第3話 ダンジョンって怖い!
似たようなタイミングで手の皮が限界を迎えた俺たちは初ダンジョン探索を終え、家族サービス組はしっかりと家族に体験をさせてあげる為の経験を得ることができ、それぞれが然るべきタイミングで家族と楽しい時を過ごし、めでたしめでたし。
……となるところ。
俺は暇になると化石カニを探して割りに行ってしまうくらいハマってしまい、週末には化石割りをすることが習慣になってしまっていた。
初ダンジョンから2ヶ月。通い詰めた結果、記念になる小さな魔石も当たり、全員に自慢できた。
若干、反応に「まだやってるんか!? いや楽しいの分かるけど!」感があった気がしないでもないが、楽しいのだから仕方ない。
ソロ活動にも慣れ、装備も最適化され、余計な物は持たず必要最低限だけ持ってダンジョンに入っていく。
今日も俺はカニを割って小さな幸せを得るのだっ!
「カニカニ~♪ どこカニ~♪ お宝でたら電動ハンマードリル買っちゃおうか悩むカニー♪」
クマよけの鈴ならぬ、カニ寄せの歌を歌いながら洞窟を歩く。
タガネでカンカンも楽しいのだが若干の作業感が出てきているので、簡単な化石割りを検討中なのである。
「ん? あ、珍しい! アレが宝石モドキってモンスターかな?」
壁にキラリと光る宝石のような物があったが、それが擬態した虫モンスターであることなどお見通しなのである。
流石の情報化社会。通いなれたダンジョンだけに公開済みの注意点は全て頭に入っている。
宝石モドキで一番やってはいけないことは『なんぞこれ?』と素手で触ってしまう事だ。
イメージとしては虫が口の中を見せているような状況らしく、迂闊に手を出すとパックリ指が食われてしまうらしい。
「てれれん♪ ターガーネー!」
対処法はお察し。タガネのように少し長く丈夫な物でコン! とダメージを与えれば良い。流石は安全なダンジョン。
上手にご臨終いただくと綺麗な宝石モドキが手に入る事があるらしく、価値はなんと綺麗なガラスと同じくらい!
うん! 壊れても惜しくないねっ!
スマホで撮影後、コンとタガネをトンカチで打ち付けると、ものの見事に綺麗な部分が割れ、価値は無さそうな状態に変わる。
「価値よりも経験の方が嬉しかったりするんだよなー。よし。宝石モドキも倒せたし情報に乗っていたモンスターは全部倒せたな! 化石カニ、石英カメに頑固石、水晶キノコ、宝石モドキ。全種コンプリートだぜ!」
不人気10級ダンジョン、全2階層で存在が確認されているモンスターを全種制覇したことで、一種の満足感に包まれる。
尚、このダンジョンの全モンスターの中で一番お宝の可能性が高いのは宝石モドキらしいのだが。ダンジョン最下層(地下2階)のみに存在し、これだけ通い詰めて初めてお目にかかるという驚きの遭遇率。
宝石モドキを目的にして探しだすのはムリゲーなので、化石カニを探して割る方がお宝を得る確率は高いと思えるのだ。
レアモンスターを倒した充足感から天井を見上げる。と……なんとなく感じた違和感。
「んん? ……なんだ? この違和感は。」
違和感には原因があるものだ。原因を探る為に観察を始める。
この初心者向け洞窟ダンジョンは、なぜかほんのりと光っており、通行できる道が見えるようになっている。
『ダンジョンとはそういうもの』として受け入れていたのだが、なんだか洞窟の天井の光が気になる。そこに原因がありそうだ。
じーっと天井の明かりを眺め、違和感の正体をぼけーっと考えてみる。
「うっすら……動いてる?」
小さな光の粒子のような物が集まり、ぼんやりと光を放っている。
まるで衛星から夜の地球を見た時の光のような印象。
だが、ゆっくりと川のように一定の方向に流れているようにも見えるのだ。
「宝石モドキのあった付近の光の流れが……なんか変なのか? ここだけ流れが乱れてるように見えるな。なんだろ? 川にでっかい石がある時みたいな?」
言葉に出してみるとピンと来る。
『もしやイレギュラー的にお宝が埋まっていたりするのでは?』と。
周囲にモンスターの姿は無し。
気になる乱れは3箇所。とりあえず、ど真ん中にツルハシを振るってみる。
すると光の流れに変化が起き、形が変わる。
なんとなく『3つのポイントがあると人の顔に見えてくる現象』が起きている気がして、少し気味が悪い。
だが、お宝の期待が勝つのでツルハシを振るう。
「う~ん。コワイ顔に見えてきた。」
より怖い顔になった気がする。
光が集まって強くなってきている気もする。
『なにしとんねんワレ!』的な顔になっているような気がする。
気のせい気のせい! と自分に言い聞かせながらツルハシを振る。
お宝を求める欲に、もう止め時は見失っているのだ。
「うんうん! なんか弱ってきてた顔になってる気がする! よし! 頑張れオレ!」
15分ほど、顔に見える光にツルハシを振り続けていると『もう勘弁してよ』的な顔になっているように見える。
きっともう少しだ! もう少しでお宝がポロリやで!
そんなことを考えながら、一層の力を込めてツルハシを振るう!
「よいしょおっ!」
ツルハシインパクトの瞬間――光の顔が弾け飛ぶ。そして同時にダンジョンの全ての明かりが消え去った。
「えっ!? えっ!?」
完全に原因は自分だ。分かっている。だが混乱はしてしまう。
必要最低限に軽量化された装備。明かりなど持ってきていない。
こんなに真っ暗なんてヤダー!
これまで、このダンジョンで見たことが無かった現象に遭遇しパニックを起こしていると、目の前に光が灯る。
だが、その光は1か所に集まり、そしてなぜか俺に流れ込んできた。
「えええええええっっ!!?!!?」
光が俺にどんどんと当たってくるが、質量は何も感じない。
だが、確実に『何か』が自分の中に流れ込んできているのを感じる。
人知を超えた『何か』が起きてしまっている。
ダンジョンって怖い!
……ただ、アラフォーのおじさんともなると、突然のイレギュラーに対して『なるようにしかならんよな』と受け入れてしまいがちであったりもする。
どうせこの光の流れの止め方なんて分からない。
一種の諦めに近い状態で『どうにでもな~れ』するしかないのだ。
そんなヤケクソ。
『もうどうにでもな~れ』と自暴自棄を起こして、ダンジョンにされるがままでいる内に、体への光の流入は治まり、ダンジョンの光も元に戻っていた。
「……なんだったんだ」
言葉を発した後、徐々にぞわぞわと恐怖が忍び寄ってくる感覚。
その恐ろしさに、俺はたまらずダンジョンから逃げ出すのだった。
「ダンジョン怖いっ!」




