第28話 まほうつかい?
レベルアップ?
なにそれ美味しいの?
そんな気持ちにはなった。
だって、ちまちま1桁のステータスを上げて喜んでたのに……
指輪付けるだけで一気に4桁アップはオカシイって!
『レベルアップがんばるお!』って思って行動してた意味、見失っても仕方ないと思う。
――ただ、セリフィアの超ニコニコ笑顔よ。
俺が瀕死ステータスじゃないってことが、ものすごく安心できるんだろうね! うん! どうもその節は大変お世話をおかけいたしました。
「マスターマスターっ! 武器もっ! 武器も装備してみましょうよっ!」
なんかすごいテンション高いなぁ。珍しい。
まぁ……こんなに喜んでくれているのも、俺のことを思ってなんだから、ありがたいよなぁ。
「うん、まぁ、そうだよなぁ……これは喜ぶべきことだよな! ……納得がいくかは置いておいて。」
「これもマスターのお力なんですよ! やはり凄いです! もう流石ですマスター!」
サスマスきちゃ。
一度は言われたい『流石ですご主人様』やんけ。
もうここまで言われたら、大人しく言うとおりにするしかないよね。
「だな! 結果を見れば、めでたいことに違いない! んじゃ、とりあえず武器の攻撃力順でソートでもしてみるか。」
「はいっ!」
未だ内心、戸惑っている俺の何倍もワクワクが止まらないセリフィアを横目に、武器のソートをかけて、とりあえず1番目の詳細をタップする。
――*――*――
宵断ノ双牙
HP:0
攻撃力:6000
防御力:0
魔力:0
神聖力:0
すばやさ:0
闇が深まる宵の刻、静寂を裂く双の刃。
その一閃は、敵の意識を奪い、魂の奥に眠る恐怖を呼び覚ます。
クリティカル率60%アップ
状態異常付与確率50%アップ
武器スキル「宵影双斬」
敵単体に攻撃力依存の2500%の2回ダメージ。
高確率で「沈黙」「出血」状態を付与。
敵が状態異常のとき、次回スキル威力を3倍。
――*――*――
はい、つよいつよい。
隣をタップ。
その隣もタップし詳細を確認してゆく――
「攻撃力6000だらけ……」
「これはスゴイですねっ!」
やはり、空元気を出してみたものの、俺のレベルという存在の希薄さを、どこか感じずにはいられない。
……セリフィアって、こんなにテンション上がることがあるんだ
俺、逆にドンドン冷静になっていくんだけど……
「あ、マスター! 今の武器! かなり良くないですか?」
無心で武器調べるマシーンと化していた俺をセリフィアが止めた。
――*――*――
【天穿ノ太刀】
HP:1000
攻撃力:4500
防御力:1000
魔力:1500
神聖力:1000
すばやさ:1000
誓いを持つ者が抜けば、雷鳴と共に天を貫く。
その刃は、神々の静寂すら切り裂く。
確率30%で防御力無視。
確率25%で麻痺付与。
武器スキル「雷鳴一閃・天裂」
敵単体に攻撃力依存の4000%の1~3回ダメージ。
確率50%で次回の武器スキルを5倍にする。
味方全員のステータスを3回まで僅かに上昇させる。
高確率で敵の有利効果を打ち消す。
――*――*――
はい。破格。
つよいつよい。
……いや、本当に強いな。
攻撃力以外のステータスが上がるのが、とっても強い。
なんなら『天穿ノ太刀』を装備するだけで、アクセサリなしでも人間を超えてしまっている可能性大。
ただ……『誓いを持つ者が抜けば』とか、なんか条件が書いてあるんですけど?
俺、何も誓ってないです。ごめんなさい。
「マスター……」
華麗にスルーしようとしたら……なによセリフィアさん。その『召喚してみませんか?』の顔。
なんぞ?
我レベル2の、ただの人間ぞ?
なにも誓うてはおらんのやぞ?
……まぁ、そんな顔されたら召喚するんだけども。
召喚をタップすると、俺の横に一振りの太刀が現れた。
白塗りに、細やかな金の装飾が入った鞘。
刀身を見なくても、鞘だけで国宝あたりに指定されるんじゃないかと思う程に立派な太刀。
おもむろにセリフィアが太刀を手に取り、俺の反対方向を向いて鯉口を切ろうとする。
だが、太刀は微塵も動かない。
「ん~……! ……ダメです!」
セリフィアが無理矢理に力を加えても、刀身を見ることができなかった。
「私じゃ抜けないみたいです……ただ、持つだけで危険があるような武器ではないことは確認できました。」
「ほう?」
つまり俺も持ってみろと?
抜けるか試してみろと?
だから、俺なにも誓ってないんだってば。
……でも、正直、かっこいい太刀だから持ってみたくはある。
セリフィアから受け取ると、ずっしりとした重みを感じ、少しテンションが上がる。
一度、深呼吸して、ゆっくりと鞘から刀を引いてみると――
漆黒の刀身に黄金の波紋が浮かぶ刃が、その姿を現した。
「だから俺は何も誓ってないって! なんで抜けんねん!」
エセ関西弁が漏れる。
セリフィアは拍手をしている。
「やっぱりマスターはスゴイです!」
どこか諦めにも似た気持ちを抱きつつ、セリフィアの尊敬に応えるべく、刀を掲げてみる。
「魔力干渉解析……はい! しっかりと装備できています! マスターのステータス情報を送りますね!」
ダイスケ・ナカムラ Lv.2
HP:7136
攻撃力:5531
防御力:7024
魔力:2518
神聖力:4015
すばやさ:4017
うん。だから我、レベル2の、ただのヒトぞ?
