第65話 電車移動と金策再考
今日の用事のひとつめが終わり、電車に乗って移動。
一人の時と違い、セリフィアの美少女っぷりのせいだろうか、周囲の乗客が妙に距離を取っているような気がしないでもない。
でも快適なので問題ない。
「永井さん、真面目そうな人だったね。どうだった?」
セリフィアは一瞬だけ視線を外し、すぐに俺に向き直る。
その表情は柔らかく、どこか安心させるような微笑を浮かべていた。
「ええ、とても礼儀正しく、話しやすい方でした。
マスターのご意向を丁寧に汲み取ろうとする姿勢も好感が持てます。」
一拍置いて、言葉を選ぶように続ける。
「ただ正直なところ……取引そのものについては、今のところ代替のきくものと捉えていますので、あえてマスターが契約などを急ぐ必要はないかと。
今後のやり取りの中で、どのような付加価値を示されるか。それ次第といったところでしょうか。」
セリフィアは、俺の目をまっすぐ見て、静かに微笑む。
「もちろん私は、マスターの選択に沿って動きます。ですから私の意見よりも、マスターのやりたいことや、どうされたいかを教えてくださいね。」
「ありがとう。」
微笑みを返しながら、彼女らしい返答だなと思う。
「今のところ俺の考えはシンプルだよ、金策だね。」
ステータスオープンが如くゲーム画面を起動する。
俺とセリフィア以外には認識できないはず。
周囲の反応を確認するが、やはり誰も気づいていない。
手早くアイテム欄を選択する。
異光属性魔石(中)×1
異光属性魔石(小)×1
「……予想通りですね。」
立体ゲーム画面を見ることができるセリフィアが呟き、俺も頷く。
ダンジョンから持ち出したのは
異極魔石(大)×2
異極魔石(中)×2
異光属性魔石(中)×2
だった。
だが、今は
異極魔石(大)×2
異極魔石(中)×2
異光属性魔石(中)×1
異光属性魔石(小)×1
へと変わっている。
電力、化石燃料に変わる新エネルギー。それが魔石。
つまり、魔石はエネルギー資源。エネルギーの塊。
では一体なんのエネルギーなのかと言われると『ダンジョンのエネルギー』に他ならない。
セリフィアの推論では、ダンジョン内で顕現できていたのは、ダンジョンのエネルギーを使用できる環境だったから。
俺たちの世界は、新エネルギーとして魔石を使用するようになった。
つまりダンジョンのエネルギーは存在しない世界だった。だから顕現できなかった。
俺の能力内にダンジョンのエネルギーの塊である魔石を突っ込んでいるから、今、セリフィアが顕現できている。そういう推論だ。
そして、エネルギーを消費している証拠として、異光属性魔石(中)が1個、異光属性魔石(小)へと変化している。
恐らく、この小魔石はこの後、しばらくすればアイテム欄から消滅するのだろう。
「恐らく、私がスキルを使用したり、マスターがアイテムを召喚したりすれば、より消費は激しくなるのでしょうね。」
「そうだね。」
俺は胸元を確認する。
日本は安全だと思っているのだが、セリフィアの強い希望によりアクセサリを装備している。
セリフィアは『黎明の誓装』を装備して欲しいと言っていたのだが、黎明の誓装はステータスがあまりに強力過ぎる。
HP:6000
攻撃力:1000
防御力:6000
魔力:1000
神聖力:3000
すばやさ:3000
ほんとエゲツない。
ちょっとしたことで周辺に威圧感を放ちかねないということの方が、俺には危険と思えたので、意見の間を取って『御霊の首飾り』を身につけている。
――*――*――
【御霊の首飾り】
HP:500
攻撃力:0
防御力:500
魔力:0
神聖力:500
すばやさ:100
魂の揺らぎを鎮めるために用いたとされる首飾り。
霊玉には、持ち主の精神を守る御霊の加護が宿っており、強い意志を持つ者ほどその力を引き出せる。
戦闘中、1度気絶するダメージを受けても、HP50%で復活。
アクセサリスキル「御霊の加護」
パッシブスキル
全状態異常耐性80%上昇
――*――*――
このゲームにおいて状態異常は、毒、麻痺、混乱、眠り、出血など。
他にも怯み、呪い、封印なんかもあるが、日本では関係無さそうに思える状態異常。
これらの耐性が全て80%上がる
そして気絶も一度防いでくれる。
ステータスの上昇値も丁度よい。
恐らく、このアクセサリもエネルギーを消費しているだろうから、強力すぎないことで、二重の節約ができているだろう。
「とはいえ、魔石小でセリフィアの顕現と、アクセサリが1日持つって考えると、かなり効率よくない?」
「そうですね。私が光属性ということも関係しているとは思いますが……ただ2~3日の内にはダンジョンに潜って魔石を多く回収したいところですね。あとで九重さんに催促をしておきますね。」
「うん。よろしく頼むよ。でもお手柔らかにね。」
セリフィアなら心配ないだろうとは思いつつも、一応声をかけておく。
何事もやり過ぎるのは良くない。
「えぇ、心得ております。」
彼女はそう言って、静かに微笑んだ。
その笑みは、やっぱり頼もしい。
さて、俺は金策に魔石販売を考えていた。
だが、魔石に使用用途ができてしまったので、新たな金策を検討しなくてはならない。
金鉱石が金策になれば、それはそれでOK。
ただ、他にも収入の柱はあるに越したことは無い。
収入の柱。
新しい金策。
電光掲示板に目を向けると、次の到着駅名が表示されている。
もうすぐ到着か
「……もう来ることはない所だと思ってたんだけどなぁ」
あまり良い印象の無い場所。
新しい金策の検証の為とはいえ、少しだけ複雑な気持ちになるのだった。




