第56話 お土産準備(ニッコリ)
城攻めダンジョンは『城攻め』と呼ばれるだけあって、その名に違わず、なかなか面白い構造をしている。
ちゃんとお城を攻めるのだ。
外郭エリアというべきか、外堀の中もかなり広い。
……なので今回は途中に隠されていた井戸ルートを使わせてもらった。
これもセリフィアのスキャン様様。
試験官のお二人は驚いていたようだけど……うんうん。ビックリしてたもれ。
ウチのセリフィア。出来る子やねん。
まぁ、今はまた完全に黒子になってて、俺が勝手に裏口入学したように見えるだろうけど、この振る舞いもセリフィアの希望であるから、俺は受け入れる所存。
なんせ、本当に広いんだ。
この城攻めダンジョン。
本来は探索者たちも集団で挑むらしいから、それも納得の規模。
多分、裏ルート侵入しないと、二泊三日くらいかけなきゃ天守閣まで辿り着けないんじゃないかと思う。
「ほい、ほい、ほーい。」
裏ルートには大ネズミ型のモンスターやクモ型が多い。
でも、どれも一閃でケリがつくから、どうってことは無い。
むしろ、表ルートで大型猫モンスターの牙虎と戦う方が、心理的に苦しい。
人型はカラクリ人形みたいだから、そんなに抵抗ないけど……ネコ型は……ネコスキーには……ねぇ。
だから害虫駆除っぽい、こっちの方が精神的に楽だったりする。
チラリと後ろを見れば、セリフィアが進行について試験官の二人に何か話してくれているようだし、俺はどんどん進むとしよう。
なぜなら、俺もセリフィアから『お願い』されているからな。
セリフィアのお願いは、より良い未来のためにこなすべき『課題』みたいなものだ。
本当に助かる。
……正直セリフィア無しで方針を固められたかと問われると、そんな自信は無いと胸を張って言ってしまいそうな気がするが……でも、それも気持ちいいから、まぁよし。
さてさて、今回の城攻めでの課題は3つ。
・最短ルートでの攻略
・俺の戦闘力の可視化
・最後に封印クエスト
お膳立ては全部してもらってる気がしないでもないけど、おじさんは精一杯、期待に応える気まんまん。やる気満々なのである!
★ ☆ ★ ☆彡
さて、そんなこんなで、楽々内堀に侵入っと。
ここからは弓矢で遠距離攻撃してくるカラクリ人形も出てくるらしい。
となれば、セリフィアの護衛としての役目が光りそうな気がする。
俺の役目的には……光らせちゃいけないんだろうけど、でも俺はそこまで俺を信用していない。
ポカする。うん。
だって人間だもの。はい。ごめんなさい。
だからこそ、セリフィアには専用装備の『裂理の魔導書』ではなく、防御&回復スキル特化の『楽園の聖典』を装備してもらっているのだ。
万が一、俺じゃなくて試験官に攻撃が向かった場合でも、セリフィアが即座に対応できるように。そのための装備なのである。
ちなみに俺は遠距離攻撃をしてくる敵を、わざわざ切りに行くのは面倒なので、宵断ノ双牙は一旦仕舞い、何万本とある『ルーキーナイフ』を投げるという対応を取らせてもらっている。
正直、黎明の誓装さえ指につけていれば、ルーキナイフ程度のステータスでも、この辺の敵は一様にザコに変わりない。
回転するナイフが刺さらずに、柄が当たるだけでも討伐余裕なのだ。
「あ。」
セリフィアさんが光ってらっしゃる。
討伐のこした。
防御発動、まことにごめんなさい。
慌てて敵にルーキーナイフを投げつつ、試験官のお二人に軽く頭を下げておく。
お二人は無反応だったけれど、セリフィアが『なにも問題ないですよ~』と笑顔で手を振っているので、気を取り直して進むことにする。
正直、ナイフ投げ。楽。
楽を覚えちゃ駄目だよな~……でも楽だわ。
さてさて、ちょっとハプニングはありつつも、石垣しか目に入らないような狭路を抜け、度々あるキルゾーンの敵を片っ端から殲滅し、苔むした庭を踏みしめ、時折ある木造建築の家でお宝を漁りながら、内堀を突破。
抜けた先に現れるは、いよいよ城の心臓部。天守閣。
「……うわぁ、すご。」
天守に入って驚き。
流石はダンジョン。
常識なんて、あってないようなモノ。
普通の城ではまずお目にかかれない、まるでハリウッド映画で『和風』を再解釈したような、過剰なまでに洗練された建築美。
朱と黒のコントラストに金箔の欄間、天井には風神雷神や仏の絵が描かれ、床は漆で鏡のように磨かれている。
兎にも角にも見栄えが良い。
いや良すぎる。
