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1-17 中性人間れいちゃん君

どちらの性別も選べる。でもどちらの性別でもない。物心ついた頃から男性として育てられた。そちらが生きやすいと身体的特徴から考えられたから。中学への進学を期に自身の性別がおかしい事を母親に明確に告げられたれいちゃん君はもやもやを抱えながら入学式を迎えた。どちらの性別を選ぶか困りつつ、ややこしい性格になったれいちゃん君は学園生活を行く。

「魂消ましたな」


 ドクターは赤子のレントゲン写真をボードに貼り示す。


「ここを見てください」


 赤子の股間の部分にカーソルを合わせてドクターは語る。


「この子、睾丸が1つ、卵巣が1つあるのです。一側性真性半陰陽というモノですな。半陰陽の場合、外生殖器に異常が起こりやすいのですが、この子の場合は陰茎もあれば子宮もしっかりとある。袋の下、男性であれば蟻の門渡りがある部分。ここに女性器があるのですよ。陰茎の方に尿道や輸精管があり、男性機能も成長すれば使える可能性があります。女性器の先には子宮があり、子宮の先には卵巣がある。こちらも成長すれば使える可能性があるのです。つまりこの子は男性でもあり、女性でもあるのです」


 心底珍しいモノを見る目でドクターはレントゲン写真を見ていく。


「使える可能性がある。そう申しました通り、どちらも使えない可能性もあるのです。睾丸は女性ホルモンが強く精巣内で精子が発達しない。卵巣は男性ホルモンが強く生理が来ない。お医者と申しましては二次性徴のタイミングで男性ホルモンを摂取させ、男性として育てる事をオススメします。この子が子供を欲しいと思った時、子宮が相応のサイズになっているか怪しいですし、女性ホルモンを摂取し続けなければ生理がくるかも怪しいのでね。その点、男性機能は発揮される確率は高いでしょう。子供を得やすいのは男性側だと思われます。二次性徴はこの子の場合遅いか来ないと思われます。中学か高校のタイミングで決めるのがよろしいでしょう」