もう、おかしかろうもん。
なに? おれ、この刀を振って戦わなきゃいけないの? ヤダー!
「せりふぃあー! おれ、せっきんせん、いやでござる!」
「はっ!? ……そういえばマスターは、まだ戦いに慣れてなかったですね……すみません。浮かれて失念していました。違う武器も探しましょう!」
とりあえず天穿ノ太刀のステータス画面の『召喚』ボタンが『収納』ボタンに変わっていたのでタップして戻すと、神々しい天穿ノ太刀は、あっという間に消えた。
そのままセリフィアと、他に使えそうな武器がないか探してみる。
・
・
・
「……マスター。これ……この武器。とっても良くないですか?」
「ん? どれどれ?」
半ばセリフィアの操り人形と化していた俺は、意識を戻し画面を確認する。
――*――*――
【パンプキン・パニッシャー】
HP:1031
攻撃力:1031
防御力:1031
魔力:1031
神聖力:1031
すばやさ:1031
「トリック・オア・スティール☆」
ハロウィーンの夜にだけ現れる♪
悪戯心満載の魔導銃☆
撃つたびに敵のポケットからアイテムを、うっかり☆ 弾き飛ばしちゃうぞ♪
武器スキル「トリック・オア・スティール☆」
パッシブスキル
アイテムドロップ率40%UP
確実にクエストで獲得したアイテムを1~3個増やす。
――*――*――
うん……
ハロウィーン限定で手に入る武器。
遠距離攻撃が嬉しい銃。
銃の癖に、なぜか拳属性。
ねぇ……ネタ装備なのに……なんで超強いの?
はい。10月31日だからですよね。分かります。
分かるかボケ。
一人脳内ツッコミを終わらせて、改めて内容を見直す。
「スキルがアイテムドロップ系。こんなの……もう、装備するしかないじゃない……」
「マスターの金策と合致しますものね。これは、ダンジョンで常時装備するくらいの武器な気がします。」
安全そうな遠距離攻撃ができる上に、アイテムゲットの確率が高くなるんでしょう?
こんなの……もう、装備するしかないじゃないか……
俺も気になってしまい、とりあえず召喚してみると、パンプキン・パニッシャーが姿を現した。
緑のツタが絡みついたような紫の銃身。グリップはツタと同じ緑色。
オレンジ色のジャックオーランタンの口が銃口になっている。
「……見た目が完全にオモチャやん。」
持ってみると、どこかで触ったことがあるような、オモチャ感しか感じられない。
「う~ん……魔力干渉解析……」
セリフィア的にも、少し納得がいっていないのかもしれない。
天穿ノ太刀はかっこよかったからな……俺もちょっと気持ちは分かる。
「装備……できています。ステータスを送りますね。」
ダイスケ・ナカムラ Lv.2
HP:7167
攻撃力:2062
防御力:7055
魔力:2049
神聖力:4046
すばやさ:4048
……強いなぁ。
……強いんだよなぁ。
ネタ装備だけど、とっても強い。
そして、何よりスキルのアイテムゲット効果が見逃せない。
この武器を装備して敵を倒せば、ミレイユを召喚していなくてもアイテムをゲットできるかもしれない。
選択肢が広がるのは良いことなんだよなぁ。うん。
「よし、ここはひとつ逆に考えてみよう。」
「逆……ですか。」
「オモチャにしか見えないのはメリットである! どうだね? セリフィア君。」
「……確かに。オモチャであれば敵や同業者と出会った際に、相手の警戒心が下がるかもしれません。」
「そうだね。あ、あと銃刀法とかも気にしなくてよくなる可能性があるかもな。こんなんただのオモチャですやん! だし。」
「逆に侮られる可能性も否めませんが。」
「ま、それは仕方ないと受け入れよう……それに、侮ってくれた方が良いこともあるでしょ。勝手に過小評価してくれるなら、それはそれでメリットだよ。」
「そうかもしれません。」
セリフィアと話していて、俺自身、少しこの銃を使ってみたいと思い始めてきた。
ならば使ってみれば良い。
「セリフィア。化石カニがいるところって、分かる? とりあえず撃てるか試してみたくなっちゃった。」
「はい。……あそこにいます。」
セリフィアの指した方向を見れば、のんびり徘徊している化石カニの姿。
緑のツタでできたリアサイトと、カボチャのヘタでできたフロントサイトを重ねて、照準を合わせる。
プラスチック感のある引き金を引くと、クラッカーを鳴らしたような音が響いた。
音と同時に――
「キャーハハハ☆!」
甲高い声で人をからかうような笑い声を上げながら、透けた紫色のジャックオーランタンを模した弾丸が飛び出し、化石カニに突撃していった。
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< 4万 >
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ジャックオーランタンの弾丸は、化石カニの甲殻に直撃し、拳大の風穴を開けた。
「…………」
「…………これは魔導銃ですね。マスター。」
「そっか。おれはまほうつかいだったんだな。」
化石カニの後ろには、キラリと光る魔石のような物が2つ、ぽとりと転がっていた。




