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一瞬の出来事



お城へとやって来た三人は、裏口から関係者専用の入口から城内へと入る。


そして三人が足並み揃えて城内を進んでいると、ふとリディスが足を止めた。

アンジェ、リアもまた足を止めれば、リディスが見つめる視線の先を二人もまた見つめる。



「げっ……タイミング悪っ」



視線の先に居たエミルが、表情を曇らせる。

そんなエミルの隣には王太子、ルツの姿があった。



「…おや? リディス君じゃないか。それと……グレジス夫人だね」



穏やかな笑みを浮かべていあルツの表情がアンジェを視界に入れた途端に、ほんの一瞬険しいものとなった。

しかし、アンジェの隣にいたリアを視界へと入れた瞬間にその表情は消え去った。


目を見開き、まるで魅入る様にリアを見つめる瞳。



「ルツ殿下。彼女はリア。グレジス夫人の姉にあたる方です。そして異国の魔法学院を首席で卒業した魔導師であり、本日から、宮廷専属魔導師団に入団することになった者です」



リディスの紹介にリアは深々と頭を下げる。

そして、ニコリと微笑むとルツの頬があからさまに赤く染った。



「異国の魔法学院から我が国の宮廷専属魔導師団に入団されるとは……。かなりの魔法の腕前の様子。エミル。突然ですまないが、彼女の勤務場所を移籍させてもいいかな?」



ルツの言葉にその場にいた全員が驚いた。

エミルは呆れ混じりの様子で答える。



「……私情入っての願いならいくら王太子殿下と言えども許可出来ませんね」



「私情? そんなもの無いよ。ただ私は彼女の素晴らしい魔法の才能を是非とも私に貸して欲しいと思っただけさ」



フローラ同様、ルツは魔法道具を作る事を得意とする。

そんな彼は自身がリーダーを務める、魔法道具の商会を持っている。

ルツの作る魔法道具はどれも効果覿面。それでいて安価で、平民でも手に入り易く、評判が良い。


そんな商会のリーダー。しかも、王太子直々の引き抜き。

言わば、突然の出世を目の辺りにしアンジェは目を丸くすることしか出来ない。



「リア。是非とも我が商会へ来てみないかい?」



優しく穏やかな笑顔を浮かべ、リアへと手を差し伸べるルツ。

行き交う人々も足を止め、思わずルツとリアを見つめている。


その手を取るかどうか悩むリア。

何せ、ルツが代表を務める商会は、リアの留学先でも名の馳せていた程有名であり、評判の高い商会。

そこで働けば左うちわの生活も約束されるだろう。


断る理由など無いに等しいその勧誘に、リアが戸惑いを見せているとルツが微笑みながら言う。



「貴方の妹さんの様に魔法を使うことの出来ない哀れな人の為にも魔法道具を作り、人助けを共に致しましょう」



優しくそっとリアの手を取るルツ。

しかし、その手は一瞬にして払い除けられてしまった。


ざわつく傍観者達。

けれども、リアは止まらない。



「……大変失礼致しました。手が滑ってしまいましたわ。けれど……妹を侮辱する様な方と共に仕事なんて出来ません。せっかくのお誘いですが、お断りさせて頂きます」



リアはそう言い残すと、エミルの元へと寄る。

そして、ニコリと微笑む。



「貴方がエミル団長ですね。改めて本日から宜しくお願い致します」



「あ、うん…。よろしくね、リア」



圧倒された様子のエミル。

勇ましいな、と関心を寄せるリディス。

また姉に守られてしまった、と少し複雑なアンジェ。



そして、多くの傍観者が居る中で派手に振られてしまったルツは、恥ずかしさのあまりに顔を赤く染めていた。

同時にリアに対する怒りを抱いてもいた。

王太子である自分からの誘いを断り、自分に辱めを受けさせたリアに。




━━━━絶対に、私からの、誘いを断ったことを後悔させてやるっ…!







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