れ様でした。」
「魔力干渉解析」
本物と偽物のセリフィアが、俺たちに近づきながら言葉をかけてくれて、スキャンもしている。
「「スキャン?」」
「魔石の数の確認ですね。」
「「あ~、確かに必要だよね? ……必要か?」」
つい、本音が漏れ首を傾げる。
「……これは凄まじいですね……数量を申し上げます。
火属性魔石、大15個、中155個、小395個。
風属性魔石、大12個、中122個、小318個。
水属性魔石、大15個――」
セリフィアの個数読み上げに、俺たちは顔を見合わせる。
偽物の俺に手で促され、俺は頷いた。
「あ~、うん。セリフィア。とりあえず『いっぱい』ってことは分かった。ありがとう。」
そう言って改めて周囲を見回す。
塔に異常らしい異常は、見当たらない。
これだけの魔石が出現したというのに少しの影響もないのだろうか?
俺がセリフィアを見ると、彼女は『分かっています』と言わんばかりに頷いた。
「マスター。この魔石は、まだ塔の所有物なのでしょう。マスターの能力に収納してしまえば、塔から奪ったことになるのではないかと。」
「なるほどな……確かに、まだ塔の中にいるんだもんな。塔が手出しできない状態になってこそってことか。」
喋りながら気づく。
「ん? って、ことはもしかして偽物の俺が塔の魔石を収納すれば、ワンチャン外に出られる可能性がある?」
偽物の俺が反応した気がしたが、そちらを見るのも憚られ、セリフィアへ視線を向ける。
彼女は少し険しい表情を浮かべていた。
「可能性はあるかもしれません……ですが、逆に塔にエネルギーを還元する可能性もあります。試すのであれば少量の魔石にしておく方が良いでしょう。」
それもそうかと思い、余計な提案をしたことを悪いと感じ、偽物の俺を見ると。少しおどけたように肩をすくめてみせた。
「まぁ、それもそうか。としか思わんし、別にいいよ。気にすんな……ただデカイ魔石2~3個もらってもいい?」
「逆に、それ以外貰ってもいいのか?」
「いいさ。」
セリフィアが本物と偽物の2人揃って偽物の俺に向き直り口を開く。
「偽物のマスター。過酷な思いばかりをさせてしまい申し訳ありません。」
「私は、どうなろうと最後までマスターと供に。」
「ありがとう。」
偽物同士のやり取りを見て、もし俺が同じ状況になった時、セリフィアは同じ言葉をかけてくれるのだろうと思い、胸が少し締め付けられた気がした。
「ただ、一つ。マスターには試していただきたいことがあります。魔石を奪い、負荷がかかった後。イレギュラーな状態となったその時に、あの水晶に触れてみて欲しいのです。」
「……分かった。なんか楽しい事が起きると良いな。」
偽物の俺が、偽物のセリフィアに微笑みながら言った。
そして、俺の肩を軽く叩く。
「ほんじゃ! 仕上げと行こうぜ!」
★ ☆ ★ ☆彡
俺がダンジョンの中で、スマホからゲームを起動すると、よくある謎の『ステータスオープン』のように目の前に大きな画面が表示される。
この大きな画面は俺とキャラクターたち以外には認識できないが、ここに魔石を押し込むと収納されることは、この間のダンジョンで確認済みだ。
「うーん……一人だけサボってる気分。」
というわけで、俺は床に寝転がり、ステータスオープン画面を床に密着させている。
不思議なことに、画面は床を突き抜けるようなことなく、床に引っ掛かかるように表示されている。
なので、ホウキで掃いた時に使用するチリトリのように、魔石を滑らせて画面に押し込んでいこう――ということで、俺は寝転がる必要があったのだ。
「『拾う』という作業が省略できるのですから、かなり効率よく収納できるスタイルですよ。マスター。」
セリフィアが少し笑みを浮かべながら言う。
「添い寝しましょうか?」
「バカなこと言ってないで手を動かしてください。」
「沢山あって大変ねぇ……」
「でもちょっと楽しいですね。」
ルミナ、カグヤ、カリーナ、ミレイユの声も続く。
ルミナは元々召喚していたが、魔石の多さに人手が必要となり、他の仲間も呼び出したのだ。
「極魔石も1つもらっていいか?」
「もちろん。」
偽物の俺は、自分のスマホで呼び出した画面に、頭サイズの極魔石を収納している。
塔のイレギュラーが起きた時どうなるか分からないから、彼はセリフィア以外の召喚はせずに手伝ってくれている。
「本当に、もう手伝わなくてよろしいのですか?」
「ありがとうございます。なんだかすみません。」
「いや、まあ乗った船って感じだしなぁ。」
鷹司さんと石動のオッサンも手伝ってくれていたが、流石に、これ以上はセリフィアたちの連携の邪魔になる可能性がある。
ただ、鷹司さんが思った以上に手伝おうとしてくれたのは意外だった。
「それでは、皆さま。はじめましょう。」
セリフィアの声で、皆が頷く。
「……お手柔らかに。」
俺は若干の諦めを含む言葉を残す。
「安心してください。ご主人様を乱暴に扱ったりしませんから。」
「そうよねぇ。」
ルミナとカリーナが微笑み、寝転がった俺を持ち上げる。
掃除をする時、ホウキだけを動かすかい?
チリトリも動かすだろう?
そういうことだ。




