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現代ダンジョン・オーバーキル!  作者: フェフオウフコポォ


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38/87

第38話 突入! 決闘場ダンジョン!


「うーん。コワイ。」


イレギュラーモンスターや封印クエストモンスターと対峙しても、まったく怖いと感じないダンジョン内において『怖い』と感じるのは、なかなかに複雑な気分だ。


今いるのは、超常資源採取特別区第7級関東B16号。通称――決闘場ダンジョン。


ダンジョンには『超常資源採取特別区』という官製の名称が与えられていて、通常は「級数+土地名+番号」という構成になる。だが、番号の前にアルファベットが入っている場合、それは『ワケアリ』のダンジョンである可能性が高い。


ワケアリというのは、基本、おおやけにされていなかったダンジョンだ。


治安維持のため。パニック回避のため。あるいは学術研究や防衛目的。

理由は様々だが、この決闘場ダンジョンの場合は、もっと単純。

私有地に発生したダンジョンを、地元の反社会的勢力が独占しようとしていた。


昔で言えば『下町ヤクザ』。今なら『指定暴力団』か『半グレ』と呼ばれる類だろうか。

地元密着型の、いわゆる『顔役』たちが、ダンジョンの存在を隠して私物化していた。


もっとも、ダンジョン発生から軽く10年以上経てば、その間にバレるのも当然の流れ。

現在、ダンジョン自体は公的な管理物件となっている。


――ダンジョン『自体』は、ね。


周辺の土地は、いまだに反社会的勢力がしっかりと押さえていて、事実上の私有地のような状態になっている。

つまり、この決闘場ダンジョンは、公的な申請などより、彼らの黙認が必要になる。


社会人時代、この区には『ガラが悪い』『スラム』といったイメージがあったから、好んで近づくことも無かった。


なのに今、そんな場所に、しかも『ほぼほぼクロ』のダンジョンに、自分から足を運ぶことになるなんて――


★ ☆ ★ ☆彡


昨日、セリフィアが「ダンジョンの外の情報を欲しい」と言ったので、あれから色々な話をした。


内容は多岐に渡って、社会情勢や世界の流れから始まり、流行りや人気のある物やコンテンツなど、スマホを駆使しながら、ダンジョンの外が真っ暗になるまで話した。


そんなセリフィアが至った結論が


「マスターをダンジョン探索者として有名にしましょう」


……どうしてそうなる?


なにやら動画配信なんかも検討し始めたので、ネットリテラシー的に顔を出したくないからと断ってみたが……


「どちらにしろ有名になりますので、早いか遅いかの差でしかありません」


と、満面の笑みで諸々説明され、逆に説得されてしまった。

そして俺は、なぜかこれからは『ダンジョンにスーツで潜る』ことに。


他の探索者との差別化のためらしい。

解せぬ。


いや、スーツ自体はそれなりに持ってるし、着慣れてる。

それに、無駄にならなくて良かったなとも思う。思うんだけど、ただ……解せぬ。


アウトドアリュックも禁止され、荷物はビジネスリュック、ビジネスバッグ、アタッシュケース、もしくはコロコロのついたアレに入れなきゃいけないらしい。

だいたい家にあるから良いんだけど……


ちなみに動画撮影用のカメラも、その場で買わされたので、今日の帰りにコンビニ受け取りする予定だ。


まぁ……セリフィアのおねだりは可愛かったから、買ったこと自体は後悔していない。


それに将来を見据えて進むべき筋道を立ててくれるのは、ありがたいと思っている。

ただ……オジサンね……動画配信デビューとか、納得はできても、踏ん切りは中々つかんよね!


――そして、今、反社ダンジョンに居る理由は、


諸々に衝撃を受けて、ケーキに逃避していた時に、スマホをセリフィアに貸したんだけど、いろいろタプタプした後に


「マスター。ここに行って経験値の封印クエストやってきてください。」


って言われた。

だから来てる。

うん。それだけ。


セリフィアが言うには、6級を目指す探索者が腕試しに訪れる場所で、『そういう目』で色々な人が見ているから、ちょうど良いらしい。


「普通に参加して、普通に倒して帰ってくるだけで良いんです。

あ……できれば戦っている最中は、遊んでるように見えるくらい余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な感じがあると、尚いいですね。」


なんてニッコリ満面の笑みで言うんだもの。

そんなの俺……断れないよ。


とりあえず、調べた会場時間――午後一に合わせて来た。

もちろん封印クエストは経験値レベル1ができることは入ってすぐに確認済み。装備もつけている。


受付にいたのは、うわぁ……と思うようなチンピラ風のお兄さんで、「オッサンは2番目の挑戦な」と半笑いで言われたので、整理券を素直に受け取って、闘技場の開始を待っている。


……で、今、時刻は14時。


まだ始まらないんですが?

