第42話 目指せ! バズ動画!
決闘場ダンジョンで、各方面への牽制を終えたあとは、そのまま帰宅して気持ちをリセットする。
一晩ぐっすり眠ってしまえば、大抵のことは、いつも通りに戻っていく。
翌日は、セリフィアと打ち合わせ。
化石カニうろつくダンジョンにタブレットPCなどを持ち込み、セリフィアに使用方法を伝えてビックリ。
さすせり。
一を聞いて十を知るとはこのこと。あっという間に使いこなしていた。
本当に、どれだけ頭の出来がいいのか。感心しかできない。
そんなセリフィアと、これから始める動画配信について打ち合わせする。
撮影したい企画を実現するには、それなりの準備期間が必要で、機材や構成、その他、条件を満たす為に諸々の準備を進めているうちに――
気がつけば、3日が過ぎていた。
★ ☆ ★ ☆彡
「あぁ、ご主人様ぁ……お会いしとうございました」
召喚と同時に、右腕に感じる柔らかさ。
そして艶めかしさが、肌を撫でるようにまとわりついてくる。
「やぁ、ルミナ。久しぶり」
毛先に向かって淡い銀色に変化していく漆黒のロングへア。
そして、透き通るような美しい肌に黒色のビキニが、あまりにも特徴的なキャラ。
『ルミナ・ノワール 水着バージョン』だ。
俺が最初に召喚したキャラクター。
部活動ダンジョンの砂浜で召喚し、イレギュラーモンスターを一撃で仕留めた、あのルミナだ。
一部界隈では、未だに『ワンパン水着ネキ』として静かに人気を保っているが、俺の最高戦力のひとりでもある。
「えぇ、お久しぶりです……それで、いかがです? 私がダンジョンの外に出られる手段、見つかりそうでしょうか?
まぁ、別に私はダンジョンの中で、ご主人様と熱ぅい時間を過ごすのも、それはそれで嬉しいのですが……うふふ。」
「おうふ」
俺の腕に絡みついたルミナの右腕が、俺の胸をいやらしく撫でていき、思わず変な声が漏れる。
美少女のくせに相変わらずの妖艶さ……いろいろたまらんよ。うん。
「……あら? ご主人様、身体つきが少し変わりましたか?
以前の柔らかい雰囲気も愛らしかったですが、すこし精悍になられたような……まぁ、どちらのご主人様も素敵です。」
さらに腕に絡みつき、俺の右腕が色々と幸せになってゆく。
具体的に言うなれば、肘がパイ包み。手がモモ挟み。イカン。幸せが過ぎる。元気になっちゃう――
「ルミナさん。今回は貴女にお願いしたいことがあります。」
「あら、セリフィアさん。なんでしょうか?」
「今、情報を共有いたしますね。」
俺の意識が色々と考える事を放棄しかけた時、既に召喚済みのセリフィアの声に正気に戻される。
だが、いまだ肘は幸せ真っただ中だ。
ルミナは俺の腕にしっかりとくっついたまま、セリフィアから『こいつ直接脳内に……』されている。
そう。
今回撮影する動画で、主役を務めるのは俺だが……メインで画面に映るのは――ルミナなのである。
チャンネルの主として最初に顔を出すのは俺だし、それなりに行動もする。
だが基本的にカメラ役。俺の視点が、そのまま視聴者の目線になる作りを考えた。
なぜ、そんな作りを考えたかというと、もし俺一人の撮影だった場合、視聴者は『おじさんがダンジョンを探索する動画』を見て、面白いと思ってくれるだろうか?
超絶スゴ技を繰り出す、珍しいおじさんだったとしても――その技が出るまで、見続けてくれるだろうか?
答えは、否。
知る人ぞ知る動画ではなく、やるからには、しっかりと効果を出したい。
視聴者に、最初から最後まで、しっかりと動画を見続けてもらうにはどうする?
俺たちは、視聴者の興味を勝ち取ることが出来る可能性を知っていた。
ルミナ。
超絶美少女という華。
水着というお色気要素。
ワンパン水着ネキとしての話題性。
ただのダンジョン探索の映像ではなく、そこにルミナを添えることで――動画に注目を集める起爆剤とするのだ。
……まぁ、起爆剤として『とんでもない美少女』を発信するからこそ、わざわざ決闘場ダンジョンで、色んな方面に対して牽制をいれる必要もあったわけだが……それに、俺ひとりで配信者として頑張るより、負担もずっと軽くなる。
それに、美少女と一緒に動画を作るのは、なんだかとても楽しい気がする。
「……なるほど。面白い事を考えましたね――このルミナ。ご主人様のお役に立てるのであれば、喜んで役者となりましょう。」
組んでいた腕を解き、俺に一礼するルミナ。
相変わらずの美少女による、俺を上位存在として扱う振舞いに、少し居心地の悪さを感じてしまう。
普通は、逆だろ。
おじさんが美少女にかしずくもんだ。普通は。
「ありがとう。でもルミナは、特に演じなくても充分に魅力的だから、いつも通りでいてくれれば嬉しいよ。」
「うふふふふ……ご主人様も魅力的で、私は参ってしまいそうですわ……」
またも肘が幸せになってゆく。
このままキャッキャウフフ――したい気持ちが芽生えるが、不人気ダンジョンとはいえ、いつ誰が来るか分からない。
さっさと予定を進めて行こう。
「よしっ! それじゃあ、とりあえず撮影を始めようか!
アイキャッチ動画と、サムネイル用の画像を撮るよ。ルミナをメインに、ダンジョンの雰囲気を押さえておこう!」
無人の祭壇や、地下へ続く階段の横で、ルミナに色々とポーズを変えてもらいながら、写真や動画を撮っていく。
一通り撮影を終え、次は俺の番。
セリフィアがカメラを固定して構え、俺に向ける
「え~、どうも『戦うスーツおじさん』です。
本日は、危ない、辛い、怖い上に敵が多すぎる。という理由で、圧倒的に不人気なダンジョン『スケルトンダンジョン』に来ております。」
練習はしていたが、本番の撮影となると、やはり少し緊張してしまう。
「オホン。危険度が高いため、探索が進んでいないこのダンジョンを、できる限り深くまで探索してみたいと思います。
……ただ、私も初めてのダンジョンですので、初配信ではございますが、頼もしいゲストをお呼びしております――こちらの方です!」
大袈裟に手を振り、歓迎のジェスチャーをする。
「どうも。ルミナ・ノワールです。」
堂々とした立ち振る舞い。セレブ感すら漂う。
場慣れしているように見えるというか、余裕を感じる美少女オーラ。
俺には到底だせない雰囲気だ。
「はい! ありがとうございます!
少し前に、部活動ダンジョンの砂浜でイレギュラーモンスターを一撃で倒してみせた、ルミナ・ノワールさんです!
ま、正体不明のコスプレイヤーさんですが――いやはや……本当に美しい。美少女すぎる……」
しっかり見てしまうと、つい、本気で褒めてしまう。
それくらいの美少女だ。
「ふふふ。ありがとうございます。ご主人様。本日はお手伝いさせていただきますね。」
よくしている妖艶な笑みではなく、嫋やかな笑みを返され、進行を思い出す。
「はい! それでは本日は! ルミナさんとスケルトンダンジョンこと、正式名称『超常資源採取特別区 第4級関東13号』! 攻略していきましょう!」
準備期間中にD6免許を取得した俺は、ルミナと階段を下っていくのだった。




