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蓄積


「旦那様っ…!」



アンジェが魔導師団の団員に案内された場所は医務室だった。

顔を真っ青にして医務室に駆け込めば、ベッドの上に座るルーンの姿がそこにはあった。

そんなルーンの周りには数人の団員……恐らくルーンの部下とエミルの姿もある。



「アンジェ!? どうして此処にっ!?」



ルーンがそう声を上げれば、エミルが呆れたように答える。



「そりゃあ奥さんなんだから呼ぶに決まってるだろー? 何処かの誰かさんは素直じゃないから代わりに呼んだんだ」



「旦那様。体調の方は大丈夫ですか!?」



アンジェがルーンの元へと駆け寄れば、エミル達は一歩下がる。



「お前達は先に戻っててくれていいよ~」



エミルの言葉に医務室に居た団員達が部屋を出て行くと、エミルが申し訳なさそうに眉を下げて話し始める。



「いやぁ…仕事中に急に呼び出してごめんねー。ルーンが疲労で倒れちゃって…。本人は呼ばなくていいの一点張りだったんだけどさ。愛の力に勝てるものなんて無いと思ってさー」



ニコニコと面白可笑しそうに話すエミル。

そんなエミルをルーンがギロリと睨みつけている。

しかし、エミルはそれを全く気にした様子は見せず更に言葉を続ける。



「宮廷専属魔導師ってブラックだけど、更にそれをブラックにしてるのはルーン自身だからね?」



「と言いますと…?」



「こいつ、自分で残業増やしてんの。まぁ? こうして真面目になってくれた事は嬉しいけどさ? 逆に真面目になりすぎて上司として困ってるんだよね。奥さんからビシッ! っと言ってくれないかな?」



エミルの言葉にルーンの反論は無い。

どうやらルーン自身も反省はしているらしい。


アンジェ自身、初めてルーンが自ら仕事を増やしている事を知った。

夫の仕事に対して口出しするのは妻として如何なものかとは思う。けれど、無理はして欲しくない。自分の体調を第一にやって欲しい。



そんなアンジェの気持ちを察したのか、ルーンが微笑む。



「申し訳ありません。心配をお掛けして。もう私は平気ですので」



「今日は用心のために帰って休むこと。下っ端はいくらでも居るんだ。任せときなって」



「エミル団長は仕事をして下さい。またリディスの事連れ回してるそうじゃないですか」



「けど、そのおかげでルーンの体調も良くなったんだからね?」



相変わらずリディスはエミルに連れ回されているらしい。アンジェが苦笑を浮かべれば、医務室の奥からリディスが姿を現した。

そんなリディスの手には紙袋が握られていた。



「アン…じゃなくて、グレジス夫人もいらっしゃっていたんですね」



「いやー、リッちゃん凄い活躍してたんだよ? 医務室の救護班よりもはるかにね!」



まるで自分のことの様に満足気に話すエミル。



「って事で。アンジェはまだ仕事?」



「私は…」



「今日はアンジェも仕事は上がってルーンと一緒に帰るといい」



そうアンジェの代わりに答えたのは遅れてやってきたカインだった。

カインはベッドの上にいるルーンを見るとニッとまるで悪戯っ子の様な笑顔を浮かべる。

そしてベッドへと近付くなり、ニヤニヤと笑みを浮かべながら話し始める。



「昔は授業もサボってのらりくらりと猫のように何処に消えていくような奴だったのに今は倒れるまで仕事を抱えて……人間の変わりようとは凄まじいな」



「……さぁ、なんの事でしょう」



そう言ってそっぽを向くルーン。

そんな二人の会話をアンジェは微笑ましそうに見つめる。



「カインの言う通り、真面目な姿勢はいい事だよ。けどね。さすがに無理しすぎ。オレに隠れて仕事してたんでしょ? ルーン。お前はもう一人の身じゃないんだ。それを理解して、物事は行え」



エミルの言葉に、突然一気にコップの水が溢れかえるかのようにアンジェの感情が溢れ出す。



「エミル団長の言う通りです、旦那様。私、旦那様が倒れたと耳にした時、とても不安になりました。私が口出しをして良い事では無いことは十分に理解していますが……どうか無理だけはしないで下さい」



「……もう無理はしない。心配掛けてすまない。アンジェ」



ルーンの言葉にアンジェはホッと胸を撫で下ろした。





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