突然の提案とティータイム 45
とある家族の女子高生 と AI
宇宙ステーションの日常を描いた物語
「じゃあ……向こうの船長さんにつないで」
「はい、どうぞ」
通信が繋がる。
「ごきげんよう、船長さん。ご提案があるのだけれど」
「はい、なんでしょうか?」
「今、そちらは無重力下で作業されてるわよね?」
「ええ、そうですね」
「もし、0.3G程度の重力があったら……作業効率って、上がるかしら?」
「はい。2時間程度、短縮できる可能性があります」
「そう。それなら、今から重力場を付加します。それと……皆さんに2時間の休養をお勧めするわ」
「えっ……」
「それに合わせて、こちらから紅茶とケーキを進呈します。場所は……そちらの中央広場で大丈夫?」
「問題ありません」
「では、地球を“下”として重力を送るわね。ISSの5名、点呼準備ができたら答えをお願い」
「OK」「OK」「OK」「OK」「OK」
「副艦長、お願い」
「はい、展開します」
ゆっくりと足元に“重さ”が戻ってくる。
乗員たちは足をつき、驚きながらも立ち上がる。
「辛くないかしら?」
「はい。問題ございません」
「では、中央にティーセットとケーキを転送して」
「転送完了しました」
一瞬で、目の前にテーブルとティーセット、紅茶シフォンケーキが現れる。
「加えて、お食事もお届けするわ。あとは仮眠でも、自由にくつろいでください」
「……このバッジだけは差し上げますわ」
それは、調査船ハナフライムのエンブレムバッジ。
それぞれの国の言語で「英雄たちへ」と刻まれていた。
乗員たちは、涙を浮かべながら食事をとり、そして大事そうにバッジを自分の胸にとめた。
やがて、仮眠室へと静かに向かう者、深呼吸して休む者――それぞれの時間が流れる。
2時間後。
全員が整然と立ち並び、敬礼をする。
「……将来の隣人に、感謝を」
そう告げた瞬間、テーブルも、皿も、全てが一瞬で消え去った。
静かに元通りの空間に戻る艦内。
「エレナ……喜んでもらえて、よかったわね」
「はい。さすがです、お姉様」
その後、作業効率は格段に向上し、なんと3時間分の短縮となった。
もともとの予定より1時間も早く、全ての復旧作業が完了したのだった。
「……やっぱり、休憩って大事ね」
エレナが満足げにモニターを確認する。
「スキャン完了。全システム、オールグリーン。問題ありません」
「船長、完全復旧のようです」
「はい。操作系統、制御システムもすべて回復。ありがとう、副長そして……」
ゆきなはふっと目を細め、目の前に浮かぶ宇宙ステーションを見つめた。
「では、失礼するわね。副長、通常モードに戻るわよ」
「了解、艦長。ステルス迷彩、起動します」
その瞬間、調査船ハナフライムの船体が、宙に揺れるようにぼやけ——
ゆっくりと、視界から消えた。
それを見上げながら、宇宙ステーションの船長がそっと言葉を送る。
「艦長、この度は最大限の感謝を。願わくば、また……顔を合わせて話せる日が来ることを信じて」
「またねー!」
軽やかな声が、通信回線の最後に響いて——途切れた。
「……通信、切れました」
「映像は?」
「はい。復旧後の周囲カメラにて、きれいな映像が詳細に残っています」
「……夢じゃ、なかったんだな」
「ええ。……みんなで、顔つねりましたけど。確実に現実です」
何よりも、その証拠が胸元にある。
——あのバッジ。
各国の言葉で「英雄たちへ」と記された、調査船ハナフライムのエンブレム。
船長は、静かに周囲を見渡した。
「みんなに伝えたい。……感謝だ」
「ここに残って、最後まで諦めなかったこと。国境を超えて連携し合えたこと。——この日を、誇りに思って次に進もう」
「ヒューストン。全システム正常、我々は生きています。そして——将来の隣人に、最大の感謝を」
「……客員、休憩に入れ」