「映画とか……もう、ここで撮ればいいんじゃないだろうか……」
思わず呟いた声が、静寂に吸い込まれていく。
背後でセリフィアが小さく笑った気がした。
『てへっ』と舌を出すポーズを頭に思い浮かべつつも、とりあえず手を軽く振って愛想笑いを送り、障子戸が並ぶ通路を階段に向かい進む。
「……っと、来たか」
障子の影から飛び出してきたのは、槍を構えたカラクリ人形。
木製の関節がギシギシと鳴り、無機質な顔がこちらを向く。
天守ともなると鎧の質が随分と良くなっていて、見た目からして『ここからが本番ですよ』とでも言っているようだ。
とりあえずルーキーナイフを、頭に向けて投げると、スコーンと綺麗に刺さり、カラクリ人形は崩れ落ちた。
「うん。天守も余裕だな。さっさと行くか。」
遠距離攻撃が途切れたので、再び宵断ノ双牙を装備。
すると屋根の上から、クモ型のモンスターが糸を吐きながら降ってくる。
「はい、ごめんなさいよー。邪魔すんでー。」
当然ながら『邪魔すんなら帰ってー』の返答は無い。
クモの胴体が2つに分かれ、糸が風に散るだけだった。
次々襲い来る敵を一蹴、ならぬ一閃しつつ、先へ進む。
階段を上った先に、腕が4本あるカラクリ武者が仁王立ちで立ちふさがるが、当然ながら一閃。
俺は足を止めず、一閃を繰り返しながら上を目指す。
――階段を上りきった先、重々しい襖がひとりでに開いた。
そこは、異様なほど静かな空間。
天守閣の最上階――本丸の奥の奥。
朱塗りの柱、漆黒の床、天井には金箔の歯車が浮かび、ゆっくりと回っている。
そして、その中央に巨大な人形がいた。
金属と漆で構成された身体は、まるで神像のように荘厳で、顔には能面を思わせる白い仮面。
目の部分だけが、うっすらと紅く光が灯っている。
背中には、無数の糸巻きと歯車が見え、いかにもカラクリ人形の親玉といった雰囲気。
「うん。かっこいい……そして、ごめんな。宵影双斬」
ずっと『早く使え』とせっつくようにピンときていた、宵断ノ双牙のスキルを、ここで発動する。
宵断ノ双牙を逆手に構え、踏み込みと同時に影を裂く。
一閃――そして、もう一閃。
_人人人人人人_
> 21万 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
_人人人人人人_
> 22万 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
俺の背後でカラクリ人形が軋む音。
振り返って残心。
_人人人人人人_
> 43万 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
トータルダメージが表示された後、ボスのカラクリ人形が縦と横の4つに分かれた。
なお、勝ちは見えていたので『振り返って残心』は撮影されていることを意識したポーズである。
試験官の2人の呆然とした表情が目に入る。
セリフィアはそんな中で、ウッキウキで拍手。
なんだか珍しくセリフィアが段取りを忘れているような気がするけれど、とりあえず当初の予定通り、試験官2人に背を向けて装備を変更する。
新たに装備するのは『パンプキン・スライサー』
……名前から伝わってくるナニかをビンビン感じるが『パンプキン・パニッシャー』の短剣バージョン。
――*――*――
【パンプキン・スライサー】
HP:1031
攻撃力:1031
防御力:1031
魔力:1031
神聖力:1031
すばやさ:1031
「トリック・オア・スライス☆」
ハロウィーンの夜にだけ現れる♪
悪戯心満載の魔導短剣☆
振るたびに敵のポケットからアイテムを、うっかり☆ 切り落としちゃうぞ♪
武器スキル「トリック・オア・スライス☆」
パッシブスキル
アイテムドロップ率40%UP
確実にクエストで獲得したアイテムを1~3個増やす。
――*――*――
鍔がコウモリの翼。
柄の先にはジャックオランタン。
なぜか短剣のグリップからカボチャの匂いがしてくる気がする。
そんな短剣を装備した俺を見て、セリフィアがようやく思い出したように試験官の2人へ向き直る。
「オホン。ここまででも十分にご理解いただけたと思いますが、より『あなたたち』に分かり易いお土産を用意してあげましょう。マスター。お願いします。」
セリフィアのGOサイン。
俺は封印クエストレベル2をタップする。
選ぶのは――『魔石』の封印クエスト。




