第33話 封印クエスト レベル1
ゴエモンごっこで満足した俺は、バラバラになったコンクリーパーの残骸を観察してみる……が。
ものの見事にスッパリ綺麗に切断されていて、とても自分がやったとは思えない。
「武器スキルすごいなぁ……」
「いいえ、それは違いますよ。ご主人様がすごいのです。」
俺の感嘆を拾ったカグヤが、鼻高々な雰囲気で応えてくれる。
うん。かわいい。
「魔力干渉解析」
「おっ? どうしたセリフィア?」
唐突に聞こえたスキャンの声に目を向けると、セリフィアが、コンクリーパーの横に落ちていた瓦礫とは、少し違う石にスキャンをかけている。
白地に黒が入った模様の、ただの石にしか見えない。
でも、光が集まっているから、スキャン対象で間違いなさそうだ。
「マスター……これ、金鉱石です。」
「えっ? ……えっ!? 金鉱石っ!?」
思わず駆け寄ると、セリフィアが拾って渡してくれた。
まじまじと見ても、金が入っているように見えない。
「34グラムの内、2%に満たない程度ですが、金が含まれています。」
「そうなのか……へぇ~……ただの石に見えるから見逃すところだったよ……見つけてくれてありがとう。」
「いえ、マスターの武器は取得金アップの効果があると聞いていましたので、少し用心していただけです。」
スマホで金価格を調べて、思わず噴き出す
「1gで2万円を超えてるんだけど! 嘘でしょ!?」
そういえば最近、金の高騰が話題になってた気がする。
戦争が減って世界が平和になったが、魔石エネルギーの台頭で、石油や旧通貨の価値が下がり、国同士のパワーバランスも変わった。
その中で、安定資産として純金が再評価されてる――そんな話を聞いた覚えがある。
「精製とか必要なんだろうけど……この石っころにも価値がありそうだ。持って帰ろ。」
今日も今日とて、担いだリュックサックにお土産をイン。
「あれ?」
ちょっと待て。
俺、7級ダンジョンの雑魚モンスター倒しただけだよな?
それが金になったってこと?
「もしかして……パンプキンパニッシャーとか、この短剣使えば……金策って雑魚狩りするだけでも成立しちゃう? もうほぼ検討しなくても良い?」
頼りになるセリフィア先生に目を向ける。
教えてセリフィア先生!
「少しですが……目途は立ったかもしれません。」
「よしっ!」
「ただ、精製などが必要ですし、価値がどの程度になるかは取引業者次第ともいえます。
……ですが、価値がつかないとも思えませんので、効率よく安定した量を手に入れられる方法は検討しても良いかと思います。
雑魚ではなくイレギュラーモンスターを狩った場合、大きな石が出る可能性もありますので。」
俺のテンションが、うなぎのぼりに上がってゆくのが自分でも分かる。
オジサンは美少女と美女、そしてお金に、とっても弱いんだ。
「よぅし! 張り切ってイレギュラーモンスター討伐に行こうじゃないか!」
俺自身が安心して戦えることが分かった!
レベル上げも金策も兼ねたイレギュラー討伐!
さらに封印クエストの調査までできる!
今日も、めっちゃ楽しい1日になりそうだ!
