第35話 相談は、だいたいお願い
更なる可能性に、ただでさえ満ちていたやる気がさらに増した俺は、セリフィアとカグヤと一緒に、デイリークエストができるか試してみた。
だが、封印クエストをこなした場所では、デイリークエストがグレーアウトしていて選択不可。
セリフィアのスキャンによれば、ダンジョン内の魔力は残っているが、ポイントが違うらしい。
そこで別の場所に移動してみると、クエストが有効化されていた。
イレギュラーモンスターを呼び出し、俺が単騎で討伐。
コンクリーパーと化石カニに似たモンスターを、三太の短剣で撃破。
拳大の金鉱石がドロップしたので、お土産に回収。
さらに、モンスターの体からレベルアップ時の淡い光が見えたので、触れてみた。
光は俺の身体に吸収されたが、レベルは上がらなかった。
――現状、俺のレベル限界は50のようだ。
目的を達成したが、お昼にもなっていない時間だったので、午後いちでマナマテリアルズに立ち寄ることにして連絡。
帰り道で見かけたモンスターを倒し、金鉱石を追加でゲット。
お土産が増えていくのは楽しい。
出口が近づいた頃、セリフィアがダンジョン外での俺のステータスを教えてくれた。
ちなみに装備無しの素のステータスは、こうだ。
ダイスケ・ナカムラ Lv.50
HP:2048
攻撃力:734
防御力:606
魔力:105
神聖力:72
すばやさ:673
超人に近づいたんじゃないかしら?
そんなことを思いつつ、セリフィアの提案で、一気に上がったステータスによる違和感が出ない様に、一度装備を外して身体を慣れさせる運動をしてみた。
……まさか、この年でパルクールができるようになるとは思ってなかった。
身体の切れが増し、10代だった頃よりも反射神経が良くなっている気がする。
跳ぶ、走る、よじ登る――全部が軽い。バク転すら余裕。
セリフィアの見立てでは、ゲーム装備ではない状態でも、イレギュラーモンスターと戦える数値。
ただし、魔力と神聖力が低いため苦戦する可能性があるとのことでオススメはしないらしい。
――1日で強くなれるもんだなぁ……
なんて思いつつ、2人と別れてダンジョンの外へ出る。
駅に着いた頃には、ちょうどお昼。
駅近の蕎麦屋で、そばとミニカレーセットを食べてから、マナ・マテリアルズの近所の支店へ向かうのだった。
★ ☆ ★ ☆彡
小奇麗なマナ・マテリアルズの支店に入り、受付で名前を告げると、すぐに伊藤さんが出てきてくれた。
30代後半くらいだろう、真面目そうなスーツの男性だ。
「いやぁ中村様! お忙しいところお越しいただきありがとうございますー! 本来であれば私がお伺いすべきところを、すみません。」
「いえいえ、近所ですので、私としても店舗に伺う方が気楽ですので助かります。」
礼を交わし合い、すぐに応接スペースへと案内される。
テーブルには資料と、ペットボトルの小さなお茶が並べられていた。
出迎えの準備がしっかりされているあたり、今日の『相談』はそれなりの話かもしれない。
上座を勧められ、促されるまま腰を下ろす。
「では、改めまして。まずは先日お預かりした素材につきまして、査定結果をご報告させていただきます。」
「はい、よろしくお願いします。」
伊藤さんが資料の写真を確認しながら、少し声のトーンを落とした。
「まず、こちらのキノコですが……やはり『まぼろしキノコ』で間違いございませんでした。
年に数本しか市場に出回らない希少品で、大きさも非常に優秀な個体です。」
「おぉ……それは嬉しいですね。」
「ええ。正直、弊社でもこのレベルの品を扱うのは数年ぶりでして……持ち込んでいただけて驚いております。」
「ははっ、たまたま運が良かっただけで。いやぁビギナーズラックってあるもんですねぇ。」
伊藤さんは資料をこちらに見せながら、印刷された内容を確認しつつ、言葉を続ける。
「いえいえ! とても運だけでは、これだけの成果は揃いませんよ! キノコ以外にも、立派な魔石に他の要検査の品々! これが9級と10級で見つかる事自体、信じられないほど、非常に珍しいことです!」
「あっはっは。運がいい時って続くもんなんですねぇ。嬉しい事です。」
伊藤さんが少し身を乗り出す。