「れい! 遊ぼ!」


 元気な少年の声のした方に向けて、その少年は顔を向けた。

 その少年は色素が薄かった。髪の毛は細く綺麗だった。肌はきめ細かく、年齢の割に背が高かった。

 短パンを穿いたその少年は元気な少年の元へと駆けた。


「コウ君! 何して遊ぶ!?」


 コウと呼ばれた少年はニカッと笑って、山の神社の方を指さした。

 少年達はいつも神社の周辺で遊ぶ。そこには大きな池があり、程よく木陰があり、色々な虫がいたり、夏休みの間はとても刺激的に過ごしやすいのだ。

 少年達はそこで木の枝を拾って振り回したり、池のカエルやザリガニを捕まえて遊んでいた。そうやって遊ぶのが常だった。

 そういう日々がその少年はいつまでも続くと思っていた。



「ねぇ、れい君。好きです、付き合ってください!」


 その少年は中性的な容姿に、温和な性格、同年代と比べて高い身長によりモテていた。

 気がつくと女子に囲まれる事が増えて、男子から邪険にされる事が増えた。

 女子に求められる性格でいる事が増えて、周囲の男子と乖離した性格になっていった。

 でも少年は好きという感情にしては分からないままだった。


「ごめんね、あまり知らないからお友達からでもいい?」


 相手を傷つける事は嫌い。冷たくする事も出来ない。

 少年は周囲にいる女の子と遊びながら、昔の日々を思い出した。

 コウ君と遊んでいた日々だ。少年を先導し遊び歩いた日々が少年にとってまぶしい記憶としてあった。


 またあんな風に遊びたいな。


 少年は女の子と遊んでいる時、そう思う事が増えた。

 でも少年がそう思っても、男子からはいけ好かないヤツと少年は思われて、近寄る事すらできなかった。

 何なら男子から邪険にされる度に、周囲の女子が男子に噛みつき、喧嘩すら起きるのであった。


 少年は女子に求められる性格を作り、その仮面のまま日々を過ごした。

 それが楽だったから。争いが起きないから。そこそこ周囲に人がいて楽しく過ごせたから。それ以外の生き方がわからなかったから。

 少年には仮面を介した友達はいても、仮面の下を知る友達はいなくなった。



「ねぇ、れい君。もうそろそろ中学だけど、れい君は男性になるっていう事で大丈夫? 一応中学の制服は男子用で用意しちゃったけど……」






 母さんに言われた事。自分が男性女性どちらにも成れる事。

 自分は男と思って生きていたけれど、厳密には違った。

 まぁ、でも男性器がついているし、現状は男性として生きた方が無難か。


 でも違うと言われてやっぱりと思ってしまった。

 同級生となんか噛み合わないなって思っていたから。

 母さんにはちょっと整理させてって言っちゃった。


 本当はどちらでもいいのに。


 心は定まらないまま、時間だけが流れていってしまった。

 地元の中学はそこまで治安が良くないという噂もあり、諸般の事情を考慮して、母さんに勧められるまま私立へと進学した。

 件の王子ロールもあり、勉強はそこそこやっていたので、意識はしてなかったが県内でもそこそこな進学校へと進路を選べた。


 本当に悩ましいよ。


「ねぇ、隣いい?」

「どうぞ」

「君って男子だよね? 私、須々木 亜紀美。君の名前は?」

「僕は伊神 伶。男子だよ」


 好奇心旺盛な雰囲気。クラスの中心人物になりそうな感じがする。

 女子っぽい女子。気が強そう。どちらも僕にはない要素。

 男子でも女子でもない僕にはこういう女子らしい振る舞いは出来ないだろう。


「ふーん。不思議。面白いの。ねぇ、友達になろ?」

「いいよ。一緒のクラスになるといいね」

「入学式終わった後だったっけ? HPのマイページで連絡があるんだよね?」

「そうみたい。掲示だと外部の人が見る可能性があるからとか」

「あー、そうだよねぇ。友達と一緒のクラスになりたいなー」

「たぶん知り合いはいないし、僕はとりあえずどこでもいいかな?」

「家は遠いの?」

「うん。電車で1時間くらい」

「私はここが地元。色々教えるね!」

「うん、ありがとう」


 明るい。暗さを感じない。コミュ力が高い。

 でも計算高さもありそう。いや、あるな。

 猿山の親分というよりも陰のボスくらいの立ち位置になりそう。


 彼女は僕に何を求めているのだろう?




 入学式は恙なく終わった。特徴的な表明をする生徒会長などはいなかった。

 オリエンテーションを行うからとホールへと誘導された。

 ホールには机が並べられ、イスのある場所にタブレットが置かれていた。


「はい、皆さん! 入った順にイスのあるところに座っていってくださいね! 男子はこっち! 女子はあっちに座ってください!」


 若い女性の教員が手をあげながら新入生を席へと誘導していた。

 僕はとりあえず男子の方でいいだろう。男子学生服を着ているし。

 周囲の男子達はそこそこわいわいがやがやとしているが、小学校の時のそれとは違い流石進学校というべきか、柔和で落ち着きのあるモノである。

 少しオタク気質がある子というか、調子にのるタイプでもバカ騒ぎをする人はいなさそうだった。


「こんにちは」

「あ、うん! こんにちは!」


 隣になった男子生徒に挨拶するとちょっとキョドられた。

 緊張している様子。見た感じ内気なタイプだろうか?

 集団の片隅とかに居たり、陽キャにちょいちょいイジられて過ごしていそうな感じの子だ。


「もし同じクラスになったらよろしくね」

「うん!」


 男子側に小学校の頃は居場所がなかったから、できれば今回は仲良くしたい。

 コクコクと首を振って頷く彼は友達になってくれるだろうか?

 なんか気づいたらペット枠になっていそうな気配がするのだけど大丈夫だろうか?


「みんな席に着けましたね! それじゃ目の前のタブを操作して、学生証に記載されている番号を入力し、生徒マイページに入ってください!」


「あ、ねぇ、どこだった?」

「A組だよ」

「私も同じ! 嬉しい!」


 須々木さんも同じクラスだったらしい。奇妙な縁だ。

 でも開幕ボッチを避けられるので良かった。

 テンション上がっている彼女を見つつ、僕は微笑みを浮かべた。


 どうしようもなく冷めている。

 上がらない心。笑っているフリばかり上手くなった。

 最後に本心から笑ったのはいつだろう?

 コウ君と遊んでいた頃だろうか?


 どこで道を間違えたのかな。

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