いや、わかってる。わかってますとも。


こういう場所では、時間通りに始まらないのが普通なんだろうって。

でもね、社会人として十数年、時間厳守で生きてきた身としては、流石にちょっと、イラついてくるんですが?


もちろん、口には出さないし、言わないけれども。

出したところで、何も変わらないし、余計なトラブルを招くだけ。

なにしろここは反社の縄張りの中。悪目立ちは尚のことしたくない。


スマホの時計を見ては、ため息をつく。

俺に出来る事は何もない。ただ待つのみ、か。


場違いなスーツ姿で、静かに待つ。

周囲の人間はラフが過ぎる格好ばかりで、俺だけ妙に浮いてる。

けれど気にしない。気にしない。


じっと待っていると――少し騒がしい声が聞こえてきた。


「おい、なんで俺らが6番目なんだよ。午後一に来たって言ってんだろ!?」

「はっ、午後一に来たのは、あんたらじゃねぇよ。受付順だ。文句あるなら、もっと早く来い。」


受付前に4人組の若い男の子が集まっている。

高校生くらいだろうか。金髪にピアス、妙にテンションの高い声。

昔のヤンキーが人に絡む時のような雰囲気だ。こういうのは余り変わらないのかもしれない。


リーダー格らしき少年が、受付のチンピラに食ってかかっているが、受付の男は、タバコを咥えたまま、面倒くさそうに塩対応を続けている。


――聞こえてくる話の限り、自分たちの順番が気に食わないらしい。


「は? いやいや、俺らの方が強いって。順番とか関係ねぇだろ?」

「関係あるんだよ。ここは決闘場だ。ルール守れねぇ奴は、そもそも挑戦権なんかねぇ」

「……は? 何様だよ、テメェ」


少年の声が一段階、低くなった。

少年の仲間たちも『やっちまえよ』と煽るように笑っている。

なんとも素行の悪いお子様たちですこと。


「おい……こっちはな、昨日も別のダンジョンでモンスターぶっ殺してきてんだよ。こんなとこ、サクッと終わらせて帰りてぇんだよ。わかる?」

「んなもん知らねぇよ。ここはここ。ルールはルール。それが気に入らねぇなら、さっさと帰れ、クソガキが。」


受付の男は、タバコの灰を床に落としながら、まったく動じない。

その態度が、逆に火に油を注いだ。


「……ああ? ナメてんのか?」


あぁあ……トラブルのにおひ。

待ち時間、さらに伸びちゃうじゃないですかヤダー!


『反社会的勢力』という言葉は怖くても、この場にいる人間にはまったく怖さを感じない。


気が付けば少年の拳を握っていた。

挙動的に、殴りかかりそうだったので、止めてしまっていたのだ。

だってトラブルがあったら、もっと待つハメになるじゃない。


「あぁ? なんだオッサン!」


下駄を履いたステータスの持ち主である俺には、どうにも子犬……子猫……ハムスター? うん……威嚇のはずなんだろうけど、なにも感じないんだよなぁ。ビックリだ。


俺の手を振り解こうとしてるみたいだけど……この力じゃ無理だろうなぁ。流石の異常ステータスさまさま。

そんなことを思いつつ、少年をなだめる


「まぁまぁ、短期は損気ってね。手を出したら挑戦すらできなくなっちゃいますよ。」

「……チッ!」


殴る事はやめたよう……だけど、このリーダー格の子は、少年たちの中での面子のために、何かしようと考えているように見える。


……はぁ。仕方ないか。

止めた責任もある。

おじさんが、ひと肌、脱いであげましょうとも。


「私が2番目の整理券を持っていますから、交換しませんか?

いや、なに。少し小腹がすいてきましたので、なにか腹に入れたいなぁ、なんて思っていたので後の方が都合が良いのです。」


整理券を目の前に出すと、少年は仲間の顔を一巡したあと


「ふんッ!」


と一瞥し、整理券を奪うように取って、受付から離れていった。


受付のチンピラさんに『仕方ない子たちですね』という顔を向けると、

『なにやってんだか、このオッサンは』という顔を返された。


「ほらよ。」

「どうも。」


6番目の整理券を受け取って、さっさと退散と受付に背を向ける。


「……コンビニのおにぎり。いるか?」


受付のチンピラさんが、おにぎりを差し出してきた。


「ありがたく。」


思いがけぬ人らしさに触れて、投げてきたおにぎりを笑顔で受け取り、元いた席に戻るのだった。



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― 新着の感想 ―
おー、有名になる方針ですか。 リスクはありますが覚悟して踏み込むならありですね! 周りの人の反応が増えて読者としても楽しみです!
そうですよね。意見は変えませんが、反省します。 今後、今話の最初の感想に載せたような表現はいたしません。 失礼いたしました。
17時10分を18時10分と見間違えておりました…… やっぱり、目が…… m(_ _;)m
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