第44話 やらせ? いいえ、えんしゅつです
「あら……質の悪い骨ですこと。ご主人様、ちゃんと撮れました?」
振り返りざま、コテンと首を傾げるルミナ。
俺は無言でウィンクとサムズアップを返す。
そんな俺に微笑みを返した後、ルミナはしゃがみ込んで、崩れたスケルトンの残骸をつんつんと突き始めた。
その様子につられて近づくが、どう見ても、ただの骨の山だ。
「倒しても特に何もなさそうですね……ただの脆い骨です。」
「ただの脆い骨かぁ……どれくらいの強さなのか気になるし、次は俺が戦ってみるね。」
ダンジョンに来る前に、しっかりと出てくるモンスターについては調べてある。
4級ダンジョンともなると情報は少なくなるが、スケルトンダンジョンに関しては、スケルトンだらけなので、逆に情報が揃っていた。
無手のスケルトン
武器装備スケルトン。
防具装備スケルトン。
武器防具装備スケルトン。
非常に分かりやすい分類。
骨のくせに、普通の人間並みの速度で行動し、攻撃してくるから非常に厄介。
5級以上のダンジョンに慣れている探索者であれば、1対1であれば問題ないので、とにもかくにも複数に囲まれないよう注意。とのことだった。
「大丈夫ですか? ……ご主人様?」
セリフィアから情報は共有されているだろうけれど、ルミナ自身の目で俺が戦えるところを見ていないから、少し不安そうだ。
「大丈夫だよ。ま、ルミナが見てて駄目そうだなと思ったら、助けてくれると嬉しいかな。」
「お任せください!」
俺の言葉に、フンスフンスと鼻息荒くやる気に満ちるルミナ。
「最初は見ててね?
ルミナほどは強くはないけど、スケルトンに負けるようなことは無い程度には俺もやれるから。」
俺に敵意を向けられただけで、先走って助けに入りそうな気がしないでもないので、最初は試させてほしいと釘は刺しておく。
「マスター。この先に進むと、壁の柱の陰から1体が襲ってきます。」
「分かった。ありがと。」
俺の肩をちょいちょいとつついて、小声で発されたセリフィアの提言を参考に、通路を進む。
少し進むと、壁の一部に分かりづらく陰になりそうな場所がある事に気づく。
注意しながら近づいてみると、カロカロカロ……と骨が組みあがっていく音が聞こえてきた。
間違いなく陰に居る。
「あそこにいるね。今度は俺が行ってきます。」
ルミナに『大丈夫だからとステイ』を告げると、セリフィアがカメラをルミナに手渡し、なにやら撮影を促している。
セリフィアのことだから、きっと色々考えての行動だろう。
さて、今日も装備は、聖・三太の短剣。
公開する為の動画を撮影しているから、パンプキンパニッシャーなんかの他の武器は、ちょっと使いにくい。
さっきのルミナの動きを参考に、いかにも散歩のような足取りで、壁に埋まった柱の方へと向かう。
すると柱の陰からスケルトンが、俺に掴みかかろうと手を伸ばし、襲い掛かってきた。
「ほい、お疲れさん。」
手を軽く躱し、頭蓋骨を縦に一閃。
_人人人人人人_
> 1万 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
スケルトンは、そのまま数歩よろめいた後、ガラリと崩れ落ちた。
『どや? おじさんも、やるやろ?』と、言わんばかりにルミナに目を向けてみる。
「ご主人様ぁ……こんなにスマートに倒しちゃうなんて……」
ふらりふらりと俺に近づいてくるルミナ。
どこか幽鬼のような足取りだ。
「反則ですわ! あぁ、ご主人様! かっこよすぎて心臓が止まってしまいそう! 今の動き100回くらい見たいです! もっと撮りましょう! もっと記録に残さないと!」
興奮しながら近寄り、ドアップで俺を舐めるように撮り始める。
ルミナの後ろでセリフィアも『うんうん分かる分かる』と言わんばかりに大きく頷いている。
「それはちょっと流石に恥ずかしいです! 勘弁してください。」
「大丈夫です! かっこ良いです!」
美少女たちに褒められるのは、素直に嬉しい。
だけれど、好意の対象に見られたり、まして撮影の対象とされることには、まだまだ慣れないので、どうにも照れくさくて仕方ない。
「交代! 交互に撮影しながらいこう! 俺もルミナを撮りたいし!」
「あはぁ! そう言われると断れません! わかりました順番ですわ!」
そのまま抱き着いてくるルミナを受け止め、少しだけキャッキャウフフした――
★ ☆ ★ ☆彡
俺が倒したスケルトンからは、小ぶりの金鉱石が回収できた。
『スケルトンを倒しても得られる物は錆びた武具以外、何もない』という事前情報だったので、これは短剣の『取得金貨40%アップ』の効果だろう。
ルミナの倒した敵には効果がでなかったのは、俺が見ていただけで、戦いに参加していない判断されたのだろう。
交代で倒しながら進んでいるが、ルミナの平手殺で粉砕されたスケルトンからは出てきていないことからも、そう判断できる。
「マスター。そろそろ厄介なポイントに入ってきます。」
セリフィアが、俺の肩を軽く叩いてから小声で告げる。
これまでは時々、脇に小部屋があった程度の一本道が続いていた。
その小部屋には、もちろんスケルトンがいて、道の途中でも物陰から出てきては襲ってくる。
そんな道を30分ほど進んできたが、どうやらダンジョンの様子が変わるらしい。
