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本当は。


胸がざわついて仕方ない……。


リアは店番をしつつ、ずっと上の空でいた。


理由は勿論、アンジェのことである。

アンジェの事が不安で不安で仕方ない。

あの時、休憩へと向かうアンジェを何故追いかけなかったのか……今更リアはあの時の自分の行動を不思議に思っていた。


今更どうこう思っても後の祭りである事は十分承知なのだが…。



(あの時、妙に体が動かなかったのよね…)



リアは小さくため息を吐く。

すると



「少しいいかな?」



突如声を掛けられた。

勿論、その事にも驚いたのだが、何より驚いたの事が…。



「……ルツ殿下」



「ん?」



「あ、いえ。何でもありません」



リアは心底安堵する。

自分の発した声が相手に届いていなかったことに。


突然声を掛けられたかと思えば、その相手はまさかのルツだった。

とは言っても彼も彼なりに見窄らしい服に身を包んだりと変装をしている様だった。

けれど、王族と言うものは変装しても高貴さが溢れ出てしまうものらしい。


一方のリアもまた変装をしている。

頬にはそばかすを描いたし、髪色もフローラの魔法道具によって亜麻色から茶色へと変えて、三つ編みに結った。目元を隠す為にも丸眼鏡まで身につけた。そして声質だって変えている。


つまり、ルツとは比べ物にならないくらいレベルの高い変装をしている。

だからバレる恐れは無いと思うのだが……。



ふと、注がれる視線が気になりリアは顔を上げる。

そうすればルツの綺麗な瞳と目が合った。



「あの、なにか…」



そうリアが恐る恐る尋ねると。



「すいません。何処かでお会いしたことがあったような気がして」



「そうですかね? 私は初対面だと思うんですけど…」



リアは目を逸らしつつ笑みを浮かべる。

勘づかれている、と不安になりつつも取り敢えずここは話を逸らそうと試みる。

なにせルツ自身がやって来たのだ。

商品の良さをアピールして気に入って貰えれば今回の目標を達成したと言っても過言では無いだろう。


リアは営業スマイルへと切り替える。



「お客様。是非商品を見ていってくださいな」



「ここの店の商品、中々好評らしいね。行き交う人々が口を揃えて言っていたよ。確か……『記憶のアルバム』だっけ?」



「はい。こちらですね」



リアはそう言って商品をルツへと差し出す。

因みにこれは見本で、もう商品自体は売り切れとなっている。



「もう売り切れてしまったのですが、本当に素晴らしい商品ですよ。お客様も是非試してみては如何でしょう?」



「試す?」



「はい。手をかざして見て下さい。お客様の記憶の中の思い出を魔法石が映し出してくれますよ」



リアの言葉にルツは静かに目を細めると、静かに手をかざす。そうすれば、魔法石がルツの思い出を宙へと描いていく。



その魔法石が映し出したルツの記憶の中の思い出の写真を見て、リアは目を見張った。

だって驚いてしまうのも無理はないと思う。

なにせルツの記憶の中の思い出の一つにフローラと楽しそうに花畑で遊ぶ二人の写真が映っていたのだから。


恐らくまだ幼少期の頃だろう。

フローラに花冠を作ってあげているルツの表情はとても楽しそうで穏やかなものだった。



「……すみません。急用を思い出しのでこれで失礼致します」



「え、はい…?」



「因みに貴方がこの魔法道具の製作者でしょうか?」



「いえ。私は売り子で雇われの身なんです」



「そうですか。なら製作者の方にこれを渡してください」



ルツは胸元から質感の良いいかにも高級感のある一枚の封筒を差し出した。

そう、これは……。



「王城への招待状です。フリーマーケット終了後、お待ちしております」



リアはそれを恐る恐ると受け取ると、ぺこりと一礼した。


ルツは小さく微笑むと、人混みの中へと姿を消す。

一方のリアはルツから受けとった封筒を手に、ペタリと椅子に腰をおろす。

いや、腰が抜けた…と言った方が正しいだろう。



「フローラ様の思惑通りの展開になっちゃった……」



リアは一気に強ばっていた力が抜けて、脱力する。

けれど内心はとても興奮していた。

なにせ、フローラの思惑通りに事が進もうとしているのだから。



「これでアンジェの病気を治す手掛かりが見つかる…」



リアは封筒を胸に涙を静かに流した。



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