「本当は“好きなだけ寝ていい”って言いたいけど、交代要員いないからな。若手3名は仮眠。4時間後に交代だ」
「ロートル(ベテラン)チームは……さっきの2時間でどうにか。もう少し頑張れる。な?」
「はい!」
笑顔の中に、確かな疲労と、満ち足りた達成感があった。
やがて、宇宙ステーションのブリッジは、いつもの静けさを取り戻す。
船長と副船長は、のんびりとお茶を飲みながら、
ヒューストンと雑談まじりの通信を交わしていた。
そこに“危機”はもうなかった。
ただ、一つの奇跡が確かにあったという記憶だけが、静かに残っていた。
「では、エレナ——いきましょうか」
「はい。……よかったですね」
「ええ、本当。これから地球の国々が少しずつ手を取り合って、助け合える未来が生まれるといいわね」
その言葉に、エレナが少し首をかしげながら口を開いた。
「艦長、お願いがございます」
「なぁに? エレナ」
「せっかくですので……初期ワープの起動試験を行いたいと思います」
「いいわよ。せっかくだし。帰還前にちょっとテストしてから調整に戻りましょう」
「ありがとうございます」
エレナの操作で、艦内が一瞬静まり返る。
「第2融合炉、出力35%で起動。近場へ短距離ワープします」
「スラスター全開。規定速度、到達」
「前方レーザー、デュヒュレーザー照射……安定確認。進入します」
シュィィィン——
視界の端がしゅるるっと細く伸びて、空間が裂けるような光のラインが前方へ飛んでいく。
次の瞬間、ハナフライムはそのラインに吸い込まれるように滑り込んだ。
「ワープ完了。通常空間へ解除します」
窓の向こうに広がるのは——
「……わぁぁ……!」
ゆきなが思わず声を上げた。
「綺麗ね……。やっぱり、本物は格別だわ」
少し遠くに、土星のリングが白く光を放っている。
「では、戻ります」
「スタート……解除。——帰還シーケンス開始」
数秒後、元の空間へとふわりと戻る。
「……なんか、前のシミュレーションより早くなかった?」
「いえ、出力が桁違いですので。同じ設定でもこのスピードになります。……まだ35%なんですよ?」
「それは……楽しみにしておくわ」
「では、地球降下ルートへ入ります」
ゆきなは笑って、窓の外に目をやった。
「……戻ったら、せっかくだから宇宙ステーションの大浴場に入りましょう」
「はい、用意してあります。シャワーもシャンプーも、ボディソープも乳液まで、全部完備済みです」
「ふふ、それは何よりね!」
少しずつ、見慣れた地球の街並みが近づいてくる。
遠隔操作により、秘密基地の上部コンクリートがゆっくりと開いていく様子が、上空から見える。
「……これ、バレたら大変ね……」
「はい。でも今は私たちだけの帰還口です」
やがて、ハナフライムはそっと秘密ドックに降り立った。
着艦後、ふたりはブリッジをあとにして、宇宙ステーションの天然鉱石風呂風つき大浴場へ向かう。
ゆきなが、ゆっくりとお湯に肩まで浸かりながら、ぽつり。
「ふぅ……帰ってきた、って感じね……」
「お疲れ様でした、お姉様」
「……あぁ、こういうの、たまには必要ね」
湯けむりの中、リラックスした表情で隣にいるエレナと視線を合わせる。
温かいお湯と、柔らかな灯り。
ここはもう、戦場でも緊急対応の現場でもない。
大切な日常が、ゆっくりと戻ってくる場所だった。
世の中平和に手を取り合えるといいですね。
なろうで小説を初めて一か月ちょっとここまで見ていただけるとは思っておらず
びっくりです。 今後を少し春休みからの新入生の勧誘~は普通ですが・・・宇宙船もできたことで
複合していきます。 皆様の温かい評価とブックマーク
アクション はいろんなところにいっぱいつけていただいており 感想等あればどうぞ!
なるべく返信するように頑張ります。
これからも ゆきなとえれなの ほんわか 日常を楽しんでいただければ幸いです。