「もしかしなくても……ですが、午前中に7級ダンジョンに行ってらっしゃった、とのことでしたので……本日も何かをお持ちだったりしませんか?」
「あ。わかります? 実はあります。」
リュックから、大きい金鉱石1つと小さな金鉱石を4つ取り出し、テーブルに並べる。
「……これは、また。初めて拝見する品ですね。触ってもよろしいですか?」
「ええ、どうぞ。素人判断ですが、昔、この石によく似た石の写真を見たことがありまして……これは金鉱石の可能性があるんじゃないかと思っています。」
「金鉱石、ですか? 魔石ではなく?」
「えぇ。金鉱石です。」
手袋をした伊藤さんは、一番小さな金鉱石を手に取り、しげしげと眺めてから慎重に机に戻した。
「こちらの品も、お預かりして検査させて頂けるのでしょうか?」
「ええ、お手数ですがお願いします。」
テーブルに備え付けの端末で現物の写真を撮り、そのまま端末を操作すると、レシートのような2次元コードが入った預かり証が印刷されて出てくる。
金鉱石は準備してあった管理用の箱に納められ、同時に出てきた2次元コードを箱に貼って横に移し、俺に預かり証を渡してきたので受け取った。
「いやぁ、流石は中村様。もはや歴戦の探索者のような素材の充実っぷりですね!」
「いえいえ、まったく。素人に毛が生えたようなもんですよ。」
さて、そろそろ本題を進めたいところだね。
「で、まぼろしキノコの査定額は、どんな感じになりそうです? お話の限りでは悪くなさそうな価値だと勝手に思っちゃったりしてますが。」
「あぁ、これはすみません。脱線しておりました。査定額ですが――こちらです。」
伊藤さんが資料を捲り、1枚の紙をテーブルに置く。
「おおぅ……」
650万円の査定額が分かり易く表記されている。
「こちらの査定額でいかがでしょうか?」
「えぇ。大丈夫です。」
「では、こちらに印鑑があれば押印を、無ければ署名をお願いします。」
査定結果の了承に署名をする。
現実感はないが、まぁ問題ない。
「それでは、税引き後の価格を振込みさせていただきます……で、中村様に相談なのですが……」
きちゃ。
一体なによ?
姿勢を正して、聞く体勢を整える。
「……弊社といたしましては、今後の中村様の素材持ち込みについて、少しご相談をさせていただければと思っておりまして」
「ふむ。どのような内容ですか?」
「はい。まだ正式なご提案ではないのですが……
中村様のような方と、継続的なお取引ができればと考えております。
たとえば、素材の優先査定や、価格面での優遇、あるいは……独占的な取り扱いなども含めて。」
「なるほど……」
「もちろん、強制ではございません。ただ……内々の話として聞いていただきたいのですが……」
伊藤さんが小声になり、前に寄ったので、同じように前のめりで聞く。
「こちらのまぼろしキノコなどは、どうやら政府が研究機関で養殖の実験などに取り組んでいるようでして……
今後も安定して持ち込まれた場合、タイミングによっては買いたたかれてしまうことも考えられます。
ですので、採取や持ち込みにベストのタイミングをお伝えさせて頂くなど、そういったお手伝いも弊社は可能です。」
「なるほど。」
「中村様のように、免許を取得されてすぐに、これほどの素材を安定して持ち込まれる方は非常に稀ですので、弊社としましても、ぜひ前向きに検討いただければと思っております。」
「ありがとうございます。とてもいいお話ですので、前向きに検討させていただきます。」
とりあえず社交辞令で『今は返答しねぇよ』を伝えておく。
「はい。ご無理のない範囲で、ぜひ。ご検討をお願いいたします!
こちらに、もしご契約いただけた場合の条件をまとめてございますので、どうぞお持ちください。」
「これは助かります。有難うございます。
相談事は、以上でしょうか?」
「はい。以上です。なにか疑問などがございましたら、いつでも私までご連絡ください。」
資料を受け取りながら、思った以上に、想像通りの相談内容だったな……と、少し肩透かしを食らった気分になる。
となれば、俺のやることなど、もう決まってる。
――セリフィアに相談だ。
どうもコポォです!
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