第80話 脱出方法の模索
そう。何はともあれ、今は偽物の俺のしたいようにやらせるのが一番!
だって、最後になるかもしれないんだから。
「ちなみに、何をどうするんだ?」
「俺のセリフィアに聞いたら、どうやらこの塔は最初にボスが配置されてるタイプらしい。この先に行っても戦う要素は無いみたいだ。」
つまり、偽物の俺がボスってことか。
……あれ?
塔をキャンって言わせられない?
詰んだ?
俺の疑問を無視して偽物の俺が言葉を続ける。
「んで。俺のセリフィアがいうには、どうにも、このダンジョンはスキルを与えることを餌に危険人物を排除するのが目的らしい。」
「危険人物の排除……なんとなく分かる気がするが、スキルって?」
「この塔の攻略者はスキルを授与されるんだって。最初の試練を超えると、その先でスキルを得て攻略完了ってなる流れなんだとさ。」
本物のセリフィアが口を開く。
「ですが、マスターはスキルを得るべきではないと考えています。その理由は、既に特殊能力を得ており、新たに与えられたスキルが現在の能力にどう影響を及ぼすか不明だからです。」
「それは……悪い方に作用したらと思うと、ゾっとするな。」
本物のセリフィアが俺に近づいて囁く。
「恐らく塔の与える能力は、あまり強い能力ではありません。入る前の打ち合わせの際に石動さんを密かにスキャンしましたが、はっきりと断定はできませんが、他人からの好感度を高める程度のスキルと思われます。」
「あ~……なるほど。異様に好感度高いと思ったらスキルが関係してたのか。」
まぁ人柄の良さも大きいだろうが。
偽物の俺が言葉を続ける。
「新たに得られるかもしれない能力の価値と、その影響を天秤にかけると傾くのは現状維持の方が強いってワケだ。」
そうなると……まっとうに攻略しないで塔を脱出する必要がある。
俺は後ろの試験官の2人に向きなおった。
「石動さん。鷹司さん。試験官にひとつ質問なんですが、今回の試験は最初の偽物の自分と向き合うのがメインですよね? この後、能力をもらって帰る部分はオマケですよね?」
鷹司さんは俺の質問を受けて石動のオッサンに視線を送り、促されたオッサンが頭を掻きながら口を開く。
「なんで初めての塔で、行ってもない先のことが分かるのかワケが分からんが……まぁ、そうだな。一番大事なのは偽物との向き合い方。そこで生き残るかどうかが試験の本質だ。」
答えてくれたので掘り下げることにする。
「じゃあ、メインはクリアってことで、能力うんぬんはオマケでいいんですよね。
私情で申し訳ないんですが、この塔で能力をもらわずに帰ろうと思ってるんですが、その帰り方ってできそうですかね? できればお二人の時はどんな感じだったかと教えてもらえると嬉しいんですが。」
石動のオッサンが一層激しく頭を掻き、諦めたように溜息をひとつ。
「はぁ……俺の時っちゅーか、大体この後、壁から階段が出てきて上の階に行けるようになる。そんでそこの中央にある水晶に触れると能力を得て帰り道が開くようになってるな。お嬢さんの時は違ったかい?」
「いえ。私の時もその流れですね。」
「俺ぁ塔に気に入ってもらえてるおかげか、水晶に触れると魔石がもらえるってオマケがあるから、ここを専門にしてるってワケだ。」
「なるほど。その出てくる帰り道は、これまででよく見た黒い通り道ですかね?」
「そうだな。」
俺は偽物に向き直る。
「帰り道は塔が設置してるみたいだな。俺たちが能力をもらわずに塔から出るには、試験官に協力してもらう必要があるかも。」
「だな……まぁ、俺のセリフィアが言うには『追い出してもらう』って方法も考えられるってさ。」
「追い出してもらう?」
俺の疑問に偽物のセリフィアが口を開く。
「はい。この塔の方針は『人を守ろう』としていると思われますので、過剰な負荷をかけ塔を機能停止に近づけた場合、塔が中の人を脱出させる可能性が高いのではないかと。」
「人を守ろうとしている?」
偽物をけしかけてる殺そうとしている点で矛盾している気もするが……まぁ危険人物の排除が目的と考えれば守ってるのかなぁ。
「はい。この塔だけのことかもしれませんが『力ある者が悪人であってはならない』という意思を感じます。悪人が力を持てばどうなるかは容易に答えが想像できますし、その芽を摘む機能が備わっていることは人を守ろうとしていると言えるのではないかと。」
「ふむ……」
「他にも色々と理由はございますが――」
「いや、そこは今はやめておこう。セリフィアが言葉に出す時はある程度、根拠があってのことだろうし。」
セリフィアがダンジョンに感じていることは、またじっくり教えてもらうとして、今はそこよりも、少なくとも2つは塔を脱出できるかもしれない方法を検討できたということの方が大事だ。
1に、攻略者である試験官は帰り道を開ける。
2に、塔に負荷をかける。
『試験官に帰り道を開けてもらう』場合は、試験官が通ると帰り道は締まるかもしれないし、もしかすると1人が通ると帰り道が閉まるという可能性もある。
なにより試験官に協力をしてもらわなくてはならないというハードルがある。
『塔に負荷をかける』というのは、やってみなくちゃ分からない。やった結果、どうにもならなくなるという可能性もある。
もちろん3つ目に、俺が塔から能力を与えられるか試し、攻略者の一人になって通常通りに脱出するという最終手段もある。
3は選びたくはないが、もしかすると良い方向に能力が変わる可能性だってないわけじゃないのだから、一応選択肢になる。
少しだけ悩む。
「うん。負荷かけてみようか!」
「だな。結局どの場合もやってみないと分からない事の方が多い。それならセリフィアの案を試すのが『俺たちらしい』よな。」
「そのとおり。」
偽物の俺が試験官の方を向く。
「すみません。ちょっと俺たち塔に対して意趣返しみたいなことをしちゃうんで、先に言っておきますね。」
「ちょっとどうなるか分からないんで、避難も検討してもらった方が良いかもしれません。その時は教えてくださいね。」
俺も合わせて伝えると、石動のオッサンが『えぇ……』と言わんばかりの困った表情になったが、鷹司さんは口元を隠すように笑った。
「「で、負荷はどうかける?」」
俺たちはセリフィアを見る。
「ふふっ、マスターたちには最終階で、最高レベルの封印クエストを発生させてもらいます。同時に。」




