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現代ダンジョン・オーバーキル!  作者: フェフオウフコポォ


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26/87

第26話 ダンジョン外へ持ちだせ――


ダイスケ・ナカムラ Lv.2

HP:136

攻撃力:31

防御力:24

魔力:18

神聖力:15

すばやさ:17


レベル2!

俺がレベル2になった!


無言でセリフィアを見る。

セリフィアは、うんうんと頷きながら、微笑えんでる。


無言でミレイユを見る。

ミレイユは、ほんの少しだけ目を見開き、目をぱちぱちと瞬かせている。


ミレイユ、俺のレベル上がった事知らんがな!


「俺のレベルが上がってる!」

「おめでとうございますっ!」

「……それはそれは、おめでとうございます。」


セリフィアが勢いよく拍手をしてくれて、一拍遅れてミレイユにも俺の喜びが伝わった。


ただレベルが1上がっただけ。

だが、この意味は大きい。

なにせ『はじめの一歩』が進んだのだ。


何事も踏み出すまでが難しい。

一歩さえ進んでしまえば、その後は動ける。


なんなら、アイテムも召喚以外で手に入ることまで分かった!

実質、一歩でエスカレーターに乗ったくらいの進展だ!


……いや、落ち着け。

アイテム関連は特に確認が必要だ。


それでも――やはり、レベルよ。ふふふ。


なんなら俺はセフィリアにポーション飲ませただけ。戦ってすらいない。

まぁ、恐怖に立ち向かうっていう経験は積めたし、経験値がもらえてもおかしくはない……いや、ほんとめでたい!


このまま『人間をやめるぞ!』が出来るかもしれない。

やめないけど!


「嬉しいなぁ! ……あぁ、嬉しいな!」

「私も嬉しいです! マスターが強くなるまで、お手伝いさせていただきます!」


「ふふっ、そんなに喜んでいるのを見てると……私もなんだか嬉しくなっちゃいます! ……あと、こんなのがありました。」


ミレイユの手には、こぶし大の緑色の水晶が。


「魔石だぁぁっ!」


さらなる喜び発見にテンションの赴くまま、セリフィアとミレイユの3人でキャッキャウフフした。



★ ☆ ★ ☆彡



キャッキャウフフで盛り上がった後の小休止。


「ふぅ……ちょっと興奮しすぎたな。

なんかゴメンね。一人で勝手に盛り上がっちゃって。」


「いえいえ、とっても楽しい時間でしたマスター。」

「新しい一面が見れて、とっても新鮮。まるで子供みたいなんだから……ふふっ」


美少女と美女で反応が違う。

どちらの反応も有難くて、拝みたくなる。


「よし! 気を取り直して、これからのことを、しっかりと考えておこう。」


浮かれ気分に自ら区切りを打って、頭を切り替える。


「今回の件で『俺のレベルは戦闘で上がる』ことと『戦闘でアイテムを手に入れられる』ことが分かった。

これは2人の力に寄るところが大きい。改めて、ありがとう。」


「いえ、そんな当然です。」

「うふふ。」


「どちらについても、じっくり考えていきたいところ……ではあるんだけど」


チラリと地面に置いたままの万能キノコと、ポーションと魔力水、そして魔石に目を向ける。

俺の視線を追ったセリフィアが口を開く。


「『アイテムをダンジョンの外に持ち出せるかどうか』というのが、かなり重要な意味を持ちそうですね。」

「うん。そうなんだ。」

「あら? そうなんですか?」


「ミレイユさんにも、マスターについての詳細を共有しておきます。気が付かず、すみません。」

「うふふ、ありがとう。情報を一人占めさせてあげられなくて、ゴメンなさいね。」

「そ、そんなことは、おもってないです。」


あら~。

セリフィアったら。

あら~。


察してニッコリしていると、ミレイユが口を手で隠して思考の海に沈み始めた。

俺がダンジョンの外に召喚物を持ち出せない事や、その他の細かな情報をセリフィアから受け取ったのだろう


セリフィアの情報共有能力は、本当に便利。

1から説明しなくても、状況報告をポンと渡せてしまう。


「……よく理解できました。お金は大事ですものね。」


あっという間に理解してしまうミレイユも賢いんだろうなぁ。

彼女にしてみれば異世界かつ、自分がゲームキャラだって情報を押し付けられたんだろ? 度量が広すぎやしないかい?


そんなことを思いつつも、ミレイユが平然としているので、俺も気にせず今回の検証を進める。


「現状、俺が『戦闘』に参加するメリットはレベルとアイテムの2つがあるように見えるけど、まだアイテムは本当に手に入るかが確定していない。」

「この状態で戦闘を重ねるというのは、少しもったいなく思えますね。」


「うん。だから、今すぐダンジョンを出て確認! ――というのも2人に相談できなくなってしまう。ついでに寂しい。

というわけで、ダンジョンからアイテム持ち出せた場合、持ち出せなかった場合についてとか、今回の戦闘とか、気が付いたこととか、意見を聞かせてほしいんだ。」


ミレイユが少し首を傾げる。


「まずはじめのアイテム持ち出しの件についてですが、アイテムを持ち出せた場合は換金可能か試してみる。持ち出せなかったら、ダンジョンに戻って私たちと戦闘を頑張ってみる。で、よいのでは?」

「それは……うん。そうだね。なんの異論もないわ。」


あれ? 当然と言えば当然の思考。

俺は何を考えたかったんだろうか?


