まだ
「先生…!! 今まで何処に行ってたんですかっ!?」
アンジェはミルキーの元に駆け寄るなり、思わず大きな声を上げてしまう。
しかし、それも致し方ないと思う。
だって行方不明となっていたずっと探していた人物が突如目の前に現れたのだから。
ミルキーはアンジェの頭をグシャグシャと豪快に撫でると眉を下げた。
申し訳なさそうに。
そして…自分に言い聞かせる様な表情で。
「アンジェ。暫く眠っててくれ」
「…………え?」
ミルキーの人差し指がアンジェのおでこに触れる。
その次の瞬間、アンジェの中に渦巻く禍々しい魔力が一気に全身へと流れ始める。
突然の事に体が耐えきらず、アンジェは血を口から吐き出し、その場に崩れ落ちる。
その際にミルキーが目を細め、目を逸らす。
一体何が起きたのか、アンジェは理解出来ぬまま、アンジェの意識は次第に遠のいていく。
遠くでノーニアスがアンジェの名を呼ぶのが聞こえてくるが、アンジェはその声に反応すること無く、意識を手放した。
▢▢▢◇◇◇◇▢▢▢
次にアンジェが目を覚ましたのは見覚えの無い部屋だった。
体を起こそう……そう思ったが、中々体が言うことを聞かない。
「あ、起きたんだね」
「……せ、んせい?」
けれど、目の前に現れた人物にアンジェはゆっくりと口を動かして、何とか言葉を紡いだ。
正直、話すのだっていっぱいいっぱいだった…。
ここは何処だろう。
何が一体自分の身に起こっている…?
分からない事だらけで頭がいっぱいで……けど、何も深く考える事が出来ない。
けれど今居るこの場所にアンジェは既視感を感じ始めた。
そう、ここは…
「王女と何回も行き来してるから分かるよね?」
正にフローラの秘密の隠れ家と同じものだった。
「あの空間は俺が国王に創ってやった場所。だから俺も自由に行き来する事が出来る」
「……グッ…!」
「……一気に病を進行させるとマモンの魔力が体に馴染みにくくなる。だから苦しいだろうけど、暫く頑張って耐えてよ」
一体彼は何を言っている…?
徐々に覚醒し始める意識の中、アンジェはやはり戸惑う事しか出来ない。
そんなアンジェの様子など気にも止める様子は無く、ミルキーは続ける。
「暫くしたら、元の世界でのアンジェの意識が戻る。三年前、俺はアンジェに余命六年だと宣告したけど……まぁ、余命が伸びるのも縮むのもよくある事だから気負い過ぎずにね」
「私はこのまま死んじゃうんですか?」
「意識だけね。体は死なない」
「……先生は、私の味方ではないんですよね?」
アンジェは恐る恐る尋ねた。
まだアンジェはどこかでミルキーの事を信じていた。
だってミルキーは、アンジェにとって救いの存在の一人だったから。
病弱だった自分が今もこうして生きているのはミルキーの診察と薬のおかげだ。
だから……
「そう。俺はお前の敵だ」
どうか、否定をして欲しかった。




