第32話 唸れ! 武器スキル!
セリフィアとのキャッキャウフフに一息ついて、カグヤを召喚する。
「また、お呼びいただけて嬉しいです……けど、セリフィアさん。距離が近くありませんか?」
俺の右腕にぴったりくっついているセリフィアを見て、カグヤが片眉を上げる。
「別にいいじゃないですか。マスターの、もう片方の腕は空いてますよ?」
「そ、そんな……はしたない……でも失礼します。」
少し顔を逸らしながら左腕の裾を、キュっと握ってくるカグヤ。
うん。やっぱり大和撫子は、この控えめな雰囲気がかわいい!
「カグヤさん。今日、マスターがしたいことは3つです。『封印モンスターの検証』『武器スキルの発動』そして『マスター自身のダメージ耐性の確認』です。」
「えっ?」
カグヤの視線が俺に向き直る。
「ご主人様が……ダメージを、受けてみるのですか?」
「うん。アクセサリで盛られたステータスが、実際どれくらい頼れるのか試しておきたくてね。もちろん攻撃は、このダンジョンの雑魚モンスターで考えてる。」
カグヤは何度か口を開きかけては閉じ、最後にぐっと堪えた。
「……わかりました。ただ、その攻撃は、まず私が受けます!」
「あ。それは私の役目で、カグヤはマスターの回復役をお願いします。」
「な!? ……ずるいですよ。セリフィアさん。」
「ステータスを把握できる能力を持つ私が、最適です。」
「むー……ご主人様ぁ! わたくしも盾になります!」
「あっはっは、ありがとうカグヤ。でも、俺の為にわざわざ痛い思いしてほしくないから、ダメです。」
「ご主人様のいけず……」
「さぁ行きますよ! 攻撃してくるモンスターのところへ。」
3人で、ぴったりくっつきながら移動開始。
案外歩きにくくないのは、2人が気を使ってくれているおかげだろう。
5分も歩くと、セリフィアの案内が止まった。
「あの瓦礫に、モンスターがいます。」
セリフィアの案内に従ってきた場所は、コンクリの瓦礫が積み重なったような場所だった。
『少し休憩するか』という時に、座ってしまいそうな場所に思える雰囲気。
「では、まず私が攻撃を受けてきますので、ここで見ていてください。」
セリフィアは散歩に行くような足取りで瓦礫に近づいていく。
その瞬間、瓦礫の隙間から鞭のような何かが伸びた。
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伸びてきたのは、カマキリの鎌だった。
セリフィアは防御するでもなく、微動だにせず、それを受けている。
そして、くるりとこちらを向いて、何事もなかったかのように戻ってきた。
「掠り傷でした。マスターのアクセサリが機能していなくても、耐えられるダメージです。念のため、カグヤはスキルの準備を、マスターは、次の攻撃を武器で防御してください。」
「あ、うん……ありがと。」
色々、肝が据わり過ぎでないか? セリフィアさん。
「うん……いけそうです。ご主人様に『祓印結界』を貼ります!」
カグヤも召喚した専用武器『払魔の祓串』を装備している。
武器スキルは『祓印結界』で、1度限りの50%ダメージ軽減バリアを張る。
カグヤが棒の先に白い紙の付いた祓串を振るう度に、光が俺の身体にまとわりついてくる。
アクセサリの効果が無かった場合でも、これなら安心だ。
「マスターの受けるダメージが想定内であれば、武器スキルの発動を試してみてはいかがでしょうか?」
セリフィアの口調は、もう『問題ない』と確信しているようだった。
俺は、注射を受けに行く前のような不安を抱えつつも、腹を決める。
「わかった。少し考えてみるよ。じゃ、行ってみる。」
コンクリーパーが隠れるのは無駄と思ったのか、こちらに向かって動き出している。
俺も短剣を抜いて、歩み寄る。
不思議と怖さは感じない。
身体の固さも無い。
適度な緊張感だけが、心地よく残っている。
鎌のような両手を見せ威嚇を始めたコンクリーパーをじっと見る。
うん……これは怖くない。
俺はセリフィアの真似をして、散歩のように近づいていくと、コンクリーパーが鎌を振るった。
「おっそ」
左からの一撃が、スローモーションのように見える。
回避も防御も余裕だ。
この速度なら、受けてから判断しても間に合うが――左腕を上げて、受けてみる。
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バリアの光が弾け、軽いデコピンのような衝撃だけが残った。
……これは大丈夫だわ。
「全然大丈夫だから、このまま武器スキルの検証に入るわー!」
視線は外さず、声だけで伝える。
武器スキル。三太の短剣の武器スキル。
三太ドライブ。
どうやったら放てるんだろう……そんなことを考えていると、コンクリーパーがまた鎌を振るってきたので、今度は右腕で受けてみる。
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うん。しっぺくらいの痛み。
でも、攻撃を受けるのは気分が良くないので、バックステップで距離を取る。
「うぉ!?」
思った以上の速さ。
自分が想定していた以上の動きのせいで、脳がバグってしまい転ぶ。
すぐに立ち上がるが、セリフィアとカグヤの心配する声が飛んできて、ちょっと恥ずかしい。
これはすばやさ4000の下駄の効果か――
「大丈夫だよー! 自分が思った以上に速く動けて、頭がついていけなかっただけ! 武器スキルの検証つづける!」
色々もたついていると、ふと『ピン』とくる感覚があった。
使える。
感覚的に、そんな印象があった。
自分の動きの軌跡、攻撃の流れ、すべてが明確にイメージできる。
後は何か切っ掛けがあればスキルを出せそうな気がする。
……って、ことはアレかなぁ。
やっぱりスキルだから、必殺技っぽい感じなのかなぁ?
カグヤも発動の時に言ってたんだよな。
『技名』をさぁ。
「えっと……『三太ドライブ』」
俺の身体が、全自動で動き出すような感覚。
さっき思い描いたイメージを正確になぞっていく。
コンクリーパーの前を何の手ごたえも無く短剣が通り過ぎるたびに
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ダメージエフェクトが見える。
3度、斬撃がコンクリーパーを切り裂いて、俺の全自動が止まった。
改めてコンクリーパーに目を向けると
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> 15万 <
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ダメージ合計のエフェクトが浮かび上がると同時に、コンクリーパーの身体が4つに切断され、バラバラに崩れ落ちた。
「スゴイです! マスター!」
「ご主人様かっこいい!」
セリフィアとカグヤの黄色い声援が飛び、
俺はなんの汚れもついていない短剣を一度振るって、静かに鞘に納める。
「……つまらぬ物を切ってしまった。」
――言わなきゃいけないでしょうよ。これは。




