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記憶


森の奥へと進んでいくと、その奥にあったのは遺跡だった。


とは言っても真新しさを感じるその遺跡。

苔も生えていなければ、ヒビ一つ見当たらない。


そんな遺跡が森の奥に隠れるかのようにひっそりとあった。



「ここ……」



マモンがそう小さく呟き、遺跡へと歩を進めた。


そしてマモンは遺跡を見上げる。

じっくりと上から下と見て行き、くるりと後ろを振り返る。



「何か思い出したの?」



フローラがそう尋ねれば



「……思い出したと言うか、何だろう」



そう言って頭部を抑えるマモン。

そんな彼の頭の中に突如巡り始めたのは、どこか懐かし様な……けれど、苦しくなる様な……誰かも分からない人物の姿だった。





◇▢◇▢▢▢▢▢◇◇◇◇◇





「ユア。今日もお願いね」



そう言ってカゴを差し出してきたのは、三十代程の女性。

そんな女性の後ろには、七歳ぐらいの女の子の姿もあった。


そして美しい赤毛のその女性から差し出されたそのカゴを受け取ったのは、その女性の子供と思われる一人の少年。

恐らく十五歳程だろうか。



ユアと呼ばれたその少年は美しい赤毛を揺らしながら、森へと駆けて行った。



少年は森へとどんどん進んでいく。

そして目当ての場所に辿り着いたのか瞳を輝かせて、せっせと慣れた手つきで薬草の採取を始めた。



「よし。これぐらいで十分かな」



カゴ半分程の薬草を採取し終わると、ユアは満足気に頷くと



「お兄ちゃーん!」



「ハル!?」



一人の女の子……ユアの妹、ハルが駆け足でユアの背中に抱き着いた。


突然の事に驚きつつ、ユアは尋ねる。



「どうして此処に…!? まさか、一人でここまで来たのっ!?」



「うん!」



無邪気な笑顔でそう答えるハルに、ユアは頭を抱えた。


モンスターの居ない安全な森とは言え、もしハルの身に何かあったら……と考えるだけでユアは身震いした。



「母さんがきっと心配してる。さぁ、帰ろう」



そう言ってユアがハルの小さな手を握った時だった。



グルルルルル……



大きな喉を鳴らす音が突如森に響いた。

それと同時にユア達へと向けられる何者かの視線。


足が動かない。

いや、全身が動けなくなった。



けれど、ユアの傍で顔を真っ青にし今にも泣き出してしまいそうな小さな妹の姿を見たら、自分が恐れている場合では無いとユアは決意し、勇気を振り絞り後ろを振り返った。



茂みから現れる鋭くギラギラとした眼光と目が合った。

その瞳の持ち主は、ゆっくりと茂みから姿を現すと大きな口から鋭く凶暴な牙をむき出しに、大量のヨダレを垂らしながらユア達を視界に捉えた。



大きな体と、フサフサな真っ黒な毛並みを持ったその生き物は、ゆっくりと歩き始める。



「おに……ちゃん」



そうハルが小さく呟いた瞬間、その得体のしれない生き物がハル目掛けて飛んで来た。



ユアは咄嗟にハルの手を取り、自身の方へと引き寄せて攻撃を回避した。


鋭い爪が地面に突き刺さる。

あんな攻撃を受けてしまったら体は引き裂かれてしまうのでは無いだろうか…?



そんな恐ろしい不安を抱いていると……



「……グハッ…!!」



突如腹部に訪れた急激な痛み。

それが突然現れた得体の知れない生き物による攻撃と気づいた時には、ユアは後方にあった木にめり込んでいた。



全身に走る痛み。

腹部からは赤い液体が流れ始めて……



「っ………ハルっ!!!」



全身が痛くて仕方ない。

けど、それ所じゃ無くなった。

なにせ得体の知れない生き物が今にもハルへと攻撃を仕掛けようとしていたのだから。



真ん丸な瞳に大粒の涙をためて、か細い声で助けを求めるハル。



ユアはそんなハルを前に、残った力で何とか立ち上がり、そして……。



「ハルから……離れろっ!!!!」



ユアの怒鳴り声と同時に、得体の知れない生き物の真下に大きな魔法陣が浮かび上がった。

そして魔法陣から飛び出しのは力強く燃える炎。


その炎はその生き物を包み込み、一瞬にして倒れた。



一体何が起こったのか、ユアにも分からなかった。


けれど痛くて仕方なかった体がもう痛くない。

そして、あの生き物も居なくなった。



自分は生きてる…。



ユアは急いでハルの元へと駆け寄った。



「ハル、大丈夫!?」



見た所無傷の様で、ユアがホッと胸を撫で下ろす。



しかし……



「やだ……怖いよ。お願いだからこっちこないでっ…! 貴方は、お兄ちゃんじゃないっ……!!」



そう言ってハルはユアから距離をとった。

初めてのハルからの拒絶。

小さな体を震わせて、ハルの瞳に込められた視線の意味にユアは驚愕した。



ハルがユアへと送る視線。

それは恐怖に満ち溢れており、決して家族に向けるようなものでは無かった。



そう、まるで……




「そんな化け物を見るような目で僕を見ないでよっ!!」





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