第57話 お土産たくさん(ニッゴリ)
モニターに突如、現れた『それ』は、対峙している男と同じほどの体躯を持つゴーレムだった。
その身体は、黒曜石のような艶を帯びた魔石で構成されている。
ただし、すべてのゴーレムが黒色ではない。
赤、青、無色――それぞれが異なる色彩を宿しており、まるで『属性』を象徴するかのように、固有の輝きを放っていた。
まるで『宝石のゴーレム』。
滑らかな宝石の表面は、光を受けるたびに淡くきらめき、赤は深紅の炎のように、青は氷のように澄み、無色は虹のような光を内に宿す。
その輝きは、光を受けるたびに美しさを増し、見る者の目を奪う。
だが――それは、惑わせるための美しさのよう。
輪郭こそ人型だが、顔も、目も、口もない。人型の宝石。
それは無言のまま立っているが、その拳や蹴りは、容易に人を破壊するであろうことだけは、誰の目にも明らかだった。
静かで、美しくて、恐ろしい。
破壊するために生み出された宝石のような存在感。
――そんな存在が10体も現れたのだから、たまらない。
映像が大きく揺れ、撮影者の動揺が、そのままカメラのブレに現れている。
だが、それも無理はない。
モニター越しに見ているだけでも、背筋が冷たくなる。
画面の中で、無言の宝石の1体が、ゆっくりとこちらを向く。
顔も目もないはずなのに『見られている』と錯覚させる、無機質な顔のない顔。
「……なんだ、これは?」
誰かが小さく呟いた。
誰も返さない。
息を飲む音だけが響く。
ただ、映像の中で対峙していた男だけが一歩を踏み出し、そして剣を振るった――笑い声と共に。
★ ☆ ★ ☆彡
まさかの封印クエストレベル2で10体『同時』出現。
いや、聞いてない。そんなの聞いてない。
5体が2回だと思ってたわ!
まぁ、セリフィアが護衛についてるから大丈夫だろうけど、突然のイレギュラーには変わりない。試験官のお二人を思うと手早く片付けるに限る。
幸いなことに、この魔石のゴーレムみたいなヤツも、所詮は封印クエスト。
封印クエスト自体、ゲームプレイヤーの不足を補うための救済措置みたいな扱いだから、現状の俺のステータスから見ればザコもザコだ。
ほないこか。
短剣を振るう――
「キャーハハハ☆!」
……うん、知ってた。
パンプキン・スライサーだもん。
笑うよね。
おれ、しってる。
しかし……魔石ゴーレム、パンプキンスライサーでスパスパ切れる。
いや! 魔石ゴーレムだよねっ!? 石って切れるもんなの? ねぇ。
敵も『ゴーレム』だからか、動きがギクシャクしてて硬そうなモーション。
攻撃も遅いし、隙も多い。
これならまだ、封印クエ経験値レベル1の方が歯ごたえがある。
「ほっほ、ほいっ!」
スパスパ切っていく。
「キャーハハハ☆!」
バッサバサ切っていく。
「キャーハハハ☆!」
ズバズバザンバリ切っていく。
「キャーハハハ☆!」
うぜぇ……
ひっじょーにウザいんだが……
本当に悔しいけど…………パンプキン系装備、ウザイから使わないにはならない。それくらいに有能すぎるんだよなぁ……
だって切ったゴーレムが倒れて崩れ、バラバラになってるんだけど……なんか、めっちゃ魔石が大量にある感じがするもんね?
これ、元の大きさより多くない? ねぇ?
物理はどうなってるの? 質量は保存されないの? ねぇ?
つーか、コレ、もうヤバイ量になってない?
お土産、多すぎない?
そこんとこどうですか!?
チラリとセリフィアを見ると、いかにもご満悦の良い笑顔。
うん! なら大丈夫だな! なんも心配いらん!
よし、なら遠慮なくいこう。
「ほいっ!」
「キャーハハハ☆!」
俺とパンプキン・スライサーが唸るたび、ゴーレムが崩れていく。
いや、やっぱりうるさいな!
パニッシャーのクラッカー音が鳴らないだけマシかと思ったけど、切る方が短時間で笑い声連呼してる気がして、うるささが増すわ!
しかも毎回テンション高め!