思ったままを口に出していると、ときどき自分が何を考えていたのか迷子になるよな。


「マスターは『金策』と『レベル上げ』だと。どちらの方が重要だとお考えですか?」


プチ混乱を起こしていると、頼りになるセリフィアの声。


「う~ん…………今は『金策』かなぁ……会社に辞表出しちゃったし。

無職のおじさん一直線はちょっと不安。うん! やっぱり『金策』の方が大事だわ。」


超パワーか金か。

金を選んじゃう当たり、年を感じずにはいられない。

でも、生きていくには金って……やっぱり重要なんだよなぁ。


「であれば、ダンジョン外へのアイテムの持ち出し確認は『重要度も緊急度も高い』ということですね。

とりあえず、ダンジョンの出口に向かって移動しながら相談しても良いのでは?」

「それもそうだね。そうしよう。」


うんうん。と頷いていると、ミレイユが優しく抱きしめてきた。


「あなた様は、私たちと一緒に居たい気持ちや、レベル上げをしたい気持ちなど……

出来ることや、したいことが、新しく沢山生まれてしまって、気持ちがはやってしまっているのです。

だけれど、こういう時ほど、ゆっくり落ち着くのも大事ですよ。」


ミレイユの言葉はストンと胸に落ちてきた。

俺はやりたいことが多すぎて、気が焦ってたのか。


できることが増える。

やりたいことが増える。

こういう気持ちを得られる生活ではなかったからな。


でも特に焦る必要はないんだ。

じっくりと、やりたいことをやればいい。


その事に気づき、落ち着きを取り戻す。


俺の様子を見て、そっとハグを解いたミレイユが、地面に置いてあったアイテムを拾い、手渡してくれた。

受けとったそれらを、万が一まぼろしキノコが採れた時のために持ってきた、余裕がたっぷりのリュックに丁寧にしまう。


「ではマスター……出口に向かいながら、戦闘について、少し気になった事をお話させてください。」

「おっ、いいね。そうしよう! どんな事だろ?」

「戦闘への参加方法によって、経験値の取得条件に違いがあるかどうか。

それと、マスターが召喚武器を装備できるかなどですね。弓矢が使えたら、戦闘がずっと楽になると思いまして。」

「それ、いいね!」


俺たちは談笑しながら、ダンジョンの出口へ向かって歩き始めた。



★ ☆ ★ ☆彡



「少々お待ちください。魔力干渉解析マナ・インタラクト・スキャン……」


こっそりと出力を絞ったスキャンの光。

もし光を見た人がいても、錯覚と見間違える程度に抑えられた光だった。


「どした? なにかあった?」

「この先に人がいます……」

「あらら……じゃあ残念だけど、人目がつかない内に、一旦お別れかな。」


楽しい時間だった。

ミレイユとも仲良くなれたし。楽しい時間だった。


あぁ、寂しいなぁ。


「それもあるのですが、少し試したいことがあります――この先にいる人はケガをしているようです。」

「ん? 何? ケガ? どんな?」


「右腕の複雑骨折ですね、治療はされていますが、治ってはいません。」

「あらら……大変だ。」


「……提案なのですが、あの人に手に入れたポーションを使ってもらいませんか?」

「……え?」


セリフィアの思いがけない提案に、色々な疑問が浮かんで、即座に答えが出ない。


「ダメージを負っている人に飲んでもらえれば、ポーションが他人にも有効であると判断できます。」

「……なるほど。」


前に俺も飲んだが、あれは瀕死と見間違うステータスだったから飲まされた気がするし、効果が確認できなかったのかな?


