第46話 ラストを飾るのは?
骨の群れの、すべて飲み込んでゆく斬撃。
轟音。
そして、静寂。
あれほど大広間に響いていた骨の軋む音は、すべて消えていた。
カラ……カラカラ……と乾いた音を立てて、骨が床に散らばり始める。
スケルトンたちは、戦う意思を失ったかのように崩れ落ち、ただの骨へと還っていく。
時おり骨とは違う――コンという硬質な音が混じった。
短剣の効果。
金鉱石が、倒したスケルトンの数だけ生まれたのだろう。
まるで戦いの終わりを祝福しているように聞こえた。
俺は自分が生み出した光景に見惚れ、胸に戦いの熱を感じていた。
「……最高に気持ちいい。」
絶頂とは違うが、近い何か。
達成感と快感が混ざり合い、身体の芯がじんわりと熱を帯びるような快感に身を任せていると――
「ご主人様ぁぁぁっっっ!!」
ルミナの歓声が、大広間に響き渡った。
俺の方へ駆け寄ってくる足音が、軽やかで、嬉しそうで、ちょっと危なっかしい。
「すっっっごかったです!! もう、もう、もう、もう、もう……! 最高でしたっ!!」
目をキラキラさせて、俺の周りをぐるぐる回り、手をぱたぱたさせている。
そして、勢いよく抱き着いてきた。
「あんなに綺麗に全部の敵を倒してしまうだなんて……! 斬撃が降って、骨が舞って、光が走る……もう、ご主人様は神様ですっ!!」
褒めながら、頬にちゅっちゅっとキスをしてくるルミナ。
そんなことをされると俺もテンションにかまけて色々したくなる――が、柱の陰からセリフィアが小さくサムズアップをしながらも、変な顔をしているのが目に入り、正気に戻った。
「はっはっは! うん! 我ながらすっごい事したと思うよ! いやぁ、めっちゃ気持ちよかった!」
「私も最高に気持ちよかったです! あぁ……このままご主人様と、もっと気持ちよくなりたい、身体が疼いて、たまらないですぅ……」
陶酔したような、明らかに妖艶さが増したような……むしろ、もう淫靡に片足を突っ込んでいるようなルミナの表情。
色々と勢いに任せてしまいたくもなるが、まだだ、まだはやい。ちょっとなら。いや、違う。目的は動画撮影だ。どうが? 撮影しちゃえばいいじゃない…………違う! 公開できる動画撮影だ! 何を考えている!
「それはまた今度お願いします!」
「あぁんイケずぅ……」
絡みつくルミナを、なんとか引き剥がすと、セリフィアが隣に来ていたので、しばらくの間、3人でキャッキャウフフした――
★ ☆ ★ ☆彡
俺たちのテンションが落ち着いてから、休憩がてら散らばった金鉱石を拾い始める。
なかなかの数と思いながら拾っていると、ふとセリフィアがスキャンを発し、スキャンの光が俺に収束し吸い込まれてゆく。
「マスター。レベルが1つ上がっています。レベル51になっています。」
「えっ? ……ほんと?」
「今、詳細を送ります」
ダイスケ・ナカムラ Lv.51
HP:8147
攻撃力:3264
防御力:7133
魔力:1609
神聖力:3075
すばやさ:5202
セリフィアから脳内に俺のデータが送られてくる。
俺のレベルが51に変化したということは、おそらく読み通りダンジョン免許が俺のレベルキャップであった可能性が出てきた。
そして、俺自身の伸びしろが、まだあるという事になる。
実はこっそり『俺はレベル50でも十分だろ』と諦めかけていた。
だけど、ダンジョンの外でも人間を超えた身体能力が手に入るかもしれない。
「これは凄いです……マスター。」
「そうだね! いやぁ嬉しいなぁ! セリフィアの読み通りだったね!」
セリフィアは俺の言葉に嬉しそうに微笑みながらも、首を横に振った。
「いえ、そちらではなくステータスの伸びです。」
「……ん? ステータスの伸び?」
「はい。魔力と神聖力は大きく変わっていませんが、その他の数値は、これまでのレベルアップでの平均上昇値より、かなり大きく伸びています。流石ですマスター。」
自分のことだけど、正直、ステータスの数値は覚えていない。
そんなことを思っているとセリフィアが補足してくれる。
「攻撃力だけ見ても、これまでは平均14.6の上昇でしたが、今回は30。倍以上伸びています。恐らく、レベルキャップを突破した際のレベルアップでは、ステータス上昇が飛躍的に強化されるのかもしれません。」
「へ~……それは今後が楽しみだね。そして封印クエストの出番だ。」
「そうですね。ダンジョンの最後のところで確認し、試してみましょう。」
セリフィアの言葉に、ひょこっとルミナが顔を出す。
「セリフィアさん。このダンジョンの最後は、どんな所になるんですか?」
「この後、また碁盤目の通路を2つ超えた後に、大広間が来ます。そこが最後ですね。雰囲気は……玉座の間という感じでしょうか。」
