第34話 レベルキャップ
「はい。」
「マナ・マテリアルズの伊藤と申しますが、中村様の携帯電話でよろしかったでしょうか?」
「ええ中村のケータイですー。」
「あ~どうも、買取の際にご対応させていただきました伊藤です~」
「あ、はい~、あ~どうも~、お世話になっております~。」
電話口とはいえ『お世話になっております』で、つい軽く頭を下げてしまう。
無意識でやってしまう社会人の悲しき習性。
「本日はですね~、あのぉ先日に、お預かりした品の件でご連絡差し上げまして。
査定結果のご報告と……あと少し、ご相談を……と思いまして。」
「ありがとうございます~。あの~ご相談とは~…どういった件になりますでしょうか?」
「実はですね~……中村様にお持ちいただきましたキノコなんですが……『まぼろしキノコ』であると査定が出まして。」
「おー、そうですかー! いやぁ嬉しいですね~。」
ほっほう! 『万能キノコ』は『まぼろしキノコ』だったか! 高額査定を期待しちゃうな!
「つきましては、大変貴重な品でございましたので、ご都合がよろしければなんですが……明日にでも、私がご自宅にお伺いしてご説明とご相談をさせて頂けたらと思いまして……」
「あぁ、そうなんですか~。いえいえ、お手数をおかけするのもなんですので私が店舗の方に伺いますよ。」
「あー大変申し訳ないです~。よろしいですか~? では、お時間はいかがいたしましょう?」
「そうですね……あ~すみません。今、実はちょっとダンジョンにおりまして……折り返しお電話させていただいてもよろしいでしょうか?」
日時は即答しない。
しっかり確認しないと間違えることがあるからな。
……会社、退職したからヒマだけどね。これも習慣だなぁ。
「あらららら、それはお忙しい時に大変申し訳ございませんでした~。」
「いえいえ、今いるのは7級ですし大したことないですよ。それじゃ、また後になりますが……伊藤さんにお電話させていただけば宜しいですかね~?」
「はい、お手数ですがよろしくお願いいたします~」
「はい~、かしこまりました~」
「それではすみませんが、失礼いたします~ありがとうございます~」
「ありがとうございます~」
通話を切る。
スマホから目を上げると、いつの間にかセリフィアとカグヤがロビーに降りてきて俺の様子を見ていた。
……ゲームの中でスマホで通話してる場面とかって出てきたっけなぁ?
まぁ、なんとなくの雰囲気で、誰か他の人と話してたってのは分かるだろ。
とりあえず、知ってる体で話しておくか。
「魔石とかキノコとかを持ち込んだ業者から連絡があったよ。持ち込んだキノコ。まぼろしキノコだったから、少し相談したいんだって。」
「あれ? マスターのところに金額の連絡がきて、そのまま買取の可否を伝えて終わりという流れではなかったでしたか?」
「そうなんだよね~……業者は公的な認可を得てる業者だし、変な事はないだろうけど、なんの相談だろ?」
こんな時に頼りになるセリフィア先生を見てみると、顎に手を当てて考えはじめている。
「少し……考えられる幅が広すぎるので、思いつくまま羅列してみても?」
「セリフィアの考えは、いつも助かってるので是非。」
どうぞどうぞ。
いつも有難うございます。
「買取業者はマスターが免許を取り立ての初心者というのはご存じで?」
「持ち込んだ時に担当と少し話したから知ってるね。」
「金額の値引き、もしくは逆の値上げ。値上げの場合は、独占契約などの要望が考えられます……この辺りは普通に考えられそうな内容ですね。」
「うん。なるほど。」
値上げか……『良い値で買うから専属になってウチにだけ卸してよ』は普通に有り得るな。
「その他、事情聴取……確認。いえ……マスターは他にも魔石と魔力水、月光石のカケラなども持ち込みをされたんですよね?」
「うん。全部同じところに持って行ってる。今回の金鉱石も、とりあえず持って行ってみるつもりでいるね。」
「初心者にしては明らかに持ち込みが異常と思われる品が先方にある……万能キノコが貴重品であれば、他も貴重品の可能性が高い……となると、第三者の関わりを疑われている? もしくは仕入れルートを知りたい……いえ、やはり貴重な人材と見た ……すみません。やっぱりちょっと今は情報が絞れないです。」
「いやいや、今のでも十分参考になったよ。」
「私が言えることとしては、価格以外に『何か別の話がある』のではないか。という感じがします。」
「うん。そうだね。」
とはいえ、今回は大手企業の店舗に行く形で呼ばれているし、そうそう変な要望を出される事や、拉致監禁なんてことはないだろうとは思う。
「まぁ、こういうのは行ってみれば『なんだ、その程度のことかよ』ってのも間々あるからね。セリフィアのおかげで色んなことを言われる想定はできたと思う。ありがとう。」
「くれぐれも用心はなさってくださいね……では改めまして」
セリフィアとカグヤが顔を見合わせ、一度頷き合う。
そして二人同時にキラキラした目に変わって口を開いた。
「ご主人様。素敵でした! 体捌きも何もかも! とっても、と~~ってもかっこよかったです!」
「本当にお見事でした……敵の動きを完全に読み切っての動き。あれは、もう一切の無駄が無い完璧そのものの動き! 素敵でした!」
せやった。
俺、経験値クエこなしてたんやった。
「おーっ! ありがと! 正直自分でも、スッゴイいい動きしてるんじゃないかと思ったよ!」
「まるで忍者みたいに! ババー! っと、凄かったですー!」
キャッキャと飛び跳ねるカグヤ。
大和撫子がテンション上がって思わずはしゃいじゃうなんて、普段とのギャップが良いね!
