表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現代ダンジョン・オーバーキル!  作者: フェフオウフコポォ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/87

第72話 試される者


「初めまして。鷹司詩乃と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」


俺を見ての、しっかりとした礼。

真の『凛とした』というのは、こういうことか! と感じてしまう。


「どうも、中村大輔です。試験官を担っていただく方かと思いますが、今日は私のためにお時間をありがとうございます。」


働いていた頃の俺だと、雰囲気に当てられて内心で慌ててしまったかもしれない。

だがここにきて、ルミナやセリフィアが、よく俺を持ち上げ、頭を下げたりしてくれていたおかげで、焦ることなく状況を察しながら普通に礼を返すことができた。


「おおっ、やっぱり鷹司のお嬢さんだったか! どうもどうも初めまして石動勇作ですわ。ご高名は、よー聞いとりますわ。」


石動さんが豪快に笑いながら、まるで旧知のように声をかけている。

……お前も、初対面やったんかい。


鷹司さんも一瞬だけ目を細め、すぐに柔らかな笑みを返した。


「石動勇作様でいらっしゃいますね。ご活躍は私も存じ上げております。私も石動様のような活躍を目指したいと思っております。」

「あっはっはっは! 俺みたいな場末のオッサンをご令嬢様が知ってるなんざ、こっちが恐縮だわ!」


初対面なのに、互いを知っている。

D1免許保持者同士の距離感というヤツだろうか?


そのやりとりを眺めながら、どう反応すべきか少し迷っていると石動さんが、俺に気を回すように肩を軽く叩いてきた。


「中村さんな、鷹司のお嬢さんはな、大富豪のご令嬢でありながらD1免許保持者なんだぜ。金も地位も元々あるだろうに、わざわざ探索者に挑んでる、なんかすげぇ人だ。」

「……なるほど。」


俺が頷くと、石動さんはさらに声を弾ませる。


「俺ぁ塔しか入れねぇオッサンだから、他のダンジョンの情報なんて持ってねぇ! いや、聞くは聞くんだが、必要ねぇから覚えてなくてな! あっはっは! だが、鷹司の御嬢さんなら、他ダンジョンの情報だの、いっぺぇ持ってんぞ! 多分!」


多分かい。

やっぱ知らんのかい。


「そういえば、あれだ鷹司家ってのは公家にルーツがあるとかいう話も聞いた気がするな。そこんとことかどうなんだい?」

「いえ、古いだけの家柄にすぎません。」


鷹司さんは静かに微笑み、石動のオッサンの言葉を否定も肯定もせず、ただ受け止めている。


おれしってる。

これ、公家ルーツの名家パターンやな。


お貴族様かしら? という視線で見てみても納得というか、本当に令嬢っぽい。


ざっと見た感じでも分かる程度に着てるモノの質が良い。

白のブラウスにフォーマルさを感じるジャケット。タイトなスカートにヒールではなくローファー。

色は紺ベースで、全体的に落ち着いた雰囲気。


「ん?」


石動のオッサンを見る。

カーキ色のワークジャケット、ジャケットの中のシャツはオッサン愛用感すらあるネルシャツ。下はワークパンツにブーツ。


「んん?」


2人とも普段着が過ぎやしないかい?


これから1級ダンジョン『天哭てんこくの塔』に入るんだよね?

城攻めダンジョンの時の九重さんとかはバトルスーツとかプロテクターとか着てたよ?

これから着替えるのか?


「あの、石動さんは、その恰好でダンジョンに入られるんですか?」


こういう時、オッサンは聞きやすくていいな。


「んあ? そうだよ? お前さんもソレで入るんだろ?」


あ。俺もスーツか。


1級ダンジョン?

あれぇ?



俺が「その格好で入るの?」と内心でざわついているのを、鷹司さんはすぐに察したようだった。

柔らかな笑みを浮かべ、当たり障りのない調子で言葉を添える。


「ご心配には及びません。1級ダンジョンの中でも、天哭てんこくの塔は、特別ですから。私や石動様はこのような服装でも問題ございません。」

「お。鷹司のお嬢さんも塔には入ってるクチか。まぁ、試験官だもんな、そりゃそうか! 身分があるのに、ずいぶん怖えことするんだな。あっはっは!」


さらりとした言い回しと落ち着き。

石動さんの言葉を否定も肯定もせず、ただ静かに微笑んでいて、その沈黙が、なにかの答えになっている気がする。


俺がそう感じていると、背後からセリフィアの声が、そっと耳に届く。


「マスター。天哭てんこくの塔は、他のダンジョンと少し性質が違うようですね。」

「うん……なんかそんな感じだ。」


「話の流れ的には、塔に入った経験のある人物は、もう危険が無いように見えます……試験に選ばれるダンジョンということもありますし、かなり特殊なダンジョンではないかと。」


セリフィアの推測は恐らく正しいだろう。

だが、今、俺ができる対策は思いつかない。


「うん。なるようになれって感じかな。」


場当たり的だが、結局はそれしかできん。

どうにでもなーれ。


「さて、そろそろ定刻となりますので、皆さま試験を開始してもよろしいでしょうか?」


九重さんの言葉に、賛同を返す。

天哭てんこくの塔。

いったいどんなダンジョンなんだろう。



★ ☆ ★ ☆彡



全員で厳重な管理下にある紅色の結界膜の前まで移動し、九重さんだけをその場に残し、俺、セリフィア、鷹司さん、石動のおっさんの4名がダンジョン内へ踏み込んだ。


「うぉ」


結界膜を超えた瞬間に押し寄せてくるのは、異質そのもの。


目の前には巨大な天を貫くように直立する塔。

空は赤黒く、塔の周囲には底が見えない崖が口を開けているだけ。


なんか、ただただ怖い。


「おっし。ようこそ天哭の塔へ!」


石動のオッサンは、この光景を見慣れているのか、何も変わらない雰囲気で笑う。

最後に入ってきた鷹司さんも、落ち着いた様子のまま。


「さて、中村様。この天哭の塔は極めて危険なダンジョンです。探索者にはまず2つの選択肢がございます。」


鷹司さんが指を一つ立てる。


「一つは、塔の攻略を諦めて帰還すること。」


2本目の指を立てる


「もう一つは、攻略を選ぶこと。」


腕を下ろし、一拍置いてから続ける。


「ただし、攻略を選ばれた場合、これまでの探索者の結末は『攻略』か『死』──その二つしかございません。どうか慎重にお考えください。」


その真剣な眼差しに、背筋がひやりと冷えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
石動さん。所見でイスルギって読めない自信があります。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