「玉座の間……か。ってことはスケルトンの王様でもいるのかな?」
「恐らくは、仰る通りだと思います……マスター。これはルミナさんに倒してもらおうと思うのですが、よろしいでしょうか?」
セリフィアが少し申し訳なさそうな顔をする。
俺は笑って頷いた。
「もちろん良いよ。セリフィアの提案だからね! 俺は賛成だよ! ちなみに理由を聞いても?」
「ありがとうございます。」
「あの……ご主人様が良くても、私はご主人様の見せ場を取る気はないのですが?」
不満げな顔のルミナに、セリフィアが向き直り説明を始める。
「ルミナさん……私とて、マスターの見せ場だと思っていますし……見たいし撮りたいんです。でも、貴女の強さが十分に伝わる動画が無いのです。貴女の存在を探ろうとする人間に対する牽制が不十分な可能性があります。」
「あ……はい。」
「マスターについては十分良い映像が取れています。スケルトンの集団を瞬殺するお姿。勇ましく、素敵でたまりません! また見たいですよね。そうでしょうとも。」
「はい。」
「ですから、ルミナさんの動画を撮らない場合も考えました……でもそれは、回りまわってマスターにご面倒をおかけする可能性があります。ですので……不本意ながらルミナさんの出番なのです。」
「はい。ごめんなさい。」
ルミナの方が強いはずなのに。
セリフィアの方が強い。
そして、当人であるはずの俺が、あまり映らなくても良いからラッキーとかの気分でいただけに、少し居たたまれない気がしてくる。なんだかごめんなさい。
「ですのでルミナさんには、動画を見た人がルミナさんについて探るべきではないと勝手に思ってもらえるほどの力。派手に固有スキルなんかを使っていただけないかと思いました。」
「分かりました。頑張ります。」
固有スキル?
そういえば見たことないぞ?
「あ。ルミナが固有スキルを使うの? 俺、セリフィアのスキャン以外のスキルって見たこと無かったから、ルミナのスキル見れるの楽しみだよ。」
「ご主人様! お任せください! 渾身の一撃をお見舞いしてやりますわ!」
ルミナが拳を握り、胸を張る。
水着姿のまま、やる気満々だ。
ぽよんぽよんしていて、俺もやる気になってしまう。
その姿を横目に見ながら、スマホを操作しゲーム画面を呼び出す。
このダンジョンには、通信が届かない。
それなのに――ゲーム画面は、問題なく起動する。
通常のソシャゲであれば、通信がなければ起動しないはずだ。
だが、いつも通りの画面が、俺の目の前に広がっている。
――俺が必殺技を発動できると確信めいた物を感じていたのは、これの影響が大きい。
おそらく、俺が今触っているこのゲーム画面は、もう『ソシャゲ』ではない。
少なくとも、ただの娯楽アプリではない。
薄々、気が付いていたのだ。
ダンジョン内でも、外でも、以前より頻繁にゲームに触れている。
だからこそ、UIの差や挙動の違いに気づく。
そして、感覚として――『別の何か』だと、感じている。
もちろん、まだ感覚的な物でしかなく、言葉にできるほど理解していない。
だが、少しずつ見えてきている……俺の能力は、ソシャゲの情報を基にした力の具現化のような物ではないだろうか。
もちろん確信は何もないから、ソシャゲのサ終を防ぐための行動も取っていくつもりだ。
もしこの力が、ゲームの存在に依存しているなら、それが消えたとき、俺の力も何かを失うかもしれない。
そんなリスクは取りたくないから、金策はしっかり行っていく。
そんなことを考えながらステータスオープンよろしく、画面をタップし、ルミナのステータス、そして固有スキルをチェックする。
【冥き波の終焉】
敵単体に威力7500%の闇属性2回攻撃
自身:確率50%で次のターン、クリティカル率が200%へ上昇
自身:確率50%で次回スキル威力9倍
自身:確率50%で防御無視
味方全体: 5ターンの間与ダメージ上昇
攻撃対象:3ターンの間被ダメージ上昇
攻撃対象:耐性に関わらず防御力2回ダウン
スキル:確率30%で、次回スキル2、および3へ変化
確率30%で2回目発動時にブラック・タイド・カタクリズム2へ、さらにその次、ブラック・タイド・カタクリズム3へ進化する。
威力も2で15000%×2とかアホ見たいに攻撃力が上がっていく固有スキルだ。
俺の最強布陣では、さらにバフとデバフでダメージを上げていくスキルを持つ仲間たちによるスキル連発で、運次第ではあるが1兆ダメージ越えが出る事がある。
固有スキルの単発だけでは、そこまでダメージは出ないだろうけれど……
ルミナのスキル。どんな風に発動するのか楽しみだ――