そのギャップを作ったのが俺というのが、また自己肯定感があがるぅ。
「いやぁ武器スキルさまさまだよ。」
「もう、それもご主人様のお力ですってば。」
「あはー。まぁ、それもそうなのかな! とりあえず、自分のことを動画で取ってみたいなんて思ったのは初めてだなぁ。」
「動画? ですか?」
「そう。このスマホでも撮れるんだけどね……そうだ。ちょっとカグヤを撮ってみようか。」
「えっ?」
スマホを動画撮影モードにして、カグヤを撮影してみる。
「はい。こんにちは~」
「こ、こんにちは。」
「お名前を教えてもらっても良いかなぁ?」
バストアップから、少し寄ってみる
「あ、はい。ミカヅキ、カグヤです。」
「カグヤちゃんか~。可愛い名前だねぇ。」
「あ、ありがとうございます。」
「カグヤちゃんの、お年はいくつなのかな~?」
「あ、はい……わたくしは17、いえ18になったばかりです。」
照れてるカグヤを撮影。
……なんだか、少し動画の種類が違う撮影をしている気がしてきたので、いったん撮影をとめる。
「ほら、こんな感じで動画を撮れるんだよ」
撮影した動画を再生し、カグヤにスマホを向けると、『はい、こんにちは~』『こ、こんにちは』と撮影したばかりの音声が聞こえてくる。
「わっ! な、なんだか恥ずかしいです! えっ? わたくしって、こんな声なのですか!?」
「動画で聞くと、自分の声って変に聞こえるよね。あるある。」
ちょいちょいと俺の肩に手が触れたので振り返る。
「マスター。いろいろ脱線しています。まずは経験値クエストの検証をしませんか? レベルのスキャンできますよ?」
「あっ、うん! そうだったね! スキャンお願い!」
そうそう。レベルよレベル!
ワシ。レベル上げに来たんやで。
美少女撮影会は違うんや。これはまた別の機会にや!
「魔力干渉解析」
セリフィアとのスキャン光が俺に収束し、消えていく。
「……おめでとうございます。レベルアップが確認できました。今、詳細をお送りしますね。」
セリフィアから直接脳内にデータが送られてくる。
ダイスケ・ナカムラ Lv.50
HP:8048
攻撃力:3234
防御力:7106
魔力:1605
神聖力:3072
すばやさ:5173
「……お? ……ぉお……おおっ!!」
めっちゃレベル上がってる!
「やった! 大成功じゃん! 俺レベル50になってる!」
「わぁ! おめでとうございます! ご主人様っ!」
飛び込んできたカグヤの両手を持って、喜びダンシング。
レベル上がった上に美少女が喜んでくれている。
本当に嬉しいと小躍りくらい出ちゃうもんだ。
軽くウキウキダンシングをしていると、顎に手を当てて考えているセリフィアの姿が目に入った。
「どした? セリフィア。」
「いえ、少し想定と違いまして……それを考えていました。」
「想定? ちなみにどんな想定か教えてもらえる?」
「はい。私はマスターのレベルが、いったん30で止まると思っていました。でも50まで上がっていたので、その原因はなんだろう……と。」
なるほど。『レベルキャップ』か。
ゲームでは30、50,70,80,90で、レベルキャップ解放をしないと、それ以上には上がらない。
「そっか。ゲームでのレベル上げで考えると、いったん30で止まるはず。か。」
「そうなんです」
「それに経験値クエストで得られる経験値だったら、レベル50以上になっていてもおかしくない」
「それが50で止まった……ということは現時点のマスターのレベル限界が50である可能性があります。」
ふむ……ということは
「……俺にはレベルキャップが無くて、限界がレベル50の可能性がある……か。」
レア度コモン並の成長限界。
まぁ、俺は普通の一般人である自覚はあるからなぁ……それでも全然おかしくない。
そもそも俺はゲームキャラでもないしな。
俺の意見にカグヤが厳しい視線に変わった。
「ご主人様! そんなはずないです! ご主人様はもっともっと高みに至れるはずです! ですよねセリフィアさん!」
「私もそう思っています。ですので、私はご主人様の『レベルキャップが一つ解放されていた』と考えていました……まだ、それが何か思いついていませんが。」
「そっか。ありがとう。」
カグヤを少し怒らせてしまったし、マイナスイメージは一旦無くして、俺がウルトラレアレベルのキャラと思って考えてみる。
その場合、俺にレベル限界が存在し、30の限界は解放済み。
なにか、その限界を超える切っ掛けが、既にあったということになる。
そして、50の限界を超える切っ掛けはまだない。
うん。
なるほど。
分からん。
とりあえず考えるフリに近い思考状態に陥る。
「ご主人様の成長。レベルアップに欠かせないのは……ダンジョンですよね。
なにかダンジョンに関係あることではありませんか?」
カグヤの言葉にセリフィアが閃く。
「マスター! カグヤの言う通りです! ダンジョンです!」
完全に閃いたテンションのセリフィア。
うん。分からん。
「マスターがダンジョン絡みで段階がある物! そして既に一つ目を得たもの! ピッタリではありませんか!」
俺がダンジョン絡みの段階のある物?
一つ目を得た?
……なんぞ?
なぞなぞのような問いを少し考えていると、ピンと来た。
「D9免許か!」
「はいっ! 免許は5段階! レベルキャップも5段階で、1つ目は取得済みです!」
辻褄は合うような気がする。
そして、D6免許を取得すれば、この検証は可能になる。
どうせ免許は取るつもりだったから、ついでに検証が出来るのは良い。
そして取得出来たら、さらにレベルが上がるかもしれないとなれば、これは夢があるし、やる気もでる!
「D6免許! しっかり取らなきゃなっ!」