「そっか、ありがとう。どんな風に厄介になるんだろ?」
「先の通路は、碁盤目状に入り組んだ形に変わります。
至る所にスケルトンの骨があり、戦っている内に囲まれる作りになっていますね。あと、罠もあったり、非常にいやらしい作りをしています。」
「それは面倒くさそうな作りだね……」
「それでセリフィアさん。私とご主人様は、どう進めば『良い映像』になります?」
セリフィアの忠告に、ルミナがすかさず質問を投げる。
すでに答えに見当がついていたのか、セリフィアはすぐに口を開いた。
「2案あります。1つ目は、交差点での戦闘を中心に構成する形です。敵に囲まれる状況は視覚的に緊張感がありますしルミナさんの連続撃破は映えます。」
ルミナが連続で戦闘するのは映像として美味しそうだ。
これまでは……ほぼ平手だからな。
「次にご主人様が、罠の回避やルート誘導を担っても視聴者に安心感を与えられます。
罠の発動タイミングを調整し、囲まれた瞬間にルミナ様が一掃するような流れも良いですし、ご主人様が罠を見抜いて回避するような場面も挿入すれば、知的な印象を与えられます。」
セリフィアの提案に、俺とルミナは顔を見合わせ、お互いに頷く。
これは一択だな。
「ルミナの連続撃破が良いね!」
「ご主人様の知的プレイですね!」
また顔を見合わせて、今度はお互いに驚く。
そんな俺たちを見て、セリフィアがふわりと微笑んだ。
「ええ。そうですね。どっちも撮りましょう。」
★ ☆ ★ ☆彡
セリフィアの『コイツ直接脳内に……』のおかげで、厄介ポイントが丸わかりになってしまったダンジョンの構造、敵の湧き方、罠の配置を基に、軽く打ち合わせをしてから、通路を進む。
進んでゆくと貰った情報の通り、一本道が終わり、一気に通路が複雑に広がった。
石畳の進路は、整った見た目とは裏腹に、骨の残骸や、注意して見なければ気づかないような違和感が、そこかしこに散らばっている。
「ここからが少し厄介なゾーンです。敵の湧き方と罠の配置に注意してくださいね?」
先行するルミナが、可愛く振り返りながら、俺のカメラ越しに視聴者へ忠告を促す。
そのまま、気楽な様子で進んでいくので、俺もその後に続き、ルミナの後ろ姿を撮影する。
ずっとビキニの後ろ姿を撮り続けているが、この映像を流しているだけでも、相当数の視聴者数が稼げると確信しつつある俺がいる。
美少女のお尻は良い。大変良いものだ。
「ルミナ。その先の右の床は避けて。」
「あら、有難うございます。ご主人様♪」
振り返ってニコリと微笑む姿も、また良し。
ルミナも罠の位置を理解しているが、さも気が付かなかったように、軽く避けて少し進んでゆく。
しばらく、あちこちから、カロカロカロ……という骨が組みあがる音を聞き続けながら進んでいく。
そして、ルミナが一際良い笑顔で振り返り、中央の交差点でポーズを決めて立ち止まった。
「このように囲まれないように注意してくださいね。」
その言葉と同時に、ルミナの前方・左右――三方向からスケルトンたちが湧き出す。
そして武器を構え、骨の軋む音を響かせながら、ルミナへと殺到した。
ルミナは、まず右側のスケルトンに向かって、平手一閃。
_人人人人人人_
> 15万 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
骨が砕け、武器ごと吹き飛ぶ。
そのまま回転しながら左へ――踵落としのような動きで、頭蓋骨を粉砕。
_人人人人人人_
> 15万 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
残った前方のスケルトンが、剣を振りかざして突っ込んでくる。
だが、それを見切っていルミナは腰を落とし、すれ違いざまに掌底。
_人人人人人人_
> 15万 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄
骨の束が空中でバラバラになり、地面に散らばる。
3体、3秒。
まるで舞うような連続撃破。
映像映えを意識した、ゆっくりとした丁寧な動きだった。
そのかいもあって、俺は撮影しながら、ただ見惚れてしまう。
「囲まれた場合は、すぐに倒しましょうね♪」
ルミナがくるりと振り返り、ウィンク。
そして――
「ご主人様。後ろはお任せしても?」
「うん。任せて。」
俺の後ろから、スケルトンをトレインしてきたセリフィアが、ボディカメラに映らない様に注意しながら振り返る。
ガチャガチャと音を立て、迫ってくるスケルトンたちの姿。
すぐさま先頭のスケルトンへ突進し首を薙ぎ、浮いた頭蓋骨をキャッチ。
そのまま罠のある床へと投げつける。
落とし穴の罠がスケルトンを巻き込みながら作動し、スケルトンたちの勢いが弱まった。
だが、勢いを削がれても構わず襲い来るスケルトンたち。
少し下がりながら襲い掛かってきた一体を掴み、勢いよく壁へと叩きつけバックステップで更に下がると、スケルトンをぶつけられた壁が勢いよく飛び出し通路を塞いだ。
「こんな風に罠を使って倒しても面白いですよね。」
自分自身の言動に、少し、わざとらしさを感じながらも、なかなか臨場感があって、エキサイティングな動画が取れているんじゃないかと、少し満足するのだった。