となると、これは結構大事な検証とも思える。

なぜなら金策の中に、ダンジョン内での闇医者行為――辻斬りならぬ辻ポーション案もあった。


「金策に繋がるから、できるなら確認した方が良いな……」


……ただし『できるなら』という言葉が付く。


赤の他人がくれた意味不明な液体を飲んでくれる人間なんていない。少なくとも俺は知らない。


「マスターは、飲まないと思っているのでしょうけど、ご安心ください……飲ませることができます。ミレイユさんの協力が必要ですが?」

「あら? なんでしょう。お役に立てるのであれば手伝いますよ? ……変なことじゃなければ、ですが。」


「変な事ではないです。

この先にいるケガをした探索者に、出来る限り真剣に心配している感じで、ポーションを勧めてほしいんです。」

「……その程度なら、えぇ、別にいいわ。」


セリフィアがいぶかしし気な表情に変わる。


「真剣にですよ? それこそ『マスターが怪我をした』くらいの真剣さです。」

「それは……少しハードルがあがるわね。」


「マスターの為です。……できますか?」

「……やるわ。」


なにやら、2人の間に、火花が散った気がした。

「あ、じゃあ、ポーション召喚する?」

「いえ、この検証には、モンスターを倒して手に入れたポーションを使用します。」

「えっ? なんで?」


「まだ、手に入れたアイテムがダンジョンから持ち出せるか不明だからです。

消えてしまう可能性があるのであれば、それを使った方が良いかと。」

「あぁ、確かにそうかも。」


リュックから手に入れたポーションを取り出してミレイユへ手渡す。


「ここを、まっすぐ行った所にいる男性の右腕の怪我を心配して、そのポーションを飲ませてください。その後は退散してください。私達はこっそりと隠れて見ていますので。」

「分かったわ。」


引き締まった表情のミレイユは道を進み始めた。



★ ☆ ★ ☆彡



俺とセリフィアは、怪我をした男が見える位置の木陰に隠れ様子を見る。


「…あの、もし? その腕……もしかして、怪我をされていませんか?」

「え? ……あのどちら様で?」


ミレイユがふっくら感のある男と接触した。

当然ながら男は突然の声に100%怪しんでいるような反応だ。


だが、ミレイユの顔を見て固まった。


……その反応は正直、分かる。

物凄い美女だと、男は固まってしまう。


怪我をしている男は、柔らかめの輪郭をした優しそうな男だ。

寝ぐせや無精ひげも見て取れるから、余り女っ気もなさそう。


となると、脳内では相当に混乱しているに違いない。


「やはり怪我をされているのですね……どうして、そのような怪我を……いえ、それよりも。」


真剣に泣きそうな顔で詰め寄るミレイユ。


「……大丈夫ですか? 痛みはないですか?」


怪我には手を触れないように、それでもいたわるように優しく身体に触れ、その表情からは真剣に心配しているだろうことしか伝わってこない。


「あ、す、ぁ、だじょうぶス。」


遠目に見ていて思う。


分かる。分かるぞと。

もうなんも言えねぇよなぁ!


「痛そうで、見ていられません。これ……怪我に効くポーションです。飲んでください。」

「え?」


いったー! 直球だー!! 180キロくらいのど真ん中ストレート!

そんなん飲むわけねぇ!


「あなたのことが心配なんです! その怪我じゃあ後遺症が残るかもしれません! そんなの私は見過ごせません!」

「や、あの、結構ス!」


ミレイユが、ほぼ泣きそうな位に悲しそうな顔になる。


「飲んで……くれないのですか?」

「や、あの、いや、」


まぁ、そうなるよね。

傍から見ててもそうなるとしか。そらそうよ。ってやつだ。


――だが、ミレイユが決意したような表情に変わった。


「分かりました……では口を開けてください。」

「は?」


ポーションの栓を開け、男ににじり寄るミレイユ。


「大丈夫ですよ。」

「えっ、えっ?」


男の頭を、良い子良い子と撫で始めるミレイユ。

まるで子供に薬を飲ませるように、優しく微笑んだ。


「安心してください……私はちゃんと見守っていますから。

ほら、私も一口飲みますから。ね、安心でしょう? はい。あーんして……」

「あ、あい。」


あ。飲んだ。

飲んだの?


……うそだろ?


――これが美女の力なのか?



飲み終わったのを確認したミレイユは「それではしつれいしますー」と脱兎の如く退散し、呆然とした男がただ一人、その場に残されていた。


俺の隣でコッソリ、魔力干渉解析マナ・インタラクト・スキャンをかけるセリフィア。


「うん。怪我は治ったようです……あのポーションも通常のポーションと同じような効果がありましたね。」


あの男は少し不可解な体験をしてしまったかもしれない。

だが、ケガが治ったのだから問題ないだろう。


俺たちもゲーム内の効果と同じポーションだということが分かったし、そして、ゲームのキャラクター以外の人間にも効果があるというサンプルデータが取れた。


良かった良かった。


「……僅かとはいえ、誤差を感じた物をマスターに飲ませるワケにはいきませんからね。」


セリフィアが何か言った気がしたが、問題は無かった。

そう無かったのだ――



ダンジョンの出口が近づいてきたこともあり人目も増えたので、二人と別れ、一人で出口へと向かう。


……一人になると、途端に寂しい。

堂々と彼女たちを連れて歩けるようになりたい。

そんな気持ちが芽生えるの感じつつ。


俺はダンジョンの外へ出た。




キノコは――――


消えなかった。

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― 新着の感想 ―
何回か繰り返せば都市伝説ならぬ迷宮伝説『辻ポーション女』が生まれそうですね!
これだから男ってやつはさー
おはようございます。 あ~、今話が以前の掲示板に書き込まれてた話題の日(?)だったんですな。美人に心配な顔されて「薬だ、飲め」と、ピッコ○さんの仙○みたく勧められたらそりゃ飲んじゃうよなぁ…(共感
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