第77話 求める少女
水着ルミナに俺がご褒美を与えることが決まり、やる気になったのは良い。
だが、偽物の俺をルミナが敵と認識できず、必殺技を放てるようにならない問題が発生した。
結局、偽物の俺にルーキーナイフを装備してもらい、ルミナに攻撃を加えてもらうことで解決という、また、ややこしいひと悶着があった。
ルミナに刃物で攻撃するという、偽物の俺が5歳くらい老けそうなダメージを心に負ったことで、ルミナの必殺技が放てるようになった。
今、ルミナは暗黒色の魔法陣の中心で浮かんでいる。もう必殺技を放つ直前だ。
「……ワ……ワァ……」
偽物の俺が半泣きになっている。
本当にゴメン。
心苦しさが半端じゃない。
「ゴメンね……偽物のご主人様――冥き波の終焉」
ルミナの足元から広がった暗黒の海。
その中心から、天井まで届きそうな魔人の腕がゆっくりと姿を現す。
「「………ワァ」」
俺も声が漏れた。
魔人の腕が、動き出す。
「「………ウワァ」」
偽物の俺に一気に振り下ろされた。
_人人人人人人_
> 1億5千 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
_人人人人人人_
> 1億5千 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
暗黒の海が消え、ルミナが地面にゆっくりと降りていく。
「…………はぁ。胸が痛いです……ご主人様。」
「……おれも。」
_人人人人人人_
> 3億 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
偽物の俺が居ただろう場所にトータルダメージエフェクトが見えた。
偽物の俺は、その存在まで無くなっている。
「これは……どうなんだ……」
「ご主人様。つらいから、だっこして。」
ルミナが俺の腕に収まってきたので、抱っこしておく。
偽物の俺――完全に死んでないか? コレ……
「マスター。あそこを見てください。」
セリフィアの指した部屋の中心に目を向けると、揺らぎのような物が生まれ始めていた。
そこに出口ができるのかもしれない。
「あ。ご主人様。あそこ見て。」
ルミナが指した方向――偽物の俺が居た場所に目を向けると、どこかで見た覚えがあるような光が集まり始めていた。
光はどんどん集まり強くなり、形を作り始めてゆく。
「あ……復活できそう。……良かった。」
直感で、偽物の俺が復活する気がした。
となると――
中央に目を向けると、出口らしきもの。塔に入った時の黒い結界膜のような物が作られ始めている。
その大きさはどんどん人が通れる大きさに膨らんでいっているので、偽物が復活の兆候を見せても変わらない。
「マスター。念の為、通れるようになり次第、先に出口を通ってください。」
「分かった。」
最悪、セリフィアとルミナが閉じ込められても、編成から再召喚できる。
俺さえ外に出れば問題ない。
早速、動こうとする。
が。動かない。
「えっ?」
俺を、がっちりホールドしている水着ルミナが居た。
「あの、ルミナさん? ちょっとよろしいか?」
「よろしくないです……ルミナは心に大きなダメージを負いました。」
水着ルミナに抱きつかれている状況は嬉しくはあるし、ルミナは可愛い。
が、ちょっと今は、忙しいんですが?
出口になるだろう黒の結界膜も、どんどん形になってきている。
「ご褒美の前に癒しが必要ですわ。ご主人様のキスがあれば、とりあえず癒されます。」
「おおう!?」
「ルミナさんっ?」
セリフィアの硬めの声が響いた。
そんなセリフィアに、じっとりとルミナが顔を向ける。
「なんです?」
「今はそれどころではない状況と見て分かりませんか?」
「ふぅん? ご主人様を誰かに独り占めされてる気が、すごーーくするのも原因の一つなんですけれども? それに心当たりはありませんかぁ?」
セリフィアが少し返答に詰まったような顔になる。
「ひとりじめ。していません? ねぇ?」
ルミナがセリフィアに向けて言葉を放つ。
俺は俺でセリフィアを独り占めしているような気がしているので、なんだか心苦しい。
ルミナの言葉に、セリフィアが諦めたように溜息をついた。
「はぁ……分かりました。今度ちゃんと説明します。なのでマスターを離してあげてください。」
「うふふ。キスで離すわよー。」
「マスター。さっさとやっちゃってください。まったくもう……」
えぇ?
……ええんかい?
俺的には、もうセリフィアが恋人な気分だったんだけど……ええんかい?
そんな、セリフィアと検証できるだけでも幸せだっていうのに、ルミナにまで手を出すようなことをして、そんなことして良いわけが――まぁ! セリフィアが良いって言ってるしな!
「ん。」
やわこい。
あんなコワイ技つかうのに、色々やわらかい。
軽くでも強くでもない触れ合いが、終わる。
「はぁ……ご主人様ぁ……次は、もっとゆっくり……いっぱいしましょうねぇ。」
少し満足気なルミナに解放される。
ちょっと解放されたくない気分になりかけていたので、なんとも残念この上ない。
「マスター。出口ができそうです。向かってください。」
「わ、分かった!」
色んな感情がごちゃ混ぜになりながらも部屋の中央へ進む。
偽物の俺がいた場所へ目をやると、そこでは光が形を取り始め、徐々に人の姿に近づき色味まで帯び始めていた――いよいよ復活できそうだ。
となれば、俺がやること、できることもある。
黒の出口を通った後に、エレベーターを出た後みたいに出口が閉じない様に片腕突っ込んでおくんだ。
俺が出口に引っ掛かっていれば、出口が消滅するタイミングを遅らせられるかもしれない。
もし万が一、途中で閉じてしまっても腕を失うくらいのこと。
偽物の俺が命を懸けたんだ。
欠損が治せることが分かっているんだから、俺も腕くらいは賭ける。
出口だろう漆黒の膜が完成すると同時に、迷わず飛び込んだ。




