フリーマーケットに向けて
「アンジェ。こんな時間にどうしたの?」
「お仕事お疲れ様、お姉様。その…少しお話があって」
アンジェの言葉にリアは表情を輝かせる。
さっきまで疲労のあまりソファーに沈み込んでいた人物とは思えない程の変わりようである。
リアは満面の笑みでアンジェを迎え入れる。
二人は向き合うようにしてソファーに腰をかける。
「ごめんね、急に押しかけちゃって」
「全然大丈夫。それで話って?」
「その……私が第一王女のフローラ様と親しくさせてもらっていることはお姉様も知ってるよね?」
「勿論。知ってるけど…」
「フローラ様がお姉様の手を借りたい…と仰っています」
最初、フローラが自分以外の人間と関わりを持とうとし始めていることに驚いた。
けれど、大きな成長に感じ取れてアンジェは大変嬉しかった。一歩ずつ着実にフローラは成長してきていると実感出来たから。
「……私ね、フローラ様のこと何も知らないの。だからアンジェ。教えてくれない?」
リアの言葉にアンジェはハッとする。
そして暫く二人は見つめあった後、アンジェは大きく頷いてみせた。
恐らくリアは純粋にフローラの事が気になってアンジェに尋ねたのだろう。
フローラと言えば引きこもり、王家の恥……などなど様々な方面の悪い噂で持ち切りの少女だ。
そんな王女様とアンジェが親しい間柄にある。
純粋にリアはまだフローラの事を知らない。
これを機にアンジェの知る本当のフローラの姿を知っておきたい…とリアは思ったのだ。
それからアンジェはフローラの話をした。
出会いとこれまであった出来事。
カインへの想いは勝手に他者が話してよい事では無いので伏せたが、取り敢えず『努力』しているフローラの姿を話した。
リアはその話を真剣に聞いた。
だからこそ、リアはある答えを導き出した。
「分かった。私に出来ることがあるなら協力するわ」
「本当、お姉様!?」
「勿論。明日、団長に話して時間を作ってもらうから」
「あ、それならフローラ様が話を通してくれると思う。それに…今回の件は私の病気のことだからエミル団長は絶対に許可して下さると思う…!」
エミルは自分に出来ることがあれば協力すると言ってくれた。今回の事も話せばきっと分かってくれるだろう。
こうしてリアの協力を得ることに成功した。
▢◇◇◇◇◇▢▢▢
翌日。フローラの部屋にて、リアは困惑した表情を浮かべていた。
それも仕方ないだろう。
何せ、今リアの目の前にあるもの。
それは花瓶なのだから。
困惑するリア。
そんなリアにアンジェは言う。
「ちょっとフローラ様は恥ずかしがり屋さんで……こちらは仮の姿になるんだけど」
「アンジェ・グレジスの姉に当たりますリアと申します。宮廷専属魔導師団の一課に所属しております」
「えぇ。知ってるわ。それで今回貴方の力を貸して欲しいのだけれど……この場にいると言うことは私に協力してくれるって事でいいのよね?」
「はい、その通りでございます。それで…私の力を借りたいというのは具体的にどの様な事なのでしょうか?」
リアの言葉にアンジェは頷く。
アンジェもまたフローラがリアの手をどうして借りたいのか…その詳細は聞かされていないのだ。
ただ思い当たる節はあると言えばある。
それはルツがリアを気に入ってる…と言う事だ。
とは言ってもルツがパーティーのひ以来リアにアプローチをしている場面はアンジェは見た事が無いので何とも言えないのだが。
「来月に開催されるフリーマーケットに魔法道具を出品予定なの。その魔法道具作りのお手伝いをして欲しい訳だけど……このフリーマーケットは毎年、魔法道具師の石ころの集いとも裏では言われてるの」
「「石ころの…集い?」」
リアとアンジェの声が綺麗に重なる。
「実はお兄様。毎年このフリーマーケットに足を運んでいるの。逸材を探す為にね。そしてごく稀にお兄様の目に止まってお兄様の商会へ勧誘するのよね。お兄様、石ころを宝石に磨く事が趣味みたいで……だからフリーマーケットは魔法道具師の石ころ達が集うの。だから石ころの集い」
成程、とアンジェとリアは頷く。
そして、フローラの考える作戦に二人は感づき、顔を見合わせる。
「お兄様に勧誘を受けるくらい素晴らしい物を作って販売する。その為にもリア。貴方の力が必要なの」
「私に出来ることならば全力でサポートさせて頂きます…!」
「ありがとう、リア。お兄様は私のことを完全に見下してるわ。だからこそ、お兄様が羨むほどの魔法道具を作って、是非自分の商会で取り扱わせて欲しい! って思わせる物を作りたい。そして、その魔法道具の作り方を記したレシピと魔文の呪いについての情報を交換条件に取引する…って作戦よ」
フローラの言葉にリアが横目でアンジェの様子を伺う。
そんなリアの様子からアンジェは何となく察する。恐らくリアは、フローラの『ルツが羨む魔法道具』と言う言葉に引っかかったのだろう。
アンジェからフローラの魔法道具師としての才能は聞いてる。しかし、ルツの魔法道具師としての才能は素晴らしいものだと言うこともリアは知っている。
だからこそ、そんなルツが羨む魔法道具…なんて簡単に作れる様なものでは無いと思った。
けれど、愛しい妹が助かる方法が分かるかもしれないのだ。
可能性は低くても、その可能性に掛けよう。
そして…低ければ、高くして成功へと持っていけば良いのだと。