こっちは真面目に戦ってるってのに、なんでそんなに楽しそうなんだよ。
「キャーハハハ☆!」
「キャーハハハ☆!」
「キャーハハハ☆!」
……いや、もういい。
……切れるなら……切ってくれるなら、それでいいよ。
おじさんは受け入れるよ。キミのことを。
強制的に無我の境地に至りかけた時――足元は魔石だらけ。
そしてセリフィアの大きな拍手だけが響いていた。
――なんだ、もう終わってたのか。
即、パンプキンスライサーを仕舞う。
代わりの装備を何にしようか、ステータスオープン的なゲーム画面を眺めていると、近づいてきた気配があり、目を向ける。
「お疲れ様でしたマスター! 流石です! 素晴らしいお力でした!」
ウキウキのセリフィアさん。
かわいいれす。
いや、いつもこんな感じのセリフィアだし、ほぼ毎日、見てるっちゃ見てる笑顔だけど、美少女ってね……不思議と飽きないんですよ。これが。
変な笑い声で無駄に疲弊した心が癒されるわ。
セリフィアのハイテンションにつられてキャッキャウフフしたい気持ちが芽生えつつも、足元のジャリ音。
下に目が向く。
めっちゃ魔石。
「うん。ありがとー……これ、どうしようか?」
魔石クエスト、完了。
つまり。キラキラ輝く魔石の山。
封印クエストで得た物はダンジョン産。
イレギュラーモンスターの魔石と同じで持ち出せるはず。
ただ、ここまでの量の魔石となると、換金額を考えると笑えてくるが、運搬のことを考えると笑えない。
「もちろん運びましょう。」
セリフィアが、涼しい顔でそう言った。
俺はセリフィアの顔を見、そして遠くの試験官2人も見る。
4人。
4人かー
4人で運ぶのかー。
……無理じゃね?
「むりじゃね?」
「いえ。マスター。他の子も召喚してください。」
心の声が出てしまっていたが、すかさずの返答。
仲間の召喚は予定になかった行動のはずだが……
「あ~……うん! 分かった!」
セリフィアがGOサイン出したんならOKだな!
手伝いの手は多いに限る!
俺は、すぐにルミナ、カグヤ、ミレイユ、カリーナを編成する。
すると、何もない無の空間から、次々と姿を現す4人。
まるではじめから『そこにいた』かのように自然に現れた。
召喚にあたり試験官の2人の様子を伺っていたけど、ものすごく動揺している様子。
そりゃあ動揺するよね。
なにせ……ルミナが水着じゃない。
そう。ルミナは初期衣装のルミナだっているのだ。
水着じゃないのが普通だからね!
「ご主人様~♪ 会いたかった~」
「はしたないですよルミナさん!」
「あらまぁ、元気ね。」
「私も会いたかったわよ~」
右に黒基調のゴスロリ衣装のルミナ。
左には、普通の服なのにエッチなカリーナがくっついてきて、すぐに幸せサンドイッチ。
なにこの即席ヘブン。
ありがてぇ。
「それでご主人様……あの人たちはなぁに? 敵?」
ルミナの言葉に、4人が一斉に試験官の2人に視線を向けた。
その瞬間――九重さんが、膝から崩れ落ちた。
まるで脚の力が抜けたみたいに、ストンと。
神代さんは、無言で数歩、後ずさっている。
目が、完全に生存本能に切り替わってる感じがした。
イカン! 俺、知ってる。これは、えげつないステータス差で恐怖してるパターンや!
「いや大丈夫! あの人たちは敵じゃないよ! むしろ俺の為に時間を割いて、わざわざ来てくれている試験官の方たちです! お客様です!」
「あら、これは失礼しました。」
瞬時にルミナの空気が変わり、丁寧にお辞儀をした。
「話には聞いてたけど、本当に貧弱なのね……」
ルミナがお辞儀をする一方で、カリーナが可哀想な物を見る目で、2人を見て溜息をついている。
このカリーナの言葉に悪気は一切ない。
なぜなら、彼女たちにしてみれば『まだ威圧すらしていない』、ただ疑いの視線を向けただけ程度なのに、明らかに戦意喪失された。
そのことに驚いているのだ。
どうしようと思っていると、セリフィアが九重さんたちの方へ進み出て、にっこり微笑み口を開いた。
「ご安心ください。彼女たちはマスターの従者です。そして今日は運搬担当です。」
うん、フォローありがとうセリフィア。
でもその言い方……わざわざ『今日は』って言うと、
『今日以外は?』って思えて、少し怖いんではないかい?