ウキウキハイテンションの俺を先頭に、3人で移動を開始するのだった。
★ ☆ ★ ☆彡
「いけるね……デイリークエストも封印クエストも、どっちもいける。」
セフィリアが案内してくれたのは、廃墟となったビルのロビー。
そこで、クエストを確認する。
「ただ、封印クエストはレベル1だけだね。2と3は選べない。」
封印クエストは鍵の数でレベル分けがしてある
鍵1本でレベル1
鍵5本でレベル2
鍵10本でレベル3
レベルに応じて難易度も上がるが、そもそもこれは『レベルを上げる為のクエスト』なので、セリフィア達からみればレベル3でも雑魚しか出ない。
ただし、封印クエストの特徴は『最大数の数が同時に出現する』こと。
レベル1でも5体同時。
挑むレベルが上がると、敵の強さと出現回数であるウェーブ数がレベルの数だけ上がる。
報酬が倒した数に比例する形だから、最大限の数が出てくるというワケだ。
「当然、封印クエストをやってみる。そして、クエストクリア後に、できるようならデイリークエストもやるって感じで良いかな。」
「はい。」
「異論ございません。」
「じゃあ準備しようか。」
今回は、俺が単騎で挑む。
セリフィアとカグヤには、ロビーから離れた2階で様子見してもらい、危なくなったら加勢してもらうよう頼んだ。
というのも三太の短剣は『全体攻撃スキル』がある。
このスキルを見つけたからこそ、封印クエスト用に選んだまである武器なのだ。
懸念としては『ゲームのように最大限の数の敵が出てくる』イメージが強すぎることだけど……ロビーの広さ的に、出現数にも限界はありそうに思える。
それに、全体攻撃を使うなら、味方を巻き込まない配置にしたい。
あの切れ味が味方に向くと思うと、さすがにゾッとする。
そんなことを考えている内に、2人は2階へ移動し終えたので、声をかける。
「それじゃあ、始めて良いかなー?」
「どうぞー!」
戦いに向けて雑念を抑えるよう、深呼吸をひとつ。
気持ちを切り替え終え、封印クエストレベル1をタップ。
すぐに短剣を構えた。
――静寂に包まれていた廃墟のロビーに、すぐに兆候が表れる。
空気が重い。
空気の密度。それだけで『何かが来る』と感じさせる圧力だった。
三太の短剣を握る手に、自然と力が籠もる。
ロビーの四隅、そして中央に、黒い霧が立ち上がる。
霧のように見えるのは、異界の文字のような魔力の塊。
まるで霧そのものが力を有しているかのよう。
やがて霧は凝縮し、歴戦の猛者を感じさせる鎧をまとった人型を形作り始めた。
顔の無い亡者のようなソレは、上を向いたまま微動だにせず、ただ黒い霧を吸収してゆく。
黒い霧が全て吸い尽くされた瞬間。
目の無い顔で、5体が一斉に俺を見た。
「かっこいい登場だなぁ」
前の俺なら、ここに立っているだけで失禁か失神していた。
それだけは分かる。
だが、今の俺は、全然怖さを感じない。
俺のステータスが圧倒的に上なのだろう。
まるで合図を交わしたかのように、五体の亡者が一斉に動き出す。
一体は跳躍し、天井近くから急降下。
一体は地を這うように低く滑り込み、足元を狙う。
一体は正面から、剣を構えて突進。
一体は背後に回り込み、無音で刃を振り上げる。
最後の一体は、遠距離から矢を放とうとしていた。
こんな一瞬で、敵の動きを把握することなんてできるはずが無かった。
でも――できる。
「うん。余裕。」
口にした瞬間、視界は更に広がる。
すべての攻撃軌道が、まるでスローモーションのように見えた。
俺は一歩、右へ。
跳躍してきた亡者の剣が、空を切る。
次に、左足を引いて、地を這う亡者の刃をかわす。
背後からの斬撃は、腰をひねるだけで回避。
正面の突進には、軽くジャンプして頭上を越える。
矢は、着地と同時に短剣で弾いた。
一連の動作に、無駄はない。
戦うというより、むしろ、踊っているような気分だった。
セリフィアとカグヤが拍手をしていることまで分かる。
「ちょっと確認。失礼しますよ──」
次の矢を番えようとする亡者へ── 一歩。
踏み出しただけで、空気が裂ける。
二歩目には、すでに亡者の懐にいた。
「ほい」
短剣を、ただ一閃。
振りかぶることもなく、ただ水平に払っただけ。
_人人人人人人_
> 1万 <
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亡者の胸元に裂け目が走り、音もなく崩れ落ちた。
その場に残ったのは、淡い光だけ。
その淡い光は、俺の身体に吸い込まれてゆく。
「イレギュラーモンスターの時に感じた光だ」
観察する余裕まである。
――その時、
自分の動くべき軌道と、振るうべき剣の動きが閃いた。
「三太ドライブ──」
発声と同時に、俺の身体が風を置いていくような速度で動き出す。
舞うように滑るように、ただ4体の亡者の間を駆け抜ける。
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> 15万 <
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> 15万 <
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> 15万 <
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> 15万 <
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合計ダメージエフェクトが浮かぶと同時に、亡者たちが全て崩れ落ちる。
亡者たちは光へと変わり、全てが俺に吸い込まれていった。
俺は空のロビーを振り返り、短剣を鞘に納める。
「また、つまらぬ物を──」
スマホの着信音が鳴る。
「はい。ええ中村のケータイです。あ、はい~、あ~どうも~、お世話になっております~。」
マナ・マテリアルズからの電話に出るのだった。




