最終話②
完結となります
豪華な讓渡品が並ぶ会場。
招かれた客人達は、錚々たる顔ぶれだ。
そんな客人達は、今か今かと今回のパーティの主役が現れるを待っていた。
会場の入口の前にて、フローラは大きく深呼吸する。
そんなフローラの隣には、少し緊張した様子の、でも何処か嬉しさを噛み締めているような……そんなカインの姿があった。
「フローラ様。この度は私をエスコート係に任命して下さりありがとうございます」
「貴方ほど適任な人材はいないもの」
「………有り難きお言葉」
そう言ってフローラを見つめる瞳の穏やかさ。
それはまるで妹の成長を嬉しく思う兄の様なものに見えた。
だからフローラは気に入らなかった。
「カイン。覚悟しときなさいよ」
「か、覚悟…ですか?」
「えぇ。絶対に貴方の心を落としてみせるから」
なんて言って無邪気に微笑むフローラに、カインは戸惑った。
心を落とすなど、言わば告白な様なものだ。
「フローラ様、あの」
「ほら、入場の時間よ。エスコートをお願いしてもいいかしら?」
なんて上手くカインの言葉を遮って、微笑むフローラの手をカインはゆっくりとった。
改めて昔繋いだ手よりも遥かに大きくなった手。
そして少女から女性へと成長したフローラの姿。けれども昔と変わらない凛々しい面と、けれども無邪気な子供のような所に、思わずカインは頬を緩ませる。
どうやらその感情と言う種は既に植えられていたらしい。
ただただ気づくことなく、ずっと。
カインのエスコートによってフローラは会場へと足を踏み入れた。
そんなフローラの姿に、客人達が瞳を輝かせた。
まるで人形の様に美しい。絵画から飛び出してきた様だ、などと口にする者も居た。
なにせ、この場にいる多くの者が第一王女、フローラの姿を初めて見る者ばかりだったのだ。
中々社交界に姿を現さない第一王女。
勿論、悪い噂が行き交っていた。
けれど、そんな噂など一気に吹き飛ばしてしまう程の美しい容姿をし、何より凛々しいその立ち振る舞いに、誰もが心奪われた。
「本日は私の十七歳の誕生日パーティへ足を運んで頂き、ありがとうございます。私がこうしてパーティを開き、今ここに立っているのは、とある大切な友人のおかげです」
そう言ってフローラは微笑んだ。
それからフローラはスピーチが終わったあと、多くの客人達がフローラへと挨拶をしにやってきた。
フローラは一人一人丁寧に対応していった。
「すみません。少し席を外しても?」
フローラの言葉に客人は頷く。
相手の返しに淑女の挨拶を返すと、フローラはとある人物の後を追った。
その人物は本来なら警備の仕事に就いていた筈の人物だった。
「グレジス副団長!」
「フローラ様」
ルーンがフローラの声で、振り返る。
数ヶ月前よりもかなり痩せ細ったルーンの姿に、再度フローラは胸が強く締め付けられる。
「最近、魔物の数が減っていると聞いてるわ。何でも、貴方が生み出した魔法結界のおかげだとか」
「はい。これまでの研究はもちろんですが、アンジェが…いえ…ユアが旅立つ前に残してくれた魔物の詳細を綴った資料のおかげです。私は何もしていません」
アンジェ、と名を呼んだ瞬間、ルーンの瞳の奥が震えたのを、フローラは見逃さなかった。
アンジェの魂が、身体がここを去ってから何ヶ月もこの時が過ぎた。けれど、やはりアンジェの居ない生活など、やはりこんな短期間で慣れるはずも無かった。何ならこれから先、ずっと慣れる事は無いだろう。
「そう言えば、王太子殿下とフローラ様の仲睦まじい光景を見る、と騎士団の間で話題ですが、何かあったんですか?」
「………お兄様に、少しずつでいいから昔の様に私とお話したい、とお願いされたの」
ルツの知る魔文の呪いについての情報を得るために、フローラはルツと交換条件で、まぁ簡単に言うと「仲良くなりたい」といわれたのだ。
だから、お茶を一緒にしたり、時には買い物になんかも出掛けたりしている。
昔の、仲睦まじかった頃の様に。
「そう言えばグレジス副団長。貴方宛に最高のご令嬢の情報を持ってきたわ。アンジェに頼まれてたからね」
なんてフローラが、少しルーンをからかうように言うと
「私の妻はこれから先もたった一人、アンジェだけですので」
なんて花のような笑顔で返され、フローラは安堵と喜びの入り交じった微笑みを浮かべた。
そして、美しい星々が輝く夜空を見上げフローラは心の中で呟いた。
(貴方のグレジス副団に自分よりも相応しい奥さんを迎えてもらう……と言う夢は叶わない。けどね、貴方はグレジス副団長の隣に並ぶのに正しく相応しい女性よ、アンジェ。だから……どうか天国では胸を張って過ごしてちょうだい)
フローラは空を仰ぐと、微笑んだ。
大切なかけがえのない友へと向けて。
これにて完結となります。
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